第67話 間諜
「……と、そんなわけでリナ直通の連絡方法を作っておいたから、都合よければ明日にでも来るんじゃないかな?」
連絡先が作れたのは割と助かるというか、先日みたいな『門前払い』でリナに連絡が届かないことを避けられるので、必須とも言えた。
向こうからこちらには、使用人がいるからいつでも送ってこれるだろうけどね。
「ところで、縛ったやつの正体は調べたんか?【鑑定】でも使うて」
うわー、全然そんなの思いつかなかった。誰か来ちゃいそうだと思って焦ってて、とにかく逃がさないように捕縛完了だけでもって思ってたから。
「そこまで思いつかなかった、せっかくだから調べておけばよかったけど」
「まあ、そういうんは『慣れ』やろうからなぁ。しゃーない、きっと家のもんが拷問にでもかけて聞き出してくれるやろ」
ああ……そういや、世紀末の時も遠慮なくそういうので吐かせてたっけ。
何にせよ、狙われてるだ何だって立ち入ったことを知ってしまうと変な反応をしてしまいそうだし、ここは向こうの方々にお任せしよう。
◇◆◇
リナにメモを送ったその日のうちに、使用人から連絡が来て翌日の午前中にでも伺うという伝言を貰った。
そのことを、スケさんと朝ご飯を食べながら共有した。既にスケさんは不要なものがどこに流れようと興味がないようだったけど。
今日は、ザ・朝食という感じでスクランブルエッグとベーコン、ソーセージを乗せたプレートに、焼いた食パンといった感じだ。
ちなみに、食材はラビット氏の持ち物をいただいたけど、調理は俺がやってみた。
まあ、ベーコンとソーセージを焼いたり、スクランブルエッグにしたり、パンを切って焼いたり、ぐらいだけど。
「そういえば、【受肉】ってこんな3食ぐらいの
俺はふと疑問に思ったことをスケさんに
当初、【受肉】なんて特殊なスキルを受けたからには、もう四六時中食い物を抱えてるような感じかと思ってたんだけど、そうでもなさそうだし。
「ああ、
そう、スケさん用には卵10個分のスクランブルエッグと、5倍のベーコン&ソーセージ、食パンを1斤分、苺ジャム1瓶を用意した。
焼いて積み上げられたパンが、だるま落としみたいになっている。
スケさんはかなりの甘党らしく、トマトケチャップを存分にスクランブルエッグにかけて食っている。むしろトマトケチャップのエッグフレーバーなんじゃないかとすら思える。
ちなみに俺はスクランブルエッグには塩胡椒派だ。夜勤上がりで食べていた朝マックで、そっちに慣れてしまった。トマトケチャップも美味しいんだけどね。
◇◆◇
「まずは引き渡しを済ませてしまおうかな。それでいい?」
「結構よ」
食後にコーヒーを飲んでいるところへ、リナがクララを伴って来たので、リビングへ通した。
2人にはアイスカフェオレを出してみた。まだ夏が近いわけでもないけど、外は少し暑かったからね。
……まあ、アイスカフェオレなんて言っても、冷たいコーヒー牛乳と何が違うのかは知らない。カタカナにすればオシャレなんだろ、多分。
さて、そんなことより仕分けた素材を入れた魔法袋の引き渡しだ。
「スケさんと中身を整理して仕分けしたのがこの3つだね」
俺は3つの魔法袋をリナの前へと出した。区別のために、赤・緑・紫の紐を目印として付けてある。
「これが装備関連、赤い紐を巻いておいた。この前見せた、絵画に描かれてた装備も中に入ってる」
ちなみに、特に紐の色に意味は無い。ちょうどあった3色がこれだっただけだ。
というか、この3本の紐はスケさん用に買った平民服の袖を絞るためのものとして、おまけで貰ったものだ。
一種のオシャレみたいな感覚で色替えを楽しむものらしい。ネクタイとか靴紐とかの感覚だろうか。
「あと2つは素材なんだけど、紫の紐の方は毒がある素材を入れてあるから、解体ができる冒険者ギルドの人とかを呼んだりして相談してみてほしいかな」
「……毒?」
この短い付き合いでも既に何度か見た、リナの怪訝な表情。本日のノルマ達成だ。
「うん、蛇とか蛙、
「ドラゴン!?」
まあ、そうなるよね。しかも丸ごと1体分だからね。
もっとも、それらは全て『食べられない』『ついでで回収したもの』っていうオマケで、狙った獲物ではなかったはずだ。
実際の狙った獲物は、スケさんの魔法袋に何倍も入っていることだろう。
結局、スケさんの魔法袋には元の半分ぐらいの量を占めていた可食な魔物素材が残り、1/3ほどを占めていた装備品と非可食な魔物素材を…………あれ?
可食が半分……1/2と、装備が1/3。全体量を6/6として引き算すると……おかしくないか?
あれだけデカい魔物素材の山が、装備品より容量少ない1/6の換算とか、計算が合わない。
そもそも、重さで言えばブラックドラゴン1体で、装備品全てと同じぐらいの重量じゃないのか? 下手したら。
あれか、薬草99個もパワードスーツ1着もアイテム欄では1枠を使う、みたいな仕様か。でも、それでもなんか容量表示と矛盾するような……。
……ま、まあ、謎仕様すぎる魔法袋については置いといて、説明を続けていこう。
「緑の紐がついた魔法袋には魔石や鉱石、あとは虎や蠍、象、猿といった魔物素材が入ってる。ああ、魔物は全て2m以上の大きさだから、出す場所には気をつけて。こっちの魔物素材も解体が必要になるから、冒険者ギルドとかと相談した方がいいかな」
「…………ええ。」
なんか反応鈍いな。頭を押さえてるし。
「ああ、そうだ。一応、この魔法袋は【時間遅延】が効いてるけど、それでも多少は劣化しそうだから早めに処理した方がいいかも。倒してからすぐに回収して【時間停止】してたやつだから、まだ全然新鮮だろうけどね」
「…………。」
……なんか一昨日の一件でお疲れだったりするのだろうか。
とりあえずラビット印のお菓子シリーズから、チョコラングドシャを出してみた。
美味しいよね、ラングドシャ。甘さひかえめにしたカフェオレとも合うはず。
「……ちょっといいかしら?」
「まあ、答えられる範囲であれば」
……そこからは、魔物の素材が受け取れる限度を超えてるとか、魔法袋の性能がおかしいとか、あれこれ
けれども、こちらとしても『スケさんだし仕方ない』『勇者ならよくあること』としかご返答できかねるわけでして、ええ。
だって、装備品だけが高品質なわけがないじゃない? 考えてみれば。
その辺りは慣れていかないと、今後もずっと
「……まあいいわ、そっちは勇者様だからってことで」
ご納得いただいたようで、なによりだ。
魔法袋については、前世で言うアタッシュケースのような箱型の鍵付き鞄へと大事そうに収納されて、足元に置かれた。
「……話は変わるけど、一昨日のメモはなんなの? 本当に私の部屋をずっと覗いてるんじゃないでしょうね!?」
うん、メモの件は受け渡しが終わったら
してないしてない。昨日は魔法袋整理で1日潰れたようなもんだし。
第一、俺はお姉さんが好きなんだ。リナぐらいの歳じゃ…………あれ、そうか。一応ロブ(12)にとっては、リナはお姉さんなのか。
いや、やっぱりもうちょっと落ち着いた感じの子の方がいいよね。うん。
「連絡手段が欲しかったのは本当だよ。冒険者って身分では、伝言をお願いしても連絡が本当に届くか当てにならないし。天井裏の監視に気がついたのは本当に偶然だったし」
「……偶然で他国の
いや本当に偶然で…………え?
「……他国の
え、なにその、要らないこと言っちゃったみたいな表情。
ガチな話なの? それ。
「……何でもない。とにかく! 捕まえてくれたことには感謝するけど、部屋を覗くのはやめてほしいってことを言いたかったの」
「なるべく机の方だけ確認するよう善処はするよ」
……他国のとの話は、こちらとしてもお貴族様にお任せしたいところなので、話を流してくれるのは願ったり叶ったりだ。
「まあ、気休めにもならないけど、辺境伯令息の
「そんなことが露見したら、いくらなんでも
随分な言われようだな、豚辺境伯令息。
まあ、リナもクララも、そして俺もだけど、スケさんという強力な安全装置のある環境で探索できてるんじゃね、とは思わなくも無いけど。
「ところで、
「無いわ。あったとしても、むしろ『成長』した方が対応できる可能性は上がるから、反対なんてさせないけど」
うん、少なくとも当人は萎縮と無縁なようだから、このまま続けてよさそうだな。
「ただ、貴方のギルドランクは、せめて
……言われてみれば、そりゃそうか。
ダンジョンに行こうとしていたリナが、
それなら、とっとと上げてしまう方がいいかもしれない。冒険者ギルドの初級講習会は一通り受講し終わってるから、あとは10件分のクエスト達成でいいんだっけ。
薬草5件分の25本と、上薬草は1本でも1件達成だから5本とを納品すればいいのかな。今日の午後にでも済ませてしまうか。
「うん、了解。手続きはやっておくよ」
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