第66話 連絡先

「あれ? スキル上がってる」


「ほう、おめっとさん。【鑑定】か?」


「うん、そうなんだけど……通知なんて出なかったよな」


そう、先ほどふと通知が来ていないことに気がついて『やっぱりスキルは上がりにくくなってるんだなー』なんて思って、何気なくステータスオープンしてみたんだけど。


【生活魔法】がLv.3に、【鑑定】もLv.2になっていた。


まあ、通知が来なかったことはともかくとして、ほぼ全ての装備に【清潔クリーン】と【鑑定】をかけていたので、使用回数はほぼ同数にも関わらず、【生活魔法】のレベルが上がりやすかったことになる。


ただ、その理由は大体推測できる。【清潔クリーン】は汚れが酷いほどMPを持っていかれたんだよね。


それに対して、【鑑定】の方は割と一定だった。恐らくスキルレベルを上げるためには、数をこなすしか無さそうなんだろうな。


まあ、【鑑定】についてはスキル上げついでに今夜にでもやってみたいことはあるんだけど、それは置いておいて。


右上の歯車マークから確認してみたところ、また通知が切れていた。特にそんな設定変更の表示も出てなかったし、原因は何だろうか。


単なるステータスオープンの更新辺りに関係したバグなのか、あるいは変なところを触ってしまって解除されてしまったのか。


最近は【空間収納】のスキルレベルも上がりにくくなって、通知を気にしてなかった。


けど、ステータスオープン自体は触る機会が多かったからなぁ。リナやクララのステータスとかスキルとかを確認していたってことで。


まあ、通知を再度オンにしておいたけど、結局どれぐらいの使用でレベルが上がったかの目安が取れなかったのは、少し勿体ないようで残念だ。


MP消費量とかを基準に、次の上昇予測をしたりするの、割と好きなんだよな。


成長ポイントの振り分けはまた後でやっておかないとな。そういや、新しく覚えたスキルの成長スキルについてはまだ確認してなかったっけ。これも後で確認しておこう。


「さて、それじゃこれで魔法袋の整理は完了ってことでいい?」


「ああ、残りはゴミやら何やら、後で燃やしておくようなもんだけやった。リナんとこに渡すもんはそれで終いやな」


魔石や鉱石、あと宝石の原石といった素材と、食えない肉に分類カテゴリーされた魔物については1袋に、毒のある危険物については注意書きを付けたもう1袋に仕分けて、計3袋を渡すことになった。


俺は早速、取りに来てもらいたい旨を羊皮紙に書き、格納門を開いてリナ・・へと・・送った・・・


「昨日仕込んでたアレやな?」


「ああ、うん。やっぱスケさんは気付いてたか」


そう、昨日の帰り際にリナの背後へ【自動オート追尾トレース】で格納門を1つ付けてから退出したんだけどさ。


それは、リナへ直接繋がる連絡先ホットラインを作っておきたくて、後で相談するために『連絡手段』を残した、といったものだった。


一応、リナとの『連絡手段』を確保することには成功したわけなんだけど……その際にひと騒動あったんだよね。


◇◆◇


俺たちを見送った後、男爵夫婦ら4人で部屋へと戻ってしばらく話をしてから、リナは自分の部屋へと戻っていった。


そのことを確認した俺は、【自動オート追尾トレース】を解除して、彼女の目の前に一枚のメモ書きを落とした。


『連絡を手早く行いたいから、これを机の引き出し辺りの使用人メイドれない場所に置いて。そこを今後の連絡場所にする』


俺は、リナが指定した場所をメモの送信が行われる定位置とする……言わば『手紙箱メールボックス』をリナの部屋に設置しようと考えたわけだ。いつでも連絡が入れられるように。


リナはメモを読んであちこちを見回した後、机にある鍵付きの引き出しへとメモをしまった。


……ふと、俺は気になったことがあったので、格納門の・・・・先にある・・・・リナの部屋に向けて【気配察知】を使ってみた。


『格納門経由の【気配察知】』、というのはその時に思いつきでやったものではなく、別の目的でやったら成功した手法だった。


報酬の一覧に【気配察知】を見つけた時から、格納門での移動先に人がいないかを調べることで、誰かに見られるリスクを減らすのに使えるなと思っていて。


それで、取得できたその日の薬草採集ログボでやってみたのが『格納門経由の【気配察知】』だった。


言わば、スキルとスキルを組み合わせた『スキルの合成』なわけだけど、これが全然問題なく発動できた。


その時に察知した気配は、虫とか水の中の魚だけだったけど。夜の中州でやれば、そりゃそうだ。


しかし、成功は成功だ。【気配察知】が格納門経由で使えた。


若干、MPの消費が多めな気はしたけど、そこまで注意するほどでもなかったし、これは使えそうだとニンマリした。


……話は戻して、リナの部屋での【気配察知】だけど。


やっぱり高性能執事・メイドの血筋がありそうな家だけに、諜報も得意だったりするんじゃないか? って思って。


そういった人に見られたら、俺のスキルとか含めて色々とバレそうだから、用心に越したことはないよなって。


すると……まさか本当にいるとは。天井裏に1人、覗いてるっぽいのを感知した。


俺は再び、走り書きのメモを今度は机の上に落とす。その天井裏からは、なるべく死角になる位置のつもりだ。


実はこの時まだ馬車だったから、揺れながらの文字で非常に読みにくかったかもしれない。


『了解。連絡時は机の上の香水瓶を横に向ける。この家は天井に監視いるの?(違うならメモを捨て天井を見ず親に確認して)』


メモを見て固まったリナは、メモを屑籠へと捨てて部屋を出て行った。


……うーん、いつでも待機してるリナ専属の『影』の可能性も考えたけど、違ってたか。


俺はすぐさま天井裏へと門を繋いで、部屋を覗く人影へと『痺れ針』を打ち込んだ。幸いにもそいつ・・・は首裏の肌を晒していたので、容易に刺すことができた。


念のため、『眠り針』も打っておこうか。併用の副作用とか無いよな? きっと。


俺たちが乗っている馬車の方は、まだ貴族街を出ておらず、拠点まではしばらくかかりそうだった。


街中を走る馬車って、身分証ぐらいの意味でしかなくて、歩くよりも遅いんだよな。


「スケさん、ちょっと出てくる」


「なんや忙しいな、手は要るか?」


「必要そうなら戻ってきてお願いする」


一緒に馬車に乗っていたスケさんに【自動オート追尾トレース】で格納門を残して、緊急時の飛び先として脱出場所を確保しつつ、俺は天井裏へと移動……しようとして手を止めた。


「スケさん、着ぐるみちょっと貸して?」


……念のためね、姿だけは隠しておこうかなって。


◇◆◇


着ぐるみを着て、改めて天井裏へと移動する。真っ暗な中で、下にある部屋の明かりがぽつぽつと漏れている。


その1つを塞ぐようにして誰かが倒れているのを見つけた。


……正確には、全然暗闇で見えなかったので、【気配察知】で場所を特定したのだけど。


俺は【生活魔法】の【光源ライト】を弱めに出して、その姿をようやく確認した。小柄な男、だろうか。


いや、そんなことを考えてる場合じゃなかった。急いで縄を取り出して、両手両足を縛る。ファルコ流を踏襲して、顔には袋を被せるのも忘れずに、ね。


……てか、縄抜け術みたいなことをされても厄介だから、素人らしく余った紐も腕とか足とかぐるぐる巻きにしてしまえばいいか。


俺は、そろそろリナが父親に伝え終えて誰かが登ってきそうだと焦りつつ、なるべく硬めに縛っておいた。


あ、ヤバい。【気配察知】が、誰かが天井裏まで上がってきたっぽいのを感知した。


俺はすぐさま【光源ライト】を消して、床に格納門を開き、飛び込んだ。


……場所は、咄嗟とっさだったので、拠点の方に飛んでしまったのだけど。


いや、逆に正解だったかもな。狭い馬車に飛び込むように入ったら、スケさんにぶつかっても危険だし、揺れで御者さんに何かかれても困るし。


僅かに『誰だ!』『待て!』といった声が聞こえてくる格納門を、俺は急いで閉じた。


……間一髪、ってところか。間に合ってよかった。


後の処理は、お貴族様がやってくれるだろう。スケさんも俺も・・馬車という完全な不在証明アリバイがあるからな。疑われる余地はない。はず。


俺はリナ宛てに『捕縛完了、後はよろしく。何かあれば拠点まで連絡を』とだけメモを残して、香水瓶を横に向けてから、馬車へと戻った。


……今度のメモは長机テーブルで書いたから、読みにくくないはずだ。


「おう、用事は済んだんか」


「うん、小用を済ませてきた」


「ウヒャヒャ、手え洗ってきたんやろな?」


「大丈夫だよ、着ぐるみには【清潔クリーン】あるんだし」


着ぐるみを脱ぎながらそんな軽口を叩いてる間に、馬車はようやく貴族街を抜けようとしていた。

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