第102話 スケさんの昔話

…………。


魔王が死んでない?


なにその斜め上バックスクリーン超えて星を3周するような弾丸ライナーの返しは。


こんな宴会の席で出されていい情報じゃなくないです? 世界に関わる話よ、世界にさ。


しかも『らしい・・・』って。伝聞調とか誰情報よ。


「いや、ワイもンなわけあるかいボケ! とは思とるんやけどなぁ……可能性が無いわけやないからタチが悪いんや」


スケさんによると、どうやら魔王とは何度かやりあった結果として倒した経緯があるらしいんだけど、「しょーもないウソを言うようなヤツやなかった」らしい。


「剣の腕こそワイに分があったんやけど、間違いなく魔法の腕だけやったらワイより上やったな」


え、なにそれ。その戦い見たいかもしれない。最強対最強のやつ。


「こっちが『勇者召喚を繰り返させん』て目的で、その『勇者召喚』が『魔王討伐』んために行われてきた以上、完全に利害が対立しとったからなぁ……。妥協点が探れる関係やったら、どんなに良かったか思たもんや」


ああ……いわゆる『魅力的な敵キャラ』とか『もう1つの正義』とかってやつだ。


「そんな実力あるヤツやったし、腐っとる王家やら貴族どもやらよりも魔王軍につかんかー言うて説得する言い分が、ことごと御説おせつごもっともやったから、単なるハッタリで言うとるだけやないんやろな、ってな」


……まあ、聞いてる限りは当時の王家や貴族って、どう考えても腐ってるもんなぁ。スケさんを謀殺しようとするぐらいだし。


「ちなみに、どんな能力の魔王だったの?」


俺はスケさんにそこまで言わせる魔王のスキルが気になって尋ねた。しかし、スケさんは頭を振った。


「正確なところは分からん。そいつは別名『ムゲンの魔王』と呼ばれとってな。時に無限・・に分身を作り、時に切り刻もうと貫こうと夢幻・・のように元に戻る。ホンマ実態のよう分からん、しぶとい奴やった」


分身か……ファンタジーにおけるボスキャラだと確かによくある技で、本物以外は『影が無い』みたいなことで見破れたりするんだけど。実際の敵に使われるとなると、見破れる自信は無いよなぁ。


それから、攻撃したのに当たらないという技と言えば、昔のMMORPGに実装された職業『ニンジャ』において、その職業の専用技『空蝉うつせみ』を使った盾役──通称『蝉盾』って言われるものが頭に浮かぶ。


確か、このニンジャの『蝉盾』があらゆる高火力を無効にできるもんで、特にボス戦での使い勝手が良く、それまでメインの盾職だった聖騎士という職が立場を奪われて、『きたないニンジャ』ってネットミームが誕生したんだよな。


真面目な話、そんな『いかなる火力も無効化できる』なんて技を敵キャラに頻繁に使われたら、敵側といえど調整ナーフ入るぐらいの強すぎて攻略する気にならない状況だろう。


「あとはそうやな、多種多様なスキルを持っとるんやけど、発動条件に制限があるっぽいことぐらいか、分かったんは」


多種多様というと、被弾した技を覚えてしまう学習ラーニングだとか、倒した相手からスキルを奪う吸収ドレインみたいなのが思い浮かぶけど、それが分身だとか被弾ダメージ無効とかと組み合わさるとか、どんな悪夢だ。


しかし、制限ってのはどういうことだろう?


「分身した身体とかでは顕著なんやけど、どうやら『2つ以上のスキルを同時に使えない』らしいんや。【雷魔法】の分身体は【火魔法】は使えんとか、【槍術】の分身体は剣を使わんとかな。分身しとらん時も、何や切り替えるための『溜め』みたいな隙があったりしたしやな」


……職業ジョブを切り替えてる? あるいは、スキルにスロットがあって、そこに一定手順で差し替える方法があるか。


いや、何それランダムモードチェンジするラスボスとか、運ゲーでしかないじゃん。どうやって勝つのよ。


「ワイが狙ったんは、奴が技を1度放ったら切り替える隙を与えんようにすることと、その技に合わせてこっちも攻撃を切り替えていく方法やった」


あー、なるほど。切り替えさせなければ、ある意味で一定のモードで戦えるってわけか。


……いや、それスケさんの適応力が全てじゃん。全種類パターンを暗記して瞬時に攻撃開始するとか、どんなクイズゲームの早押しだよ。


「手持ちのスキルの切り替えにも何や制限があったようでな、あるスキルの状態で被弾すると、身体を復活させる代わりにそのスキルはその日に再利用できんようになっとった。倒せた時は向こうの運が悪かったんやろうな、スキルの枠みたいなもんが万全ではなかったみたいやったけど、そこで情けをかける余裕は無かったんや」


うーん、まあ物語の勇者だったら『出直してこよう』なんて言って、全力で戦うのが礼儀みたいな話なんだろうけど、現実での戦いとなると多少泥臭くても勝つことを選ぶよな……。


しかし、魔王戦の概要を聞くだけでも無理ゲー臭が漂ってるんだけど。


実際、魔王にあえて技を切り替えさせてる隙に、スケさんとしてもヴァル氏のカロリーバーで肉体・・を復活させつつ、物量でゴリ押ししていた様子だし。数回戦ったという中での撤退判断も、カロリーバーの残数が基準だったとか。


でも、そんな魔王が復活する可能性とか、正直勘弁してほしいところではあるんだけど。


その魔王の復活発言(聞いた機会タイミングは最終戦とは別だったらしい)を受けたスケさんは、半ば脅しつつ王家にその真偽を吐かせたそうな。


その内容によると、確かに過去の勇者たちが魔王を討伐した後も、100年〜500年ほど経つと復活してきた歴史があったらしい。


スケさんを召喚した方法自体も、そうした魔王復活への対策として発見され、残されてきたものだったそうだ。


「……ま、王家の話が正しければ、の話やけどな。過去の勇者がほんまに倒したんかを確認したかも定かやないし、どんな手段を取ってきたんかも残っとらんらしい。唯一残っとったんは、王家の先祖や言い張っとる、おキレイな勇者物語ぐらいなもんやった」


ああ、当時であれば先代勇者様の伝説ってのが絵本やら何やらになっててもおかしくはないんだろうな。


「ハッ、あの荒唐無稽な『話し合いで解決した』なんて似非エセ勇者の話かい? あんなの戦勝時の世代が親になるのを待つまでもなく、10年と経たずにカスくんの武勇伝で上書きされたよ」


ハナで笑ったヴァル氏がそんなことを言い出した。


しかし、『話し合いで解決した』か……本当にいたんだとしたら、口喧嘩レスバ最強系の迷い人異世界人だった可能性はあるな。『はい論破』とか『それって感想ですよね』とかに厨二ルビが振られてる感じの。


しかし、俺は世間における勇者評とか伝承みたいなものを詳しく知らないけど、上書きされるみたいなものなのだろうか。


「何せ、ボクがキミの武勇伝を挿絵付きの読み物にして刊行し、爆発的に広めたからね! 後に歌劇にもなって、長きに渡って公演されたし、暴食の勇者の名を知らない者はいなかっただろうさ」


広めたのヴァル氏かよ。


まあ確かに、あの研究所にあった絵画は見事なものだったし、絵の腕は疑いようもないけど、物書きとしての才能も高かったのか。


天はヴァル氏に二物どころかいくつも才を与えてるようなんだけど、普段の印象は単なる残念エルフなのは何故なんだろうな。


……あれ? そういえば。


ヴァル氏がスケさんのことを描いたのだとしたら、現存してる勇者様スケさんの姿ってのも『あの体型ふくよか』なはずだよな……。


それにしては、ウェスヘイム家に飾られてた絵姿もシュッとしてたし、防具屋で言っていた『勇者寸法サイズ』なんてのは、まさに理想体型って感じだった気がするんだけど。


「んー、僕がこちらの世界に来てから聞いたことがある勇者様の話は、基本的に『初代勇者・カスタス』といった内容で、それ以前に勇者がいたり、魔王との戦いが繰り返されてきたって話は聞いたことないですね……」


ラビット氏が、スケさんやヴァル氏の言う『先代の勇者』といった設定に違和感を覚えたようで、そう言い出した。


そういえば、リナもスケさんに『初代勇者』と言っていた気がするな……。


うーん、これはどう考えるべきなのだろうか。


勇者博物館があるこの街は、言わば『勇者ゆかりの地』として売り出してるようなもんだから、多少の拍付けとしてそういった言い回しをしたとも考えられる。


けど……執事の血族として魔法袋などを代々受け継いできた家が、そんな改変を容認するのは多少の違和感がある。


まあ、結局は『500年も経てばそういうこともあるやろ』という、当時と軽く100年単位で時が経っていることから、多少の伝達の行き違いは誤差だという結論で締められたんだけど。


「何にしてもやな、ちょうど魔王を倒して500年経つぐらいなんやろ? 流石にそいつの予想ってのもハズレたんかな思うんやけど」


……嫌なことを言わないでよスケさん、完全にそれフラグってやつじゃん。


「正確には、カサニタス様が討伐してから502年と2カ月ほどになります」


レーヴァンが正確な経過年月をフォローしてくれた。なるほど、既に500年は経過しているということか。


そうなると、誤差は多少あるにしても予想された未来が回避されてる可能性は、それなりにあると見てもいい気はする。


魔王が勇者スケさんを懐柔するために言っていた、という可能性も無きにしもあらずだろうし。


元の世界であった津波に伴う原発事故でも、『数年後には10万人がガンになる』だとか『子供達の健康を害した』だとか言い出していた輩がいたけど、前者は『サプリを売るための業者』で、後者は『売れないジャーナリストのパフォーマンス』ってバラされてたっけ。


突拍子もない発言ってのは、いわゆるポジショントークである可能性ってのを考えに入れておく必要があるもんだよな。


事実から言えば、過去の原発事故を元に長年研究が行われ、それを吸収した科学的な知見を元に発生から事後処理にかけて危険性を踏まえた妥当な対策が取られ、結果として10年経過しても統計上のガン発生率増加は見られなかったようだし。


それは、この世界における『魔王対策』でも同じなのかもしれない。


遅延させるにせよ再発させないにせよ、発生が検証された上で何かしらの対策を行い、人知れずその効果が発揮される。


その手段が、前世では『科学』、今世では『魔法』と違うのかもしれないけど、『大災害』を避けるための努力ってやつが何かしらの変化をもたらしたということ、なのかな。


……まあ、幸いにも勇者様スケさんは復活なさってるし、万が一の事態は対応できるものとして、なるようになると思っておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る