運び屋ロブと王都への旅

第101話 ナヤボフトからの帰宅

「おっと、何か来てたのか」


ナヤボフトでラビット氏が米やら漁港に揚がった魚やらを大量に仕入れ、拠点へと戻ってきたところ。


ラビット氏が早速腕を振るってくれて、アイランドキッチンに次々に大皿が並べられていくのを、調理の助手もしていたレーヴァンと一緒に居間リビング長机テーブルへと並べていって、ひと段落した時だ。


ふと調理場キッチンの横から伸びる通路へと目が向いて、手紙や荷物などが届いていることを示す、点滅する魔道具が起動していることに気がついた。


ダンジョン帰りで不在にしている際、何か届いていることは少なくない。


とはいえ、前世のようにヤマトや佐川から荷物が届く、なんて荷物の直接配達する宅配網が敷かれているわけではないので、荷物が入っていることは殆ど無い。


その大半は、手紙代わりの羊皮紙の切れっぱしに書かれたメモであり、その相手も何かとやりとりがある商業ギルドであることが大半だ。


商業ギルドからは、刀など取り寄せをお願いしたものが届いた連絡や、ポーション関連の消耗品の入荷連絡、あるいは逆にポーションを売る方の依頼関連でボスギルマスから直接の呼び出しがあったりする場合ケースなど、連絡を受ける機会が多いんだよね。


だから、今回のそれも商業ギルド関連かなーと思って玄関の魔法袋へと手を伸ばしてみたところ、その予想は外れていた。


「リナからか。何だろう、珍しい」


基本的にこちらからは、くだんの連絡手段で直接リナの部屋の机へと送り、返信は使用人さんが持ってくる形式を取っている。


ただ、週に数度はダンジョンに行くため、大抵は顔を合わせた際に伝えられるので、向こうから連絡が来ることは長らく無かったんだけど。


早速、中を確認してみると、リナの父親であるウェスヘイム子爵から何やら相談事があるらしい。


子爵から? という部分は気になったものの、この辺りは思い当たるものも無いし実際に聞いてみる以外に無いだろう。


ちょうど子爵と奥様は渉外巡りがひと段落したようで、しばらくは屋敷にいるとのことだから、戻り次第で空いてる時間を教えてほしいとのこと。


「戻り次第…………あ、そういうことか」


1週間ほどで戻ってきたので、別にこちらとしては明日にでも……と思ったところで、そういった言い回しになる理由に思い当たった。


リナとクララには、ラビット氏の仕入れに同行するため、数日間はダンジョン探索を休む旨をナヤボフトに向かう前に伝えてある。


ただ、移動手段については詳細を伝えてなかったので、行き帰りの2週間挟んでしばらくは不在になると向こうは思ったのだろう。


ヴァル氏の魔道具で、旅先と拠点の2階が瞬時ノータイムに接続できるようになった話はまだ伝えてないので、1週間で帰ってきているとは予想もしてなさそうだ。


ちょうど手土産として仕入れてきた魚でも差し入れたら、子爵家としても喜んでもらえそうだし、予定が合うなら明日にでも伺うことにしようか。


米は流石に贈られても、調理し慣れてないと困ってしまうだろうか。炊いて冷凍した状態にでもしておけば食べやすいか? まあ、今度リナに食べてもらいつつ感想でも聞いてみよう。


ひとまず明日以降で空いてる旨と、日程の返信は机の中にでも入れておいてくれれば後で確認することをメモに書いて、リナの机へと送った。


ウェスヘイム子爵邸に行く際は、また馬車にでも乗って行くことになるのだろう。


商業ギルドのようにフラっと行って通してもらえるわけでもないから、正直面倒ではあるのだけど。


とはいえ、勇者装備や魔物素材の流通関連を押し付けて、貴族や王家向けに表立って捌いてもらっているわけだし、今住んでいるヨンキーファの領主なわけだしで、ここは素直に御用伺いに参上つかまつることにしよう。


◇◆◇


メモを書き終えてリナの机へと格納門経由で送り出し、手紙を届けた合図サインとして机の上の香水瓶を横に向けた。


ひと仕事終えたところで居間リビングへと戻ると、長机テーブルの上に所狭しと並んだ料理で、皆が既に宴会に突入していた。


長机テーブルの上は、鮭系の魚をバター焼きしたものや刺身にしたもの、イクラっぽいものと刺身を酢飯に盛った丼、シンプルに焼いて新米に詰めたおにぎりなど、魚と米で埋め尽くされている。


『こういう時はポン酒やろ』と、ラビット氏に『料理用』という名目で出させた日本酒で、すっかり出来上がってるのはスケさんだ。


まあ、レベルが上がって状態異常耐性が高すぎる都合で酔えなくなってしまったらしいけど、『気分や気分!』とご機嫌になっているので、まあ本人が楽しければいいのだろう。


その横から、なぜかお酌をしているヴァル氏。その後ろで控えつつ、感情が無さそうな目で見ているレーヴァンが、逆に顔から感情が失われたかのようにしか見えない。


そんな中、スケさんの向かいにある予備で買った椅子へと腰掛けたところで、ふと思ったことが1つあった。


「……手狭になってきたなぁ」


当初は、寝床と調理場キッチンがあれば十分で誰かを呼ぶ想定なんかなかったから、フランさんに勧められたこの家を丁度よさそうな『単身ワンルーム一戸建て』だなぁと思ってたんだけどさ。


スケさん、ラビット氏、そしてヴァル氏と給仕に来たレーヴァンがほぼ・・毎日・・いる室内は、正直そこまで想定してなかったというか。


時にはここにリナとクララまで加わるわけで、その場合は誰かが床に座る必要も出てくるぐらいだし。


ベルトたちウォルウォレンがたまに・・・遊びに来たら、居間リビングを使えば丁度よさそうだなー、程度に思ってたんだけどさ。


またフランさんにでも相談して、いい物件でも無いか探しておいてもらおうかな……。


その場合、出来ればこのアイランドキッチンについてはそのまま引越し先に据え置きたいところだ。


なんだかんだ使い慣れてしまうと、単身世帯向けの集合住宅にあるような通路に据えられた、狭い洗い場シンクと1つしかコンロがないような調理場キッチンには、戻れなくなってしまった。


ナヤボフトのように、ラビット氏が別行動で買い出しに行くこともあるだろうし、そもそもの話として今後も一緒に活動するかは分からないしね。


仮にまだしばらくラビット氏がいてくれるにしても、この環境を手放したくはないだろうし。


まあ、2階の改修を自在にこなしてくれたこの街の職人さんに相談すれば、何とかなるんじゃないかって気はしている。解体さえしてくれれば、運ぶのはこちらでやってもいいし。


流石に地下の保冷庫に関しては持ち出せ無さそうだけど……まあ、その辺りは魔法袋もあるし。


あ、何ならヴァル氏に時間遅延&低温保存の魔道具でも発注すればいいんじゃないか?


「そういえば、僕は前からスケさんに聞いてみたかったことがあるんですよ」


そんな引っ越し計画を頭に巡らせていた間に、一通り気の済むまで調理をし終わって席へとついたラビット氏が、そう話を切り出した。


「なんや、ワイにか?」


「えぇ。ほら、勇者が魔王を倒して平和が訪れた、って話は伝わってきてるんですけど、いわゆる最後の決戦とか魔王がどんなだったかとか、あまり聞いたことがなくて」


そういえば、確かに『桃太郎』みたいなのと似た感じで、ざっくり『魔王を倒して平和になりましたとさ、めでたしめでたし』みたい話が精々で、詳しい戦闘描写がある伝記モノみたいなのは冒険者ギルドの資料室でも見かけなかったな。


もしかして流通してないだけで、それこそ勇者の執事をしていた血族のリナの家には、何かしら残っている可能性もありそうだけど。


「あー、アレか…………まあ、今んとこ問題ないようやし、話してもええやろ」


……え? なんかヤバい裏話がある雰囲気??


下手な話聞いて、国から狙われるのとかはあんまり嬉しくないんだけど。


「実はなぁ……魔王は死んどらんらしい・・・

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