第103話 日課と書いてログボ

皿の上がすっかり片付いたところで、ナヤボフト帰りの宴はお開きとなって解散することになった。


ヴァル氏も、レーヴァンを伴って2階の玄関こと常設簡易ダンジョンから研究所の方に帰っていった。なんかこの光景も見慣れつつあるな。


そういえば、宴の最中に興味本位でヴァル氏は【空間転移テレポート】をどうやって魔道具に組み込んだのか聞いてみた。


ゲーム的な物語だと、魔道具は本人が該当する魔法を使えないと作れないから、【空間魔法】とか【転移】スキルとかは希少レアなために古代魔道具アーティファクトしか残存してない……みたいな設定があったと思うんだけど、この世界ではどうなのかと思って。


すると、『そんなものは視えれば作れるさ』と、ある意味では期待通りの回答を返してくれた。


そもそも、彼の持つスキルは【魔力解析】だそうで、言わば魔法に限定した【鑑定】スキルの上位版らしい。


曰く、『発動する魔法に対して、必要とする魔素の量や持たせる属性と順序、意図して変化させる形状、といったものをることができる』んだそうだ。


それは、魔法と同様の効果を発生させる『魔法陣』や『魔道具』についても、発動させる際の魔力を介して同様に『解析』できるんだそうな。


どうやら魔道具にも組み込まれている『魔法陣』というのは、書かれた言語の記述によって魔法を発現しているらしく、【魔力解析】できたものについては、それを再現することはそこまで・・・・難しく・・・はない・・・んだとか。


そのため、ヴァル氏が活動していた500年前当時、既に発見されていた魔道具から対応する魔法陣の記述を切り出して基盤ベースとなるものを作り、後にダンジョンの転移部屋ショートカットの装置などを参考にして最適化していったんだそうな。


……まあ、リナ辺りがスケさんの関係者として知っていて、王立研究所の最高顧問をやっていたともなれば、その『そこまで難しくはない』をどこまで信用していいものかは定かではないけど。


実際、商業ギルドで手に入れた魔法陣の本と魔道具の本は、それがどういった機序きじょで成り立っているのかについては、一切解説されていなかったんだよね。


内容としてはいわゆる『写経型』のもので、実際の魔法陣の図柄と何が実現できるかの説明に終始していて、『新たな魔法陣を作るには』といった内容は見当たらなくて。


その辺り、実際の魔法陣から類似してる部品パーツを抜き出して未知の回路を限定し、それらの有無や差し替えによって現象の差を検証しながらその意味を探っていく……みたいな、解体新書ターヘルアナトミアをやっていくほかないんだろうなー、とは思っていたんだけどさ。


それを『視えれば作れる』なんて言われてしまうと、手をつけるための根本からして違うじゃない?


……もしかして、ヴァル氏にとって魔法から魔法陣を書き出すことは、単なる『文字起こし』ぐらいなものなのかもしれない。


◇◆◇


ヴァル氏を見送った後、俺はそのまま寝室へと入って、ベッドへと腰を下ろした。


つい最近になって、『寝巻きパジャマを着る』という習慣を覚えたので、格納門から肌触りがよい薄手の布で出来た上下を取り出す。


少し前までは暑い時期だったのもあって下着だけで寝ていたし、【清潔クリーン】を覚えてからはそのまま寝ることすらあった。


けど、ルーデミリュの貴族に手紙を届ける際、『寝る時用の着替え』があることに気がついたんだよね。


なるほど、これはいいなと思って。


まあ、考えてみれば俺も前の世界で家にいる時はジャージ姿だったし、学生服だとか革ベルト着けたジーパンとかで寝ることなんて無かったもんな。


ちなみに、手に入れたのは庶民街の中でも貴族街寄りの仕立て服も扱っている店で、魔物素材も多少扱っているところ。ラビット氏から紹介してもらった。


そこで、子供向けの寸法サイズ見本サンプルを見せられて、今更ながら『……そういや俺、まだ12だったっけ』と思い出したのは、また別の話。


……ま、この世界はドワーフやハーフリングといった種族の血が混じっていることで、成人でも割と小柄な人は多いらしいからね。


冒険者ギルドでも、顔だけは少し渋めの小柄な人ってのを見ることは少なくない。そのため、アイアンDランクの冒険者証さえ首から下げていれば、俺でも誰何すいかされることは滅多になかった。


そういや、ベルトのパーティにいるファルコも少し小柄で、血としてハーフリングが混じっている話はしていた気がする。(小柄だとナメられるから、若い時から顎髭を生やすようになったって言ってたっけ)


着替え終えて脱いだ服に【清潔クリーン】をかけて格納門へと入れると、寝る前の習慣ルーティンに入る。


まずは日課ログボを済ませてしまおうかということで、サクッと上薬草を回収していく。1日160本、週あたり1100本ほどが収穫できる。


ちなみに、毎週白曜日はこれに魔力草の回収が追加される。


魔力草は結構あちらこちらに分散しているので、普段は主に温泉まわりだ。時間がある時だけ、広範囲を一周して回収する。上魔力草・中魔力草もあわせて大体、1000〜1700本にもなる。


これを1回360本分作れるポーション台に仕掛けて、大量のポーションとして備蓄している。


最近は、眠り草や痺れ草もポーションにするレシピを本で覚えたので、その通りポーション台に仕込むことで備蓄している。


もちろん回収してある素材は『上眠り草』や『上痺れ草』なので、出来上がるのも上級状態異常ポーションだ。


ただ、状態異常ポーションは強い効果を持続的に発揮させるための中間素材が追加で必要だったりして、薬草や魔力草に比べて複雑な割合での調合になっている。


実際の使い勝手という現場の声を反映させるために、研究されてきた製作法レシピといった様子が伺えた。


それらは既に個人では一生使いきれない量になっているけど、まあ何があるかはわからんからね。この前だって、気付かぬうちに戦争が起こりかけてたわけだし。


たぶんアレだ、生産系の宿命なのよ。うん。ラビット氏も、スケさんやヴァル氏から仕入れた素材で、相変わらず食い切れない量の料理を仕込んで、俺にもグロス単位でお裾分けしてきてくれてるし。


もっとも、俺は【錬金】スキルとか持ってないけど。まして自動生産魔道具のボタン押してるだけ、だけど。


そんなことをつらつら考えてるうちに、中州の周回は終わったので、次の作業である女神像ねんどろいどの量産に移ろう。


ベッドの横にある机の上に女神像を置いて、複製コピーの準備にとりかかる。


「……おっと、もう木材が心許ないな。また取ってこないと」


温泉の近く辺りにちょうどいい感じの太さの木が生え揃っていたので、神託メールで依頼が来てからは、あの辺りから木材を取ってきている。


一応、権利周りについて確認してみたところ、税制が敷かれているのは街中のみなんだそうで、現在使用されている街道付近など領主主導で開拓する計画がある場所を除いて、自由にしても問題ないらしい。もちろん、獣や野盗に襲われても自己責任として。


まあ、前世と違って大量に土地があるようだし、資源を取り合うような逼迫した状況下には無いのだろう。


ちなみに、既に作った女神像は800体を超えている。


たしか聖白銀教会の支部は国内だけで888カ所あるそうなので、とりあえずもう少しで行き渡らせるだけの数は用意できそうだ。


お隣のルーデミリュの方は、宗教とかはどうなっているのだろうか?


あれクーデターから4カ月経っているし、様子を見がてらその辺りの話をクロエ父にでも聞きに行くのもいいだろうか。


ダンジョンに行った日や、ヴァル氏の研究所行きのような長距離を移動した時は、高々3〜5体ぐらいだったりしたけど、それ以外でMPに余裕があれば10体ぐらいは作っている。


今日はナヤボフト移動分もダンジョン経由でさほど消耗していないので、10体ぐらい行けそうかな。


と、そんなことを考えながら机の上の女神像へと触れると、かなりお久しぶりな感じのメッセージが表示された。


『ステータスオープンシステムに一件の更新があります。更新しますか? はい/いいえ』

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