第53話 女神像の効果

神気オーラとやらにすっかり腰が引けてしまっているクララと、スケさんの軽口で窃盗を疑い出してしまったリナを、何とかなだめすかして、女神像の前に立たせることにようやく成功したけど…………結構時間をとられてしまった。


……何かしらの権力を借りれば納得しやすいかと思って、目先のもの女神像に飛びついたのが悪かったのか。


彼女ら2人の成長値ステータスを上げるのに、可能であれば要望を聞きつつ成長ポイントを振る……という方法を考えた時、女神像にそんな機能があるかのように見せてはどうか、って思ったんだよな。


まあ、ここまで来たら突っ走るしかない。俺は、女神像の後ろに立って説明を続けることにした。


「それじゃ、自分の持つスキルがより成長することを思い浮かべながら、どこでもいいので女神像に触れてください」


「ふ、触れるなんて畏れ多い……!」


「あー、ほんと大丈夫なんで、ちょうどほら、左の手のひらが載せやすいように上に向いてるので、そこに指でも置いて下さい」


「……こういう怪しいのは、もうこれっきりにしてほしいんだけど?」


「うんうん、意味がないと思ったらもう無理強いしないから」


もう、とにかく効果を実感してもらった方が早いので、話を無理矢理進めてしまおう。


「い、いきます」


「……仕方ないわね」


そう言ってほぼ同時に触れたのを見届けて、こちらも女神像に触れることにする。


この後は、ステータスオープンで出ている成長スキルを確認して、要望に合わせて振っていけばいいだけ。


…………そう思ってたんだけどさ。


『ステータスオープンシステムに一件の更新があります。更新しますか? はい/いいえ』


「はい?」


え、また? このタイミングで?


『更新データ……2件』


『ロード中……………』


あ、ちょっと待って待って、今のはYESの意味の『はい』じゃないし、てか音声認識機能あったんですかステータスオープンさん。


『…………………完了』


いや、だからさ。


まあ別に、システム更新して損することなんて無いとは思うからかまわないけど、この短期間このタイミングで何の更新が入ったのよ。


『インストール中……………完了』


『アップデートが完了しました』


『神託メールが2件届いています』


「またか……」


ステータスオープンの右下のメールアイコンが明滅している。


「どないしたん?」


「ああ……うん、大丈夫大丈夫、オールオッケー。あ、でもスケさんにも後で説明するけど、同じように触ってもらうことになるから、よろしくね」


とにかく更新アプデは終わった様子だからいいとして、2人は…………と言うと。


「あれ?」


未だ触れたまま身動みじろぎもせず固まっていた。


……もしかして、ただ触ってもらうだけのつもりが、彼女たちにも更新アプデ入ってたりするの?


俺は更新アプデの内容が気になって、神託メールのアイコンを急ぎタップした。


『アップデート情報:ステータスオープン機能を転移・転生者以外にも解放しました。女神デメディシナ像に触れることで、アップデートが開始されます。※ただし、神託メール機能は転移・転生者のみの機能となります』


『アップデート情報2:ステータスオープンの表示内容に説明機能を追加しました。任意の文字列を長押しすると、説明文や操作方法がポップアップで表示されます。この機能は設定からオフにすることが可能です。(アップデートされた時点でのデフォルトはオンになっています)』


……これは、彼女たちにも更新アプデが入っているということで確定っぽいな。『女神デメディシナ像』に触れているわけだし。


一点、ものーーッッ凄く気になる点が、その……『女神デメディシナ像に触れる』っていうのが、更新アプデの条件なことなんだけどさ。


…………いや、うん、便利! 間違いなく便利にはなる。


俺を介さなくても、2人は成長スキルにポイントを振れるようになった、ってことだよな。うん、非常に助かる。


成長ポイントが各自で振れるのであれば、わざわざ俺が方針を確認する必要なんて無くなるし、振るのも各自のタイミングで問題無くなる。


仮に今のまま俺とか異世界人だけが成長ポイントを操作できるとなると、その担当者がパーティから離れることもあるだろうし、以降は成長する度に連絡が来て同じ手順で更新していくのも辛いものがある。恐らく一度パーティを組む必要も出てくるだろうし。


説明機能も、地味に重要な気はする。


俺は前の世界で異世界モノを読んでいるからすんなり理解できることが多いのだろう。自分が持っていない未知のスキルでも、何となくスキルの内容は推測できるし。


けど、この世界の住人にとっては『物語』という『他人の人生を追体験する仕組み』の経験が相対的に乏しい分だけ、理解できない用語へ遭遇する確率は高まるわけで。


それこそ、【空間魔法】や【重力魔法】といった辺りは、その概念や理屈を理解できないから、難易度が高いとかハズレ魔法設定とかになってた話があったよな。


その辺りが、ステータスオープンで説明が完結するのであれば、自己解決はしやすくなる。


今回の更新アプデは、大多数にとって『神アプデ』と言っても過言ではないだろう。まあ女神様によるアプデは常に『神アプデ』なんだけど。


…………ただ、ね。


これ、教会行って祈れば更新アプデされる、とか一昨日の俺みたいな感じにしておけば良かったやつだと思わない?


あえて、『像に触れる』という条件を入れていることに、強い意志を感じるわけですよ。


神様の意思をおもんぱかるというのは畏れ多いことだとは思いつつ、後々の影響を予測しておいた方がいい。気がする。


んー、神様が望むことといえば……やっぱり定番は信仰心の増加とか?


信者を増やすでも、信仰を強くするでもいいけど、この世界に対する存在感とか影響力とかを強くすることで、起こせる奇跡が増えるとかそういう感じの話だったかな。


その基準で言えば、この前行った教会の聖堂体育館はこう……確かに地味な感じは否めなかった。


まあ、成金趣味でジャラジャラさせた枢機卿とかゴテゴテに飾られた建物とかよりは、全然好感持てるんだけどね。


やはり、人はともかくとして建物は、神像とかステンドグラスとか、多少は見栄えした方が大衆ウケがいいとは思う。


その視点で言えば……唐突にあの教会で更新が入っても、新鮮味インパクトが無くて地味だし、あんまり有り難がってもらえそうになさそうではある。


それと比較して、新たに女神像を設置して、直接女神像に触れる機会を提供する仕組みにしてしまうことで、印象に残りやすくする……うん、確かにしっくりは来る。


………………。


……でも、それってつまり、女神像が大量に必要ってことになりません?


だって、仮に……今の伝手つてがある聖白銀教会に置いたとして、大量の冒険者が1カ所に押しかけることになりそうだし、むしろ教会の上層部が聖属性持ちの信者とか支持基盤の貴族とかを優先的に強化するために、しばらく独占することもあり得るわけで。


最悪の場合、シスター銭ゲバがあの教会を追われることにもなりかねないし、迷惑にしかならない。


一方で、総本山みたいな場所に寄付した場合、秘匿・独占されて利権にされる可能性は否定できない。本来、冒険者向けに大いに利用されるべき機能が、全く活かされない可能性もあるわけだ。


だったら、可能な範囲で広く大量にばら撒いてしまうことで、希少性を下げて需要を分散させてしまった方がいい。


無責任にシスター銭ゲバ経由で教会にぶん投げて終了……って方法もあるんだろうけど、自分の手元に解決法がある状態で知らないふりというのは、俺の性格上、ずっと後悔する気がする。


まあ、複製コピーがスキルで出来るから、素材さえ用意できれば量産自体は全然可能なんだけど、問題は……どうやって、どこに届けるかだよね。


なんか、その辺りを統合して考えていくと…………もしかして、女神様ってば『冒険者のために、ねんどろいど・デメディシナを量産して各地に広めろ』みたいな話にしようとしてらっしゃる? 俺の性格も読んだ上で。


いや、いやいや、目玉商品として認めて貰えたんだとしたら、それはそれで非常に嬉しいですけど、でも割とそれって俺が各地に持ち込まないといけない感じになるでしょ? 大変じゃない?


あ、なるほどね。運び屋ロブタイトル回収ってことでね。ってやかましいわ。


いや、女神像として視覚的に記憶に残すことで、信仰心に繋げるという手法は、非常に理解できるわけですけどね。


アレだ、とあるプロレスラーが煽りパワポでやってた『アンゾフの成長マトリクス』のやつだ。


既存市場・既存商品である『教会』では、信仰力が鈍化していて市場の成長が見込めないから、『女神像』という新商品開発によって信仰力を増やそうっていう。場合によっては新規市場開拓にも繋がりそうだし。


いや、実に戦略としては素晴らしいと思うんですけどね。ええ。


ほら、前のクエストラビット氏の蘇生ですらまだ終わってないんですよね。ええ。


なので…………ひとまず新規のクエスト受注については保留ってことでよろしいですかね?

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