第52話 昼休憩

スケさんに、近くに休憩所になりそうな場所がないか確認したところ、3層の途中にある小部屋が安全地帯セーフエリアらしいので、そこで休憩をとることにした。


時刻は4の鐘半13時を過ぎたところ。昼休憩にもいいだろう。


冒険者なら気にするものでもないけれど、準備しておいたものがあったので取り出した。


木製のベンチだ。横長の箱から【空間切削】で真ん中をくり抜いた程度の簡単な作りだ。


温泉近くで罠を作るのに伐採した木材で適当に作ったので、使い捨てのつもりでいる。置いていったらダンジョンに吸収されるかもしれないけど、それはそれでいいだろう。


岩場のゴツゴツしたダンジョンの床でも、適当に土を敷いて踏み固めた上にベンチを置けば、ガタガタしなくて済む。


実は、この前の格納門砲を試射した際の土壁が便利だったので、世紀末たちを埋めた辺りを少し行った平地から、数トン単位で地表を削った土砂を【空間収納】に入れてある。


……今行ったら、結構な面積が草もなく綺麗に整地された真っ平らな土地になっているけど、あの辺りは結構道を外れているし気づく人はいないだろう。たぶん。


あの光景は、久々にビルドゲームをやってる気分になった。巨大建造物を作る下準備のために、海へマグマ撒いたり山を爆破したりして、無限に整地したもんなぁ。


さて、椅子を用意したところで、リナとクララに座ってもらう。


2人は一応、昼飯としてパンを持ってきていたようなので、陶器から木材に転写コピーして作ったマグカップにコンソメスープを注いで渡すことにした。


ダンジョン内は若干涼しいぐらいの温度だしな、暖かいスープの方が嬉しいだろう。


「あら、気がきくじゃない」


「まあ、運び屋ポーターなんでね。戦闘以外のところで少しぐらい貢献していかないと」


運び屋ポーターが宿の予約やら収支管理やら情報収集やら、雑用全般を担当するってのは基本テンプレだからな。


今回はスケさんカーナビに進路とか任せて歩いてるだけだから、むしろ楽な方とも言える。


「……あ。」


リナとクララにマグカップを渡したところで、若干マズいことに気付いた。


……そうだ。スケさん、どうしよう。


言わずもがな、骸骨スケさんに消化器官は無いわけで。


この前も軽く休憩時間に食べ物をと思って失敗したのに、2人に気を取られてるのもあってすっかり忘れていた。


「おう、ワイの分は無いんか? 女子だけに優しくするのはスケベ心まる出しやで? ロブ」


おっと、スケさんがそこに即興アドリブなのか助け船を出してくれた。


……え、でもいいの? 大丈夫?


「やだなあ、女性を優先させるなんて紳士のたしなみってやつじゃない」


とりあえず口では返事をしつつ、頭の中では大丈夫なのかと思いながらもう2つマグカップを出してスープを注ぐ。


果たしてどうするんだろう……と不安に思いつつ、クマの着ぐるみのとこまで持って行ってみると、スケさんが小声で囁いた。


「ロブ、ストロー作ってくれるか?」


ストロー? ああ、着ぐるみだからってことか。


超高性能な着ぐるみだけに、クマの開口部は自由に開閉できるが、常に閉じてるように一種の幻術で視覚誤認させているらしい。だから、閉じているように見えてもストローを中まで通してくれるようだ。


いや、それはいいんだけど……スケさん、飲む気なのか?


ストローについては、吹き矢で作った木製の筒がいくつかあるので、細めのものをマグカップに対して長すぎない程度に切って渡した。


「おおきにな」


スケさんは何でもないように受け取って……啜った。


「熱っつ、あっつ!」


いやそりゃそうなるよ。そのボケがやりたかったんかい。


フーフーと冷ます仕草をするクマの着ぐるみを横目に、俺も隣に座ってホットドッグを1つ取り出して、昼食を済ませることにした。


トマトケチャップとマスタード、何肉かは分からないけど極太のソーセージ。刻まれたピクルス。それらが少しだけフランスパンのようなパリっとした硬めのパンに挟まれている。何もかもが最高だ。


もちろん、コンソメスープもシンプルながらに美味い。


初日に買った硬いパンですらご馳走にするスープは、どうやら女性陣にも好評のようで、夢中になって飲んでいるようだ。少し多めに入れたので楽しんでほしいところだ。


「でもエエ出汁やな、久々にコンソメとか飲んだわ。数百年ぶりぐらいやな」


小ボケ重ねてくるなぁ、流石だとしか言いようがない。実際、スケさんの転移前以来だとするなら、数百年ぶりってことになるけど。


でも、啜ったやつって口から入ってそのまま流れたら、普通に骨の間を伝って漏らしたみたいにならない?


…………あれ、そもそも啜れるの? 熱いってことは熱での痛覚作ってる? それとも全部アドリブ?


そう思ってマグカップを覗くと、しっかり半分ぐらいまで無くなっていることに気付く。


……もしかして?


クマの頭の方を見ると、見かけは変わらないはずなのに、ニヤリと笑った。気がした。


「……すっかり忘れとったけど、昔の昔に味覚を再現したろと途中までやってたのを思い出したんや。今になって試してみたら、割とすんなり出来てな。この1週間で調整しておいててん」


……そうだった。この人、普通にチート級の天才だったっけ。


◇◆◇


「そうだ、2人にちょっと試してほしいことがあるんだけど」


そう言って俺は、飲み終わったマグカップやホットドッグの包みを片付けると立ち上がった。


もちろん、女神像の名前を借りて、彼女たちたちの成長ポイントを割り振ろうという目論見を実行しようというアレだ。


「えーと、こいつを…………は?」


昨日作った神像を取り出そう思って、2人に背を向けつつ【空間収納】を探ったところで、記憶にない文字列が浮かんで思わず声が出てしまった。


『女神デメディシナ像(監修済)』


…………監修済?


なにこれ、ご本人巡回済ってこと?


てか、アイテムの【鑑定】で出てくる文字列って、女神様が決めてるよねこれ? 辞書データベースへのアクセス権持ちなの?


「……持ってくるはずのものを忘れた、とかかしら?」


「ああ、違う違う。ちょっと、ね」


ま、まあ、女神様のお眼鏡にかなったのであれば、恐悦きょうえつ至極しごくにございますけれども。ええ。


……まあ、ご満足いただけたのであれば、我々のパーティが強くなるためにご協力を賜りましょうか。お名前をお借りするだけ、だけど。


気を取り直して、ベンチを祭壇に見立て、その上に【空間収納】から取り出した女神像を置いた。もちろん魔法袋から出した風は装いつつ。


「こいつはエラいようできた女神像フィギュアやな。ディアメディシーネ、やったか?」


おお? スケさんは直接見たことがあるのだろうか。三面図の紙には『デメディシナ』とあったけど、日本語的になるとさっきの読みになるのかもしれない。


「うん、実はこれも伝手つてで手に入れたものの1つなんだけど、女神様の加護によってスキルを伸ばす手助けをしてくれるそうなんだ」


「……スキルを伸ばす……ははーん?」


……どうやらスケさんは気がついたようだ。恐らく当時もパーティメンバーのスキルについては、同様の状況だったのだろう。


「それで、この女神像に触れながら成長を願ってみてほしいんだ」


ああ、またリナが令嬢のしてはいけない感じな顔になってる。


確かに我ながら胡散臭い話をしてるとは思ってるよ。でも、スキルなんていう神の力としか言いようがない得体の知れない何かに対して、神の力を借りて成長させるっていうのは妥当でしかないじゃない?


まあ、騙されたと思ってやってもらうしかない。


……実際、本当のことを言うわけではないから、半ば騙されてるのはご愛嬌。


「……クララ?」


リナがそう声をかけたのを聞いて俺も目を向けると……なんかものっ凄い両手を顔の前で組んで祈ってません? クララさん。


声をかけられてハッと顔を上げたクララは頭を下げた。


「いえ、あの、スミマセン! そ、その女神像、ワムワサフロス聖白銀教会総本山に置かれた像と似た……い、いえ、今まで見たことのある女神像の中で最も神気オーラを感じたもので思わず……。そ、そちらは一体…………?」


……神気オーラ


「ああ、確かに神に近い力ってのを感じるで。そいつが神気オーラってやつやとしたら、この像はそれこそ神本人が作ったか、あるいは相当に神からの恩寵を受けたものってことになるな。どっかからパクってきたんと違うやろな?」


違う違う。盗んでないって。


勝手に女神様がご公認なさってたってだけで、俺は何も悪くないから。


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