第54話 ステータスがオープンに

「……あれ、2人の更新アプデ、まだ終わってない?」


ずっと頭の中で『女神像配達クエ』について考えてる間も続いていたようで、全く動いてないようだけど。


これ、魔力枯渇とか体調とか、そういうの大丈夫??


…………とりあえず、ベンチを持ってきて2人の後ろに置いておこうか。すぐ座ってもらえるように。


なんか、小学生の頃に体育館で全校集会の時に貧血で倒れた子を見て以来、割とトラウマなんだよね。意識を唐突に失う現象。


「スケさん、ちょっと手伝ってもらっていい?」


◇◆◇


スケさんに、2人が更新アプデ入ってるようだから、と軽く説明して終わるまで見張っててもらいつつ、俺はすぐに椅子へ座れるようベンチの位置を移動させた。


あと、スケさんにも更新アプデをお願いしたいから、改めて詳細を伝えて、2人が終わってから同じく触れてほしいとお願いしておく。


「そもそも、スキルにアプデ入るとは初耳やったなぁ。そんなこともあるんやな」


うん、それは俺も教会ですごく思ったやつ。まあ、ステータスオープンがスキルという分類でいいのかは分からないけどね。


「ワイも更新するんか、なんか表示がバグっとったんも解消すればええんやけどな」


そういえば、ステータスの詳細が開なかったりしたんだっけ。


どうだろう。相当古いパソコンの場合、そもそもOSをアップデートしないといけないって話を聞いたことがあったよな。古いパソコンって聞いたから7から10にすると思ったらXPだった、みたいな話。


もしかして、スケさんのステータスオープンシステムも、再インストールが必要だったりするのかもしれない。


……2人のやつも、更新アプデとは言ってるけど、実質的には新規インストールに近いよな。恐らくは。


「おっと、ぼちぼち終わるみたいやで」


「え?」


「2人が女神像フィギュアに触れてからさっきまで、バリバリやった神気オーラが少し弱まったんや、タイミングから見てその更新アプデの処理と関係しとるやろ……おっと」


「……本当だ、流石さすが


フッと2人の身体のちからが抜けて、前へと崩れそうになるのを受け止めて、椅子へと座らせる。


……これ、女神像を配布するのであれば、更新時の手順書みたいなメモでも付けてあげた方がよさそうだな。女神像の置き場所とか、更新開始の姿勢とか。


下手な場所でやったら、場合によっては怪我人が出そうだ。いかがわしいことを企む輩を排除する注意も必要だろう。


人数的な懸念もあるな。複数人がやるなら、円になって周りから触れる形が良さそうだけど、横になって更新してもらった方が確実かもしれない。


あ、それだと終了が分かりにくいか……。


スケさんは神気オーラの量を見て終了タイミングが分かったようだけど、これ普通の人には無理なタイプの『ね、簡単でしょ?』だよな……。


まあ、その辺りは触れる位置を少し高めにすることで、ちからが抜けたことが分かるよう工夫してもらえばいいか。


将来的には、成人の儀式とやらで能力開示されるタイミングに併せて行ってもらえるのが理想的ではあるけど……その辺りの運用は負担もあるからお任せになるかな。


「……あれ、私……」


「気がついたようやな、おはようさん」


リナの方が先に目が覚めたようで、その後しばらくしてクララも意識を取り戻したようだ。


「それで、女神像に触れてから何が起こったか覚えてる?」


「ええ……。なんか女の人の声で、あっぷ……何とかを始めるって言われて…………ああ、更新後に使えるようになる機能? があるとか言ってたような……」


うーん、多分案内アナウンスはされてたんだろうけど、唐突だったことと更新アプデの負荷で、本人が覚えてない場合が結構ありそうだ。


「私も大体同じで……あぷでーと? が始まってからの記憶があまり無いです、ね……。

あ、スキルが強化できるようになるって言ってたような気がします」


うん、意識なのか記憶なのかは分からないが、負荷には相当な個人差がありそうだ。神気オーラへの親和性とか耐性とかなのかな。


まあいいか、その辺りは全て聞いてなかったことを前提として、簡単な手順書と取扱説明書でも作って渡せばいいだろうか。


「うん、その辺りはこの像を引き取った際に説明を受けてるから、改めて説明するよ」


「ほな、ワイはその間に女神像フィギュア使わせてもらおか」


「ああ、うん。さっき見た通り、横に座って触れた方が安全かもね」


「せやな。しかし、これ着ぐるみのまんまでええんやろか……? まあ試したら分かるか」


そう言って、スケさんはどっかりと女神像の横に座り、女神像をミトンのようになった手で触れた。


どうやら問題なかったようで、『ええで』と言って更新アプデが始まったようだ。


「さて、こっちはこっちで進めようか。それじゃええと……」


◇◆◇


「……と、こんなところかな」


2人へとステータスオープンの使い方を一通り教えて、後は各自が成長スキルにポイントを振ることになった。


まあ使い方と言っても、起動方法と項目の説明ぐらいなものだけど。


説明しながら途中で、ステータスオープンの画面に表示されている内容を質問してみた感じでは、『神託メール』と『時刻表示』を除いて、ほぼ同じ機能のようだ。


時刻表示機能を省いたのは何でだろう。時計職人とか経済への影響を懸念したとか? 知らんけど。


「スキルのレベルが上がる毎にポイントが得られるから、自分が優先したい成長スキルに振っていくといいと思う。個人的には、一旦全てに1ポイントずつ振って、どんな能力が得られるか確認してみることをオススメするかな」


そういえば、成長スキルにポイントを振らなくても魔法を使える人は普通にいることになるよな。ポイントが振られてなかったということは。


だとすれば、ポイントを振ることで、どういった変化が起こるのかは興味があった。


俺の場合は、成長スキルへのポイント振り分けが、スキル解放や性能上昇とイコールだったからな。


「……1つ、質問いいかしら?」


リナが、じっと下に向けていた顔を上げて、こちらに向けてきた。


「ここに……私の名前とクララの名前、そして貴方の名前があるけど、パーティの情報は見られるってことなの?」


あっ……。


こっちから見えるってことは……向こうからもそりゃ見えるってこと、だわな。


「うん……そうなるね」


「じゃあ、貴方のスキルに【土魔法】が無いようだけど……これ、読めないけど、別の魔法を持ってるってことかしら?」


…………。


……まあ、潮時か。バラすのも。


パーティを組んだら、とは思ってたから、いつでも良かったんだけど。


一応、読めないようだから誤魔化すことは可能かもしれないけど、ここは腹を括ろう。


「前にも言ったけど、俺のスキルは少し特殊なんだ。『固有ユニークスキル』って呼ばれてる例をどこかで聞いた気がするけど、それに類するものだと思う」


この世界での呼称が何なのかは分からないけど、そういった用語はある気がする。少なくともスケさんの持っていた【暴食】は、固有ユニークスキルと言って差し支えないはずだ。


「ここで明かしておくと、俺のスキルは【空間収納】って言うんだ。【土魔法】じゃない。ただ、土を削り取ったり土を取り出したりといったことが得意だから、偽装カモフラージュのために【土魔法】で冒険者ギルドでも登録している」


まあ【土魔法】と言っても、壁を作ったり棘を作ったり土玉を発射したりと、個人によって得意な方向が偏ったりするのが普通だから、割と誤魔化せてきたようだけど。


「……なるほど、確かに【空間収納】っていうようね。貴方が明かしたからか、こちらの表示でも読めるようになったわ」


なるほど、固有スキルだけなのかは分からないけど、本人の公開がなければ表示を塞いでくれるのか。便利。


「名前の通り、収納するスキルってことで合ってるかしら?」


「基本の使い方としては、いわゆる魔法袋のスキル版ってことで間違いないかな。まあ、魔法袋とは違って、容量や時間経過なんかは成長によって機能拡張できるようになってるよ。偶然にも使用者登録付きの魔法袋を手に入れたので、スキルがバレないように、その魔法袋をその都度持ち出すことで偽装カモフラージュにしているけど」


だからこそ、運び屋ポーターとして登録したっていう経緯があったりはする。


とりあえず、性能の具体例として格納門からポーションを取り出してみたり、紅茶のポットを取り出して新しいマグカップに注いで渡したりした。


「真っ当な使い方としては、こんな感じで魔法袋スキルって感じだけど、これを【空間切削】という成長スキルによって応用すると、知っての通り地面の下に落とし穴を掘れるし、離れたところにあるアイテムを回収することもできる」


そう言って、2人に手に持ってもらっていたポーションを回収してみる。


ああ、そうそう。今後は魔石はこっちで回収していくことも伝えておこう。拾うの面倒だしね。

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