第219話 打ち合わせ

こちらの皿も甘味デザートをわずかに残すばかりとなった辺りで、ふと思い出したことがあったのでリナに確認する。


「リナに言ったっけ? アルベルト様雅メンと寮の食堂で話をした際に、俺たちのパーティが強くなった理由を探ってるみたい、って話」


明日、初めての授業がある『戦闘訓練』に関連して、思い出したのだ。


なんかあの人アルベルト、リナが公爵家に訪問するとなった際にすげー調べてたんだよね。


で、そのとばっちりのように俺まで『勇者疑惑』がかけられそうだったから、とりあえず『自分の目でリナの実力を見て判断したら?』ってもう一回振ったんだよね、確か。


「接触してきた、という話は聞いたけど、あまり詳しい内容は聞いてなかったかしら。あの方、強さの秘訣でも探ってるの?」


「さあ? なんかリナの身辺を調べてたら、急に強くなっているのが不思議だったみたいだけど」


別に強さの秘訣を求めてるなら、どういった訓練をしてるのかとか、探索の頻度とかを訊いてきたと思うんだよね。


どちらかと言えば、唐突な強化の原因となった環境や人員の変化を探っているとか、そんなのに近かった気がするし。


まあ、ある意味で勇者様スケさんとの出会いが、一気にリナを強化したという見方も出来るから、その視点はあながち間違ってなさそうだけど。


「とりあえず、リナが噂に違わない強さなのかは自分の目で確かめてみたら、って言ってあるから、もしかして明日の『戦闘訓練』で注目されるかもなって思って」


「…………面倒な話だけど、変な噂で外堀を埋められるよりはマシだわ」


貴族らしい搦手からめてってやつか。誉め殺しされたりして、行動を縛られていくような。


本当、政治ってやつには関わりたくないもんだよね。


「まさか、手合わせしろとか言い出さないわよね? あのお付きのどちらかと、とか」


あり得そうではあるものの……その言い回しだと、本人雅メンが手合わせしなさそうと言っているようなもんだけど、いいんだろうか。


まあ、あの服の下に筋肉が感じられない薄そうな身体付きを見て、リナも同様に思ったんだろうけど。無いだろうなって。


「別にいいんじゃない? 一度あの方アルベルトの前で本気を見せればいいだけなら。もちろん協力してくれるんでしょ? ロブ」


……まあ、そうなるんだろうなって気はしたよね。


入学試験の時も思ったけど、下手な相手だと本気を出せないか怪我をさせるかだろうから、ガチでやるなら同等に動ける冒険者でも用意する必要がある。


流石にリナに打ち勝つのは無理にせよ、打ち込んでくるのを受ける程度であれば、長時間にならなければ何とかは出来るかな。


「……まあ、お手柔らかに頼むよ」


「万が一の時はクララがいるから心配しなくても大丈夫よ」


……それは【回復ヒール】があるから大丈夫なのか【蘇生リバイブ】があるから大丈夫なのかで、心配の度合いが変わるんですが。


◇◆◇


その後、緑曜日に潜る予定になっている11層から15層の探索について、軽く打ち合わせをして解散した。


打ち合わせといっても、早朝1の鐘6時を目安に集合することと、ダンジョン内の戦闘は進捗に合わせて省略する場合があるってことぐらいだったけど。


とにかく、その日のうちに15層に着くことは必須マストだから、1層あたり鐘1つ2時間での踏破が理想だろう。


ただ、階層が上がって魔物も集団化してくる頃合いなので、計画より遅れ気味になってきたら、リナと俺も積極的に攻撃に参加するつもりだ。


正直、ブートの盾を起点に、テアが急所を攻めて怯ませ、ヌールちゃんが【精霊魔法】で仕留める、というだけでも単体のパーティとして成立してるんだよね。


被弾したブートには、ヌールちゃんが水系統の回復魔法も使えるし。


とはいえ、魔物の集団の規模次第では、初見殺しというか、上手いこと捌けない可能性もあるので、その辺は臨機応変にいこうといった感じだ。


20層か25層ぐらいまで開けたら、このパーティ全体での立ち回りってのを、一度改めて検討したいところだよね。


特に、ヌールちゃんの【精霊魔法】は、いわゆる『賢者職』っぽい感じだし。


回復職ヒーラー遠隔攻撃職レンジアタッカーもいけるし、クロエが使っていたような【睡眠】や、他にも【遅延スロウ】といった辺りで弱体職デバッファーといった立ち回りも可能なようだ。


万能職マルチであることは必ずしも利点ではなく、中途半端にもなりかねないので、ある程度は強みを作ったり、方向性を定めた方がいい気はしている。


それこそ、この辺りは元祖万能職でもある勇者様スケさんに相談したいところだけど……後で新拠点の郵便受けにでも伝言を届けておこうかな。


いずれにせよ、目下の目標である転移部屋ショートカットの開通が先なので、こちらに集中することにしよう。


緑曜日の結果次第では、また16層から広くなることを見越して、次の探索を白曜日から橙曜日にかけた泊まりがけにするかどうかを判断する必要も出てくるだろうし。


しかし泊まりがけとなると、追加3人分のテントと敷物マットを追加する必要が出てくるだろうか。


この辺りは、この後にでも作ってしまう予定の魔法陣用の定規セットの納品の際にでも、商業ギルドで用立ててもらえばいいかな。


王都だし、黄曜日に納品したついでに発注しておき、学園寮に届けてほしいと頼んでおけば、きっと白曜日には間に合わせてくれるだろうから。


◇◆◇


翌日、1〜2限目に室内演習場を使った『ダンス』の授業があったが、こちらは卒なくこなすことができた。


てか、流石はSクラスと言うべきか、俺とクララを除いてきっちり家庭教師で学んできた経験者ばかりで、ひと目見ただけで動きが違うと分かった。


一応、DEX器用さINT知力のおかげで、身体は動くし動きはすぐ覚えられるので、授業についていく程度は問題なさそうだ。


今回は基礎とのことで、あとは形式パターンを増やしていけばいいのだろう。


……そもそも、踊る機会なんてのは無いに越したことは無いんだけど、数年後には必要にもなりそうだからね。一応、真面目に授業を受けていくことにしよう。


次の3〜4限目は『薬学』の授業だった。


こちらも『魔法陣学』と同様にポーション作成関連の実習があるためか、研究室棟にある『薬学実習室』で行われた。


この授業もクララと一緒ではあるものの、彼女は既に『優』で単位を取得済みなので、気楽なものだろう。


今回の授業では、初回ということで今後の授業の進め方の説明と、器具や素材の取り扱いについて説明があった。


後半は、教科書を使った座学といった感じで、内容としては冒険者ギルドで参加したことがある『初級採集講座』の内容に近しいものだった。


むしろ、学園のこの辺りの授業を冒険者向けに整理したのが、ギルドの講座なのかもしれない。


今後、採集の実習もあるのかなー、とか思ったけど、そもそも学園のある王都の中央からは外壁まででも片道で鐘1つ2時間程度はかかるから、授業時間内では全然賄えそうにない。


その辺りを質問時間に担当教師に確認したところ、後半に行う選択実習で出される課題の1つがそれとのことなので、体力に自信のある人は、前半の授業で解説する最寄りの採集場所への旅程を考えておくよう言われた。


そういえば、試験で忙しかったのもあって、王都近辺の採集場所を探すのが先送りになってしまっていた。


まあ、流石に王都で納品することは無いだろうけど……普通に学生向けのポーション需要はありそうなんだよなー。


ダンジョン産は劣化しない分、売るといい値段になるからね。どうせ飲むなら安い市販のポーションとなるだろうし。


……と、教師から返答を貰ったところで、授業時間の終わりを告げる鐘が鳴らされた。


さて、この後の昼食を挟んで、5〜6限目は『戦闘訓練』のお時間だ。


着替える時間も考えて、ベーグルサンドかパニーノ辺りの軽く食べられるもので済ませることにしよう。


……完全に後付けだけど、昨日のうちに打ち合わせを済ませておいて正解だったな。着替えで早めに昼食を切り上げることまでは、頭になかったし。

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