運び屋ロブと新たな仲間たち

第37話 お取り寄せ

ダンジョンに潜った翌日……のことは正直あまり記憶にない。


気がついたら冒険者ギルドの『初級素材講座』が始まる4半鐘30分前で、バッキバキの身体をなんとか起こして冒険者ギルドに向かい、一応は戦闘講習の方も受けて、帰宅した。気がする。


多分、夢じゃないとしたら、参加した履歴は講座開始時に講師に確認してもらうギルド証で記録されたはずだから問題ない、とは思うんだけど。


さて、明けて翌日の赤曜日。すっきりとした目覚めで朝食をろうと寝室から1階の台所キッチンへと降りてきたところで、玄関にチカチカと光るものを発見した。


「ああ、そういえば……」


フランさんに設備の1つとして説明されてたっけ。不在の場合の荷物や伝言を受け取る目的で、玄関に小容量ながら魔法袋の魔道具が設置されている。


魔法袋は、カードキーでもあるギルドカードを接触させることで取り出せるようになっており、カードが無い場合は入れることだけが出来る仕組みになっている、そうだ。


また、荷物を入れた時に起動する別の魔道具によって、家主に知らせる機能があると言っていた。恐らく、この点滅している明かりがそれなのだろう。


「もう届いたのか……そういや1週間ほどって言ってたっけ」


どうやら、ボスギルマスにお願いしていたポーションの教科書が届いたようだ。メモには、商業ギルドの窓口で受け取るよう書かれていた。


それじゃ、まずは商業ギルドで本を受け取って、あとは5の鐘午後2時に『初級筆記講座』があるから、それまでの空いた時間でポーション本を読み進めようか。


メモを【空間収納】へと入れると、俺は食事の準備を再開した。


◇◆◇


「はい、では引き落とし処理をさせていただきますね」


フランさんから本を受け取り、ギルドカードを提示して代金を引き落としてもらう。送料込みで銀貨3枚3万円だ。


中古本でこのぐらいの相場、だそうだ。新品だと銀貨5枚5万円から大銀貨1枚10万円とのことで、紙は庶民的な素材ではないらしい。


どうやら紙文化までは持ち込んでも、製紙工場のような量産までもたらした迷い人異世界人はいなかったようで、新聞はおろか活版印刷まではまだまだ先なようだ。


紙文化がいつごろ伝わったのかは分からないが、娯楽から教養という実用にまで至ってるのを考えると、割と一定の運用はされていると思われる。


それにも関わらず、未だ羊皮紙が一般的だったり、紙にしても質や厚さが発達してなさそうなところから察するに、この魔法世界での伝達手段として紙というのがそこまで必要とされてないのかもしれない。


まあ、前の世界でも紙の本から電子書籍へと移行しつつあったし、水晶の魔道具を介した通信やデータ保存といったものが発達してそうなことが垣間かいまえるので、量産化された紙文化を超えて情報化された社会を達成してる可能性はありそうだ。


もっとも、機械文明も発達しなかったようなので、大衆に技術が広まるところまでは期待できなさそうではあるけど。


「はい、これで契約は完了となります。ギルドカードをお返ししますね」


ひと通りの処理が終わったようで、水晶から顔を上げたフランさんがカードを手に取って差し出してきた。


それを首にかけたところで、あることを思い出した。


「そういえば、こういった取り寄せってのは他にもお願いできたりするのかな?」


「ものにも依りますが、いくつかの方法でお受けすることが可能です。1つは他の商人への依頼として出す方法、1つは商業ギルドへと依頼を出す方法、あとは競売オークションでの代理落札を依頼する方法、といった辺りが主な取り寄せ手段になりますね」


商人への依頼として出すケースは、主にこの街に登録する商人から仕入れる方法で、これは量と希少性によって期間が変わるので、単価が安く少量の場合に取られる方法だそうだ。


商業ギルドへの依頼は、他の街から取り寄せる場合に用いられるそうで、特に希少性のあるものや鑑定が必要なものを仕入れるための方法。


在庫さえあれば期間が見込める代わりに、仕入れ交渉を行わない割高な価格を覚悟する必要はあるが、商業ギルドの流通網ネットワークを利用できるので、金に糸目をつけないなら入手しやすいという利点はあるとのこと。


最後のオークションは、さらに希少性の高いものを入手したい場合に使われることもあるものの、相応に金額は高くなるし、そこまで高いものを仕入れる商人は大半がオークションへの入札権まで含めて自ら仕入れられるので、何かしら・・・・事情があったりする場合に取られる方法のようだ。


まあ、一般に専業商人はこれらの仕入れルート以外・・が腕の見せ所になるわけで、自ら現地に足を運んで品質や量を見極めて底値で仕入れたり、需要が高いところに運んだりすることで儲けを生み出す、というわけだ。


「なるほど……多分、お願いしたいものもそこそこ値段はしそうだから、商業ギルドへの依頼ってことになりそうかな。まずは仕入れられるか、調べてもらってもいい?」


「ええ、かまいません。どのようなものをお探しですか?」


俺は用意していた羊皮紙の切れ端メモを取り出して相談し始めた。


仕入れてほしいものは、2つほど。


1つは、スケさんから助言アドバイスも貰っていた、魔法陣についての本。


弾に属性を持たせることで、物理だけではなく魔法属性も持たせたい場合に使える攻撃手段を用意したい。


全て外注でもいいのだけど、せっかく少年化したわけだから、学びに時間を使うのもアリだと思っている。


さて、もう1つは……刀。いわゆる、日本刀というやつだ。


これは厨二魂が右脇腹でうなっている……わけではなく、ほぼ無償でダンジョンの案内役をしてくれたスケさんへのお礼だ。


もうしばらくお付き合いが続くといいなー、という下心も過分に含んではいるけれど。


前に見せてもらった腰溜めからの抜刀が、居合いを模してたように見えたんだよな。恐らく生前に使っていたのか、元から抜刀術に知見があったか、あるいは、サムライへの憧れというやつか。


腰に差していたのは普通のロングソードのたぐいだったけど、刀の方が似合うんじゃないかなって。


刀自体はいている人を冒険者ギルドで見かけたことがある。


恐らく主流メジャーではないとは思うけど、剣術などを含めてそれなりに流通はしてるのではないかと推測している。


「…………少々お待ちくださいね」


内容を確認したフランさんが、何か思案した後に一言断って、水晶を操作し始めた。


水晶はギルド登録やカード更新などのデータ処理の他、記録や調べ物などにも使われるようで、ほぼ前世におけるPCのような役割のように見える。


「……ああ、やはりありましたね。実は、先ほど紹介した取り寄せ方法の他に、借り入れ等の担保として預かった質種しちぐさが返済期限を超えてそのまま流れたものや、冒険者ギルド経由の現金化したい財産、借金や罰金ペナルティの取り立てで差し押さえた現物げんぶつなどが、ギルドの倉庫にはあったりするんですよ」


へー、なるほど。そういえば、世紀末やらナイスガイやらが犯罪奴隷へと落とされるという話の中で、そんな話があったな。


強盗などの場合は財産を没収し、権利者確認で引き渡しなどが行われた後、現物での希望がないものは商業ギルド経由で一度換金されて、討伐参加者への褒賞や被害者への補償へと充てられる、らしい。


「ちょうど、買い手がついてない刀剣がいくつかと、つい先日にとある貴族から回収した大量の本がありまして、ロブ様ご要望の品があるかもしれません。よろしければご覧になりますか?」


「是非!」


これはなんという幸運ラッキー。俺はフランさんの提案に飛びついて、地下にある倉庫へと向かうことになった。

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