第137話 更新
「……なるほど、な」
ステータスオープンの説明がひと通り済んだところで、子爵は息をついて椅子の背へと身体をあずけた。
応接室の長机の上には、
子爵には、あらかじめ椅子へと座って
リナたち同様、終了時には一度意識を失っていたようなので、そういった仕様になっているらしい。まあ
もっとも、俺の場合はそういった気を失った記憶は無いんだけど、追加
さて、今の状況だけど、リナに相談した日のうちに子爵と会えることになったので、そのまま彼女にも同席してもらっている。
ただ、他の執事などは人払いしてもらっているので、中にいるのは俺を含めて3人だけだ。
その中で領主が動けなくなったり意識を失ったりしているのは、若干問題があるんじゃないかと言われると確かにそうなんだけど……まあ、今後起こり得る実例としても把握しておいてもらった方がいいだろう。
その後、これまたリナやクララの時と同様にステータスオープンの説明を行っていった。前のめりで興味深そうに自身のステータスってやつを見ている様は、少し若々しくというか、少年っぽい目になっていた。
まあ、そうだよな。男の子ってやつはこういうのが好きなんだよ。心踊るというか。
しかし、次第に男の子から子爵へと戻るように何やら考え込みながら、時折唸りつつ、そしてしばらくして眼前の
ちなみにだけど、流石に子爵のスキルについて詳細を聞くことはしていない。
リナはパーティだから元から見えたし、あまり気にしてこなかったけど、本来であれば自分から明らかにしない限りは言わないもののようだからね。
「ご覧いただいたような
俺は、今日の本題でもある、現状の懸念点についての話を始めた。
「……つまり、混雑が予想される、ということか」
「左様でございます」
恐らく、子爵なら既に『不満が出る』『整理が必要になる』『待機者への対応』といった問題点には思い当たっていることだろう。
何せ、長年キファイブン伯爵に仕えて、領内のことを取り仕切って来たとのことなのでね。
この街であれば、毎年ムルタクア川の採集解禁を前にしたお祭りが開催されるから、そういった人が集まる時の仕切りは心得ているんじゃないかと踏んでいる。
フィファウデのダンジョンで
「ちょうど昨日、聖白銀教会でお話を伺ってきたところ、フィファウデを含めたこの周辺には
「ほう」
「ええと……はい、こちらの冊子にある簡易的な図が分かりやすいでしょうか」
俺は昨日譲ってもらった『巡礼帳』のうちヨンキーファ周辺が含まれるものを取り出して、子爵の前に差し出した。
「これは?」
「はい、聖白銀教会で巡礼という各地の教会を巡る修行の際に用いる『巡礼帳』と呼ばれるものになります。古い地図をもとに起こされた地図のため、旧道と呼ばれるものが多く含まれるようですが、大凡の位置を掴むのには重宝するかと」
『巡礼帳』を持ち帰った日に確認したところ、巻頭にいくつかの簡易図がついていることに気が付いた。
それぞれが全国を8つに分けた区分の中で、さらに6〜8つに地域が分けられ、その地域に含まれる10〜20カ所ほどの教会の位置が簡易図で描かれている。
旧道だとは思うんだけど、これは非常に助かる。
「こちらの図にある通り、ヨンキーファからもいくつか最寄りの教会があります。時間経過により、周囲の教会を利用しに遠征する冒険者をはじめとした民衆が、徐々に増えると思われます」
恐らく、数日間は内部でその使い方などを検討しつつ、公開方法に関する検討が行われて、公開からその効果が見え始めるのが1週間以内。早ければ翌日には評判が広がると思う。
それこそ、聖白銀教会の内部で人柱となった
その間に、いかに準備を整えるかが割と勝負だと思っている。
「……ひとまず徒歩2日の圏内にある教会に、しばらく領兵を派遣する必要はあるだろうな。それで、何時頃にこの像による更新とやらは起こることになるかは分かるだろうか?」
「正確な日程までは……ただ、半月ほど後までには各主要な教会に届くことになるのではと予想しています」
実際のところ、全ての教会に1日で届けるのは無茶だ。仮に夜の8時間程度に各礼拝堂へ届けるとして、30秒に1つみたいな計算になる。
逆に5分に1つ届けられると仮定すれば、100カ所程度が限度であり、およそ9日かかる計算になる。この辺りが現実的な気がする。
まずは主要な都市部にある教会から届けていって、各教会内で利用方法が検討されている間に周りへ届けていくのが妥当だろうか。
ひとまずは最初の需要に間に合うように、どこに届けるかを
ちなみに、昔からの都市部である王都オストシュタットの壁の内側には、複数の教会が配置されている。
そのため、相対的に1日で受け付けられる人数はそこそこ多くはなる予定だ。
もっとも、王都の外壁内には主要なダンジョンがあるわけではないので、
ああ、学園にはダンジョンがあるらしいし、貴族も多いようなので、生徒の需要はそれなりに出る可能性はありそうだ。
まあ、この辺りを加味しながら優先順位を付けていけばいいだろうか。最初は王城に近しい中央の教会にでも送っておけば、諸々の検討が入ることになるだろう。
……懸念することとしては、やはり上層部が独占を言い出した時だろうけどね。
その時は女神像を取り上げるし、場合によっては翌日教会ごと更地になってもおかしくない。
一応、注意書きにも書いておこうかな。天罰が
とはいえ、大都市圏には複数置くようにすれば、流石に全てを秘匿するのは難しくなるだろうし、初日こそ100カ所でも、翌日には更に100カ所が追加されていくわけで、全てを統制するのは難しいとは思うんだけど。
「……仔細承知した。聖白銀教会の第1報があり次第で、周囲の教会への人員派遣を始めとした対応が行えるよう準備しよう」
「ありがとうございます」
……まあ、何に対しての感謝なのかは分からないけど。こちらからの懸念の陳情を聞き入れてもらえたことに、だろうか。
「カタリーナ、少し席を外してもらえるだろうか? 少し彼と話がある」
…………え?
急に変わった空気のまま、リナはその言葉に頷いて出ていってしまった。
あれ? この展開は予想してなかったんだけど……あれ?
…………なんだっけ、英語の歪曲な表現として『留め針が落ちる音が聞こえるような』という表現があったよな。
前世だったら、恐らく時計の秒針が刻む音と、ボーンボーンという時刻の数だけ鳴らす鐘の音が古時計から聞こえるところだろうか。
そんな静けさで、応接間が包まれていた。
「ロブ君、だったな」
「は、はい……」
「改めて、王都および学園内での入学試験に護衛として任に就いてくれたことに、一人の親として感謝する」
「い、いえいえ、こちらこそ領主様からの指名依頼ということで利はありましたし、全然そんな……」
……こんな領主様と世間話をするためだけに残された、わけじゃないよね? うん。
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