第136話 影響の懸念
しかしそうなると、だ。
都市部だけではなく、周辺の教会が置かれた寂れた町にも冒険者や噂を聞きつけた貴族が押し寄せる可能性があるわけで。
その場合、ちょっとマズいことになるかも……
「あの……ロブさん?」
「あ、ああ、ゴメンゴメン、ちょっと考え事をね」
クララが黙り込んでた俺を心配してか声をかけてくれて、完全に思考の海に潜ってたことに気がついたけど。
「えーと……ちなみにこの周辺って、教会はどれぐらいあるんでしょう?」
「そうですわね……フィファウデの辺りまで含めると、15カ所ほどですの」
うーん、15カ所か。
それでも17万人を賄うには……15カ所で144人……1日2000人強か。
恐らく3カ月ぐらいはかかるよな……需要に対して供給が追いついてない。
そうなると、当然ながら『待ち』が発生してしまうわけで、そのためには『宿泊施設』と『食料』が必要になってしまう。
下手すれば、気性の荒い冒険者たちと住人が衝突し治安が悪化したり、教会に準備が整ってなくて長時間待たせたり、あるいはそれらを解決する人員が足りてなかったりする可能性が、大いにある。
そういった諸々必要な
まあ、ちょうど作物の収穫を終えた今の時期は冬場を前に多めに食料を蓄えている可能性はあるけど、必ずしも十分な収穫が得られているとは限らないし、それこそ冬を越せなくなるほど客が食い潰してしまう可能性もある。
その辺りは、各町にある水晶を通して最寄りの都市を頼ればいいかもしれないけど……それが全国各所で発生した場合、どこまで対処できるかという話だ。
それこそ、888カ所を全稼働させてもなお、1日13万人弱だもんなぁ。
仮に24時間体制でも高々その倍だし、4人で囲うのをもっと詰めて8人にしてもなお、4倍にしかならない。
たしか、この国の人口は2000万人は突破してるんだっけ? 王都辺りだけでも100万単位とかでいるだろうから、教会は詰めかけた人々で大混雑だろうし、結構な混乱になるんじゃないだろうか。
……でもまあ、こういうことは俺が考えることでもないか。
リナ辺りから領主様にでも『とある情報筋からの忠告』みたいな感じで陳情してもらうよう、ぶん投げてしまうのがいいだろうか。
一時的に食料を売り込んでもそこまでの儲けにはなりにくいし、まして寂れた町に売り込むのは気が引ける。第一にそこまでの金銭的な蓄えが無い可能性の方が高い。
そういった辺りは権力者に陳情して任せた方が、何かと都合がいい。そしてそれは、早ければ早いほど取れる対策の幅が広がる。
この世界における民衆からの信頼が、どの程度領主に利益を齎すのかは分からないが、被害を未然に防いだ手腕が評価されることは、領地経営が良くなることはありこそすれ、悪くことはそうそう無いだろうし。
伝え方さえ間違えなければ、表に出ないまま子爵に恩を売ることができて、こちらとしては一番いい形に収まりそうではあるんだよね。
……まあ、伝え方を間違うと、下手したら
ひとまず、今回も女神様からの報酬があるだろうし、金銭面に関してはあまり欲張らないでいこう。
◇◆◇
「それじゃ、こちらで」
「はい、こちらこそ助かりますの」
俺は、教会で買い取ったものの誰も巡礼に向かわないため残り続けていた在庫から、全国8区画の冊子をそれぞれ1冊ずつ譲ってもらうことにした。
……あまりに残っているためだろうか、本当は
まあ、倉庫の奥に大量に積まれていた
でも、これだけ残ってるなら、少しぐらい譲ってもらっても迷惑にはならなそう?
……と、そんな軽い気持ちで提案したところ、思いの外
流石に1〜2冊だけ、とは言い難かったので、10冊ほどお願いした。
「余談ですが、ゼ……シスター。もしかして、近いうちに紹介した冒険者がこちらに伺うかもしれません。もしその場合、『巡礼帳』を求める冒険者や商人が来た際は、対応をお願いしてもいいでしょうか?」
「ええ! それはもう大歓迎ですの。まだまだ倉庫にあるので、もし必要な方がいらっしゃるようでしたら是非紹介をお願いしますの」
うん、流石に俺が主体になって売るのは、どう考えても変だろうしね。
……てか、これだけ支部に在庫を押し付けるって、本部の方にはどれだけの『巡礼帳』があるのだろうか。
まあ、場合によっては今回の冒険者たちによる『巡礼』によって、結構な数が買われるかも分からないけどね。
結果としてそれが聖白銀教会の運営や孤児院の子供たちへと流れていくのであれば、なかなか良いのではないだろうか。
俺が今回の
恐らくだけど、この女神像によって女神デメディシナの認知度をあげたいという思惑があるんだと思っている。
でも、それが何らかの事故や事件によってその印象が悪くなってしまうと、その利用価値がチート級にも関わらず、あまり良い結果にならないんじゃないかということだ。
少なくとも、この近辺ぐらいは
……まあ、それが本当に女神様が望んでいた本心なのかは流石に測り得ないことではあるんだけど、うん。
◇◆◇
「……また面倒事かしら?」
はい。
面会関連の対応で忙しいと思われるリナに、駄目で元々と相談事がある旨のメモを送ったところ、とりあえずひと段落したから会えるという話になりまして。
面倒事とはご挨拶だな、とは思いつつ、まあ実際のところ面倒事ですよね、という話で。
『女神様からの神託が
……という内容を客観的に見れば、普通ならどんな与太話だという感想にはなると思うんだけども。
流石に神託云々はぼやかしつつ説明したものの、既にその女神像の効果を知っているリナには、これで引き起こされる大混雑とかが想像できたのだろう、頭を抱えた。
「恐らく、数日遅れのうちに周辺にある町の聖白銀教会に冒険者らが押し寄せた際、治安の悪化とか食料不足、あとは宿泊施設の不足やそれらを処理する人員などの問題が発生するとは思うんだよね。その辺りの懸念を、子爵まで持ち込んで欲しいんだけど」
「……話は分かったわ。話は、ね。でも、そんな突拍子のない話をお父様に持ち込んで、信じてもらえると思うの?」
うーん、そこなんだよなぁ。
実際、俺の場合は元からだけど、リナの場合も【スラッシュ】が使えるようになったり、【
逆に何も知らなければ、『明日、空から大きな隕石が降ってきて、世界は滅びる!』なんて言い出してるのと何ひとつ変わらないもんなぁ。
リナは自分の
うーん……こうなると、もう、子爵を巻き込む他にない、か?
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