第3話 空間収納スキル
正直、【空間収納】の操作はまだ
しかも、まだ成長ポイントを振ったばかりのスキルもある。
轍をたどる森の中、手持ち無沙汰なので魔法袋から荷物を移し替えたりしていたのだけれど、一定量を超えると時間あたり若干のMP減少があることに気づいて、出し入れしながら実験していた。
すると、どうやらスキル経験値も得られていたようで、森を出るまでに合計2レベルほどスキルレベルが上昇したのだ。
その際にLv.3からLv.4になったところで、グレーアウトしていたうち【距離延長】と【空間切削】にポイントが振れるようになった。
また、レベル上昇の際にもらえるポイントは『上がる前のレベル値』のようで、Lv.1→Lv.2で1ポイント、以下2→3→4……と増えていくようだった。どこまで増えるかは分からないが。
それからもう一つ、成長スキルを上げるのに必要なポイントも段階によって増えるようで、すでに1ポイント振ってある【時間経過】は次段階に2ポイント必要なようだった。
色々と迷った結果、俺は『少ないポイントで取れるものは取っておく』という結論に達した。
空間収納 Lv.4
成長ポイント:0
・容量拡大 Lv.1
・時間経過 Lv.2
・距離延長 Lv.1
・空間切削 Lv.1
取ったことがなかった成長スキルにポイントを振ると、またあの『覚えた記憶はないのに記憶に刻まれている』状態になる。
まず【容量拡大】はそのままの意味で、容量が増えた。
それがポイントを振ったことで、2階建てアパート計8部屋分、高さ2倍横幅2倍の計4倍になったイメージ。
なんとなく頭の中で漠然と規模感が浮かんでいるだけだが、その範囲であればMP減少もなく収納できるということなのだろう。
また、容量が増えたのに合わせて、出し入れするモノの大きさに従って消費していたMPが減少した。
門を開く時のMP消費も、2m四方ぐらいまでは一定の消費量だ。幌馬車であっても楽に取り出せそうだ。
【時間経過】は、1段階目が10分の1になったイメージだったが、2段階目の時点で100分の1になった。
【距離延長】は、【空間収納】を行う門の位置が指定できる、といった感じだ。
今までは接触しないと門が発生しない感じだったが、ポイントを振ることで少し離れた場所でも門が出せるようになった。
正確な長さはメジャーがあるわけじゃないので不明だけど、歩いて40歩ぐらいの距離までは確認した。20mぐらいだろうか?
【空間切削】はその名の通り「空間を削り取る」技術なのだが、実はこれが割と重要で危険な技だった。
こんな早くにチートが来ていいのかとすら思った。
要は、箱や球などを指定することで、その内側にあるものを収納する門を発生させるのだ。
最初は【距離延長】と組み合わせて高いところにある果物や枝を切るのに便利だと思っていた。
単に【距離延長】だけだと、たとえ糸でも繋がっているものがあると門を閉じられず収納できなかったのが、【空間切削】により切り出すことが可能になったのだ。
切り出したものを見てみると、枝の断面が潰れることなくすっぱりと切り取られていた。
そこで『どこまで固いものが切り出せるのか』と思うのが当然というもので、果物を切り出した木の幹に照準を合わせて、箱型に切り出してみた。
Lv.1の【空間切削】では50cmの立方体が体積の最大値のようで、抱きつくと辛うじて手が回るほどの太さがある木の幹が、一瞬で格納された。
格納された。はよかったが、あまりその後を考えてなかった。
もちろんこの世界には重力が存在するから、50cm分だけ何も無くなった場所に、幹の上にあったものは落ちてくる。
ゴインという音と共に高さ数mの木が自分に向けて倒れてくるわけで、あやうくゲームオーバーしそうになった。
切削の断面はカンナでもかけたように綺麗なもので、かなりの硬さまでは容易に切り出せそうだ。
つまり……腕や首ぐらいであれば、骨ごとスッパリ切り出すことができそうだな、ということだ。
もっとも、異世界のお約束で『生きているものは格納できない』の可能性もあるので、そういった人体切断マジック(物理)が可能かは、やってみないとわからない。
もちろん、この世界に人体再生や結合ができる【白魔法】や【神聖魔法】が存在するか分からないので、今のところ実験はできないけれど。
◇◆◇
成長ポイントのことを思い出していたら、ここまでの道中のことがフラッシュバックしていて意識が飛んでいた。
ヤバいヤバい。目の前のチンピラどもに集中しなければ。
「おい、お前らはそいつら見張っとけ」
「へい」「わかりました」
しめた、チャンスだ。
視線を後ろに向けたのをしめたとばかりに、世紀末に背を向けて走り出した。
既に準備は済んでいる、後は仕掛けが上手く働いてくれれば……。
「おい! 待てテメ……うわっ!?」
「えっ?」「何ィ!?」
ミシッという音とともに叫び声が3つ聞こえ、一瞬遅れて地面へと落ちる音が聞こえた。上手くいったようだ。
振り向いた先には、ガキサイドの両端に2つ、俺と世紀末がいた間に一つの大穴が空いていた。
そして、何が何だかわからない、といった感じの少女2人が、ただ茫然とその穴を眺めていた。
◇◆◇
「あの……た、助けていただいて……」
「あ、ちょっと危ないからまだ動かないでね」
そう、念の為に彼女らの周りは堀のように穴が掘ってある。動くと危険だ。
俺がやっていた
俺と世紀末の間には1m四方で、深さは4mほど。
彼女らの周りには、念の為世紀末との間にも堀が入るようにコの字のように堀を掘った。
まさか、ビルドの早掘りスキルが役立つ時が来るなんて思いもしなかったが、地面を
「えっと、ちなみにだけど、この人たちって生きて捕らえないと犯罪になるとかある?」
ファンタジーだしとか、ゲーム感覚で一瞬埋めちゃえなんて思ったが、倫理観だけ前世と同じ可能性があるので念の為聞いてみた。
まあ、正直なところ弱者をいたぶる輩は魔物と変わらんからOKだろ、とは思ったけど。
「ええと……水晶で犯罪歴が判定されるので、大丈夫だとは……」
よし、埋めよう。
「あっ、でも証拠があった方がギルドから褒賞も出るので、引き渡せるなら引き渡した方が……いいと思います」
うーん、そうか。まあ、今持ってるお金や素材は全て
「じゃあちょっと待ってて、今塞いじゃうから」
スキル経験値のために加えて、野宿に使えるかと思って長めに切断した木材が役に立ちそうだ。
2mほどの長さで切り出した木材を薄切りする感じで【空間切削】し、ベニヤ板みたいな薄さの板材にしておいたものがあったので、何枚かを取り出し穴に並べていく。
穴の中を覗いたが、落ちた衝撃で目を回したのか静かなようで安心した。たぶん生きてはいるだろう。ゆっくりおやすみ。
木の板で一通り塞ぐと、収納した土を一通り上から落として足で軽くならして隠した。
あの幌馬車のことを考えると、この辺りに『仲間』がいる可能性もありそうだからな。
【結界魔法】とかで音を塞げたら完璧だったなー、なんてまた隣の芝生に思いを馳せつつ、作業がひと段落して少女たちの方を見やると、なんだこいつという異形を見るような目線を向けられた。
あ、これ知ってる知ってる。
前世で異世界に飛ばされたら言いたいセリフ、ナンバーワンのやつ。『俺、やっちゃいました?』だ。やったぜトロフィー獲得だ。
とりあえずここを離れよう、万が一はありそうだし、もうじき夕方だ。
あ、そうだ。
「あの、すいません。一つ伺いたいんですけど」
「え……ええ、何でしょうか?」
「ここから町までって距離ありますか?」
そうだった。これが本来の目的。ようやく第一村人発見だったのだ。
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