第4話 第一村人との交流
板材をもう1枚出して簡易のタンカで倒れていた男子を運びながら、また森を背にして轍道を歩く。
「よかった、日暮れ前には戻れる距離なら安心しました」
「ええ……はい」
なんだか沈黙に耐えられず、こちらから話しかける会話が続く。辛い。
返答をしてくれるのは、皮鎧を着た女子ばかりで、気弱そうな女子……よくよく見ると、修道服っぽいフード状の帽子を被ったヒラヒラしたクレリックっぽい宗教風の装いの方は、チラチラとこちらを伺うだけ。
最初こそ、町まで2時間ほどで着くだとか、この辺りには冒険者ギルドの採集依頼の手伝いで来ただとか、冒険者ギルドのアイアンランクだとか、わかりやすく返答できる内容だったので具体的内容を返してくれた。
しかし、話す内容が無くなってきて、聞かれもしないのに、森で迷子になって歩いてきたとか、なんかそれ以前の記憶がないだとか話してみるものの、次第に壁に話しかけてるみたいな僅かな反響音しかなくなってきた。
前世は非モテだったんだ、トークスキルなんて自前チートで持ってやしないぞ。せっかくだからギフトでつけてほしかった。
そういや、前を女子二人で持ってもらい後ろを俺が持つような形になっているが、よくよく考えるとこれは横で一緒に持つことを避けて、距離をとっているようにも思えてきた。
唯一、『もしかして怖がられてます?』という質問だけは逆に怖くてしていなかったが、いっそ聞いてしまった方がいいのかと思い始めていた矢先。
手応えに少し立ち止まるような抵抗感があったので顔を上げる。
「あの……」
「は、はい!」
向こうから話しかけてくれたことに嬉しくなって、声が少し上ずってしまった。
予想通り足を止めた皮鎧の女子は、振り返ってこちらをまっすぐに見つめて口を開いた。
なんか、予想とは違う鋭い目線で。
あれ、思ってたのと違う……。
「……何が目的なんですか?」
……あー、なるほどなるほど。
完全に疑われるパターンに入りましたか。
前世で言うところの『劇場型詐欺』ってやつで、あの世紀末3人組も、地面にあいた穴も、穴を塞ぐ様子も、全てが仕込みだったんだと。
なるほどなるほど……そう思われましたか。
「とりあえず、これ降ろしましょうか」
「え、ええ」
簡易担架を地面に降ろすことを促す。皮鎧の女は、なおも警戒の目線を外すことなく、担架をゆっくり地面へと降ろしていく。
「何か目的があって、私は近づいたんだと思われてるんですね?」
「……だって、おかしいでしょう!? 一瞬で落とし穴に3人を落として、ましてどこから取り出したのか分からない木の板で塞いだり、土を無詠唱で生成したりなんて!」
まあ、文化レベルや技術レベルなど比較対象が全然ないので分からないが、結果として『俺やっちゃいました』だったことは確かなようだ。
「こんなの仕込みじゃないなら何だっていうの! 何の目的で私たちに近づいてきたわけ!?」
はー、なるほどなるほど。どこかのご令嬢が冒険者パターンとかそういう。
ふーん。事情は把握しました。把握しました、が。
「そうですか。それじゃ、あの場所からも距離は取れて危険もなさそうなんで、私は失礼しますね。ご迷惑をおかけしました」
「え、ちょっと……」
「要らぬ世話だったようで大変申し訳ありませんでした。こちらとしては町のことさえ伺えれば十分でしたので。それでは」
足早に横を通り過ぎながら、なんとか最後まで声を振り絞る。
ああ、前世からこういうのは何も変わってない。
親切のつもりでやったことが相手の迷惑になっていることを知ると、どうにも泣きたくなってしまう。そんなつもりじゃなかったのに。
そうだ、最低限の情報は得られたのだ。町は近いという情報が得られただけでも運がいい。
俺は耳を塞ぐように情報を遮断し、轍道をひたすらに歩き続けた。
現在時刻は午後2時30分。ステータスオープンで確認した。
2時ぐらいから歩いていたから、4時過ぎには着けるんじゃないだろうか。
しかし……そっかー。親切で行こうとした矢先にこれかー。
いけない、また泣きそうになる。
でも、さっきの地中穴掘りや木の板取り出し、土の取り出しなんかは『怪しまれるレベル』に見かけないスキルなのかもしれない。
まあ、使えるもの使わなかったら俺も危なかったしな……。
あの辺りで既に幌馬車の御者が殺されていたのだから、仮にあの3人を捨て置いて逃げたとしたら、見殺しにしたと夢見の悪い思いをしそうだ。
まあ、そこまで配慮する相手じゃないと最初から分かっていたら、上から丸太でも落として気が逸れてる間に逃げるだけってのも出来たかもしれないなぁ。
MPだって無限じゃない、魔法袋にMPポーションがあると知らなかったら、残り4割を切るリスクを背負ってまで穴掘りなんて高コストな手段を取れなかっただろうし。(【空間切削】は割とMPを食うのだ)
そういや、MP枯渇のリスクは当然のように意識喪失とか頭痛とかをイメージしてたけど、これも実験してみないとだよな……。
もちろん、こんな道端でやろうとは思わないけど。早いところ町に着いて宿でも探さないと。
◇◆◇
「おおっ、文明の香りだ!」
1時間ほど轍道を歩いたところで、合流していく石畳らしき舗装された道と、そこをポックリポックリ進む馬車が遠景に見えはじめた。
この森に向かう道は、舗装された街道から外れる感じで行く場所なのだろう。
舗装された道の方は、やはり商業的な目的で金をかけて作られたものなのだろうか。
ということは、案外この世界は流通がある平和な世界なのかもしれない。
まあ、昔読んだラノベには【土木】スキルで道を作ることに全力だったケース(インフラ整備で内政や軍事を優位にする領土運営系)もあったから、実は道だけチートな可能性も否定できないが。
舗装された石畳の先には、城壁らしきものが見えていた。先ほどまで背の高い草むらがあって見えていなかったが、城壁は高めでそれなりの規模がある都市のようだ。
デカい金属製の門の前には、それなりの人が並んでいた。
あー、身分証とかが必要になるのか。冒険者ギルドとか商人ギルドとか。
けど、定番の入国審査的なやつだとすると、金さえ払えば仮入場証を貰えるとか、あっても水晶でカルマチェックぐらいなものだろう。金は魔法袋からお借りしようか。
街に入ったら、まずは魔法袋の持ち主でもあるラビット氏の手がかりになるサミュエル氏を探して、その後にでも冒険者ギルドでギルドカードを登録、かな。
いや、ギルド経由で人探しをした方が早いだろうか。
そういや、あの地面に埋めてある3人は一応報告した方がいいのかな……。
重複してしまうかもしれないけど、『別途報告が入るかもだけど〜』みたいな感じで冒険者ギルドに連絡はしておこうか。報連相は大事よ。
◇◆◇
入国審査的なものは無く、カードがない場合は大銅貨3枚(銅貨が100円なら3000円ぐらい?)と言われて、素直に支払う。
水晶玉審査なんてのは無かったから、カードを作る時や教会での定期判定ぐらいしか鑑定はされないのかもしれない。
あとは、子供だから不審がられることもなかった可能性は高そうだけど。
ちなみに、ここはヨンキーファという街で、キファイブン子爵領だそうだ。
石造りに漆喰が塗られた感じの建物が多く、挿絵やアニメで見たナーロッパといった雰囲気だ。実際にヨーロッパなんて行ったことはないけど。
動画サイトにあった、旅番組で見たイメージぐらいだな。石造りの田舎町で、たしかイタリアからスペインに向かう道中だった。地中海風の街並みってのがこんな感じなのかな。
ここがメインストリートなんだろう、馬車や人が行き交い、旅行く人向けに薬や道具を売る声。リアカーみたいなのに傘をかけて食い物を売る屋台のようなものまである。
あ。そういや、サミュエル氏のことを聞くの忘れてた。門兵の人に聞けばよかった。
けど、既に出た門を逆走するのも怪しまれかねないし、下手すりゃ列に並び直しなんてことになっても面倒だ。やめておこう。
あー、それじゃ先に冒険者ギルドか商業ギルドでカードを作るか。そしてついでにサミュエル氏について聞いてみるのが良さそうだ。
やっぱりサミュエル氏は運び屋のクライアントだったようだから、商人ギルドかな。
ちょうどラビット氏という『運び屋』の先人がいたわけだし、行商でも登録して【空間収納】スキルで荷運びすれば食い扶持にはなるだろう。
行く行くはダンジョンとかで
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