第201話 面倒が降ってきた

まだ昨日の晩と今朝の2回しか利用していない、寮の1階にある食堂だけど、なんか明らかに『棲み分け』がされてるんだよね。


上位貴族はここ、下位貴族はここからこの辺り、そして……平民は、かなり隅の方でひっそりと、みたいな。


昨晩は利用もまばらで、俺はあまり気にせずに空いてるところで食べてしまったけど、2回目の利用である今朝になって、そこそこ混み合ってる中でも明らかに・・・・空けられた長机テーブルの列があることに気がついて。


まあ、あれだ。


服がどうとかテレビがどうとか、お笑いがどうとかアニメがどうとか、同じものを見ていることで話題が出来て仲良くなるように──同じものを手に入れられていない同士というのも、コロニーを作るものなのだろう。


……俺は今晩からは、食堂を利用しなくていいかなとは思っている。


あ、俺だけ在庫を楽しむのは流石にリナやクララに悪いから、後で手紙箱メールボックスで連絡して、あっちにも送ることにしようかな。


昼の時点で、パンの硬さとかに結構辟易としていたようだし。


「やあ、そこにいるのは……たしか、ロブ君だったかな?」


…………声がかけられた瞬間、顔を歪めないようにするのに苦労した。内心は、面倒が降ってきたかとは思ってしまったけど。


ちょうど食堂と部屋が並ぶ通路の接続となっている、吹き抜けの大広間ホールで足を止めていたのが悪かった。


食堂の入口へと目を向けていたところで、後ろから聞こえてきたのは、説明会の前に声をかけてきていた、あの雅メンのものだった。


確か名前は……


「アルベルト様、でよろしかったでしょうか。はい、カタリーナ様のお付きとして入りました、ロブと申します。公爵家の方からお声掛けいただけるとは、大変恐縮です」


振り返った先には、相変わらずキラッキラした金髪に綺麗な顔がこちらを向いていた。


後ろに2つ背景用のモブがいるが、俺の丁寧・・な返答に驚いたのか、右のモブは目を見開いているように見える。左は糸目っぽいが、片眉と共に片目が若干開いている気がする。


「そんな畏まらなくてもいいさ、ここは学園だからね。それより、この後少し時間をもらえるかな。君と話をしてみたくてね」


お断りします。


…………と言うわけには、いかないやつなんだよね、恐らくはこれ。


まあ嫌なんだけど。嫌というか、正直面倒というか。


てか、他のお貴族様を見倣みならって、別世界で生きていってほしいんだけど。


「アルベルト様、それは……」


右にいるモブAが雅メンに諫言かんげんしようとするものの、雅メンから手のひらを向けて静止され、黙ってしまう。もっと頑張れよ、モブA。


「それじゃ場所は……食堂でいいかな。まだ夕食には早いけど、飲み物ぐらいは貰えるだろうから」


そう言って、さっさと雅メンアルベルトは食堂へと向かってしまう。恐らく断られる可能性なんて微塵も考えに無いのだろう。


もし、このまま部屋に戻っていったら面白いかな……なんて考えなくもなかったけど、さらなる面倒なことになるのは目に見えてるので、素直に後をついていくことにした。


◇◆◇


「それじゃ、早速だけど……君は何者なんだい?」


上位貴族の席に案内されて居心地の悪さを感じつつ、モブBが持って来てくれたお茶を受け取った後に、雅メンアルベルトが直球ストレートで投げ込んできたのが、そんな質問だった。


うーん、一体どういった回答を求めての質問なんだろうか……。


「ええと、何者かと言われましても困りましたね……私はブロンズCランクの冒険者をしています、運び屋ポーターのロブ、という返答になるでしょうか」


まあ、名刺を作るとしたら、そんな肩書きになるだろうね、今現在は。


「んー、その年でブロンズCランクというのは、なかなかいないとは思うんだけど、勇者様と聖女様というあの2人と一緒と考えるだけで、それなりに信憑性が出てしまうから困るんだよね……どうにも君の評価というのが定まらない」


「まあ、他のパーティの面々が強いというのは間違いないでしょうね。私も多少ながら短剣と魔法による遠隔攻撃で援護をしますが、カタリーナ様には追いつきもしません」


正直リナに追いつくには、スキル上げがクッソ遅くなることを覚悟して【成長ポイント】で前衛系スキルを取りまくり、それらを努力と根性で上げれば数年後には可能性があるかも、ぐらいだと思っている。


リナは、好きで『成長レベリング』したりスキル上げしている感じの、楽しんで強くなれる天才脳筋だと思ってるので、こっちが唯一有利アドを持っているとしたら、スキルを追加で取ることぐらいなんだよな。


……まあ、1番の売りである【空間収納】とその派生から考えて、AGI素早さ主体メインが最適なのは理解してるから、流石にやらないけど。


「ふむ……ドロテーア嬢の背後に一瞬で回れる腕を持ってして、カタリーナ嬢には敵わないということか」


……やっぱり、『前衛』実技試験とか色々と探られていたっぽいな。


「【瞬間移動】に類するスキルでも持っているのかと思っていたが……どうやらそうではないらしい」


……一瞬、格納門転移ゲートワープのことを見抜かれたのかと思ったが、どうやら違うようだ。


あの時に使った『視界の身体強化』は、確かに側から見れば【瞬間移動】みたいなものかもしれないけど。


【縮地】とかには近いかもね。足を引っかけられる段差でも作れたら、平行に跳躍することで似たような動作は出来そうだし。今度練習してみようかな。


でも、【瞬間移動】を仮に持っていたとして、打ち込むまでの時間で切り返されたり、避けられたりする可能性もあるから、それさえあれば勝てるとは思えないんだけどね。


何せ、本物の『勇者様スケさん』からまだ1年ではあるけど教えを授かっているわけで、生半可な腕ではない。


そのうち本当に『職業:勇者』が生えてくるんじゃないかと危惧してるんだけどさ。


「まあ、何にしてもあの2人の異常な・・・までの・・・成長・・は、君とパーティを組んだことぐらいしか、理由が思いつかないんだよ」


……えーと、まあ、成長なんて人それぞれですからね。


男子三日会わざれば云々、なんて言うじゃないですか。こっちの世界に三国志は無いだろうけども。


まあ、成長ポイントを振って、競合相手冒険者がいない狩り放題のアジトダンジョンで『成長レベリング』して、勇者様スケさんとかフロアボスゴブ師匠に稽古をつけてもらえば、1年そこいらでモノになるんじゃないですかね。


「君の名義で借りている家に定期的に通う他は、山に向かって魔力草を採集して戻るぐらいしか確認できていない。それなのに、君のパーティは20人規模の野盗の強襲を撃退したばかりか、初めてのダンジョン探索で20層まで到達した。そして、その実力が偽りでないことは、前衛試験でドロテーア嬢の攻撃を受け切った後の一瞬で勝利したことからも裏付けられている」


……うわぁ…………。


どんだけ調べてきてんだ、この人。怖。


「…………ん? ああ、悪いね。僕の兄と会いに来るというカタリーナ嬢について、少し前に色々と・・・調べさせてもらったんだけど、どうにもその強さに至った過程が不思議でね。どうやら、勇者様の魔法袋が開封された時期とも一致するし、もし・・かして・・・……なんてね」


そう言いながら、雅メンアルベルトは俺の内心を探るように、じいっとこちらの目を覗き込んでいた。


あー……なるほどね、そういう勘違いもできるのか。


復活の経緯についてはウェスヘイム子爵にそれとなく曖昧にしてもらっているから、一般には『転生先である少年/少女の発見』と思われているようだから、ちょうど入試を受けた平民であるが該当する可能性があったわけか。


……いや、無いんだけどね。大ハズレっぷりが面白いぐらいで。

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