第112話 廃村

逃走していた3人が移動速度を緩めたので【自動追尾】の距離を詰めて確認してみたところ、朽ちた木造の家屋が並ぶ廃村らしき場所へと入っていく様子が見えた。


何だろう……昔この辺りにあった集落が放棄され、後に破落戸ごろつきどもが住むようになった、とかそういった感じだろうか。


でも、放棄されたとなると機会タイミングとしてはいつぐらいなのだろう? 流石に500年前の大戦の時、というわけではないとは思うんだけど。そこそこ最近のようにも見えるし。


そうそう、ここ数日はラビット氏がオススメしてくれた、入学試験用の参考書を冒険者ギルドから借りて、概要ではあるけどこちらの世界における歴史を学んでいるところなんだよね。


それによると、勇者様スケさんによって魔王は倒された……とされた後、地上の魔物が自然と湧く現象は無くなって、王国の騎士達による各地への派兵を経て、400年前ぐらいからは魔物の脅威が地上から無くなったんだとか。


その代わり、ダンジョンから魔物が溢れて周辺に被害を齎す暴走スタンピードが観測されるようになって、当時の王族と貴族が中心となって各地のダンジョンを全て管理する法と、それに併せてダンジョンの入場資格を管理する組織として冒険者ギルドが出来たんだそうな。


その後、現在に至るまでダンジョンから産出される資源により経済圏が生まれていき、主にダンジョンがある都市とその周辺の農村や鉱山資源を元にした鍛冶屋町などの都市圏、および王都までの街道沿いに作られた宿場町が主な集落として形成されていったとか。


そして、王国としては各ダンジョンと周辺地域の管理者として領主を任命していった、といった体制が築かれてきたようだ。


……そういった背景から考えると、流石に魔物に襲われていた時期から500年放棄されたにしては、朽ちかけているとはいえ木造家屋が形を保ちすぎてる気がする。


だから、あり得るとしたら付近のダンジョン集落が人気になってきたから一斉に移り住んだとか、そんな感じだろうか。


あるいは……破落戸ごろつきどもに村ごと襲われて乗っ取られた、とか。


……まあ、詳しい話は捕まえて冒険者ギルドにでも突き出して、あっちで念入りに調べてもらえばいいか。


さて、しばらく逃亡者3人が移動していく様子を上から観察した後、視界をその移動先へと向けてうかがってみると、そこそこ堅牢そうな石造りの館があった。


位置的にも領主……いや規模からすると村長とか町長とかぐらいかな。そういった首長の館だったものへと向かっているらしい。


早速、館の中を【気配察知】で探ってみると──10人ほどの仲間と思われる輩たちがいるようだ。


…………ん?


いや、館の離れの方に、その10人とは別の数人の気配があるな……もしかしてこれ、俺たちがされたような、道を封鎖してから襲われる方式で捕まった人たちか?


リナ達が捕まっていたあの時も衰弱していた被害者がいたようだし、【聖魔法】が使えるクララもいるから、早めに解放してあげた方が良さそうだな……。


◇◆◇


はい。


スケさんとスヴァヌルを格納門転移ゲートワープで送り込みましたところ、過剰戦力オーバーキルだったようですね。


4半鐘30分と経たずに武装解除してくれたようです。


いずれも刀やナイフに睡眠ポーションを塗ってもらったので、半数ほどは簡単に寝てくれたようだ。


残り半数は流石にアジトに残っているだけあって幹部とかだったのだろう、耐性が高いヤツが多かったみたいだ。


恐らくは、人攫いに手を染めてしまうようなすねに傷がある元・アイアンDランクの冒険者崩れ、といったところだろうか。


……もっとも、一撃もらって倒れなかっただけで、後は量の概念というか、何度か斬られれば薬の摂取量も増えて体内に回ってくるというもの。全員が沈黙するのに時間はかからなかった。


「あっちは見てきたで。捕虜が8人ほどおるだけやった。ただなぁ……腕に妙な魔道具がめられとってな。なんやみんな具合悪そうにしとる」


離れの方に見張りがいる可能性を考えて、スケさんが様子を見てきてくれたようだ。


本来はスケさんたちが大立ち回りしてる間に俺の方で格納門で見ておくべきだったけど……次々に部屋を制圧していく様子に完全に目を奪われてしまった。申し訳ない。


まあ、今後はやることを先にやってから見ることにするとして……捕虜の具合が悪いのというのは気がかりだ。


ひとまずはクララを呼んできて、【回復ヒール】か【状態異常回復イレース】辺りをかけてもらった方がいいかもしれない。


でも、魔道具を腕に嵌められてたって?


……というわけで、専門家の方ヴァル氏もお呼びしました。


確かに顔色の悪そうな少年や少女が横たわっていて、クララがそのうちの1人の少女に回復ヒールを試している中、ヴァル氏は後ろ手に装着された『手枷』のような形状の魔道具に触れながら、様々な方向から眺めていた。


恐らくは、以前言っていた【魔力解析】で魔道具の挙動確認をしているのだろう。


「……なるほどね、これは放出したMPを魔石へと吸い上げる魔法陣が組まれているようだ。これを付けていると、結果としては魔力の放出が阻害されたようになってしまい、効率が9割以上落ちるんじゃないかな?」


うわぁ、つまり『魔法阻害機』ってわけか。普段通りに魔法を使おうとしても、必要なMP量に達しないから不発になってしまうような。


ましてこれ、いわゆる『手枷』の形態をしてるから、捕縛する機能も持っているっていう。


恐らく身体強化しようとしても、効率が落ちるから想定したMP量では発動せず、素の筋力とかで引き千切る羽目になるということだろうか。


でも確かにこれ、仕様を知らなければ『魔法が発動しない……だと!?』ってなりそうだよなぁ。いわゆる『対魔法使い用捕縛魔道具』として機能するわけだ。


……というか、それって間違って着けてしまった時でも自力で外すことはできるんだろうか?


「ああ、でもこの解除機構システムは欠陥品だね。恐らく、特定の魔力を放出する別の魔道具を接触させて解除するつもりで作られているんだろうけど、その魔力を流す場所さえ分かれば、MPを少ない量から順に出力を上げていくだけで、どこかで一致してしまうもの」


なにその魔道具版総当たり攻撃ブルートフォース


「せめて間に入力待ちインプットウェイトを挟んだ2つの値での認証にでもしないと、あまり放出系の魔法が得意じゃないボクでも余裕で外せちゃうよ。ほら」


そう言って、『手枷』の繋ぎ目の辺りに指を触れただけで、金属製の魔道具はあっさりと外れてしまった。


「あ、よく見たらこれ、装着者のMPを使って発動を監視する仕組みになってるから、ずっとMPを吸われ続ける仕様になっているな……よくこんな粗悪品を世に出したもんだね」


何やら魔道具師としての義憤に駆られている様子のヴァル氏はひとまず置いておいて、だけど……そうか。


この捕虜たちが具合悪そうにしてるのは、MPを吸われ続けたことによるMP枯渇の症状なのかな。


それなら、こいつはクララよりも俺の領分ってやつだな。


「クララ、MP枯渇かもしれないから、手枷を外した人からこれを飲ませていってあげて」


そう言って、俺は初級MPポーションを人数分取り出して渡した。


クララは頷いて受け取ると、介抱していた少女の上半身を少し起こして、その口元へと容器を傾けていった。


「……あっ、顔色が良くなってきました!」


ゆっくりと嚥下えんげされていくに従って、険しかった少女の表情も徐々に和らいでいった。


俺の介抱していた男の子も、真っ青だった顔に血色が戻ってきたように見える。やはりMPが枯渇に近かったのだろう。


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