第168話 打ち合わせ
「お、クロエからの返信が来てる」
リナたちとの探索を挟みつつ、ルーデミリュの地図埋めを続けていたところ、拠点に冒険者ギルドからの伝言が届いていた。
ベルトたちと別れてからちょうど1週間、フィファウデが再開してから5日といったところか。
フィファウデは、予定通り丸一日の入場規制を経てギルド窓口の引っ越しを完了したようで、2階から入場する新形態での営業を再開したらしい。
まだ10以下の低層にしか潜れない
一方、ベルトたちは20層まで解放済だったから、30層までの残り10層を5日で踏破したということになるのだろう。
さて伝言の内容だけど、ルーデミリュでの面会については、元々は春より前であればという話だったが、ある程度日程の指定が追加されたようだ。
というのも、どうやらクロエをこちらに逃してくれた知古のパーティが、父親から手紙を届けにフィファウデまで来てくれたらしい。
クロエを送っていくことについて俺が了承した際、一度その旨を父親に伝えるため、そのパーティに連絡を入れていたらしく、ルーデミリュまで行って返事を貰ってきてくれたんだそうな。
その手紙に、面会できる日程などが記載されていたとのこと。
「年内であれば1週間後、年明け1カ月は社交会があるから翌月以降、か」
そういえば、その時期に護衛で王都に向かう依頼が多いとか、そういう話があったっけ。行事まわりの日程は、向こうの国でも同様らしい。
基本的な連絡方法は、王都に着いたら宿にでも泊まって、邸宅の方に連絡を入れて欲しいとのこと。
まあ、クロエを王都まで届けたら、むしろルーデミリュにおける作法とかはクロエの方が詳しいだろうし、お任せしていいとは思うんだけど。
30層までの踏破を終えて、クロエたちはフィファウデに潜る前にいた宿にまた泊まっているようだから、打ち合わせに行っておこうか。
◇◆◇
「それじゃ、年内にルーデミリュ向かうって予定でいいの?」
「うん、よろしく」
第2層にある宿へとベルトたちを訪ねると、ちょうど宿でゆっくりしていた面々が部屋にいたので、話をすることになった。
訪問の日程についてクロエの要望を確認したところ、年内の方が良いとのこと。
「年内だと、割と社交会ってやつで忙しいんじゃ?」
「そっちの方が都合いい」
「あー、アレか。結婚迫ってきた奴が代替わりで当主になってるからか」
「それもある」
10年前、家を出た時に婚約させられそうになった伯爵家の嫡男が、親が
「父が侯爵となったから、跳ね除けることは可能。でも……」
「当時の婚約が有効だとでも騒がれると、厄介でやしょうねぇ」
当時の一方的に作られた婚約の書類があるのだそうで、それで騒がれると面倒は面倒らしい。
もちろん、その書面も根拠が無いと破棄は出来るんだろうけど、事情を知らない中立派辺りを中心に貴族界隈における印象は良くないだろうし、今後の貴族議会の運営にも影響が出るかもしれないんだという。
そのため、社交会で忙しい時期にねじ込むことで、対応できない隙を狙う意味があるそうな。
「でも、ロブの方も年内に行った方が、たぶん時間を取られなくて済む。……父は、割としつこい」
ああ、報酬の件か……。
何かしらの繋がりを作りたいという目論見のようだけど、確かに引き留められると邪険にもし難いし、かといって引き受けるわけにもいかない。
いざという時は普通に帰ってしまってもいいんだろうけど……クロエを置いていくわけにもいかないだろうし、それが影響して実家に戻りにくくなってしまうのも申し訳ない。
そう考えると、時間が無い時を狙って行って、口約束ながら何かあった時は手を貸すことを申し出て、とっとと帰ってくるのが確かに妥当かもしれない。
まあ、こっちとしても面倒は少ない方が助かるし、クロエがそれで問題なければそれでいいかな。
「そういえば、クロエがいない間はベルト達はどうするの?」
一応、向こうに行ったら即日で帰ってくるというのも悪いので、数日は滞在する予定だ。
クロエも久々の再会だろうから、ゆっくりしてあげたいというのもあるし。
こっちは何か、蔵書とかでも見せてもらいながら、時間を潰しているつもりでいる。
「ああ……まあ、ちょっとやることが、な」
なんか、ベルトが凄い嫌そうな顔をしているけど……何か面倒事でもあったのか?
「
「……うるせえな、放っとけよ」
ああ、そういえばウォルウォレンは30層への到達で
高ランクになるほど貴族との対応も増えるから、基礎教養を求められるってことで、試験があるとか。
基礎教養の試験は
まあ確かに、
ラビット氏が言っていたけど、試験勉強は基本的にギルドにある資料室の読本で勉強するらしいから、ベルトにとっては辛い試練となりそうだ。
ちなみに、クロエはルーデミリュの学園で3年修了した卒業資格があるそうなので、
もっとも、
「……リナに
本が苦手という話なら、対面で色々と聞ける相手がいる方が頭に入るという場合もあるだろうし、試してみてもいいとは思うんだよね。
「
……思ったよりも切羽詰まってるのかもしれないな、ベルト。そこまで勉強嫌いなのか。
◇◆◇
「それじゃ、また1週間後に迎えに来るよ。たぶんまたこの宿ってことでいいよね?」
「ああ、ここが定宿だからな。そういや、いいのか? ヨンキーファの家を使って」
「うん、スケさんとラビットさんはいるはずだから。気晴らしにダンジョン行ってもらってもいいし」
俺とクロエが不在となる間、リナから教わる場所として、拠点を提供することにした。
ヨンキーファにもベルトたちが使う定宿はあるらしいけど、2階に空き部屋はあるので使ってもらっても問題ない。
それに、リナの家庭教師の対価は、ベルトたちと一緒にダンジョン探索に入って、パーティでの立ち回りを学ぶというのもいいかもしれない。
第2玄関は常に繋げっぱなしだから、いつでも行ってもらって問題ないし。
……勉強から逃げて、そっちが
「そういや、行く時は今日来た際の格好で行くのか?」
「ああ、うん。ヴァル氏に【認識阻害】も付けてもらったしね」
【狐の仮面】
狐を可愛らしく模した仮面。認識阻害が付与されている。
認識阻害:中
夕飯の時に出来上がった狐面を見せたら、スケさんの『般若』のお面で少し興味を持っていたヴァル氏が『自分にも作ってくれないか』と言ってきたので、代わりにちょっと頼んでみたらサラリとやってくれたやつだ。
【認識阻害】は、いわゆるステータスなんかを見る【鑑定】や【看破】から保護したり、あるいは名乗っていない相手に対しては記憶に残りにくくする効果があるらしい。
魔力を通していれば、街中を歩いても大半の人には気付かれることはないんだとか。
用途を軽く説明したら、なんか思ったよりもヤバい性能を付けてくれた。本当、技術だけで言えば天才魔道具師なんだけどなぁ……あの人。
なお、お礼として『天狗』『ひょっとこ』『おかめ』……と色々なお面と試作してみたんだけど、ヴァル氏が選んだのは『能面』だった。
……3人並んだら、不審者どころの騒ぎじゃないだろうな。全部に【認識阻害】付けてもらった方がよさそうだ。
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