第172話 お見合い作戦
「さて、ビンス殿……だったか。貴殿を当家に招いた目的については、どこまで伝わっているだろうか?」
お、本題に入る感じかな。
「まあ、何か礼をしたいとのことで伺っておりますが……」
一応、何ももらわないというわけにもいかないんだろうなー、とは思っているから、代替案については考えてきてあるけど。
「既にニコレッテからは、爵位や領地といったものは不要だと聞いている」
ああ、こっちに来る時期について問い合わせた際に、クロエが伝えておいてくれたのだろうか。
「今のところはどこかに落ち着くよりも冒険者を続けたい、か……まあ、私も冒険者をやっていた時期があるゆえに、分からなくはない」
……そう、よく見るとブノア氏は手や顎に少し古傷があったりして、なんか場数を踏んできてる雰囲気あるんだよね。
フィファウデを治めるキファイブン伯爵もそうだけど、統治者で元冒険者ってのは割といるものなのかもしれない。
『成長』しておけば、【蘇生】も使えるから都合がいいのかもしれないけど……ダンジョンで命を落とすリスクを考えると、趣味というか、男子としての興味とかの方が強いのでは、という気はする。
まあ、冒険者経験があるのであれば、色々なところを見に行きたいという心理は、多少なりと理解してくれるんだろう。爵位とかの縛りは、あまり要らないっていうね。
「まあ、領地や爵位については別に急ぐものではない。いつでも言ってくれたまえ」
あ……そういう感じ? 全然諦めてないっていうか。
一応、冒険者というのは国に紐付いているものではないので、領であっても国であっても出入りについての規制はそこまで無い。
強制依頼が出るような緊急時に理由なく離れたら資格を失う可能性がある、ぐらいのものだ。
そのため、言ってしまえば明日から他国の貴族となることも可能ではある。
……もっとも、貴族となると完全に国へと忠誠を誓う関係性となるので、子息の婚姻などを除いて他国へと籍を移すことは難しくなる。
実際、過去に貴族が領地ごと他国へと鞍替えしようとして、領土戦争へと発展したことがあったらしい。歴史の受験勉強でも出てきた有名な事件だ。
逆に言ってしまえば……貴族でさえなければこっちの国でいつでもどうぞって提案なわけで、なんか、すごい
言わば、お前の国より先に
「今回、こちらまでご足労願ったのは他でも無い。我が娘たちを紹介しておきたくてな」
…………ああ、嫁の方、ですか。
「もっとも、別に嫁に貰ってほしいと押し付けるつもりは無い。……あわよくば、とは思っているが、ね。恩人の意に反することをするつもりがないことは、前もって言っておこう」
うーん……?
まあ、うん。なんか意図が正直読めてないから、もやっとはするけど……。
「ニコレッテからは、数日滞在いただけると聞いている。もしよければ、街の案内役や話し相手として、娘たちとそれぞれ過ごしてみてはもらえないだろうか」
あ、なるほどね。お見合い作戦ってやつか。
ふ、ふーん……なかなか策士じゃないの。ルクレール侯爵。
べべべ別に、
……これ、お面被ってて大正解ってやつじゃないかな。
だって、だってさ。エルフの血を引いてるってことは、姉妹揃ってクロエと同様に美少女顔で可愛いわけですよ。
まして、クロエのお姉さんであるナディーヌさん、正真正銘のお姉さんであり、どストライクなお姉さんなんですよ。
糸目っぽい微笑みが優しげで、少し太めの身体が包容感あって、何より姉でありながらなお可愛らしい。オールスター天丼みたいな全部乗せ。
──こうして、ロビンソンはルーデミリュで幸せに暮らしましたとさ。
〜運び屋ロブ fin.〜
……違う違う、終わらないから。
いや、でもこれエンディングCぐらいには入りそうな非常に魅力的なご提案なんだよな……。
「な、なるほど……そうですね、クロエさんのご姉妹と交流を持てる、またとない機会ですので、是非ともご一緒させてください」
……お面を被っていたおかげで、その下の決して見せられない顔を隠せていたとは思うんだけど、本当に隠せていたのかは怪しい。
なんかクロエが、もの言いたげな目でこちらを見ていたような気がするし。
◇◆◇
ひとまず、軽い対面が終わった後は、一度
出された料理は普通に美味しいもので、楽しい時間となった。
異世界でありがちな、貴族の料理は香辛料や砂糖を大量に使う方が贅沢で相手を歓待する気持ちがこもっている……みたいなクソマナー文化によるメシマズ展開じゃなくて本当によかった。
ルーデミリュの料理の特徴を挙げるとすれば、ソースが卵やクリームなどを使った味付けで、非常に濃厚だったことだろうか。
ヨンキーファの酒場や屋台などでよく出される、肉料理が主体で味付け自体は割と
食料系ダンジョンもあることだし、ルーデミリュは割と食文化が発達しているのかもしれない。
今度ラビット氏を連れてきて、感想を聞いてみたいところだ。
◇◆◇
食事会の後は場所を変えて、暖炉を囲んでお茶を飲みながらの雑談時間となった。
「……こちらの情勢が安定しているようで、安心しました」
「何度も言ってはいるが、本当に貴殿には感謝してもしきれんよ」
その後の貴族議会の立て直しの話をルクレール侯爵に振ったところ、半年経って随分と安定したらしく、現在のところ順調とのこと。
あの後、
トレフェンフィーハとの国交正常化については、ルクレール侯爵が主導して真っ先に進めたようで、物流や人の出入りが半年前に比べて格段に増えているとのこと。
「ダンジョンについては双方の冒険者ギルドで交渉してもらっているが……ランク制度と
あー、そういえばダンジョンに入れるようになるランクが、ルーデミリュの方は条件付きではあるものの早いんだっけ。
前世でも、国によって車の免許を取れる年齢が違ってたって話だもんな。
そうなると、別の国でダンジョンに入れる権利を得たから帰国すればこっちのダンジョンにも入れる……というわけにもいかず、簡単に相互の乗り入れは進められないと。
その都合で、ルーデミリュは自前の魔法袋は持ち込み不可、全て貸し出しとなっている代わりに、低ランクでも魔法袋が持てるため、それなりに稼げるような仕組みになっているとか。
そこまで仕組みが異なると、こちらもまた渡航者への周知をしておく必要がありそうだ。
ルーデミリュの冒険者は入口で止められるだけかもしれないが、トレフェンフィーハの冒険者が知らずに魔法袋を持ち込めば、身柄を拘束された上に魔法袋が差し押さえられるという話だから、随分と面倒な事態に陥るだろう。
スケさんやラビット氏がルーデミリュのダンジョン巡りできる日は、もう少し先になりそうだな……。
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