第145話 先行報酬

「まあ、こんなものかしらね」


「うん、助かったよ、ありがとう。ラビットさんも、叩き台から付き合ってもらってありがとうございました」


「いや、この程度は全然いいよ。むしろ、ここからがロブ君の大変なところなんだろう?」


……まあ、そうなんだけどね。


ひとまず、リナとラビット氏のご協力により、配布の日程がようやく決まった。


・ダンジョン街が領都を兼ねている:20カ所

・付近にダンジョンが複数ある領都:8カ所

・ダンジョンが領内に複数あって片方は領都が近く片方は単独の都市になっているダンジョン街:5カ所

・ダンジョンが付近には無いものの農業や工業、あるいは大きな港などの要因で人口が多い領都:12カ所

・〜〜〜〜〜〜


……と、そんな感じで、ラビット氏の記入してくれた主要都市とダンジョンに関する情報と、リナの有力貴族に関する情報を照らし合わせ、さらに優先度に影響しそうな要素を挙げていって、最終的な配布日程を決めていった。


まずワムワサフロス聖白銀教会総本山は大方針の検討があるだろうしということで入れるものとして、直近で需要がありそうなダンジョン付近の領都92カ所を最優先に、領都が付近に無いダンジョン街や、国内屈指の産業となっている有名なダンジョン街、併せて110カ所を1日目の配布先とした。


2日目は初日に含められなかった77カ所のダンジョン街と主要都市を優先し、次点で主要なダンジョン街の周囲から33カ所を選んでいった。


ちなみに、ヨンキーファの教会はこの2日目に含められている。フィファウデから1日の距離ではあるしね。


以下、8つの区画それぞれに13〜15カ所ずつ、区画の残数が均等になるように割り振って、またダンジョン街1つ当たり付近の4〜5カ所が使えるよう優先しつつ、地図を埋めていった。


多少、配りやすいように距離よりまとまりを優先した場所もあるけど、その辺は勘弁して欲しい。


北海道の旭川あさひかわにダンジョン街があったとして、距離均等を最優先にした場合、北の稚内わっかないから東の網走あばしり、南東の釧路くしろ、南の襟裳えりもを通って最後に函館はこだて……みたいな、地獄のような最終日になってしまうわけだし。


十勝とかちとかの単位でまとめて回らないと、流石に厳しいから。うん。


そして……ラビット氏の言った通り、ここからが大変なわけだ。


何がか、と言えば当然ではあるけども、全国888カ所への配送作業に他ならない。


この後、各区画の中央付近にある街で適当に宿を取って、そこに【ダンジョン化】を仕込んで仮の拠点としていくわけだけど、そこから配送先の位置を確認し、移動し、そして関係者に見つからないように女神像フィギュア入りの箱を目立つ場所に置いて、退散する。


それらを最短で8日間繰り返すことになる。不測の事態があれば、延びる可能性もあるけど。


まず配送先となる教会の位置確認だけど、いくらINT知力が高くなったからと言って、短時間に記憶できる範囲なんて高が知れているわけで、900カ所なんてものを覚えきることは最初から諦めた。


なので、毎日せめて各区画15カ所程度、総数110カ所前後を日中かけて頭に叩き込み、夜中に一気に配送する……という計画で行こうと思っている。


そして、位置を把握した上でその日の配送経路ルートってのを決める必要があるけど、その辺りも出来れば日中に試行テストしておきたい。


配送先への移動距離は大体半日〜2日の距離で、【格納門移動】であれば1日の距離が3分半ほど。今回の配送で一番時間がかかるのが移動だろう。


しかも、これは迷わな・・・ければ・・・という条件付きなので、より日中の位置確認がモノを言うわけだ。


あとは実際に中に入って女神像フィギュアを置く作業だけど……この辺りは礼拝堂に誰もいないことを祈るしかないな。


中に入る点については、この世界の教会は基本的に石の建物と木の扉や窓で構成されているようなので、床付近に隙間があったりするため、そこまで心配していない。


時間があれば、配送先を覚えるまで待つことも検討したけど……来月は冬入りする上に年末ということもあって、社交界のために王都に向かう貴族が増えるため、それに伴って冒険者たちも護衛仕事で多くが駆り出される。


その最中に更新アプデなんてものを入れてしまっては、仕事を優先する他にない現役冒険者たちの顰蹙ひんしゅくを買ってしまうのではという懸念がある。


まあ、神様が人間の慣習に配慮なんてしない、という方が個人的には解釈一致ではあるんだけど……せっかくの便利機能実装に水を差すような要因なんてものは、なるべく無い方が好ましい。


そんな理由から、残り10日ほどある今月中、可及的速やかなるはやな公開にこぎつけたいわけだ。


結構な突貫作業ではあるんだけど、俺が出来ることの範囲でより結果が良くなるのであれば、やらない理由は無いというか。


「本当、なんだか面倒ごとに首を突っ込んでいくのが好きよね、ロブ」


ちなみに、リナには『女神像フィギュアを手に入れた都合で各地への配送に巻き込まれることになった』といった感じで説明してある。


まあ、女神クエストでスケさんの復活のために女神像の図案を手に入れて、その都合でさらなる教会への配布というクエストに巻き込まれているので、大凡の流れとしては嘘はついていない。


「結果として冒険者たちに利益があるのなら、その役割を果たすのも悪くないさ」


さて、この後は各区画に宿を取って格納門が宿に開けることを確認し、あとは初日分の箱に女神像を納める作業があるからな。


「それじゃ、昼ごはんでも食べようか」


そう言って、ラビット氏が皿を運んできた。今日はオムライスのようだ。


デミグラスソースとケチャップが選べるようだけど、今日はケチャップの気分だな。


午後も忙しそうだし、しっかりと飯を食っておかないとだよな。


◇◆◇


「よし、とりあえずはこれでいいかな」


アジトダンジョンに並べた木材から一気に箱と蓋を量産していき、収納していく。


本来であれば、木の板を組み立てる方式にすれば、少ない材料から完成させることも出来たんだろうけど、今回は時間がないので、30×30×50の木材を切り出して中をくり抜いただけの、猫用の湯船みたいな箱を量産していった。


120本ほど木材を使ってしまったけど……まあ、また取ってくればいいか。


さて、あとは女神像を入れていく流れ作業だ。


机の上に蓋を積み上げつつ、【空間収納】から取り出した箱に女神像を詰め、蓋を閉める。


女神像は手前に引き出せばそのまま配置できるようにしてあるので、まだ『成長レベリング』してないシスターでもなんとかなると思う。


流石にこの作業は並行してやれないから単純作業を繰り返す他にないんだけど……ああっ、さっきダンジョンに入って行ったウォルウォレンの皆に手伝ってもらえばよかったな。ダンジョン使用料の代わりに。


……まあ、1個数秒でこなせば1時間ぐらいだし、とっとと片付けようか。


そう思って取り出した女神像を持ち上げた時だ。


あのメッセージが出た。


『ステータスオープンシステムに1件の更新があります。更新しますか? はい/いいえ』


「へぁ? ッと、危なかった…………。え、ていうか今?」


割と予想してなかった時機タイミングだったので、机の上じゃなければ取り落としていたところだった。


それにしても、王都に行く前以来だから前回から1ヶ月半ほどではあるけど、その前が半年ぐらい空いてたから、何かお早いご連絡って感じだ。


まあ、とりあえず『はい』、と。


『更新データ……1件』


『ロード中……………………完了』


『インストール中……………完了』


『アップデートが完了しました』


『神託メールが2件届いています』


やはり、俺への更新時に意識を失うことは無いようだな……なんてことを確認しつつ、ステータスオープンを開いて信託メールを──


「……何だこれ?」


ステータスオープンのUIユーザーインターフェース更新アプデが入っていて、なんか左側に縦に並んだボタンが追加された。


ちょうど、こう……前世で配信者がやってたような、ガチャゲーの操作系に似た感じ?


……詳細は信託メールに書かれてるよな、きっと。


『アップデート情報:所持スキルに紐づいた表示機能をステータス表示内で切り替えられるようにしました。関連スキルを持つ利用者のみ表示が拡張されます』


『アップデート情報2:女神像の作成および配布依頼の報酬を先行してお渡しします。以下から選択してください:【地図マッピング】』


…………えーと?


まあ、選択するわけだけど。


『【地図マッピング】を覚えました』


『【地図】はステータス表示の左にあるボタンを選択することで、画面内に現在地付近の地図を表示できます。関連スキルによる性能は詳細の表示からご確認下さい』


『引き続き依頼の進行をよろしくお願いします』


おや。


もしかしてこれ…………クエスト難度が一気にヌルゲー化したのでは?

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