第63話 所有権
「まあ、最初から確認するとは言うたけど、受け取るとは言っとらんかったからな。今までずっと遺品として守ってきてくれた礼や。中身の所有権はあんたらのもんでええ」
「ちょ、ちょっとお待ちください、勇者様! そんな、当家はこれを勇者様にお渡しするのが使命で……」
「
実際、さっき見た装備品は薄汚れててもどこか迫力を感じたし、まして【
攻撃も回復も1人で完結するような勇者プレイでもなければ、実用性に欠けそうに思える。
ああ、
「とはいえやな、魔法袋自体はワイしか使えんから、返されてもしゃーないやろうし、中身取り出してから貰っとこか。他の処分は任せるで」
「そ、そうは申されましても……」
「第一にやな、ワイはもう死んだとされる人間や。今更になって勇者が復活しても、国は困るやろ? こっちとしても、当時みたいに腫れ物に触るような扱いされたり、色々と担がれたりする生活はこりごりなんや」
「……つまり、名乗り出るつもりは無い、ということでしょうか?」
「せやな」
……まあ、そうなるか。貴族はこりごりだって言ってたもんな。
下手に名乗り出たり、勇者顔で勇者装備してたら、無駄に騒がれそうだ。流石に
国としても、容易に暗殺でも
下手に立場や権力なんて与えたら、逆らいようのない強力な派閥が形成されるだろうし、そんな気が無かったとしても、妄想で危惧した無能な世襲貴族辺りが猛反発する流れで、国家の運営が混乱するなんてのも容易に想像できる。
やはり、
「せやから、あんな装備持ってても外で着ることも無いし、魔法袋の肥やしにしかならんしやな。だったら博物館とかあるんやったら展示してもうた方がええやろし、どっかに譲るんでもええ。ああ、運営費やら敷地の増床みたいな話やったら、中に魔石やら鉱石やらも入っとるはずやから、それを処分してくれればええわ」
「しかし、ですな……」
うーん。これスケさんも譲りそうにないし、ウェスヘイム家としても代々受け継いできたものを突っ返されても困るだろうしで、話は進まない気がする。
どっかで妥協点でも取れるといいんだけど……。
あ。
うん、中身次第ではあるけど、互いに納得する線引きはこの辺りならどうだろう?
「スケさん、魔法袋の中身って魔石以外にも結構色々入ってたりする?」
「んー? まあそうやな。拾ったもんは色々と残してたと思うで」
「それなら一旦預かって、欲しいモノがあるか中身を確認して、今となっては処分に困るものはお任せする、魔石や鉱石なんてのはその手間賃とする、って感じでどう?」
「何かそんなええもんあったか……? まあええわ、かまへんで」
多分、今は使えないだろうけど、取っておいた方がいい
さて、あとは
「ウェスヘイム男爵、恐らくスケさん……勇者様が有名になることを望まれてないことはご理解されてると思います」
「……うむ、その点は尊重したいとは思っている」
「ですので、ここは『転生した勇者が確認された』ものの『本人は正体の公開を望まれていない』ということで話を通していただいて、その手間賃として素材などを受け取っていただく、というのはいかがでしょう?」
恐らく、国には勇者由来の武器や防具、あるいは
一方で、その根回しの手間とか、その後の対応なんかで色々と矢面に立ったり対応に追われたり、という負担も相応にあるだろうから、その点を換金できそうな素材で賄っていただく、という提案だ。
単に『受け取らない』では、代々受け継がれてきた悲願に対して面子が立たないだろうけど、当人の意向を尊重した対応の代行という意味では、執事という由来からしても一応は筋が通る。
まあ、装備品はともかくとして、魔石や鉱石などについては、全て譲渡されると遠慮してしまうようであれば半々に分けてもらうとか、その辺りの
「……分かった、その提案で行こう」
「ありがとうございます。では、勇者様が不要とされたものについては後日また改めて譲渡させていただきますが、場所などはどうしましょう? どこか倉庫のような場所に出すとか、魔法袋などがあれば任意の場所で受け渡しすることも可能ですが」
そう、結局は『容量:中』というのが実際にどの程度の量なのか出してみないと分からないので、魔法袋でもなければ場所が必要になりそうなのだ。
「ああ、それならたしか……あったあった、これとかどうや? まだ使うてない新品やで」
そう言ってスケさんが魔法袋から取り出したのは……。
【魔法袋】
それなりの容量の魔法袋。【時間遅延】あり。
時間:遅延・大
容量:小
使用量:なし
「え、魔法袋に魔法袋って入るの?」
【空間収納】に魔法袋を入れるのは出来なかったよな? 魔法袋と魔法袋なら入れ子でも問題ないってこと??
「ああ、未使用品やからかもしれんけどな。中身を空にした場合はどうなんやろ、やってみんと分からんな」
未使用品……割と貴重なのでは?
と思ったら、スケさんはその未使用品を数枚持っているようで、魔法袋から4〜5枚取り出した。
「こいつは試作品を貰うたもんや。【時間停止】やないから失敗作や言うてたけど、普段使いには丁度ええやろうしと思って素材提供の代金として貰てきたんや」
……普段使いとは言ってるけど、これだけでひと財産になりそうな予感するな。
何枚も魔法袋を作れる魔道具師、恐らく故人なんだろうけど、なかなか名が残ってそうな凄い人なのでは?
「ワイの魔法袋はそこまで大きいもんでもなかったからな、数枚あれば移せるやろ。要らんもんはこの袋にまとめて、リナにでも持ってってもらう、てことでええか?」
「こちらは、それでかまいません。リナ、受け取りの際は馬車を使うように」
「はい、お父様」
……ダンジョン帰りに持って行ってもらう、ってわけにはいかなそうだ。
そりゃそうか、さっきの魔法袋は【鑑定】に所有者権限の記載が無かったし、盗まれたり襲われたりする可能性がゼロではない。
早いところこの件は済ませてしまいたいけど……中身次第かな、うん。
しかし、魔法袋の確認が済んでから、再度リナに連絡を入れるのは面倒だよな……。
クララやスケさんと連絡を取る時も思ったけど、メールやSNSみたいな双方向の連絡手段が無いのが辛すぎる。
無線通信系のハード設計とプログラミングまわりのソフト設計の人を、
せめて、こっちからの連絡方法だけでも確立できればなぁ…………あ?
「あ。」
「何や?」
「い、いや何でも無い。魔法袋が整理できたら、また連絡を入れることにしようと思って」
頭に浮かんだ思いつきに、声が出てしまったのをあわてて誤魔化した。
「そうですな、ご連絡をお待ちしています」
当主が話を合わせてくれたのに乗じて、俺たちはお暇することにした。
良かった、まだ
…………俺は帰り際、リナの後ろに門を1つ付けて、ウェスヘイム邸を後にした。
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