第7話 迷い人

今、チキュウって言いました? ボスは。


異世界人バレ早過ぎないか……!?


召喚系を除けばRTAで最速ペースだとは思うぞ?


い、いや、カマをかけてる可能性もある。


確かに【空間収納】はレアスキルの予感はあったから、特定スキルはこちらの世界だとチェ七リーチ目みたいなものなのかもしれないし。(パチスロのことはエアプでよく知らんけど)


「ええと、なぜそんなことを思われたんですかね?」


とりあえず肯定も否定もせずに探りを入れてみる。


まあ商業ギルドのトップがゆえに、見た目通りの脳筋ではなく手練手管・権謀術数で勝てるとは思えないけど。


「そうだな……こちらの・・・・世界・・では、市井の子どもはそこまで識字率や算術の水準が高くないものでな」


なるほど、あの受付のお姉さんの時点でチェックが入ってたのか……流石は商業ギルド、ポーカーフェイスは標準装備なのか。


「まして、だ……貴族語丁寧語を使いこなす未成年ともなれば、相当に限られる。ご落胤らくいん廃嫡はいちゃくか。それらは姿絵付きで情報が流れてくるから、頭に入れている。そうでない場合は……迷い人異世界人ぐらいなもんだろう」


うわー、丁寧語=貴族というパターンは読んだことが無かった……!


受付のお姉さんが貴族語丁寧語だったからそれに合わせてたのに、まさかの罠だったとは。


しかし、冒険者といったらタメ語という異世界あるあるは知っていたから、注意することはできたかもしれない。所詮はタラレバではあるけど。


「あとは、この都市の位置する場所の要因もあってな。君が歩いてきたというあの森は、迷い人が多く現れる場所なのだ。ちょうど君が運んでくれたラビット──いや、カイトもその1人だ」


そう。彼を収納した後に一覧で出てきた名前には、『ラビット(セノオ・カイト)』と記されていた。


字面から見るに、恐らくは日本人だったのだろう。瀬尾快斗……いや、快兎か? ラビットだし。


ただし、このラビット氏の姿と名前が、実際に転生したことで得られた体や付けられた名だったのか、あるいは『誰かになり変わるモノマネ系スキル』なのかは判別つかなかった。今の今までは。


まあ、必ずしもギフトが勇者らしいものとは限らないだろうしな。詐欺とか暗殺とか、変装とか。


さておき、このボスに対しては転生前の名を名乗ったことがあったようだし、恐らくはスキルによるものとは違ったのだろう。


「繰り返しにはなるが、こちらは敵対する意図はないし、拘束するつもりもない。その上で聞くが……君は迷い人異世界人なのか?」


「……はい、恐らくそう呼ばれる対象なんだと思います」


合点がいった。どうもボスの理解が早すぎると感じていた。


リアクションが薄いというか、抵抗が少ないというか。


何かのタイミングで思い当たることがあり、異世界人だと当たりをつけていたのだろう。


もっと理由を問われたり、疑われて弁明が必要になるかと警戒していたのだけれど、なるほどなるほど……。


「それでですが、彼は間違いなくラビットさん本人で間違いないでしょうか?」


「ああ、間違いない。本人だ」


「ラビットさんにご家族は?」


「いや、独り身だと聞いていた」


「そうですか……」


うーん、そうなると遺品の引き取り先が無くなってしまったことになりそうだ。


まあ、その辺りのルールとかは後で確認すればいいだろうか。


「彼は料理人シェフ運び屋ポーターとして名を知られていてな……。かつては俺と共にダンジョンへと潜っていたんだ」


ああ、なるほど。ボスとは長い付き合いだったのか。


恐らく本名や前の世界のことを明かすぐらいだから、相当親しかったんだろうとは推察される。


ラビット氏は、偶然ながらダンジョンであの魔法袋を手に入れたことで、結構名の知れた料理人兼運び屋として活動していたそうだ。


やっぱり料理チートは1つの定番だからな。醤油や味噌、マヨネーズを発明したりとか。


そういや、魔法袋にも調理道具らしきものがいくつも入っていた気はする。コンロとかフライパンとか。


ダンジョンとかのセーフエリアで温かい料理出す……なんて運び屋が実際にいたら、余裕で人気が出そうだ。


「俺はこんなナリでも家名持ち貴族出身でな……ある時に冒険者を引退してこっちに戻ってきたんだが、しばらくしてこいつラビットも戻ってきた」


何だろう、あの魔法袋は割と高性能だったし所有者権限ありで盗まれる心配も少ないしで、かなり安定してそうなもんだよな。


冒険者を辞めてこの都市に戻ってくるとか、何があったんだ?


「俺は当時、既に副ギルドマスターだったんだが、彼が仕事を紹介してくれと面会に来た時に色々と聞いてな。迷い人のことや、知識のこと、それから……今後も、あの森で迷い人が現れる可能性についてもな」


……確かに! あり得る話だ。


あの転送は一般的な異世界転生のそれと違って、こちらの神様と出会ったり任意の場所に飛ばされたりといった契約をすっ飛ばした、一方的な送り付けに近いものだった。


魔法陣が同じものなら、同じ場所に送りつけられる可能性は大いにありそうだ。


「それから彼は、あの森を通る運搬の仕事を定期的に引き受けるようになった。森の先に集落があり、鉱石や鉱物の加工に長けてる種族で取引があるんだが……かかる時間とか含めて割に合わないため人気がなくてな」


戻ってきた理由と仕事内容からすると、ラビット氏は同じ迷い人異世界人を保護する目的があった、ということだろうか。


そういや、やっぱり魔法袋のインゴットや宝石は、依頼品だったのかな。


「あの、今回もそれじゃ依頼した荷物というのは?」


「そうだな。近々要り用があるとのことで、領主からの発注があってな」


領主からのインゴット発注……まあ真っ先に思い浮かぶのは、武器や防具といった用途だよな。


それと、宝飾品も一部の世界設定では杖や魔道具などに使われる設定があったよな。


んー……なんかキナ臭い感じが漂ってきたぞ。


ああ、そうなると、だ。


「もしかしてですが……あの森を出た辺りで破落戸ごろつきに襲われてる冒険者を見たんですが、そういった・・・・・流れ者って可能性もあったりしますか?」


「……確かに最近、そういった・・・・・話は上がってきているな」


他国の村民や冒険者、あるいは盗賊が、難民となって国を渡り、穴蔵に巣食って道行く旅人を襲う……割とよくある冒険者ギルドへの討伐依頼の筋書きだ。


あの冒険者3人組についても、最初は街から世紀末たちに目をつけられてたんじゃないかとも思ったが、あの森にねぐらがあるって方が納得がいく。


「それじゃ、ラビットさんも、もしかして」


「どこかに巣でも作られているかもしれん……冒険者ギルドに探らせるか」


ああ、そうだった。既にあの3人組がギルドに到着して報告済みかもしれないが、念のため俺も埋めた世紀末たちの報告をしないとと思っていたんだった。


そうなると、あの森のどこかにねぐらがあるのかどうか、世紀末たちに話を聞けば丁度いいのかもしれない。


「実は……」


◇◆◇


とりあえず、冒険者たちが襲われていたことから、穴に落とした3人についてまで一通り俺が話し終えると、ボスは棚にあった羊皮紙にメモを書いて廊下にいた係の人へと渡した。冒険者ギルドまで連絡に行ってくれたのだろう。


とはいえ既に午後5時を回ろうとしている、あと1時間もしないうちに日没になりそうだ。探しに向かうにしても明日ということになるだろう。


ああ、こっちもそろそろおいとましないと、宿が取れなくなりそうだ。


「あの、とりあえず今日はラビットさんをこのまま預かって、また明日来るってことでいいですかね」


「何か用事か?」


「ええ、宿をとらないといけないですし、この後の始末などを考えると時間がかかりそうですし」


「……まあ、そうだな。では、明日3の鐘午前10時頃に来てもらえれば時間を空けておこう」


「わかりました、では失礼します」


ひとまず、サミュエル氏がギルドマスターであることがわかっただけでも収穫だ。


あとは、ラビット氏の遺体の埋葬とか遺品整理、ああそれからサミュエル氏の依頼内容を確認して魔法袋から必要なものを渡して……後は、魔法袋の所有権交渉かな。


中に入ってるものもそうだけど、魔法袋自体も所有権付きの相当価値がある魔道具だ。


異世界らしく、ダンジョン同様に拾った人に所有権があることにならないかな、とは思っているが……流石に強欲だろうか。


「ああ、帰る前に一つだけ言っておこう」


ラビット氏の遺体を回収したところで、ボスから声がかかった。


「な、何でしょう?」


「先ほども言ったが、その口調だ。明らかな平民の見た目で貴族語丁寧語を使うのは、違和感なばかりか警戒される。相手によらず、標準語タメ口で話せ」


……もしかして、あの冒険者3人組が唐突に警戒し出した理由って、それだろうか。


あの少女が丁寧語で話していたから合わせていたのに、それで警戒されていたとか全然気がつかないって。


「わかりま……いや、わかった」


「そうだな、それでいい」


ボスが最後に見せてくれた笑顔は……人を3人ぐらい殺しそうな恐ろしさがあった。

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