第45話 神託

翌日、連絡してあった5の鐘14時より少し前に聖白銀教会を訪ねると、まだお嬢リナが揃ってないのと目隠れクララが作業しているということで、こちらでしばらく待っていてほしいと、シスターに聖堂へ案内された。


そういえば、この前来た時は聖堂の方を全然見てなかったなと思い周りを見渡すと、一段高い足台に説教を行う祭壇があるだけの簡素シンプルな作りで、教会としてイメージしていたようなステンドグラスだとかパイプオルガンだとか、あるいは巨大な神像なんてのも無かった。


なんだろう、舞台とかも無い感じの体育館に長椅子をズラッと並べただけ、というのが正直な感想だ。


とりあえず適当なところにでも座って待ってるか……と思って前の方の席に手をかけた時、聞き慣れた音が鳴った。


『ステータスオープンシステムに一件の更新があります。更新しますか? はい/いいえ』


「は?」


突然、ステータスオープンの画面が自動で表示され、下部のログに選択メッセージが出た。


なんだこれ。いや、表示されている内容通りなんだろうけど。更新って何よ?


……でもこれ、似たようなのがラビット氏の魔法袋に触れた時にもあったよな? 本当に一番最初に。


特定条件を満たすと自動で起動するようになっているものの1つ、ということなんだろうか。


いずれにせよ、問題はその内容だよな。


ステータスオープンって教会でアップデートが行われる仕組みなの? ていうかスキルのようなものだと思っていたのに、アップデートって何よ。


でも、教会に来ないと更新が入らないどころか、気付くこともないってなかなかエグい仕様じゃない?


まあ、更新するけどさ。


とりあえず『はい』を選択して様子を見てみると、ログに何やら流れ出した。


『更新データ……1件』


『ロード中……………………完了』


『インストール中……………完了』


『アップデートが完了しました』


『神託メールが2件届いています』


「は?」


再びの『は?』だよ。何だよ神託メールって。


確かに簡易ステータス表示の下に追加された、メールボックス風のアイコンが点滅してるけどさ。


教会という場所からしても、確かに神託が受けられそうではあるけどもさ。


アップデートされたりメールが来たり、教会ってのはWi-Fiのアクセスポイントか何かなのか?


神託メールとやらのアイコンをタップしてみると、メールの一覧表示に遷移する。


2件の新着メールがあるようで、その1つをタップするとダイアログで内容が表示された。


メールのタイトルは……『アップデート情報』か。


『アップデート情報:転生者向けの伝達事項がある場合に使用する神託メール機能が実装されました。教会などの施設および神像を配置した祭壇にアクセスした際に更新が行われるようになります』


なんか完全にアクセスポイントだな、教会。神像を配置した祭壇とやらは、さしずめモバイルWi-Fi端末ってところか。


それより、ご神託なんて大層ものが俺なんかに届いていいものなの? もっとこう、それこそ敬虔けいけんな信者や聖女が受け取るべきじゃないんだろうか。


しかも、俺は恐らく悪魔に乗っ取られたインテリヤクザに送られたっていう、よくある神様がギフトをくれた展開とは真逆な存在にも関わらず、だ。


まあ、最低限の手続きに反してないから、処分もされてないし、便利なスキルを手に入れているんだとは思いたいんだけどさ。


とりあえずご神託を受けられるようになった件はいいとして、もう一件のメールは……『旧システム端末所持者への更新依頼』?


『旧システム端末所持者への更新依頼:転生者の接触履歴から、旧機の未回収者との接触を確認した方へのご依頼になります。該当者を教会に移動または神像へ接触させ、システムの更新を行ってください。特徴:職業【勇者】、年齢d3歳』


なんか接触履歴を取られている件についてはツッコまない方がいいんだろうな……まあ、それはともかくとして。


勇者……もしかして、いやもしかしなくても、スケさんのこと? 年齢表記が『d3』とかバグってる件は、たしか勇者が活躍したのは数百年前とか言ってたから、年齢が桁溢れしてるとかそういった感じで。


本文はまだ続きがあるようでスクロールすると……


『なお、神像用のモデルデータを添付しましたので、ご確認下さい。【添付データ】』


確かにメールの最後に添付データのDLダウンロードボタンらしきものがある。


押してみると、ステータスオープンの枠の下部分から、コピー機の排出口みたいな感じで一枚の紙がプリントされてきた。


……なんか、えらいデフォルメされた、こう、『ねんどろいど』って名前が付きそうな見た目の女神様の絵……前面と背面と側面という、いわゆる三面図だ。


Vtuberがよく3Dモデルお披露目とかで紹介してた資料のやつだ。


えっと……作れってことですかね?


確かに【空間切削】は、檻の踏み板とか難なく作れるぐらい、割と慣れてきたとは思うけど。


そういや、この女神様の名前って何だろうと思い、どっかに書いてないか紙を確認すると、下の方に『デメディシナ.img』とあった。


これが名前なのだろうか。てか、何だよこの拡張子。


さて、これまた妙なクエストを受注したもんだな。


流石に神とか管理者とかそんな人が依頼だと思われる案件を断るのは、身の安全に支障がありそうで選択肢に無いだろう。


とりあえず、この『ねんどろいど・デメディシナ』を【空間切削】で作成して、スケさんに見せろってことでいいのか?


あるいは、スケさんを教会まで連れてくるとかになりそうだけど……それは色々な意味で危なそうだよな?


そもそも、スケさんの身体は骨の魔物になってしまっていると思われるので、果たして外に出た時に身体の維持が出来るのかという疑問がある。


ダンジョンの外では弱体化されるだとか、次第に弱って亡くなるだとかいう設定の世界は割とあったもんな。


まして、スケルトンと教会って聞くだに相性が悪すぎる。聖属性の教会ともなれば尚更だ。


ご丁寧にも三面図まで用意したってことは、神像を作って持っていき、スケさんに触れてもらってステータスオープンの更新をしてもらえ、といった話なんだろう。


さて、問題は神像の方だけど……。


全体としては手に持っている錫杖って感じの杖と、腰まであるロングの髪、上半身は一枚の布を肩で留めていて、腰もひと回しのスカートを巻いている……と言った感じの、そこまで装飾品もない、よくありそうな神像って感じだ。


しかし、服にかかる髪の毛はもちろんのこと、目の細かい柔らかめの布を着ている設定なのか布にシワが多く、また布自体も動きがあって単なる曲面一枚って絵面にはなっていないので、一発で一本の木から削り出して作るのは、なかなか厳しそうに見える。


まあ【空間切削】は細かい作業も得意としているので、木ぐらいであれば硬さを気にすることなく細かな装飾も出来そうではある。


ひとまず寄木で全体パーツの構成を決めて、細かい情報を加えていく感じでいけばいいかな……。あるいは、粘土か何かで形状を作ってから木で再現するか。


インテリヤクザ像は既に何体か作ったことがあるので、神像フィギュア作りは少しだけ慣れているつもりだ。自信がある、とまでは言えないけど。


まして今回は三面図があるので、デザインはある程度決まっているし、割と見れるものにはなる、気がする。


あとの問題は大きさかな。この見た目なのに、手のひらサイズの像だと有り難みが殊更薄れそうな気はするので、30cmぐらいのものを作ってみようか。台もあわせると50cm弱、腰より少し下ぐらいか?


細かいところは作ってみながら調整かな……と、三面図を魔法袋にしまった(フリで【空間収納】にしまった)ところで、背後のドアが開く音が鳴った。


時間通りのご到着、といった感じで面子メンバーが出揃ったようだ。


そういや、直接お嬢リナと顔を合わせるのって、この世界に来た初日以来なんじゃないか?


格納門経由で捕虜部屋にいるお嬢リナにメモを渡したりはしたけど。


んー……やっぱり、ああいった感じの女子は苦手だ。


とりあえず、笑顔を貼り付けた仮面を被るようなフリをしつつ、俺は立ち上がって彼女らの元へ向かった。

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