第147話 聖白銀教会総本山

ひとまずヨンキーファ付近の15カ所が範囲に入るよう地図を埋めた後、【移動】でやってきましたのは名前は聞いていたけど場所も把握してなかった、ワムワサフロス聖白銀教会総本山


なんとヨンキーファからフィファウデまで半日ほど行った辺りを少し西に行くと、すぐに見つかるという位置にある。


まあ、最初に行った時はウォルウォレンの情報を求めてすっ飛ばして行ってしまい、以降は街道をわざわざ辿ることもなかったから、こんなところにあるとは気付かなかった。


もっとも、秋も終わり際ですっかり日も落ちた7の鐘18時過ぎともなると、辺りが暗い中に煌々と照らされた建物は、かなり印象的な様相ではあるんだけど。


ああ、そうそう。


15カ所を巡ってみて分かったけど、どうやら教会の鐘には必ず【灯火】の魔道具が備えられているらしく、割と遠くからでも目立っていた。


一応【地図マッピング】があれば暗くても位置は把握できるんだけど、実際の場所がすぐに分かるのは助かるな。


まして総本山ともなると、それはそれはご立派な礼拝堂が……礼拝堂…………


……いや、体育館だなこれ?


総本山ではあるんだけど、なんかステンドグラスだとか柱に彫られた神像だとか壁画だとか、そういった宗教施設的なものは一切排除された、簡素シンプルを具現化したような施設。


規模は確かに違えど、体育館は体育館。小中学校の体育館と公営体育館との違いぐらいはあるだろうか、程度。


……もしここが仮に女神像フィギュア握手会・・・会場・・となるのであれば、待機する椅子とか受付する場所とかには困らなそうではあるから、ある意味でおあつらえ向きではあるんだけどさ。


さて、配送前の下見ということで、早速ながら中を覗いてみますか。


まあ、拠点から視界だけ飛ばしているから、文字通り覗いているんだけど。


……お? やっぱりあった。


ヨンキーファの礼拝堂もそうだったけど、入口上部に排気口を発見した。


クララへの用事で何度か入ったことのある礼拝堂は、入ってすぐにある玄関口エントランスホールが一種の受付となっていて、室内の中央付近に窓口と対になる形で暖炉が置かれている。


この暖炉から外向きの排気口へと繋がっていていることを、以前に面会のための待ち時間に発見した。


礼拝堂に入る際に見た、あの穴は何だったのかと興味本位で確認したんだけどね。


ちなみに、こういった形式の暖炉は市場によく出回っている『半魔道具』と呼ばれる仕組みだそうで、燃料は木材やダンジョン産の炭(?)などを使いつつも、着火は火魔法で、排気は風魔法で行う混合型ハイブリッド機構システムなんだとか。


こちらの教会も見た目は石造りで古そうではありつつ、大体似たような構造らしい。


ともあれ、ひとまずお邪魔させていただくことにしよう。


排気管の中を、バレない程度に僅かばかり

光源ライト】を点けつつ進み、予想の通り暖炉へと出た。


教会の中は、その日の片付けが終わったのか誰もいない様子で、孤児院など他の施設に繋がる廊下に【灯火】の魔道具が設置されている程度で、薄暗かった。


総本山だけあって何かしら人が集っていたりするのかと思っていたけど、さほどでもないのだろうか。


まあ、ヨンキーファの方は少なくとも、日曜学校や年末年始および薬草採集の解禁日などの祭日に集会がある程度で、使用頻度はそこまで高くはないらしいけど。


さて本堂の方はと言えば……うん、あまり変わり映えしない見た目だ。


長椅子の列こそ、体育館の規模に合わせて複数列あるので、さながらコンサート会場の座席のように複数の通路がある見た目ではあるものの、構成要素としてはあまり変わり映えしない。


座席と、一段高い舞台と、祭壇。唯一、中央に絨毯カーペットのようなものが敷かれていることぐらいだろうか。


さて、置く場所は……説教の机の横でいいだろうか。


舞台の上にあるので少し高くなっていて、正面から入ってきたら何か書かれてるのが目立つだろうからね。


……ん?


…………んん?


なんか舞台の奥に回り込んで説教台を裏から見ようと思ったら、なんか奥に行けないというか、結界か何かが張られてるみたいに移動できないんだけど。


……いや、ちょっと待った。


格納門が移動できない、でも特に何も無いように見える空間って言ったら…………もしかして、ダンジョン?


いや、いやいや、たしかワムワサフロス聖白銀教会総本山って、いわゆる領主とかが関与しない例外的な自治区みたいな立ち位置じゃなかったっけ。


そこにダンジョンがあるとなると、流石に問題じゃないか? ほら『ダンジョンが発見された場合は、新たに領主が指定される』らしいし。


あれ……でもちょっと待てよ。


入れない範囲がものっ凄い狭いというか……なんか祭壇の背後にある壁際を中央とした球形っぽい感じに曲面を描いている。


これ、なんかよく知ってる魔道具・・・だったりしない? もしかして。


【ダンジョン化】。


少なくとも見かけ上の挙動としては、完全に一致して──


「ああ、よかった。まだいらしてなかった」


…………!?


入口側から声が聞こえたかと思うと、祭壇方向へと歩いてくる人影があった。


手持ち型の【灯火】の魔道具を持つのは、少しふくよかなシルエットを浮かべた修道服のシスターだった。


声の感じからするに、まだ成人したてといった年齢ぐらいの若さだろうか。


しかし、間に合ったとはどういう…………え??


ちょうど横の辺り、進めなくなっていた壁際の方から、魔力感知が強く反応した。


ちょ、ちょっと、待って待って、何が起こるのこれ? ねえ??


俺は一応、格納門を客席側の壁際へと寄せつつ、祭壇の方を窺った。


「ようこそおいで下さいました、ヒルデガルド様」


「あら、お出迎えありがとうございますの、シスター・ニーナ。でも、その呼び方は抜けませんのね。とうの昔に枢機卿は降りましたのに」


「っと、失礼しました。咄嗟に出てしまうもので……」


「現在はあくまで支部を任された程度の一司教、シスター・ヒルデ・・・でお願いしますの」


…………ちょっと待て。


随分と、聞き慣れた声と聞き慣れた口調が、体育館に響き渡ったんだけど。


なんでいるの? シスター銭ゲバ


てか今、【転移】してきたよね?


「……お客様かしら?」


…………へ?


えっと……こっち、見てる……?


「え? ええ、まあお客様としてお呼びしていますが……」


「ううん、何でもありませんの。うふふ、なんだか本部の雰囲気が懐かしくなってしまって。場所は大会議室でしたわね。先に行っていていただけます? ニーナ・・・


「は、はい! お待ちしています!!」


ニーナと呼ばれていたシスターは、その場に【灯火】の魔道具を置いて頭を下げ、入口へと走っていった。


アレか、昔の関係で名前呼びされたのが嬉しかったんだろうか。もしかして孤児院出身とか、そんな感じな気はする。


「うふふ、本部勤めになっても変わってないのね、走ってはいけないと散々言い聞かせていましたのに…………さて」


…………ま、そうでしょうね。


入口に駆けて行った足音が聞こえなくなった辺りで、こちらへと向き直ったシスター銭ゲバは、ゆっくりと近付いてきた。


「あまり覗き見というのは感心しませんわね?」


…………。


まあ、こちらに出来ることは沈黙なんですけど。


ナカニダレモイマセンヨ。


「うふふふ、まあ結構ですの。人には誰しも内緒事・・・の1つや2つはあるでしょうから」


えーと……『テメー、バラしたらこっちも出るとこ出るぞ』、という解釈でよろしいですかね?


「……そういえば、今日の会合というのも何か貴方が関係してらっしゃるのかしら? 何でも神託がくだって、近々忙しくなるとのことですのよ」


……はい、ちょうど明日の女神像フィギュア配送を前に、下見に来たところでしてね。


てか、女神様はもしや教会の方にもご連絡を入れていただいてたんですかね。


「さて、長居は無用ですわね。いつでもヨンキーファの教会においで下さいまし。お待ちしておりますの。それでは、また」


……そう言い残し、シスター銭ゲバは【灯火】の魔道具を手にして、出口へと去って行った。


………………。


えーと……何だ今の展開。


情報量が多いっていうか、何、あの人どこまで把握してんの?


てか【転移】って、もしかしてヴァル氏の魔道具が実用的な状態で残ってるの? やっぱり祭壇付近のアレは【ダンジョン化】されてるってこと??


うわー、色々検証したいけど、『長居は無用ですわね』って言ってたの、あれって恐らく俺にだろうし、今日は退散しよう。


怖すぎんだろ、アレ銭ゲバ


元・枢機卿とか言ってたけどマジか。


てか、俺って判断したのも魔力感知か何かか?


あーもう、色々謎すぎる。


畜生、今は地図埋めしなきゃいけないから……この辺は一旦後回し!!

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