第148話 巡礼の旅スタート

ま、ひとつ気持ちを切り替えましてね。今ある仕事の方に集中していきましょう。


ひとまず行ったことのあるゾーネリヒト、シュナムベイン、そして王都オストシュタットに適当な宿を取りつつ周囲の地図埋めを行っていく。


適当な場所に穴でも掘ったり、野営地にテントを張ることも考えたけど、妙な客が訪れる可能性を圧倒的に減らせそうなのは、宿に泊まることだろうと考えた。


なんだかんだで、野盗との遭遇ってのが普通にある世界だから、不確定要素ってのはなるべく避けたい。


時間があれば、採石場となる岩山でも探した上で、貨物器コンテナぐらいの寸法サイズ避難壕シェルターでも作って、地中に穴でも掘って埋めるみたいな手段も取れたんだろうけど。


それにしたって、なんだかんだで空調だとか埋める場所とか、あるいは天候や自然災害、と考慮する必要がある項目が出てくる。


なので、結局は少しだけお高めの宿に泊まるぐらいが、一番手間がかからず面倒が少ないという結論に達したわけだ。


そのぐらいの宿であれば、金さえ払えば過度な干渉も入らないし、食事は自前の素泊まりであることさえ伝えておけば放っておいてもらえる。


あと、少しだけお高めというのが要点ポイントで、その辺りのクラスともなれば魔道具で遮音を入れてくれているので、何かをする際に周りの音やこちらからの音を気にする必要が無くなる。


さて、ゾーネリヒトと王都は、それぞれ区画の中央付近にあるということで、それらはそのまま宿を延泊する予定にして、明日の夜からの教会巡りの拠点にするつもりだ。


ヨンキーファやフィファウデはナヤボフトまで含む結構な範囲なので、ちょうど中間ぐらいの街で泊まれる場所に宿をとった。


その他も、各区画の中央付近で初日に配布予定になっている主要都市に宿を取って、初日に回る予定の教会を目指して地図を埋めていく。


ただ、埋めていくと徐々に見えてくるものというか、ちょっと気づいたことがあって。


「……割と街道沿いだよね、流行ってるダンジョンも大きめの都市も」


人の流れがあるから、ダンジョンも流行って市場規模も大きくなるのは自然なんだけど、いくつかは僻地にダンジョンが出来て割と独立した経済圏になってる、みたいなものがあっても良さそうだと思ったんだけどさ。


なんか山奥にある温泉地みたいな秘境とか、あるいはエルフやドワーフの隠れ里みたいなのとか、そういう町に少し尖った産出品があるダンジョンがある感じのやつね。


あまりそういったものは見当たらず、優先的に女神像を配る教会の置かれたダンジョン街やその辺縁へんえんにある都市が、ほぼ街道沿いに集中してしまっていて。


多分、ダンジョン付近についてはほぼ全て、周辺の教会も含めると全体の半分ぐらいは、今夜中にでも回れてしまうんじゃないだろうか。


あとは仮眠を挟んで、日中に街道から外れた残地点へと枝葉を伸ばすように回収すれば、大半の地図埋めは完了してしまいそうだ。


……まあ、本番はその後の日が落ちてからだから、適当な辺りで作業を切り上げて、せっかく仮の拠点にすることにした少しお高めな宿の寝台ベッドでも堪能しようかと思ってるけど。


宿を借りるに当たってだけど、費用については度外視というか……手元の資産の桁が8桁を超えると、なんか使い道が思いつかなくなっていくんだよね。


本当、ヨンキーファにでも土地を確保して家でも建ててやろうかと思うぐらいには、各種ポーションの需要があるもんで。


実は、ボスギルマスの方で元から使っていた王都からの仕入れ経路ルートが、何かやらかした・・・・・らしく使えなくなってしまったとのことで、俺の副業が定期的な納品先として確保されてしまっている状態だ。


一応は次が見つかるまでという話にはなっているものの、何やら幽霊会社ゴーストカンパニーをかませて経路を誤魔化すみたいな話まで出てきたので、ある意味で本腰を入れて仕入れ先に使うつもりらしい。


ボスギルマスが自らそんなことやっていいのかという話だけど、不渡だとか夜の街からの質流れ品だとか、色々と怪しげな品を取り扱う際に、何かをかませることは常套手段らしいんだけど。


ある意味【鑑定】ってものがある世界で、一応はそれなりに品質が担保されて、利用者が信用しているから成立している部分ではあるよね。【鑑定】の実態はさておき。


さて、そんな感じで片手間に稼げるようになった金は、貯めておくと経済に悪いなんてのもよくある話ではあるので、なるべくうっかり散財していこうかとは思っている。


あんまり金が貯まるようなら、事業でも考えた方がいいのだろうか。まあ、今考えることでは無いか。


◇◆◇


「……残りは明日の昼に回すか」


結局、日中いっぱいまで地図埋め作業を進めて、ヨンキーファを含む区画だけでも、到達してない教会は残り2割というところまで埋めることができた。


全体数からすると、600〜700ぐらいだろうか? 結構頑張った方な気はする。


まあ、頑張ったのは【地図マッピング】スキルなんだけど。覚えたてにも関わらず、既にLv.1の半ばを過ぎたところだ。


『スキルを覚えたら成長しにくくなる』という話はどこに行ったのだろうか、とは思わなくも無い。


一応、ステータスオープンに表示された地図を開きっぱなしで飛び回っていたから、それなりにMPは消耗していたようだし、街道から枝葉を伸ばすのに何度も【移動】は使っていたから、判定は相応に入っていたということだろうか。


大陸の西にある区画の初めて来た見知らぬ土地の宿で、6の鐘16時を告げる音が街に響くのを聞きながら、大きく伸びをした。


ちなみに、宿を選ぶにあたってはフィファウデの時と同様の方式で選ぶことにした。


あの時、貴族街に類する宿では門前払いされるばかりだったけど、優しげな老執事さんが受付で対応してくれたんだよな。


それこそ少しお高めぐらいだったけど、結果的に過ごしやすくて非常に良い宿だった。思ったより暴走スタンピードがすぐに解決してしまって、全然ゆっくりできなかったけど。


今回もそれに準じて、着の身着のまま少し良さげな宿を入って、不躾な態度を取られたらとっとと出ることを繰り返しつつ、丁寧な態度を取ってくれたところに泊まることにした。


うん、普通にこれが正解っぽいな。欲しい品質は保たれてるし。金は全てを解決してくれる。


さて、一旦これで昼の部の作業は終了し、仮眠を挟んで夜の部に備えなくては。


……うん、いいね。このベッド。綿とか詰まってるんだろうか。


時間があったら家にも欲しいところだなこれ。すぐに寝れそうだわ。


◇◆◇


「やっぱり、最初はここから始めるのが筋ってもんだよね」


7の鐘18時から鐘2つ4時間経ち夜更けに差しかかった辺りで、俺は行動を開始した。


場所はもちろん、ワムワサフロス聖白銀教会総本山。昨日ぶり2度目の訪問だ。


昨日とは時間を外したから流石にいないとは思いつつ、念のため【気配察知】を飛ばす。


うん、大丈夫そう、かな。礼拝堂の中に人の気配は無さそう。


……あ、そうだ。アレをやってみるか。


ふと思いついて、俺はステータスオープンで画面上の地図を開き、検索欄に『教会関係者』と入れてみた。


うわー、出たね。別棟が寝食する場になっているようで、青い点としていくつも表示されている。


少し離れたところにあるいくつかの点は、未だ作業されているシスターたちだろうか。管理職でもある枢機卿ってやつかもしれないけど。


念のため『人類』とかもやってみたけど、流石に『教会関係者』以外が潜り込んでることもなかったので、恐らく大丈夫だ。


…………。


『魔族』とかもいないよな?


よし、大丈夫そうだ。反応あったら流石にヤバいけど。


さて、早速ながら昨日予行リハした通りに排煙口から中へと潜入し、念のためステータス画面を開きっぱなしにしながら大聖堂を祭壇まで進んでいく。


さあ、それでは参りましょうか。


ここから始まります、聖白銀教会八百八十八カ所、巡礼の旅。


……やっぱりアレだね、番号と教会の所在地ってのを言って、八百八十八番目までババッと通していく感じでね。


なんか白装束に笠を被って、数珠の1つでも首から下げなければいけないような気分になるけども。


……ああ、そうだった、肝心の女神像フィギュアBOXってのを忘れずに置いていかないとね。


祭壇に向かって正面に取扱説明書トリセツが見えるように配置セッティングして、と。


一応、上から落として壊したり倒したり物音を立てたりしたら大変だから、横から【方向指定】で押し出すようにしていくという、慎重に慎重を重ねての作業ですよ。


……他に忘れ物無いね? ね?


ああ、手元の巡礼帳には配布が終わったところにチェックをつけていくから、書くものが必要か。


うん、巡礼帳と書くもの用意完了。


……段取り悪いな。


よーし、仕切り直しましてですね。


それでは参りましょうか。聖白銀教会八百八十八カ所、巡礼の旅。


1番、ワムワサフロス聖白銀教会総本山


…………。


……なんか、寂しいな。


せめて、ヒゲとデジカメ持ちの2人でも確保しておくべきだったか。

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