第184話 この際だから

「……この際だから言っておくわ」


え、何か暴露大会みたいなの始まるの? これ。


馬車内で完全に逃げられないんだけど。


「いつか言おうととは思っていたのだけど、機会を逃してるうちに言いそびれてしまっていたのよ」


……さっきの『無い無い』と順番が違っていたら、告白でもされるんじゃないかと勘違いしてたやつだよね。


ある意味では、助かるやつではあるんだけど。


でもそうなると……一体何を言われるんだろうか。


「まずは確認になるけど……ロブは、迷い人異世界人なのよね?」


「えっ……」


確かに今更、ではあるんだけど……実際のところリナやクララに明かした記憶はない。


そもそも、ボスギルマスにも迷い人異世界人であることやスキルについてなど、情報の扱いには注意するよう言われていたし、ウェスヘイム子爵からも明かさない方がいいと言われていた。


『過去の迷い人異世界人が良い待遇を得られなかった話も、他の領で残されていた』、だったか。


ウォルウォレンの皆にもスキルのことは話したけど、迷い人異世界人であるとは言ってなかったと思う。


だから、俺を迷い人異世界人だと知っている人は、同じ迷い人異世界人であるラビット氏や、勇者召喚されたスケさんを除くと、ボスギルマスとウェスヘイム子爵ぐらいだろうか。


……シスター銭ゲバはどうだ? うーん、見破られててもおかしくはないけど、こちらから明かしてはいないからセーフってことで。


「……なんで、そう思った?」


「ヨンキーファに古くから仕える貴族なら、ステラワルトから時折現れる迷い人異世界人の話は大抵知っているものよ。ましてウェスヘイム家は勇者様の従者の末裔だもの。他の世界から来たことを調べれば、迷い人異世界人の話にも行き着くわ」


……まあ、実際それでウェスヘイム子爵にも見破られたし、あの森ステラワルトとの関連性を知られていることは、本当なのだろう。


迷い人異世界人については諸説あるけど、算数が得意だったり、妙に流暢な貴族語丁寧語を話したり、とかは様々な書物に記載があったわ。でも、それは育った環境で偏った知識を得た可能性もある話よ」


この辺りはボスギルマスから指摘を受けていた話と重なる部分だろう。最初はそこでバレるのかよと思ったけど。


「それでも私が最初に確信……とまではいかないけど、迷い人異世界人なら納得できると思ったのは、スキルのことを話した時でしょうね」


スキルっていうと……【空間収納】のことだよな?


あれは最初は一応【土魔法】だと誤魔化してて、後にアジトダンジョン内で女神像に触れたことで更新アプデされた結果、ステータス画面にある俺のスキルが読めないことがバレたんだったな。


そうなると……結構前だよな。割と出会ってから、そんなに経ってない。


「あの時はたしか、自分のスキルのことを『特殊』だって言ってたと思うけど……スキルなんて、普通かどうか以前に、実際に使えるかも分からないもんなのよ?」


……どうやら、教会とかで『洗礼』みたいな儀式の際に知らされるスキルってのは、必ずしも有用なものとして発現するとは限らないらしく、『そっちの職業に向いている』ぐらいの認識なんだそうな。


実際、俺が冒険者ギルドでの登録時に書類に書いた【土魔法】も自己申告だったし、ラビット氏が冒険者適正なんて無い【料理人】でも盾職として登録できたぐらいで、ウッドFランストーンEランクにはそういった人も多いらしい。


うーん、まあ【空間収納】って聞いて、その使い方ぐらいは思い浮かぶ……って時点で、それは前世基準における『普通』ってことなのか?


異世界モノを読んでたから多少の知識があったとか、そういう……


…………いや、違うか。


俺には、『ステータスオープン』があったから、なのか。


仮に自分のスキルが【空間収納】だと知っていたとしても、【距離延長】とか【空間切削】って派生のスキルがあることを知らなければ、使える可能性すら見出せなかったのか。


恐らく、こちらでのスキルを知る機会と同等に、【空間収納】という名前だけを知らされていたら、類似の機能を持つ魔法袋の性質から『容量』と『時間経過』ぐらいしか想像できなかったと思う。


当然ながら、格納門砲ゲートキャノン格納門転移ゲートワープなんて応用は、一生かかっても存在しなかっただろう。


そう考えると、『ステータスオープン』が使える時点で、相当な有利アドがあったとも言えるし、それゆえに迷い人異世界人を示唆する要因にもなり得たってことか。


「……まあでも、本当に確信したのは、ラビットさんや師匠との会話よね」


ラビット氏やスケさんとの会話……何だろう、流石にリナたちがいる場で前世の思い出話をした記憶は無いけど、どこかで聞かれたりしたのだろうか。


流石に、酔った勢いで言ったのに記憶を飛ばしてるだけ、なんてことは無いと思うんだけど……。


そもそも、前世から酒を飲む習慣なんて無かったし、好んで飲もうとも思わなかったし。


「私やクララが知らない料理や調味料の話を、あたかも昔から知ってる『常識』かのように話し出したわよね。もしかして、ラビットさんがよく使っている醤油ショウユとか味噌ミソとか、市場には存在してないことすら知らないんじゃない?」


……あー、それについては思い当たる節がありすぎて、弁解すら思いつかないなこれ。


ダンジョンにリナたちと潜った後は、何度となく夕食を2人と食べてから帰ってもらっていた。


その際に、鍋であれば『チゲ』だとか『白出汁』だとか『坦々スープ』だとか『胡麻豆乳鍋』だとか、アレもいいコレもいいとラビット氏への要望がてら食べたいものを挙げていたのは、記憶に新しい。


おかげでラビット氏にも火がついて、一時期は鍋週間が続いたっけ。


でもいいよね、みんなで鍋を食べると、いつも別の味が出てくるから飽きないし。


一人鍋の辛いことは、材料を使い切るために何食かに分けて食べる必要があって、飽きることなんだよな……調理が簡単だから、冬場はやりがちなんだけど。


……いや、そんな回想してる時じゃなかった。


まあ、もう誤魔化すのは無理だろう。


単なる知識程度であれば『偶然何かで読んだ』『知人に教わった』で済みそうだけど、この世界に無い味だとか慣習だとかについては、何かしらの共通した経験がないと難しいと思うし。


……つまり、ラビット氏も含めて『迷い人異世界人』であることが、かなり前から分かっていたってことか。


「……うん、降参。料理それについては言い訳できなさそうだ」


クララにも迷い人異世界人ではないかということを相談していたようで、リナが視線を向けるとクララも頷いていた。


「まあ、正直そのこと自体──迷い人であることを隠していたこと自体は、別にかまわないのよ。それ自体は正しいこと。問題は……学園や王都で知られることは、今より危険ってことを知っておくべきね」


──迷い人異世界人は、この世界においては一種の『座敷童』的な扱いがあるらしく、過去に誘拐されたり、あるいは借金にハメて捕えられたりと、貴族によっては手段を選ばずに狙われる可能性があるらしい。


ウェスヘイム子爵が、確かにそれに近いような話はしていた記憶がある。


恐らくは、パーティメンバーの成長ポイントを割り振ることで能力を底上げしたり、あるいは知識チートによって地域の経済に影響を与えたりと、過去にその存在が周りに好影響を与えてきた結果なのだろう。


……一説には、『座敷童』って庄屋様とか長者とかのお屋敷の座敷牢に捕えられてた忌み子みたいな存在で、そういった子を生かせるだけの財力があるという象徴だったって話があるよね。


で、そんな『座敷童』がいつの間にかいなくなったということは……みたいな話が、因果を逆にして『座敷童が去ったから』だと伝承されるようになって、幸運と不幸の象徴として伝えられるようになったとかなんとか。あくまで一説には、だけど。


「つまり……発覚しバレないように大人しくしておけってことか」


「は? 無理でしょ、そんなこと。フィファウデの会議室でベルトさんに怒鳴られた時のこと、もう忘れたの?」


…………ごもっともで。


「私が勘付いたのは、ヨンキーファという場所だったからってのはあるけど、他領の貴族だったらそれこそ貴族語丁寧語と他の貴族知識の落差とかで怪しむと思うわ。……王都に着くまでたっぷり時間はあるんだから、色々と覚えてもらうわよ」


──それから王都までの道中、リナや時折クララも交えつつ、有力貴族の名前や役割、礼儀作法、貴族としての慣習などの講義が行われた。


途中の街で冒険者ギルドに寄って、シルバーBランクゴールドAランクの昇格試験の勉強にも使うという教本を借りたりもした。


……『道中が退屈だ』、なんて思っていたのが、どうやらフラグだったらしい。


でもまあ、うん。ここは彼女の親切・・をありがたく受け取っておこう。


姉、なんだそうだし。不本意ながらだけど。

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