第189話 面識
俺たちは後方の窓際にちょうど空いていた2行2列の4席へと腰を下ろした。
他の生徒も割と散らばって座っていて、特に座席指定は無い様子だし。
教室は、Sクラスだからといって、黒板が大理石や金箔で縁取られていることも無く、机や椅子が高級感あふれる木材で作られていることもなかった。
割と簡素な鉄や木材、石材などで作られており、丈夫さに主眼が置かれているように見える。
……いや待て、あまりに普通すぎて見過ごしてしまうところだけど、これだけ前世における教室を踏襲してるのはどうなんだろう。
まあ、拠点の間取りとかも既視感あふれる前世のワンルーム的な
普通に黒板が黒板だもんなー。
あんまり手で叩いたりはしたくないけど、黒板消しも【
「……ねえ、ちょっと聞いてるの? ロブ」
おっと、教室を眺めていたら、前の席に座ったリナが振り向いて声をかけてきていたようだ。
「ああ、ごめん。何の話だった?」
「何の話、じゃないでしょ。なんで隣国からの留学生とあんたが面識あるのかって話に決まってるじゃない」
あー、うーん……まあ、そりゃそうなんだろうけど……
「……ごめん、この場では説明しにくいから、別の場所で話す。ちょっと込み入った話なんだよ」
「はぁ……本当、今度は何をしたんだか」
まあ、下手に誤魔化すのが無理ってなったら、もうルーデミリュの件もバラすしかないのかなー、とは思っている。
ただ、流石に教室内で話すのは憚られるので、この後にどこか個室とか借りられるといいんだけど。
「リナ、学園でどこか会議室とか借りられたりできないもんかな。何かワルターさんから聞いてない?」
「会議室? ギルドじゃないもの、そんな施設は無いと思うけ────あー、ちょっと待って……えーと、そう、たしか学園側の食堂に貴族用の会食ができる場所があるって話を聞いた気がするわ」
どうやら、探索実習の際に補助員的な役割として著名な冒険者を招くことがあり、そういった場合に会食する場として使えるように、食堂と併設された個室が用意されているんだとか。
それらの個室は、授業とは関係なくても事前の予約と
食堂か……まあ、利用資格みたいなものがある可能性はあるけど、その辺りは確認しないと分からないな。
「ありがとう、説明会が終わったら使えるか確認しよう」
一旦その件はまた後でとして、だ。どうやら教師はまだ来ないらしい。
あれ、そういえばヌールちゃんは? と思って横を見ると、前に座るクララと気が合ったのか、2人で何やら話をしていた。
ちょうど今は、クララの勤めていた教会の話をしているようだ。
ふと学級内へとそのまま目線が移ると、先ほどまでこちらに目線を向けていたSクラスの生徒たちは、いくつかある集団の中での会話に戻っているようだった。
ざっと見た感じでは、男女比は半々かな。俺たち4人を入れて、計20人ってところか。
座席は6行5列の30席あるんだけど、全部は埋まらない想定なんだろうか。
他の学級は38人前後って話だから、随分と余裕がある室内になりそうだ。
「…………ん?」
いくつかある集団の中の1つが、こちらに向かって歩いてくるようだ。
先頭を歩いてくるのは、高貴さを感じさせる強めの金髪に、顔は若干の幼さを残す美男子顔。明らかに雅な血筋を感じさせる雰囲気。
そこにお付きの2人みたいな感じで、割とモブっぽい男2人を引き連れている。
いや、普通に見れば整った顔立ちなんだけど、光が強いと周りは影が出来やすいというか。
「アルベルト様、またお会いできて光栄です」
リナが立ち上がり、
うん、なるほど。リナが上位貴族で面識がある男……といった辺りで、ピンと来た。
「ああ、こんなに早く再会することになろうとはね。兄に付き添って挨拶しておいて正解だったよ」
リナが王都に着いてからご挨拶に行った、公爵家のご令息というのが彼の兄だったのだろう。その際に、同席していて面識をもったのが彼ということらしい。
「しかし……どうしてここに? 言ってはなんだけど、このSクラスは上位貴族が集められるところだ。こう、息が詰まってしまうのではないかな?」
おや、この雅メン。こちらやクララにも目線をちらりと向けて、庶民が貴族に紛れ込んでしまった状況を心配してくれているらしい。
実際そうなんだけどさ。貴族令嬢モノだとよくあるよね、貴族から選ばれた花嫁候補の中に、1人だけ庶民とか貧乏貴族の末娘とかが混じってる展開。
そこまで針の
「私や一緒に入った2人も、張り出されていたものを見て驚いていたところなのです。何かの間違いなのか、この後の説明会などで問い合わせるべきかと思っておりました」
「まあ、君たちの
今度はちらりとヌールちゃんへと視線を向けた。なるほど、そういった推察で同行していたのだと踏んでいるわけか。
うーん確かに、被害に遭わなかった生徒たちも、巻き込まれるかもしれなかった誘拐事件の話となると、大半は全く興味がないとはならないだろうしなぁ。
仮に本人はそうじゃなかったとしても、親御さんにとっては万が一があり得たと考えるだろうし。何かしらの形で耳に入っている可能性は高そうだ。
ましてや、そこまで娯楽の多くない世界だもんなぁ。
王都からの帰り道で垣間見た、地方の街まで話が届く速度の速さといったら、恐ろしいものがあったよね。
噂話ってやつも、会話のきっかけや酒の肴になるのだろうし。
しかし、『特別待遇生』か……何かそれに近しいことは学園長が言ってたんだよなぁ。
別に【剣聖】やら【賢者】やらのスキルを持っているわけじゃないんだけど。
成長スキルのポイントを振ることも、既に女神像公開から4カ月ほど経過して珍しいことでもなくなりつつあるから、『女神の恩寵』なんてのも意味は失われてしまったようなもんだし。
ちなみに、着実に冒険者の到達階層は全国的に上がってきているらしいよ。ベルトたちも、今度35層に挑戦するそうだし。
「……彼も、相当な腕の持ち主らしいね? 君たちとパーティを組んでいるだけあって、只者ではないんだろうけど」
げっ、俺のことも調べられているのかよ。あの試験官とかに聞き取り調査とかが入ってたりするのだろうか。
いやいや、あっしはしがない
とりあえず三下ムーブで苦笑いしつつ何も言わずに、へこへこと頭を下げておいた。
「まあ、このままSクラスになるようであれば、よろしくお願いするよ。それじゃ」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
雅メンはそんな感じで、片手を上げながら話を切り上げて戻っていった。
心配して向こうから話しかけてきてくれるなんて、面会をしておいた甲斐があったってもんじゃないか。
……なんか、戻ったのを見届けたリナが、ごく小さく疲れた感じのため息をついたのが気になるけど。
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