第178話 雑談
「でも、仮に婚約するにしても、1つだけ気になってることがあるんだけど……」
下世話な話になってしまいそうで何ではあるけど……年頃の女の子を待たせるのって、どうなんだろう。
前世でも、少子高齢化が進んでよく聞かれるようになった、いわゆる『妊活』ってやつに関わるから、あまり待たせたくはないなって。
流石に
ナディーヌさんとは、少なくとも学園にいる1年間は最低でも離れる必要があるわけで、その間はお待たせすることになってしまう。
「待たせる…………? あ、そうか」
一瞬、クロエは何の話か分からないという表情を見せたが、何かに気づいたらしい。
「年齢とかについては、そこまで気にしなくていい。父は25で結婚したけど、母は父より20歳年上だし」
…………なるほど、エルフか。
そうだった、そういうのがあったか。
エルフの血を引いていて特徴がある程度出た人は、普通の人よりも1.5〜2倍程度は長生きするそうで、それに従って身体的な意味での結婚適齢期というのも20代〜40代ということになるらしい。
ナディーヌさんはクロエより3つ年上だそうだけど、エルフにしてみれば時期として遅いというほどでもなく、全然待てる範囲ということになるようだ。
しかし……そうか。
侯爵ことブノアさんは、姉さん女房を選んだと言うことか。
もしかして、非常に気が合うかもしれない。うん。
……でも逆に、ヌールちゃんをスケさんに紹介できるのは、最低でも10年後とかになりそうだ。
◇◆◇
「ところで、一昨日ナディーヌさんとお茶を飲みにお店に入った時、なんか絡んできた男がいたんだけど心当たりってある?」
この2日間でナディーヌさんやヌールちゃんと何をしていたのかという話題であれこれ話した後、クロエがあの男について知っているかもと思って訊いてみることにした。
あの三下のチンピラ感ある輩って外見を、記憶にある限りでクロエに伝えると、なんか思い当たる人物像が頭に浮かんだのか、眉を顰めた。
「……たぶん、オーブリー家の嫡男、アンリ。学園で3年間、お姉様に嫌がらせしていた男」
うん、予想は大体あってた。
幼馴染とかも可能性としては否定できなかったけど、もし派閥とかが絡んでいて親が引き合わせたとかだったら、ナディーヌさんも俺を引き留めて、何かしら最低限の対応をしていたと思うんだよね。
「ああ見えて勉強はできたようで、授業の成績は優秀だった。……でも、お姉様はもっと優秀だったから、座学でも実技でも万年2位だった」
うわぁ、なんか見えてきたな。
それで貶せるのが体型ぐらいしか無かったから、そこでいじってきたとかそういうやつか。
てか、あんな見た目で勉強できたのかよ。だったら、もっと他に上手い生き方もあっただろうに。
「ベロ家の悪い噂が出回り始めたのが、ちょうど私が学園に入った頃だった。恐らく、漏れ出したのがその頃ってだけで、お姉様がいた頃から何かと貶めようと動いていたんだと思う」
なるほどね。意識せずとも問題が耳に入ってくる状況は、その水面下でいくつも問題が隠れたまま発生していた結果だってのは、ありえそうな話だ。
実習の際の割り当てなどで、仕組まれていると疑わしい場面があり、それが教員まで絡んでいたとなれば、到底貴族の子息だけで出来ることではない。
そういった感じの、組織的な犯行の疑いがある出来事がいくつかあったそうな。
……うーん、やっぱり処すか。あいつ。
王宮がクレーターと化したり、
でも、いずれにせよナディーヌさんに手を出そうって考えた時点で
本能的に
それに、なぜか何もないところで躓いて、壁際の花瓶に突っ込んでしまったことを、逆恨みしているかもわからないし。
「ちなみに、そのオーブリー家の場所ってどこにあるか分かる?」
「たぶん。10年で変わってなければだけど。……ロブ、何かする気?」
「まさか。ちょっと、手を出してこないような、
おまじないって漢字で書くとちょっと字面が怖くなるよね。御呪い。
◇◆◇
「そういえば、ナディーヌさんって学園で成績1位だったんだ、凄いな」
実際のところ、ナディーヌさんのことは何も知らないんだよね。1日デートしてみたって程度で。
確かに、リナの兄であるワルター氏と話している時に感じた、軽妙さがあった気はする。頭の回転がいい感じというか。
「お姉様は本当に凄い。歴史とか法律とかが得意で、ほぼ定期試験でも満点だったみたい」
なんだろう、してないけど眼鏡をクイッとしている姿が頭に浮かんだ。いいね。今度お願いしてみようかな。
「私に【精霊魔法】の基本を教えてくれたのもお姉様。得意なのは精神系統で、【睡眠】とか【覚醒】とか、学校では出ないものをいくつも教えてもらった」
そういや、クロエと初めて会った際に、ちょうどそれらを使って捕縛していたな。
あの穴に落とした世紀末みたいな奴らを回収する作業の時にね。懐かしい。
てか、ナディーヌさん精神系統が得意なのか……クロエも自白させる方法があるって言ってたし、下手な嘘を隠そうとしたら碌なことにはならなそうだ。
「ただ、運動はちょっと苦手。その分、動かなくても戦えるような魔法の扱いが上手い」
うん、まあ、確かに予想はしてた。
スケさんの【暴食】みたいな、カロリーを攻撃力に変換できるスキルでもない限り、食べた分だけ消耗しなければ蓄積されてしまうわけで。
でも、むしろそれがいいので、健康を害さない範囲で美味しく食べてほしいよね。うん。
「やっぱり、こっちの学園でもダンジョンでの実習はあったの?」
「うん、学園で管理するダンジョンが2つあって、そこで実習とか試験とかもやった。あとは、3年の時に近くの高難度ダンジョンに腕試しとして潜ったりもした」
おお、なんか本格的。面白そう。
そういや、こっちの冒険者ギルドは
その分だけ、ダンジョンへ入る心理的な障壁が低めで、その分だけ最終的な目標地点が高くなり、挑戦的な実習が組まれているのかもしれない。
「クロエはどうだった? 学園時代は」
「私は…………普通」
……あれ? 割とお姉様関連の語り口は軽かったのに、自分のことは急に重くなった感じ。
「何か得意だったことは?」
「……実習?」
まあ、クロエの腕があれば、当時から活躍できてそうではある。
フィファウデで20層まで向かう際も、戦っているのを見せてもらったけど、魔法を遠隔で当てるのも上手いし、ベルトやグスタフなど前衛がいることを加味した火力の調整など、立ち回りも上手かった。
「座学の方はあんまり得意ではなかったとか?」
「嫌いでは無かったけど……実習の探索ほど夢中にはならなかった」
一応、上位層に入る程度には成績も良かったようだけど、頑張って1位を取りたいと思える程度まで好きではなかったようだ。
というか、ふと思ったんだけど。
「クロエ、割と自分のこと話すの苦手?」
「…………そうかも」
うーん、まあ、10年も隠してきたようなものだし、仕方ないのかな。
この辺りは、クロエにナディーヌさんの話を訊いたように、ナディーヌさんからクロエのことを訊いてみるのもいいかもしれない。
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