第125話 名状し難い空飛ぶ物体
とりあえず護衛の件もあるし早めにリナと合流したい。【気配察知】でどちらにいるかを探しておこう。
ああそうそう、【気配察知】がようやくLv.3に上がって、
▼気配察知 Lv.3/2%
使用可能:
【生物察知】【長距離察知】【気配追跡】
性能補正:
MP消費軽減 5%
隠蔽看破10%
距離延長20%
新たに追加された【気配追跡】は、既知の相手が感知範囲にいれば、どこにいるかが察知できる。
今回の護衛を前にして追加されるとか、
あと、【気配察知】自体が少し使いやすくなって、スキル使用を『連続運転』できるようになった。いわゆる
いや、元から使いたい時に起動する必要がある
まあ、先ほどまで使っていた視界の身体強化と同様に、任意にオンオフできる機能になっているので、前世における用語とは厳密には違いそうだけど。
ああ、この【気配察知】も視界の身体強化とは相性が悪いんだった。対象物が多いと特に死にかける。
ついでに言えば、性能補正で距離延長も入ったので、今までより2割遠くまで感知できるようになった。
スキルレベルが上がったら、もっと広くなったりするだろうか。
さて、なかなか便利になった【気配察知】を早速使っていくと、だ。リナは…………あっちか。
あれ、なんか細かく動いている気配があるから、まだ戦っているのだろうか?
他の受験者たちは殆どがまだ戦っていて、ちょうどその向こう側にいるため今の場所からだと見えにくい……とっとと会場から出ようか。
……と、その視界の端に、先ほどまでの戦っていた少女が映った。
流石にOTZまでは至っていないが、しゃがみ込んでしまっている。
「……大丈夫です?」
なんとなく放置するのも
「あ……はい、あの、はい…………」
いや、言葉が喋れなくなるほどって、どれだけ
あれ、でも相手を見失うのって考えてみれば、その域の現象なのか? うん?
……なんかスケさんとかリナとかを見慣れてしまったからか、普通の基準がおかしくなっている可能性はある。
「とりあえず、出口はあちらのようなので、出ましょうか」
幸い、リナがいる場所は出口の方向にあるようなので、近づいていけば見れるかもしれない。
思わず小さい子へと差し伸べる感じで右手を出してしまった後で、今更ながらこの子って、立ち上がらせるためにであっても、こんな手を触れてもいい相手なんだろうか、ということが気になった。
いや、対戦相手ってこともあって、あまり気にしないようにしてたんだけどさ。
まして、午前とは違ってそこそこ運動しやすいような体操服っぽいものに着替えてる人が大半だから、お貴族様か兵士志望の平民かも見分けがつかないし。
もし事前に知ってしまった上でやったら完全に罪だけど、知らずにやってたら『知らずにとんだご無礼を……!!』と五体投地すれば、微生物以下に怒っても仕方ないと命ばかりは助けてもらえるかもしれないしね。
……なんて、余計なことを考えてたのが間違いだった。
彼女の後ろから、さっきから点けっぱなしだった【気配感知】で、何かが急速に近づいてきていることに気付いたのは、もう避けられそうにない距離で。
俺は咄嗟に手を引いて彼女の身体と位置を入れ替えると同時に、視界を遅延させた。
──視界を遅延させた後に彼女を持ち上げたり突き飛ばしたりするのは、当然ながら身体強化した状態での凄まじい
遅延した視界で、振り向いた先のもう1mも無い距離にあったのは……うわっ、やべえ、グロ中尉なんてもんじゃねえぞこれ。
顔らしきものの顎がまず粉砕されてて、なんか変な液で
…………あ、これ、
てことは飛ばしてきたの、確実にリナじゃねえか。まさか狙ってきたんじゃないだろうな?
正直、バットでもあれば地面をこするような下からのアッパースイングでグワァラゴワガキーンとばかりに悪球打ちをかましたかったけど、残念ながら武器はさっき返してしまったし。木製のナイフでは流石に長さも強度も足りないし。
とはいえ【結界】の魔道具を使うのは勿体無いし、下手したら魔道具を使ったことで不正を働いたと見られる可能性もある。
ギリギリまで悩んだ挙句、最後に至った結論は…………彼を優しく受け止めてあげることだった。
拳で。
……ま、クララの【
むしろ、どこか脳が治る可能性すらある。
俺は、近づいてくる顔の鼻の位置へと丁寧に拳を当てて、足を踏ん張るように身体強化をかけてから、視界を元に戻した。
◇◆◇
※しばらくおまちください
◇◆◇
……うん、とりあえず応急処置として上級HPポーションはぶっかけておいた。
名状し難い物体から名状し難い呼び声がして、名状し難い生暖かい感覚で左手が包まれたけど、心を無にして何か液が飛んでくるのを我慢した。
なんかピクピクしてるから、たぶん生きてる。残念ながら。
てか、こういうのは死にそうで死なないからね、G並にしぶといのが世の常だから。
まあ、そっちはいいのよ。引き抜いた左手や飛び散った液のかかった服には既に【
……問題は逆側、右手の方というか。
「……あの、すみません、大丈夫ですか?」
「あ……ああ…………」
いや、別に彼女はSAN値直葬して発狂してるわけでは無いようでして……。
こう、俺が手を引いて身体を入れ替えた体制が、丁度右腕で肩を抱き寄せたような格好になっていたようでして……ね。
……あの、俺、別にこういったベッタベタなラッキー
あ、意識失った。力が抜けて軟体になった。
「……何してるのかしら?」
後ろから声がしたので振り返ると、まあ声の調子から予想してたけどリナが半目でこちらを見ていた。
襲ってるように見えなくもないけど……でも、そもそもこの状況作ったの貴女ですよね?
「……なんか高速で飛行してきた名状し難い物体があったから、対戦相手だった彼女を身体を張って守ってあげたところだよ」
「それは…………悪かったわね、被害を抑えてもらったことには感謝するわ」
まあ、謝罪するつもりがあるのであれば、責任もってこの状況の収束に協力していただこうかな。
……流石に俺が彼女をこのまま抱き留めているのはマズいから、とっととこの場を代わっていただきたいんだよ。
腕の中の生温かさが、非常に罪悪感を高めてしまってですね。
でもそうなると、だ。
「……じゃあ、悪いけど
そう、名状し難い肉塊の方は、俺の方の担当となってしまうわけで。
いや、本来はこんなの絶対に学園の係員のお仕事だと思うんだけど……実は向こうで1人、暴れている係員がいるらしくて、そっちで応援呼ばれて収拾つかなくなってるらしいし。
……絶対に
てか、
◇◆◇
ご覧の小説は『運び屋ロブ』です。
物語の途中ですが、前世の方面より
緊急特別番組
『子爵令嬢の証言 〜辺境伯令息の卑劣なる罠〜』
脚本・演出:カタリーナ・ウェスヘイム
では、引き続き『運び屋ロブ』でお楽しみ下さい。
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