第227話 戦利品

上位種を狙って球を格納門砲ゲートキャノンで撃っていくと、なんとか無双みたいにオークが吹っ飛んでいき、遺体の消失と共に宝箱が出現するのを繰り返す。


一気に数を倒して分かったこととして、ハイオークから得られた戦利品ドロップだと思っていた銀枠は、普通のオークからも落ちる場合があるようだ。


恐らくは数%とかの低確率だろうけど、なるほどこうして数がいると、記録データを取るのにも重宝する。


「ちょっと、ロブ! いつまで続けるのよコレ!?」


「え? ああ、とりあえずハイオークを狩り終わったらかな。あと5〜6体だから、もうちょっと待ってて」


せっかくの狩場だし、枯渇させないつもりではいるんだけど、もう1つの理由で殲滅は避けようと考えている。


というのも、10年前の出現時の余談エピソードで、『部屋を攻略すると、別の部屋が新たな魔物部屋モンスターハウスになる』という現象が確認されていて、『一度発生すると収束に時間がかかる』という話があったのだ。


これを聞いた時は、前世のパチンコとかでよく聞く『連チャン』ってヤツなのかと思ったんだけど……この部屋が存在していたなら、話は変わってくる。


要は、10年前に魔物部屋モンスターハウスの発生が収束したわけではなく、その仕組みがずっと今に・・至る・・まで・・稼働し続けていたわけだ。


恐らく10年前、別の小部屋で魔物部屋モンスターハウスを倒し終わった後に、抽選されたのがこの部屋だったのだろう。


で、それ以降は『新たな魔物部屋モンスターハウスが発見されない』上に、誰も攻略しないことで『別の部屋に遷移しなくなった』わけで。


そりゃそうだ、どこともこの部屋は繋がってないし、魔物もどこにも出ていかないのだから。


結果、見た目上は『収束した』かのように見えていた、ということだったのだと思う。


◇◆◇


「……ってことで、この部屋は上位だけ間引いたら放置って方針で行こうと思うんだけど、どうだろう?」


ひと通り間引き終わったところで、この小部屋の上にある魔物部屋モンスターハウスに関する仮説をリナたちに説明しつつ、今後の方針を相談した。


「正直、あんた以外には上の部屋に手を出せないんだから、好きにしたらいいんじゃない……って言いたいところだけど、確かに魔物部屋モンスターハウスが再度涌き始めるってのは被害が出そうだし、穏やかじゃないわね」


うん、もし収束していた魔物部屋モンスターハウスが再びダンジョン内に出回るようになったら、ある意味で人災というか、MMOとかで言うところのPKPlayerKillingみたいになってしまうわけだし。


「まあ、いい感じに『成長レベリング』とポーション回収できる場所って考えると、発見できたのは相当運が良かったんじゃないかな」


「……だから、こんな場所をどう・・こう・・できるのは、あんただけだって言ってんでしょ。そもそも、倒したっていう色違いのオークだって、何だったか分からないんだし」


……まあ確かに、それはそうなんだけど。


あ、そうだ。ポーション回収といえば。


「…………あれ?」


「何? まだ何かやらかしてるわけ?」


「いや、宝箱を回収したはずなんだけど……」


そう、【空間収納】に入れたはずの宝箱が、項目に見当たらないのだ。


……いや、今日の分の戦利品ドロップとして仕分けてあるところに、大量の見覚えないポーションがあるから、これか?


宝箱の中身だけ回収した、ってことでいいんだろうか。


……と思ったけど、そういえば宝箱って中身を取り出すと消失する仕様だし、魔物の身体と同じで【空間収納】に回収しようとしても消えてしまうのか。


「ああ、宝箱の中身だけ回収できてたっぽい。結構な量になったよ」


・中級HP×48本

・上級HP×12本

・初級MP×20本

・中級MP×2本

・毒消し ×8本

・麻痺消し×5本


何がどの箱から落ちたかは分からなくなってしまったが、銅枠までに見たことがない『上級HP』と『中級MP』は、恐らく銀枠か金枠から落ちたものだろう。


概算で……大銀貨16枚160万円ぐらい。半年ぐらいは遊んで暮らせる額を、ほんの4半鐘30分ぐらいで稼いでしまった。


「……どうすんのよ、これ」


一応、この計100本近いポーションを、適当な浅めの木箱を作って並べていったが、本当に山のようになってしまった。


「まあ、少なくとも上級HPと中級MPは、銀枠が出るようになってからだろうね」


……まあ、正直なところ30層ぐらいに行けば銀枠も普通に落ちるだろうし、この辺りであれば問題ないんだ。


「……で、これなんだけど」


最後に1本、ちょっと問題になりそうな、どこかで見たことがある、青み・・がか・・った・・白色の・・・液体・・を取り出した。


……うん、前に手に入れたのとは別なことは、さっき念のため確認したんだよね。これ2本目みたいで。


「……見なかったことにしていい?」


「……そうするか」


うん、流石にまだ蘇生薬1億円を手に入れるには早い気がする。


何らかの理由でシルバーBランクにならなければいけない時でも来たら、これで愚痴マスに強請ねだりにでも行くとしよう。


◇◆◇


「ここをキャンプ地とする!」


はい、とりあえず何もなかったかのように探索の方に戻りましてね。18層の階段近くまでやってきましたよ。


……まあ、ブートとテアは急激に8レベルも上がったから動きに違和感が出てるようなので、戦闘回数は少し多めにして慣れてもらいながら来た。


そのため予定より若干遅くなり、7の鐘18時を回ろうとしていた。


手早く小部屋へと土を敷いて、その上にテントを並べていく。


そうそう、休憩時に椅子を置く際に思いついた技で、【通過対象指定】を逆手に取って『土』を対象外に指定し、速度をつけて格納門を降り下すことで、簡単に固めることが出来るようになった。


なんか道路工事とかでバンバン地面を叩く機械のやつ。アレが出来ないかと思ったんだけど、案外上手くいった。


格納門って、縁に物理衝撃が入ると弱いっていう弱点があるんだけど、正面からだと案外衝撃耐性があるのかもしれない。


テントは組み立て済みのものが入っているので、そのまま並べれば完了だ。3人用を3つ置いて、2つは女子用で使ってもらう。


敷物マットも人数分用意してあるので抜かりはない。運び屋ポーターの面目躍如ってやつだ。


流石に風呂は用意できないけど、【清潔クリーン】は提供サービスしている。温泉は打ち解けたらそのうちってことでね。


夕食と明日の朝食用に椅子と長机も用意して、準備は完了だ。


「……ブート、テア、来年以降はこの水準の準備は期待しないでね」


「……ああ、流石にこの環境が誰でも用意できるものじゃないことは分かってるよ」


「下手な旅より快適かもしれないですね……こんな寝台ベッドみたいな敷物マットなんて大荷物すぎて持ち歩けませんし」


……まあ、当店独自オリジナル提供サービスってことでね。


そのうち、稼げるようになったら相応の値段でヴァル氏の魔法袋を譲るとかで、ある程度の荷物は持ち運べるようになれば問題は解消されるとは思うけどね。


ただ、魔法袋はラビット氏みたいに身の丈に合わないと狙われるって話もあるから、彼女たちには稼ぎとは別に強くなってもらう必要がありそうだ。


「それじゃ、今日はここで一泊するから、後で夜番を決めることにしようか」


魔物じゃなくても、普通に学生の冒険者や王立騎士団が入ってくる可能性もあるので、交代で見張りを立てることにしていた。


3交代で約鐘1つ半3時間程度の予定だ。


順番は……くじ引きででも決めようか。


これ、真ん中の時間帯は一度起きる必要が出てくるから、寝る時間が細切れになって、翌日辛いんだよな……。


前世の頃、臨時で入った展示会施設の夜間警備のバイトで真ん中に当たってしまい、翌朝10時の交代の時間が永遠かと思うぐらい辛かった時があったなぁ。


まあ、流石に警備とは違って、多少は組んだ相手と話をしても問題ないだろうから、気は紛れそうだけど。

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