第31話 入口へ
「それで……さっきこの先に話す相手がいるって言ってたけど、ここは勇者だったスケさんが力尽きるほどの場所だったんだよね? そんなとこじゃ、来たばっかりの俺は歯が立たなそうだ」
そう、今の話をまとめると、だ。
スケさんは生前に勇者をやっていて、魔王を倒したという御伽噺クラスの人物だ。
それを前提とすると、このダンジョンについて徐々に嫌な予感が高まっていくわけで。
スケさんにとっては、蚊が腕に止まったから叩いたぐらいのつもりでも、俺にとっては
まして、力尽きるような状況に追い込まれたとあっては、残機が99あっても秒で溶けそうだ。
確かに、そんなダンジョンで生き残れる実力があれば勝ち組かもしれないが、初見で
そういや、ラスダンで鍛えられた転生モノってのも結構あったよな。あれもギフトやロールプレイで偶発的に得たスキルによる生存バイアスの賜物って感じだよなぁ。現実では絶対勘弁してほしい。
「いや、ここで出る魔物はそんな強うないで。ワイが死んだ理由はあくまで餓死やからな」
んん? 確かに空腹が限界で力尽きた、とは言ってた気がするけど。
「最強で鳴らしたワイの唯一の弱点やってん、空腹は。来たばっかり言うてたしそこまで知らんのやろうけど、ワイは『暴食の勇者』言われててな。食えば食うほど物理も魔法も強力な攻撃ができるっていうスキルやったんや」
話によると、カロリーをMPなどのように消費して攻撃に乗せるギフトで最強に至ったそうで、代わりに空腹だと一切のスキルが発揮できなかったとか。
このダンジョンには調査目的で入ったらしいけど、頃合いを見て撤退した時に崩落が起こり、先行していた仲間と分断されてしまったらしい。
「カロリーバーの1つでも残しとったら、こんな崩落でも軽く吹き飛ばせたんやけどなぁ、荷物は先に行ったヤツらが持ってってしもうてな。もう出口やから帰って街で飲もうやと気ぃ抜いていたツケやな。しゃーない」
……やはり、
「それにしても、兄ちゃんそんだけ魔力あんのに
「教会のシスターにも魔力多いって言われたけど、残念ながら言った通り
不意打ち騙し討ち上等、本体は隙だらけの近接最弱なんだよなぁ。
身体強化っぽいのは出来るようだけど、それを意識して前衛並みに動くとかイメージできない。
「あー、【空間収納】なぁ。それこそボウガンみたいな弾数勝負で有利ってとこか。容量次第では大量の水をキープしといて水責めとか、数トンの鉄塊落として潰すとかも出来るやろうけど、ダンジョンの狭い階とかでは難しいとこやな」
「まさにそれ、ってやつで。一応、こんな技はあるんだけどね」
とりあえず、今持ってる最大の攻撃である、格納門を使った不意打ちを見てもらおう。
格納門をスケさんの肩の後ろに出し、前方に作った門と接続して中に手を突っ込もうとしたんだけど……
「ん? おおっ! なるほど、こりゃええな」
「あれっ?」
いや、今、後ろから肩を叩こうとする前に完全に気づかれてなかったか?
「これなら確かに低階層の物理系なら敵にならんやろな。ただ、ある程度ダンジョンの魔素を吸収して魔力を貯めた魔物になると、この黒いモヤが出る瞬間に魔力の揺らぎで気付かれるかもしれん」
あー、なるほど魔力感知か。それは確かに懸念してた。
貴族の暗殺とかでも、魔道具とかで結界でも張られてたらマズいだろうなって。
「まあ、なんぼでもやりようはあるけどな。こういうんは起動に魔力使うやろ? やから、遠くで起動させてから移動するとか、そもそも起動の魔力が少なくて済む小さいのを出してから大きくするとかな」
…………。
パッと対策思いつくの、やばない?
この人、自ら天才の呼称を持ち出してただけあって、魔法とか魔力操作とかについては本当に規格外なのかもしれない。
「ワイも魔王を倒す道中で散々使うたからな、発動偽装は。案外、魔力に自信あるヤツほど魔力感知を過信してコロッとひっかかりよるんや。戦う前に勝負が終わってることも少なくなかったんやで」
軽く聞いた勇者伝でも、突如現れて1人で世界を救ったみたいや御伽噺だったので、色々と
「ほんなら、兄ちゃんも訓練していくか? ここのヤツらにせがまれて、時々教えてるんやけどな」
「え、いいの? すごい助かるというか、願ったり叶ったりだけど」
マジか、元勇者による訓練とか最高すぎる。
あれ、でも……
「ここのヤツ
「言うたやろ、このダンジョンでの喋り相手や。この先の層におるから紹介したる。まあ、道中で魔物とかを試しに倒してみてもええやろ。ほな行こか」
「ちょ、ちょっと待っ……」
ダンジョン内にいる『喋り相手』なんて嫌な予感しかしない。しかも、喋れる知能がある相手が『ヤツら』と複数人いることを既に示唆している。
「ええからええから」
俺は、流されるままに背中を押されて、初めてのダンジョンの奥へと進んでいった。
◇◆◇
通路は暗かったので、所々で灯火の魔道具に魔石を置きながら進んでいった。
しかし、しばらくすると既に魔道具の明かりが灯ったような明るく開けた空間へと出た。
「ここからが正式にダンジョンてことになるらしいな。開始地点のこの部屋が『
うん、定番の休憩場所ってやつだ。なんか土嚢みたいなのが積まれてたり砂利とかが山になってたりするが、街中のコンビニ程度の広さはあり、数パーティは休憩できそうな感じだ。
一応は部屋内にも魔道具の明かりが壁に配置されてはいるものの、どうやらダンジョンは魔素で満たされてる影響なのか、くもりの天気の昼間程度には明るいらしい。
ただし、一部意図のあるギミックで暗闇の中を探索させるフロアもあるらしい、けど。
「せや、こっちの壁ん中に
そう言ってスケさんが壁際にある、高さが肋骨ほどの台座のような岩へと向かっていく。
岩に触れると、自動ドアのようにスッと壁が横にスライドして小部屋が出現した。
どうやら、ダンジョンものによくある階層ワープ機能が、ここにも標準装備されているようだ。これは戻ってくることを考えると非常に助かる。
小部屋の中にはまた肋骨ほどの高さの台座があって、そこに頭ひとつほどの水晶が乗っている。
「5層ごとに、ここと同じ
ちなみに、その水晶から別の層に行く時にどうするかと言えば、タッチパネル式だった。
水晶表面に階層の候補が出て、そこから選択すれば指定の層に飛べるらしい。
「……あー、そうやったそうやった。失敗したな、
どうやら、喋り相手の層まで飛べる想定だった、ということだろうか。
まあ、ダンジョンの
いずれにせよ、俺の中では自力到達が大前提だったので、一瞬何を失敗したと言ってるのか理解が追いつかなかった。
「しゃーない、今日は体力的に行けるところまで行きながら、兄ちゃんの戦闘でも見させてもらおか」
「わかりました、よろしくお願いします」
そんな感じで
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