第30話 スケさん

「いやー、まさかまさか。こんな誰かと会うてまた話すことがあるとは思うてなかったわ。ワシがここに閉じ込められてどんだけ経っとるんやろなぁ。ま、骨になるぐらいやから5年10年やないな。ヒャヒャヒャ」


カチャカチャ言わせながらケタケタと笑う骸骨スケルトン氏。


「ワイはカサニタスや。兄ちゃんの名前は?」


運び屋ポーターのロブ。同じく、まさか廃坑で骸骨スケルトン出会でくわして、まして会話するなんて思いもしなかった」


「せやろな。ワイも骸骨スケルトンになるなんて思てもみいひんかったからな」


曰く、脱出しようにも空腹で限界に達して力尽きたと思ったのに、目が覚めてみると既にその身体が骨になっていたらしい。


元人間、骸骨スケルトン化、年齢不詳、そんな相手との会話。もう色々と情報量が多い出来事に頭が追いつかない。


「せやから、この身体がこうなるまでどんだけ経ったのかは知らん。目ぇ覚めてからどんだけ経ったかも数えてへん。まあ、こうして喋れるようになるまでも結構かかった気ぃするけどな」


ああ、まずそれだ。おかしいのは。


「なんで喉も無いのに喋れてるのか不思議で仕方ないんだけど」


「ああ、コレか。いやー苦労したで。何せ肉体が無いからな、喉で振動も起こせん。せやから、代わりに魔力で喉を作ることを思いついてな」


……なんか変なこと言い出したなこの骸骨スケルトン。何だって?


「こう見えて、生前は天才とか救世主とか言われててん。刀を振れば街を襲う魔物たちをバッサバッサと切り伏せてな、魔法使えば空一面の魔獣どもを一網打尽ってなもんや。で、魔法のコントロールっちゅうのも一流だったわけやな。膜を想像して震わせることで音を出すまではすぐやったな」


『街を襲う魔物たちを』ってことは……もしかして、ダンジョン以前のフィールドモンスターがポップしてた時代の人ってことか。


で、聞いてる限りだと、もうスキルなんてカテゴリを抜いて、『魔力を操る』みたいな次元で話をしている。


「最初は赤ちゃんの喃語なんごレベルの『あー』とか『うー』とかしか喋れんのを、記憶を頼りに『どこを震わせる』とか『どこに籠らせる』とか探してな」


発音とか意識したことなんて一度もなかったけど、確かに声というものを1から作り出すのは難しそうなことに気がつく。


例えば、何も考えずに出せる『あ』の開いた口のまま『ロビンソン』と発音するのは相当難しい。


子音の音の出し方を再現して真似ると、舌だけ使って近づけることはできるけど。


そもそも、骸骨カサニタスには当然舌なんてものはない。見ての通り骨しかないわけだし。


「せやから、喉と舌と歯を模造して、あと下顎と上顎をそれぞれ覆う感じで膜を作って、ようやくそれらしい発音が出来るようになってんねんで」


ドヤ顔の骸骨カサニタスになるほどなぁ、と思ったところで、疑問というか、そもそも論が1つ浮かんできた。


「……別に閉じ込められてるし、喋れても使い道無くないか?」


「いやいや、全然使うとったで」


「え?」


使ってた。


使う……相手がいた?


「ああ、まだロブはこの先行っとらんのやな。ほな紹介したるからついていや」


「ちょちょちょ、ちょっと待って」


「あ、何や?」


「まだ聞きたいことがあってですね」


完全にマズい方向にどんどん話が向かってるので、心の準備のためにステイしてもらう。


もう完全に確信に変わりつつあるけど、これを聞かないわけにはいかないんだ。


「あの、ここって……ダンジョンなの?」


「せやで」


……せやで、って貴方ね。何を今更みたいに簡単に仰いますけどね。


「じゃあ、魔物ってのがいるわけで?」


「そら、ぎょ〜〜さんおるで」


いや、そんな嬉しそうに言われましても、そんなの全然期待して来たわけじゃないんですけどね、俺は。


「ははーん、さては兄ちゃん、ダンジョンに入ったこと無いんやな?」


「そりゃまあ。カサニタスさんの生きてた頃は違ったかもしれないけど、ダンジョンで死にすぎて規制入ったらしいから。ギルドが出来て暴発スタンピード対策に統制されてたり、経験積まないと入れなくなったりね」


まあ、この話もリーダーベルトたちからの聞きかじりでしかないんだけど。


「ほほー、なんや知らんけど、随分と過保護やなぁ。そやそや、カサニタス言いにくいやろ、カスでええで」


カス……。


あんまりニックネームで使うにははばかられる呼び名だな…………。


『こっちだカス!』とか全然罵倒だもんな。うーん、どうしたもんか。


「カス……は呼びにくいなぁ、響きが悪い」


「さよか? ほんなら何がええんや、まあ好きに呼んだらええけどな」


「そうだな…………あー、骸骨スケルトンだし、スケさんとかどう?」


「ああ、ええんやないか。剣の扱いは上手いしな。これでも痩せたら色男やったんやで? でもほうなると、もう1人肉体系のカクさんも欲しぅなるけどな」


カクさん……ああ、有名な水戸の御老公の時代劇か。煽りに煽って手を出させたところで最後は印籠出してひれ伏させる、ざまぁ展開でお馴染みの。


…………ん?


んんん??


「もしかして、その……スケさんって、異世界から来ました?」


前世の、しかも日本のテレビ番組のそれを知ってるってのは……確定だよな。


生前は俺と同じく借金のカタかで飛ばされてきた迷い人異世界人ってやつだったのかね。


何気に初めての地球出身者との邂逅かいこうかもしれない。マジか。


「なんや知っとったんかいな? まあこんなとこで行方不明になっても名前ぐらいは残してくれたようやな。せや、ワイが魔王を倒した、『暴食の勇者』その人やで。サインでもしたろか?」


…………え?


えっと、いや全然そんなつもりで聞いたわけじゃないんだけど。


いや、そんなことより、勇者? 魔王を倒した? え?


リーダーベルトたちが御伽噺おとぎばなしって言ってた、あの??


「まあ、勇者言うたら異世界から来た救世主て呼ばれて、一仕事終わって痩せた時だけは色男っちゅうので凱旋する時に毎度騒がれたもんやからな」


……当時、勇者はただ1人の異世界人として有名だった、とかそういうことか?


別に、痩せたら色男みたいなキーワードで見当ついたわけでもないから、非常に申し訳ない勘違いをさせてしまってるようだけど、どうしよう。


「いやー、あのクソ貴族どもは平和になった途端手のひら返しよってからにホンマどつき回したろ思うとったけど、なんや後世に語り継いでくれたやなんて可愛いとこがあるやないの。なぁなぁ、どんな風にワイの名は残っとるんや?」


「い、いやー、どうですかね、俺も魔王を滅ぼし世界を救った勇者様と、御伽噺に残っていると少しだけ伝え聞いたぐらいなんで。今度詳しく聞いておきます」


実際、さっきの話は結構気になる。


『クソ貴族』とやらが魔王討伐後に邪魔になった風なことからすると、もしかしてスケさんはその貴族の陰謀でここに閉じ込められたんじゃないかって。


これまた定番だもんな、平和になった後の勇者謀殺ぼうさつ


ああ、それよりも、こっちも身分を明かしておかないとな。


「それより、俺も実は異世界人ってやつなんだ。最近は『迷い人』って呼ばれてるようだけど」


「ほう! そいつは奇遇やなぁ〜、出身はどこの国なんや?」


「恐らくスケさんと同じかな、日本だよ。とある契約で片道切符の転送を受けたのが、ちょうど2週間前で」


「片道切符か……まあそうなんやろなぁ。ワイも知り合った地球出身の頭いい兄ちゃんに聞いたんやけど、ヘンカンがヒセンケイやとかなんとか言うてて目的地指定が絶望的、転送自体は出来たとしても行き先が当てずっぽうでは、同じ世界の同じ位置に行くなんて万単位のサイコロ振って全部1出すようなもんや言われたわ」


無茶すぎるガチャだなそれは……。向こうの世界に戻ったとしても、月面ならまだしも太陽とか引いたら秒で蒸発しちゃうわな。


まあ、帰還については元から期待してなかったし、特に思うところはないんだけど。

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