第224話 探索実習

ゾフィア先生によると、魔法陣学2で学ぶ重要な点は、この層の『移植』なんだそうで。


「『制御』の種類を見分け、またそらんじられるに越したことはないですが、それは必要な時に調べることを繰り返せば自然に覚えること。肝心の『移植』の実作業が出来なければ意味はありません」


まあ、バイトでも何でも事前に知識があるに越したことはないけど、簡単な実作業から始めて、徐々にやれることを増やすことで、自然に覚えていく知識の方が多いのは確かだと思う。


もちろん、現場猫みたいな致命的クリティカルで一発退場モノについては事前に通知されるべきだし、覚えておかないと大変なことになるけど。


「本来であれば、この失敗できる環境での実習を通して学んでもらうものでしたが……この手法が確立されれば、目に見えて精度が上がるでしょうね」


実際、あの『結界』が組み込まれてると思われる装置が無ければ、起動してみないと良し悪しが分かりにくい魔法陣を学ぶに当たって、誤動作で怪我する危険リスクを毎回背負うことになっていたと思う。


失敗していい環境って、何かを学ぶ上では重要だよね。


俺たちもスケさんというこれ以上ない保険・・がある上で、身の丈を超えた危険リスク上等テイクな探索ができたから、色々と学べてきたし成長できたと思うし。


それと、恐らくは似たような感じで手本を手元に置いて『移植』しようとした人はいたんだろうけど、単純に上下に並べてしまうと『角度』や『高さ』に問題が出やすかったんじゃないだろうか。


円形定規で線を引いて、内側に切り抜いた手本を置けば、その辺りは結構改善できるかもしれない。


そういう意味では、この円形定規の存在が色々と問題の起点になっている気がするな……。


「……ロブさん、でしたね。あなた、『王立研究所』にご興味はお持ちですか?」


あ、本当にそっちは間に合ってるんで。大丈夫です。


国に仕える系の話は、本当にマズい展開しか想像できないので、全力でお断りさせてください。


……とりあえず、また卒業・・させられそうになるのを回避しつつ、今日にでも定規は納品しておく旨を伝えて、魔法陣学2の授業を終えた。


あ、パン焼き器について先生に聞くのを忘れたまま、そそくさと出てきてしまった。


まあ、そっちの件はまた来週でもいいか。


◇◆◇


翌日の水曜日は探索実習の日ということで、着替えて冒険者ギルドへと向かう。


探索前に改めて説明会ガイダンスがあるとのことで、ギルドの2階にある会議室で話をした後に探索に入るとのことだ。


「あれ、ギルマス?」


「おう、今日はお前らのところだったか」


会議室の前方にある椅子に、見たことのあるスキンヘッドの髭面が座っていた。


どうやら愚痴マスは探索実習の説明役を依頼されているとのことで、今週1週間ずっとこの時間に手続きの詳細について話をしているらしい。


まあ、入場管理のためにギルド証の登録をしないといけないし、主に今まで周りが準備してくれていたであろう貴族に向けて、必要なものの再確認を行う必要もあるので、元冒険者でもある愚痴マスは教員よりも適任なのだろう。


そういや、先週末の説明会ガイダンスでも登壇してたっけ。


「全部で11学級クラス、毎日この時間に説明してきて今日でようやく終わりだ。頼むから問題なんて起こさないでくれよ?」


何でも、探索時に危険がないよう同行者を付けることについて、聞き逃していた下級貴族の生徒がいたようで、一悶着あったらしい。


まあ、ちょうど反抗期って時期でもあるし、なんか過保護にされると鬱陶しくなる年頃なのかもしれない。


とはいえ、ダンジョンは普通にが傍にある場所だからね。授業である以上は自己責任で済まないわけで。


「お前らはどうする? この4人なら全員資格持ちだから、付き添いは無くても問題ないが」


テアは友人のズィルビアギャルたちと組むようなので別行動だし、ブートはAクラスで水曜日が探索実習日だから同行しないので、リナとクララ、ヌールちゃんと俺の4人で組む予定だ。


授業としては、同行者ありの場合となしの場合とで若干ながら報告の手続きが異なるらしい。


同行者ありの場合はパーティの代表リーダーから口頭で担任に説明を行う他、同行者から別途その裏付けといった感じで報告が行われる。


同行者なしの場合は、5時限目終了となる5の鐘14時を目安として帰還し、成果報告として到達階層の報告と戦利品ドロップの提出を行う必要があるとのこと。


ブロンズCランクが3人にアイアンDランク候補1人だからな、俺らギルドとしては1本でもポーションを拾ってきてくれると助かるんだが」


……まあ、そうだろうね。納品が多ければそれだけ手数料で儲かるわけだし。


「ちなみに、同行者がいた場合って深い階層に潜っても問題ないのか?」


「いや、同行者も主に『成績優秀者』から募った手伝いバイトだからな。その場合は10層までの制限になっちまうぞ」


アイアンDランク持ちが手伝いバイトでもしてくれればなー』チラッチラッ、とかやってたけど、その辺は完全に無視してやった。そんな時間あったらもっと先に潜るっていうね。


……と、そんな話をしていたところで後方の扉から探索実習の担当教員が入ってきたので、1限目の授業として説明会ガイダンスが始まった。


◇◆◇


「では、以降は各パーティの代表リーダーに任せる。分からなければ、同行者か私のところまで聞きに来てほしい。では解散!」


4半鐘30分ほどで説明を終えた後、Sクラスの全員でぞろぞろとダンジョンへと入っていき、階段手前の分岐で転移部屋ショートカットを開通させてから順に1層へと降りていった。


その後、3〜4人のパーティそれぞれに同行者が割り当てられて、後は自由に探索することになっている。


そういえば、探索実習の担当教員は戦闘訓練の担当と同じ女性で、なんか声に聞き覚えがあると思ったら、入学試験の前衛試験で説明を行なったり開始の合図を行っていた人だった。


あ、そうだ。今のうちに地図を提出しておくか。


実習の課題として地図の作成があり、提出しておくとパーティ全員に評価が付くんだそうだ。


他に、討伐数と戦利品ドロップの提出などにより、探索実習の成績が決まるんだとのこと。


ちょうど担当教員が階段横で待機していて、この後転移部屋ショートカットに戻ることになるので都合がいい。


えーと、たしか名前は……


「アヴァ先生、でしたよね。ロブ以下4名のパーティは既に地図を別日の探索で作成済みなので、提出してしまってもいいでしょうか」


「ああ、君たちがそうか。ギルドマスターから話は聞いている。すると既に10層まで到達しているということか……流石はその年でブロンズCランクだけのことはあるな」


そう言うと、アヴァ先生は俺が手渡した地図を確認していく。


一応、本来の地図からは少しだけ手直しして、むしろ分かりやすいように変形デフォルメしている。


本来の【地図】で出てくる表示は壁の凹凸まである程度は表現しているのだけど、流石にそこまでは不要なので、壁をなるべく直線になるよう描き変えてあるのだ。


あれだね、山手線を忠実に描くと縦長のピーマンみたいな形状だけど、模式図としては円形で表現されるみたいな感じ。


……最初に写していったやつは忠実に描きすぎてしまったから、航空写真かってらぐらい正確になっていて、流石に提出できないからね。うん。


まあ、あれはあれで1枚ずつぐらいはあっていいものだから、今後の階層でも作っていこうと思うけど。


ちなみに、変形デフォルメした方はテアとブートにも模写コピーしたものを渡してある。この前の2回目の探索を行った緑曜日の時にね。


まあ、流石にそのまま提出されるとバレるだろうから気をつけて、とは言ってあるけど、参考にする分には問題ないとは思う。


「……よく描けているな、これはロブが?」


「はい、パーティでは運び屋ポーターで手持ち無沙汰なもので」


「…………まあいい、わかった。こちらは受け取っておこう」


うん、無事に受け取ってもらえたようだ。


……なんか『お前が、手持ち無沙汰?』みたいな表情をされていた気がするけど。


ああ、そういえば戦闘訓練の動きは見られていたんだったな。でも事実ではあるんだから仕方がない。


……なんとなく居心地の悪さを誤魔化しつつ、俺はその横を通って階段を戻り、転移部屋ショートカットへと向かうことにした。

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