第94話 魔道具師を辿る

「うーん、確かにダンジョンは入退場を誤魔化せないよねぇ……」


やはりラビット氏の経験上でもそういった認識のようだ。


冒険者ギルドがそもそも失踪者・・・の対策として立ち上がっていた話は、ベルトたちから聞いたんだったか。


そのため、冒険者ギルドでは入退場の記録管理はかなり厳密に行うそうだ・・・


……そうなんだよね、アイアンDランクになったけど未だに正規でダンジョンには入ったこと無いから、実体験したわけでは無いエアプ勢だし。


とはいえ、フィファウデでもマチョ男さんを立てたりして入退場を監視してたぐらいだから、重要視していることは確かなのだろう。


「フィファウデの場合は、冒険者ギルド自体がダンジョンの中にあったから潜り込めたけど、普通はダンジョンの安全地帯セーフエリアに繋がる通路より手前に作るだろうし」


「え? フィファウデのギルドってそうだったの?? 全然知らなかった」


ああ、そうか。確かにダンジョン内かどうかなんて普通は意識しないか。この件はあまり冒険者には知られていないのかもしれない。


恐らく、ギルドの成り立ちとかまで調べるような物好きは少ないだろうし。


俺はラビット氏に、あまり詳しく説明してなかったフィファウデの暴走スタンピードでの初動について話をした。


「なるほどね……2階の辺りが境界になっていたのか」


「まあ、大半どころか九分九厘の冒険者にとってはどうでもいい話ではあるんですけどね。俺にとっては、ダンジョンに入れるかどうかを左右する問題だったりするんですよね……」


「でも、聞く限りだと結局は格納門から出た状態でダンジョンかギルドを移動する必要があるんだよね? それって誰かに見られないように時期タイミングを見計らうのかい?」


「あ、それはスケさんから譲ってもらった『バニッシュマント』ってのを使うんですよ」


そうそう、このバニッシュマントがあったのも、フィファウデに潜り込めた理由として大きかったと思う。


潜り込む方は確かに問題なかった一方で、問題はフィファウデだとヨンキーファから距離的に届いてしまう都合で出入口からわざわざ出たことが無いし、その必要がなかったから、実際に『ギルドの監視に見つからずにダンジョンから上手いこと出る』という検証が足りてないことかな。


そう考えると、ダンジョン経由での移動での肝は、この『上手いこと出る』ことになってくるわけか。


「へー、確かにこれがあれば割と気付かれなさそうではあるね。ただ……出られるのは1人に限られそうではあるんだけど」


うーん、確かにそうなんだよなぁ。スケさんの魔法袋には、流石にこれはいくつも入っていたわけじゃ無かったし。


「スケさん、この『バニッシュマント』ってどこで手に入れたか覚えてる?」


「ああ、そいつは量産品の魔法袋を作ったのと同じヤツの手作りやで」


お、ダンジョン産じゃないのか!


「それならもしかして、魔道具として追加で作れる可能性あるのかな? もし作れるなら、ダンジョンの境界の位置次第では問題なく外に出るのも難しくないかもしれないけど──」


「うーん、それはどうやろな……」


ん? 失伝してる可能性とかそういうこと?


「いや、前に【結界】の魔道具の話したやろ? あれを作っとったのも同じヤツなんやけどな、確かにそいつ以外に作れるやつあんまおらんとか、作れても成功率が低いとか言うとったのを思い出してな……。ほんなら【結界】のと同じで、そのバニッシュマントを作れるヤツどころかレシピも残っとらんのと違うんかな思うて」


あー……昔の超天才が独自に編み出したオーパーツみたいな魔道具だっただけで、今や作り方も見当つかないとかの可能性か。


恐らく500年近く昔の人だから流石に生きてないだろうけど、何か研究資料とか残されてたりしないものかな……。


「ちなみに、スケさんってその魔道具師の人と直接やりとりしてたんだよね、素材渡したり試作品の魔法袋を貰ったりって」


「せやで、そいつの研究施設に何度か持っていったことあるわ。場所は南の沖にある孤島なんやけど、ヤツは魔道具で王都から飛べるようにしとったな。ワイもほとんど王都から飛んどったし」


え、【空間転移テレポート】実現されてるじゃん。なにその魔道具師チート臭するんだけど。


「流石にその魔道具が今もあるとも動いとるとも思えんけど……ま、案ずるより産むが易しとは言うしな、もし資料やら何やら探したいんやったら、試しに何か残ってへんか見に行ってみるのもええんと違う?」


◇◆◇


直近ではダンジョンに潜る以外にやる事も無いし、リナは素材が納品された影響でワルターリナ兄の手伝いに駆り出され週の半分は不在だしで、丁度予定が空いていたので早速来てみましたよ、王都。


ヨンキーファから南に10日の距離、ちょうどフィファウデまでの距離が朝一に出て夕方に着く『1日での移動距離』とほぼ同じなので、10日の距離となると格納門が出せるギリギリまで伸ばした移動10回分だった。


幸い、【格納門移動】が格納門砲ゲートキャノンの出力を上げる都合で最大まで成長させてあり、数分経たずに【距離延長】の限界に到達するため、半鐘1時間もかからずに王都付近へと到達することができた。


それにしても……だ。


「……王都、広くない?」


目の前には、高層ビルを思わせる高さで左右へ延々と続く外壁がある。視界になっている格納門を上に移動させると、その外壁が凄まじく大きい円を描いていることが分かる。


「王都は魔物がおった頃の最後の砦やったからな、あん中に城から家から田畑までも全部入っとったんや」


スケさんが呼ばれた当時、王都は中央の城を中心とした半球状の巨大な【結界】装置で守られていたとか。


でも、その装置が壊れかけてて喪失寸前で危機的な状況だったそうな。


当時はまだ冒険者のような制度は無く、領兵などが魔物の鎮圧に動いたり、食料として魔物を狩るといった生活をしていたそうで。


【結界】の問題が顕在化してきたのは、そういった狩りが立ち行かなくなるほど、強い魔物が出るようになってきた矢先だったという。


「代わりに、【結界】のギリギリにあの外壁の岩を魔法で生み出したり山から切り出したりしとってな、魔王の大攻勢が始まる前に対策しとったわけやな」


なるほど、割と綺麗な円を描いているように見えるのは、【結界】があった頃の名残なごりというわけか。【結界】の境界が補助線だった、みたいな感じで。


「ワイが魔王という大元を断つまでに、それでも耐えられんかったんやろな、戻った頃には大分壊されとった。その後、戦勝の記録として残そういうことんなって、復刻したやつと違うんかな、あれは」


まあ、実際のところトレフェンフィーハがルーデミリュと接する国境より大分遠いし、今となってはこの外壁が使われる事態っては考えにくくはあるけどね。


「それで、その魔道具師が転移装置を王都に置いてたってのは、どの辺りだったの?」


「王城の城下町やったんやけどな、一応そいつは王宮の魔道具研究施設の特別顧問とか何とかやっとったから、時々は顔出さなあかんってことで割りかし城に近いとこに家を借りとったで。たしか北側やったかな……」


◇◆◇


スケさんは魔王との大戦後にあちこち残党狩りで飛び回っていたがゆえに、王都が復興する様子を見ていたわけでもなかったようで、全く道から何から変わってしまった状態のため、見つけるのには苦労した。


「……ま、そうやろなとは思っとったけどな」


「うん、流石にね……」


王城に近い辺りは、これまた円を描くように貴族街として区画整理されており、どうやらここだろうなという場所には巨大な邸宅が建てられていた。


「この辺りはスラム街に近いから、王城にそこそこ近いのに安くて空いてて勝手ができる家やー言うことで、ヤツは嬉々として借りたんやったけどなぁ。時代ってのは変わるもんやな」


「……ゴメン、スケさん。なんか門兵の人がものっ凄いにらんでるから、そろそろ退散しよ」


……まあ、後から聞いたら冒険者が貴族街を彷徨うろついてること自体が、兵士にでも誰何すいかされて連行されかねない行為とのことで、捕まらなかったのは単なる幸運ラッキーだったようなんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る