第23話 納品と評価ポイント

そういえば、すっかり忘れていた。


薬草採集は本来、冒険者ギルドへの納品のためにやるつもりだったんだ。


日程表スケジュール的には、薬草を摘んで何とかワンセットぐらい揃ったところで夕方にでも納品して、混んでないようであれば『どれぐらい繰り返せばストーンEランクになれるんですかねー』なんて相談をしてみるつもりだった。


それが、中州の穴場を見つけてしまったがために完全に熱中してしまい、文字通り『すっかり忘れてしまった』というわけだ。


朝に納品するのはマズいかな、とは思ったけど、講習会でも普通の薬草であれば2〜3日は問題ないとも言っていたので、昨日採集したとでも言っておけばいいだろう。


一応、ストックとしては300本近くあるので、50本ぐらい試しに放出してみようかと思っている。


毒消し草、痺れ草、眠り草も100本ずつぐらいあるから、こちらは15本ずつ出しておこうか。


適当に『偶然、ムルタクア川の上流の方に穴場を見つけて、採集に夢中になってたら帰りが遅くなってしまった』とでも言っておけば、誤魔化せそうな気はするし。


時刻は2の鐘午前8時過ぎ、朝のせわしいところを過ぎたところだろうか。


◇◆◇


「どれ、見せてもらおうかのう」


案内された薬草などのカウンターを尋ねると、買取担当と思われるお爺さんがそう言ってカゴを出してきた。


俺は、街でカモフラージュ用に買った背負い袋から薬草を取り出す。予定通り、今日のところは50本だ。


続いて毒消し草、痺れ草、眠り草。こっちは15本ずつ。


薬草は手のひら大のシソのような感じで、まだ新鮮で張りがあるため、50本もあると結構な量だ。


毒消し草などもそれなりに嵩張かさばるので、カゴはいっぱいになりそうだ。


ひと抱えあるカゴの上になるべく数えやすいよう5本ずつ束にして置いていく。束がわかりやすいよう、何か紐で縛ってきた方が良かっただろうか?


「……これで全部か?」


「えっ」


出し終わった後、薬草のうち1束を摘んで眺めながら問うてきたのを、意味がわからず変な声をあげてしまった。


どういう意味だ……? 確かに残り250本あるにはあるけど、それを見抜かれてるわけ、では無いよな?


いやむしろ、ストーンEランクでも今の時期なら驚かれそうな量で、出どころをかれるかと思って誤魔化す言い訳を考えていたのに。


「ああ、うん、今日のところはこれで全部だよ」


「……そうか、では座って待っておれ」


お爺さんは山盛りとなった籠を片手に、奥のテーブルへと持って行った。商業ギルドのボスギルマスと同様に、計測して魔法袋へしまうのだろうか。


何だったんだろう、さっきの問いは。


疑問には思いつつも、今は他にやることもないので、壁際に置かれた椅子へと腰を下ろした。


手持ち無沙汰となった俺は、周りを見渡す。先ほどのお爺さんがいたカウンターの横には、魔石用のカウンターと、食肉や毛皮といった獣素材の買取カウンターがある。


ここは冒険者ギルドの別館と呼ばれてるところのようで、大通りに面した入口がある本館に併設されている。入って正面にあるカウンターを左を抜けたところにあり、渡り廊下で繋がっている。


主に買取所や解体所、馬車や荷車を停めておくスペース、あとは地下に訓練場などがあるらしい。


ちょうど獣素材の買取カウンターの裏が解体場になっていて、荷車で持ち込まれた大型の肉などは裏に回ってもらって搬入することになっているようだ。


リーダーベルトたちの話によると、この辺りは魔物こそ出ないが、南から南東にかけての山にはベアークマボアイノシシといった獣が出るようで、依頼書にも納品依頼として記載されていた。


ボアイノシシの肉とかは割と一般に流通しているようで、街中でも居酒屋などで煮込みが提供されている看板を見かけた記憶がある。


……と、そんなことを考えている間に査定が終わったようで、お爺さんが奥のテーブルから戻ってきた。


「うむ、確認した。きっちり・・・・薬草50本。毒消し、痺れ、眠りは15本じゃったな。こいつは常時依頼の納品ということでよいか?」


「うん、そのつもり」


「では、ギルド証を出すがいい」


なんだかんだ、初めての依頼達成ということになるだろうか。


一応、『初級採集講座』と『戦闘講習』とで既に評価ポイントは入っているはずだけど。


「報酬は銅貨235枚23500円じゃ。ここで受け取るか口座に貯めておくことができるが、どうする?」


「それじゃ貯めておいてほしいかな」


「よかろう。では薬草は5本ずつで納品10回分、毒消し・痺れ・眠りは3本ずつで各納品5回分じゃな。こちらで記録しておこう」


単純に計25回分のクエスト達成か。割と悪くないんじゃないか?


「ちなみに、ストーンEランクってあとどれぐらいでなれる?」


「推奨としては、あと講習会を8回と依頼を10件、といったところじゃな。全て依頼で達成するなら22件の依頼でよいが、曜日ごとの初級講座はひと通り受けておくことを勧めておる」


なるほど、ストーンEランクまでは早いな。準備期間チュートリアルと言われていたのはあながち間違ってなかったということか。


「なるほど、講座も受けてみるよ。ついでに聞きたいんだけど、ストーンEランクからアイアンDランクまではどれぐらい?」


「評価の高い獣の討伐や特殊な場所の採集などの依頼をこなせば70回ほど、あとは主にストーンEランク向けになっておる『中級』の講習会を一通り受ければ達成できるじゃろう」


ストーンEランクは討伐とか遠い採集地みたいなのが入ってくるのか、なるほど。


「ただし、薬草採取や雑用などウッドFラン向けの依頼は評価がウッドFランの半分程度になることに注意じゃろうな。とはいえ、300回程度の数さえこなせば相応の評価になるから、地道にやるのもよいじゃろう」


非戦闘系職でも地道にやれば到達できる程度、ということか。


俺はお爺さんに感謝を伝えて、買取カウンターを後にした。どこかに講座のスケジュールが貼ってあったよな。座学を受けた会議室のところだったかな。


◇◆◇


「あったあった。今日のは……と」


記憶通り、本館の正面カウンターの右から入っていく通路にある会議室の前に掲示板があり、そこに直近のスケジュールが張り出されていた。


そういえば、週の概念はこちらの世界にもあるようだが、前世のそれが『天体による守護』として定められていたのに対して、こちらには当然ながら火星もなければ木星もないので、曜日のシンボルとしては異なっているようだ。


この世界においては『色』がその代わりとなっていた。橙・赤・青・緑・黄・水・白の7曜日だ。


それぞれの色はまた、魔法の属性を示すシンボルとしても使われるようで、土・火・水・風・雷・氷・聖を表している。


聖なる白曜日は前世における日曜日と同様に安息日となっていて、商店などは店を閉める慣習になっているようだ。


ちなみに今日は黄曜日で『初級算術講座』だそうだ。それと前回の『初級採集講座』と同様に『戦闘講習』がワンセットになって、5の鐘午後2時から2時間ほど開催予定らしい。


うーん、『初級算術講座』は恐らく小学校低学年ぐらいの算数なんだろうな、とは思いつつ、この世界の常識を知るために受けておいてもよさそうな気はしている。


『戦闘講習』は、前回剣術だったけど今回も同じなのだろうか。徒手空拳とか遠隔攻撃とか魔法とかはあったりするのかな。


他の講習はというと『筆記講座』『作法講座』『素材講座』なんてのがあるようだ。


ざっと見た感じだと『講座』は座学で『講習』は実技って感じだろうか。


ちなみに明日の水曜日(紛らわしいが土曜日の立ち位置)には『講習』が連続していて、『応急手当講習』『調理講習』となっている。


また、6の鐘午後4時からは、買取りカウンターの老人から先ほど話があった各講習の『中級』が実施されているようだ。


なんだか『寺子屋』のような感じだ。割とこちらの世界らしく実践的なものも含まれているけど。


これとは別に王都には『学園』があるそうだから、こちらは一般庶民向けに読み書きなどを補う機能がある、といった感じなのだろう。


採集作業が一気に圧縮されて時間もできたことだし、なるべく講習会はこの1週間ほど受けてみることにしようか。


時間はまだ2の鐘半9時前だ。あと5時間あるから何か……ああそうだ!


今度こそあの2人について連絡がとれるか、カウンターで聞いてみようかな。


クレリック風に話をしてみて、誰か【蘇生魔法】が使える人を紹介してもらえたら御の字だ。あれから1週間経ってるし、復帰でもしてくれてるといいんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る