第9話 ボス再び
ゴーーーン……。
遠くから響く鐘の音で目を覚ます。1の鐘ってやつだ。
ステータスオープンで見ると朝6時ぴったり。ここから2時間ごとに鐘の音を増やして2の鐘、3の鐘、と続いていくらしい。
なんだかんだで22時前には就寝していたため、すっきりとした目覚めだ。
予想通りMPは8時間睡眠ですっかり回復していて、体調も万全だ。睡眠時間は恐らくHPやMPの回復量が上がるのだろう。
風呂場で軽くお湯をとって洗顔し、さっぱりしたところでサンドイッチを食いながらポタージュスープを飲んで一息ついた。
……いやさ。食った、食ったよ。
でもな。考えてみたらサンドイッチだけでも全種類ワンセット食っても、一生食い切らない量だなって思って、もういいじゃんってなったんだよな。
バレやしない、バレやしないよ。すげーうめーなタマゴサンド。
探してみたら調味料もどっさりあったよね、マヨネーズもケチャップもウスターソースも醤油も味噌も焼き肉のタレも。
ポン酢もごまだれも白だしもあったから、もう冬でも安心。
…………ただ一点、本当に奇妙なことに、米が無かった。
料理人でこれだけ食にこだわりあるラビット氏が、米を手に入れられないなんてことがあるのか。
たしか醤油や味噌は麹菌だかの関係で米が必須じゃなかったか?
まあ、いずれにしても無いものは仕方ないのだけれど。
……いや、食いてーな、米。
もしかして、次のクエストは米探しか?
◇◆◇
食事を終えた後、2の鐘が鳴った辺りで宿を出て、ボスに会う時間まで街を散策した。
朝市などを軽く見てまわったり、付近にあったバザーの場所を確認した。
武器や防具を扱う『鍛冶屋』、衣類や縫い針から日用品全般を扱う『雑貨屋』、あとは『魔道具屋』『古着屋』、ポーションなんかを売ってる『薬屋』もあったな。
『雑貨屋』では、石鹸や鉛筆に似せた筆記具、あとは切れ端になったメモ用の羊皮紙など、文明の広がりを確認できて割と楽しかった。
まだボールペンやガラスペン、匂い付きの石鹸、シャンプーなんかは無いらしい。ウヘヘヘ……コイツぁゼニの匂いがするでぇ……。
『薬屋』はといえば、ポーションばかりかと思いきや、毒薬も売ってるのにはちょっと引いた。
けど、毒矢とか麻痺ナイフとかが生死を分けることもあるから、異世界ならではといったところか。割と詳しく効果や即効性などPOPのようなメモがあり、実用的だ。
宿でも使っていた魔石は『魔石屋』とかがあるのかと思ったら、そこは冒険者ギルドで回収・販売していたり、近くにダンジョン街があるそうで、そこの産出品で賄っているそうだ。
ちょうどあの石畳で馬車が運んでるものとかが、そういったダンジョン産のものだったのかもしれない。
そうだ、冒険者ギルドにも寄って、カードを作ってもらってもよさそうだよな。
行商しながらでもランク上げておかないと、ダンジョンに潜れないかもしれないし。
とはいえ、あと30分で待ち合わせの
そういえば、
ロープとかないと大変だと伝えておけばよかったかもな……。
と、そんなことを考えているうちに、商業ギルドの前へと到着した。
◇◆◇
窓口のお姉さんに
まあ、検品から荷運びまでここで管理されているようだから、都合いいのだろうな。商談室へ出されても床が汚れたり後で運ぶ必要があったりで無駄だろうし。
と、そんなことを考えている間に
「待たせたな」
「いえ……いや、こっちも今来たところだ」
「ハハハ、まあ、徐々に慣れろ」
窓口のお姉さんには上手く対応できてた気はするけど、格上のボス相手にはどうにも自然と敬語が出そうになる。
「昨日の話の続きだ。ラビットさんの遺品に、恐らくギルドマスターの依頼の品と思われる荷物があったんだが、運ぶ予定だった内容は聞いても問題ないか?」
「ああ、かまわねえよ。少しでも残ってたんなら助かるぜ」
いや、恐らく輸送品については全量──ああ、魔法袋の話ってまだしてなかった気はするな。
ラビット氏が一度に魔法袋に入れて全部持ってきてあるとは、ボスも思ってやしない…………
……いや、ちょっと待てよ。そんなことはあり得るのか?
かつて一緒にダンジョンに潜って、あの魔法袋の存在を知っていれば、きっと真っ先に『魔法袋は無事だったのか?』なんて言ったに違いない。
あれさえあれば一度で全て運べるだろうし、権限移譲しなければ盗られる心配もないからな。
もしかして、ラビット氏はボスにも魔法袋を隠していて、主に幌馬車に積んで運搬していた……?
そんな、どこか整合しない言い回しに首をひねっているうちに、発注書が届けられたようだ。
「文字や数字は読めるな? こいつがラビットに依頼していた荷物だ。重くて換金しにくい鉱物なんかが残ってると助かるんだが……」
列挙された荷物は、予想通りインゴットや宝石、石炭などの燃料なんてのもある。
備考として、精錬されたものが無かったら採掘された鉱物そのままでもいいとの記載もあったが、魔法袋にはそういったものは入っていなかった。
金属関係は、青銅が2000kg、鉄が1000kg、銀が100kg、
石炭については袋単位でぴったり発注数が、宝石は専用の箱らしきものでグロス単位があった。端数はもしかして元から持っていたものなのかな。
完全にまあ、武器素材だよなぁ……ま、言わぬが花というやつか。
そういや収納に素材関連は移していたから……ある意味で都合いいか。袋をまだ見せなくてもいい。
荷物を確認すると、なるほど鉄や青銅など含めて既に全量受け取り済みなようで、いくつか手持ちらしき10数本ずつはラビット氏の持つ素材だったのか、端数がある。
「あのボ……ギルドマスター、荷物を出すのは一旦こちらで問題ないか?」
「そうだな、後で運ばせることにしよう」
「分かった」
さて、合計3t以上の素材だからな、ざっと感覚的には腰丈ぐらいの山が1tのようだから……。
そういや、出す時に並べて出したりは出来るのかな? とふと思った。
乱雑に出してもいいが、なんだかんだで1kgの鉄アレイが指に落ちたらと思うと、山積みにして崩れやすくしてるのは
なんかインゴットは1対3ぐらいの縦横比だから、横30本×縦10本の比で1段ごとに縦横の並びを90度変えれば、十字に積まれていって崩れにくそうだ。
ちょうど覚えたての【距離延長】による副次効果で【方向指定】できるようになったから、門を2mほどに広げて出していけば、キレイに並べられると思う。
一度門を作ってしまえば、連続でモノを出すのはMPを消費しない……のだけど、【方向指定】にはまた
MPを持っていかれる感覚は何というか、喉が渇いていく感じが近いだろうか。
容量圧迫でじわじわ減った時はそんなに気にならなかったが、今のそれや馬車を初めて収納した時など一気に持っていかれた時には、なんか吸われたって感覚が残る。
さて続いて、90度方向を変えて2段目を出していく。ある程度慣れてしまえば、なんとなく列単位で並べていくのが楽しくなる。
計6段と6列ちょっと、腰下ぐらいの高さまで積まれたところで、青銅インゴットを計2000本出し終えた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
次は鉄か……と場所を移動したところで、ボスから声がかかったことに気がついた。
「何でしょ……あー、何だ?」
「いや、言葉遣いはどうでもいい。その量は馬車に乗っからんだろう?」
うーん、どうだったかな……割とあの幌馬車は
ああ、ついでに今のうちに遺品として出しておこうか。
「ラビットさんが使ってた馬車ってこれだよな? 結構大きかったし積んでも大丈夫そうだが……」
振り返ると、ボスが
「どっから突っ込めばいいか……まあ、
ああ……まあ、ボスには既にそっちがバレてるから油断していたけど、やはりこの幌馬車サイズを出し入れできるのはレアなのか。
「それはいい。それはいいんだが……あと、そのすげえキレイに並べられてることも、今は関係ないからいいとしてだな」
ちなみに、先ほど【空間収納】スキルのレベルアップメッセージが出ていたので、アレは結構いい訓練になるようだな。Lv.9になったか。
まあ、新しいスキルで2000本並べたら、それなりにいい訓練にもなるか。
「その量だよ量。仮に馬車に載ったとしてもだな、動くはずがねえだろ……
…………あー。
『そこのお前! レモン一個分に含まれるビタミンCは、レモン一個分なんだぜ!』というあのコピペを思い出した。
そりゃ馬一頭が運べる重量は馬一頭分だよな。(たしか
完全にバイト先のコンビニでやってた、トラックの荷下ろし感覚で考えてた。そういや車って、150馬力とかだよな。
「……んで、その荷物が馬車から回収したとして、
「あー、まあ、こいつですね」
もう出した方が早いかと思って、ラビット氏の魔法袋を出した。
「やっぱりあいつ、持ってやがったのか……」
どうやら、予想通りラビット氏はボスにも魔法袋のことを隠していたらしい。そして、ボスも薄々は勘づいていたのだろう。
しかし……なぜ隠す必要があったんだ?
「まあいい、あと素材はどれだけあるんだ?」
「一応は発注書通りですね、鉄1000kg、銀100kgあります。
「わかった。鉄と銀はその辺りに出しておいてくれ」
「了解です」
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