第153話 閉架書庫の許可条件

でも、最初から見えてたってことは、更新アプデを始めてないのか?


「もう更新は終わったの?」


「まだよ。ロード中って書いてあるわ」


へえ、やっぱり2回目の更新アプデは前回のそれとは違うようだ。


前の時は身体が動かなくなったけど、今回はそのまま喋ろうと思えば喋れる感じらしい。


「ただ、開始前に『手は離さないで下さい』ってあったから、そこだけ注意みたいだけど……あ、終わった」


うん、まだ10分も経ってないので、ワルター氏はまだ更新アプデ中で、先にリナの方が完了したようだ。


そして、初期インストール時のような再起動意識喪失も不要の様子。


……実はクララは教会の聖堂で祈れば更新アプデできるんじゃないか説はあるので、後で試してもらおう。


◇◆◇


「……といった感じでしょうか。何かご質問は?」


「いや、問題ない。助かった、ありがとう」


ワルター氏の更新アプデが完了し、ひと通り画面の説明を終えた。


「当家は君に世話になってばかりに思うな。何か返せるものでもあればよいのだが……」


あ、それなら丁度いい。学園関連の話をしようと思っていたんだった。


「でしたら、ワルター様に学園のことでいくつか伺いたいことがありますので、そちらにお付き合いいただけますでしょうか?」


「……そんなことでいいのか? まあそれについては問題ない。たしか君も来年、カタリーナと通うんだったな」


「はい、先日合格通知が来まして、通うことになりました」


ひとまず、閉架書庫と成績優秀者の件について聞いておこうか。


「実は学園の図書館に興味がありまして、閉架書庫で調べ物をしたいと考えているのですが、話によるとその場所は……」


「ああ、一般学生には公開されていない。成績優秀者と認定された好成績を収めた者か、生徒会という自治会の関係者、あるいは教員のみ入室が許可される仕組みになっている」


おや、成績優秀者以外にも……と思ったが、教員はともかく『生徒会』なんて危険な場所に近付くのは無理だった。


Sクラスだっけ、王族をはじめとした上位貴族が集うという危険な場所と並んで、生徒会なんて伏魔殿パンデモニウムどころの話じゃない。


……まあ、記憶の隅にでも留めておこうか。


「そういえば、お兄様は1年の時から会計で生徒会に加入されていましたね」


「ああ、イスタスライン家の者に捕まってな……それからずるずると2年だ」


イスタスライン家というのは、王都に向かう際にもリナが寄った街、ゾーネリヒトを治める伯爵家だそうな。


ちょうど2年上の先輩であるその伯爵家の嫡男が生徒会で副会長をしていたとかで、面識あるワルター氏は入学式後に呼び出されてそのまま連行されたらしい。


……まあ、事務処理とか段取りとか凄い得意そうだもんな、この前の素材解体関連の手腕から見た感じだと。


「その成績優秀者というのは、何か条件のようなものは開示されているのでしょうか? 定期試験とか、何かしらの成果を収めた者とか……」


「基本的には成績上位20人とされていたかと思う。年4回の試験と探索実習、あとは2年次以降になるが武闘大会での成績や研究論文での評価などが加味されて、評価が決定する」


なんか色々と出てきたな……探索実習に武闘大会、論文発表?


2年次以降ということは、1年時の時点ではほぼ試験とその探索実習の成績で決まるということだろうか。


「その探索実習というのは?」


「冒険者をやっているなら、学園が占有するダンジョンがあることは把握しているかと思う。そのダンジョンで行う実習で、課題達成や戦果などにより評価される科目だ」


なるほど、授業の一環みたいな感じで探索もやるってことか。


そういえば、あの学園長もたしか、本来の学園は『成長レベリング』してない固有ユニークスキル持ちとかを保護して、襲撃者に抵抗できるようにする場所だとか言ってたっけ。


でも、うーん……そうか。


事前に『成長レベリング』してくる貴族とかなら、大半は更新アプデかけてきちゃうよなー。入学式まであと4カ月近くあるわけだし。


もしかして黙っておけば、俺たちだけ頭ひとつ抜けられたかも……なんて思わなくもないけど、既にアレの件が片付くまで引き延ばしたわけで、これ以上はお天道様ってやつが許しちゃくれなかったかもだし。


……まあ、普通にやったらまだ仏像も作り終わらなければ、教会にも配れてなかったかもだけどね。


そういえば、貴族が『成長レベリング』するんだから、みんなアイアンDランクまで冒険者ギルドで上げてるのかと思ってたんだけど、そんなのはリナぐらいのものらしい。


アレだ、前世におけるパチンコ屋の近くに偶然景品を高額で買い取ってくれるお店がある感じの、『法の抜け穴』ってやつ。


護衛としてゴールドAランクを雇ってダンジョンの中を見学・・していたら、たまたま遭遇したモンスターに、護衛対象の貴族の子女らが咄嗟に手を取った護身用の剣が当たってしまった……って感じでね。


まあ確かに、アイアンDランクまで上げても、大半の人は入学してしまえば半年経って失効してしまうだろうし、無駄になる可能性は高いわけで。


だったら、ギルドにも登録せずに済ませる方法を選ぶのだろう。


そういった意味では、真剣にダンジョン探索をした経験が無い生徒ばかりとなると、更新アプデの恩恵を十全に得られる割合は少数かもわからないな。


もちろん、教会で洗礼を受けた際に賜ったスキルを地道に磨いていた努力家ってのもいるかもしれない。


けど、その点ではリナのように成長ポイントを先に振って戦力強化し、より深い層に潜っていた分だけ、一日の長がありそうな気はする。


まあ、約1年ぐらいは先行している計算だけど、そのうち追いつかれそうではあるから、その間にでも勉強の方に全力を注げば……。


うーん、しかし20位か……。


「学園の定期試験で上位に入るのは、やはり難しいものでしょうか?」


「そうだな……やはり、王立研究所を目指している者たちは、家庭教師を呼んで勉学に励んでいた者たちばかりだから、それなりに難しいだろうな。最初の試験では、上位を研究者らが占める傾向にあるように思う」


あー、研究者志望か……やっぱりそりゃいるよなぁ、天才肌というか。


「もっとも、実習の方まで長けている者はごく少数ゆえ、全体の順位としては上位層に広く分散していただろうか。高等部に進む者で20位以内に常に入っていた者は……そうだな、5〜6人といったところか」


高等部というのは、3年の標準課程を終えた後に、最大3年在籍して研究を行う課程のことだそうな。いわゆる大学とか大学院とかに近いのかな?


「個人的な印象では、探索実習の方で成績が伸びることで、定期試験の点も伸びる者がそれなりにいたように思う。元は授業で寝ていたような者が、2年次の後半から尻上がりに成績を伸ばすという例もあったな」


あー、確かにINT知力が上がると頭に入りやすくなるもんな。記憶力が段違いというか。


そういう意味では……スケさんに吊り上げパワーレベリングしてもらった俺も、やはり開幕スタート先行ダッシュキメればワンチャンあるか?


◇◆◇


「では、1週間ほどを目処に写本を届けさせよう」


「ありがとうございます! 大変助かります」


ワルター氏に交渉したところ、教科書と試験用に授業内容をまとめた獣皮紙の帳面ノートが残っているとのことで、こちらを業者に依頼して写してもらえることになった。


一例として見せてもらった数学の帳面ノートは非常に綺麗な字で、几帳面といった感じのワルター氏の印象そのままだった。字には性格が出るとはよく言ったものだ。


「……しかし、それほどまでに閉架書庫に興味があるのであれば、高等部に研究者として残るという手もあるのではないか?」


どうやら、高等部への進学者は成績優秀者に準ずるものとして、閉架書庫に入る権利があるらしいんだけど……


「やはり冒険者が本懐というか、研究に身を置くよりも、色々なところを見て回りたいと思う性分のようなので」


正直、3年も4年も学園にいたら絶対に飽きるだろうしなー。ここは遠慮しておこう。

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