第81話 俺の話には不要だから

「…………それで、1か月も連絡なしでどこ行ってたのよ?」


久しぶりにリナへと連絡を入れた後、半鐘1時間も経たずにクララと2人で押しかけてきて、現在問い詰められているところですね、ええ。


「まあ、ちょっと旅行に、ね」


「ふーん…………旅行に、ね」


ある意味で間違ってはいない。ルーデミリュの各地を『観光』してきたのだから。


「もっとも、こっちはこっちで王家への勇者様の装備を上納やらフィファウデでの暴走スタンピード騒ぎやらで色々あったから、私にまで仕事が回ってきてたし、暇って程じゃなかったけど……結局『成長』が進められず終いだったじゃない」


「あー、そういえばそうだった。それについては本当に悪かった。流石に今更フィファウデに潜るってわけにもいかなかっただろうしな」


うん、アジトダンジョンに任意で入ったりできてたら良かったかもしれないけど、あそこは俺のスキルありきだからな。


Lv.10まで寸止めで1カ月待たせる形になってしまい悪いことをした。


「……こんなこと言ってますけど、随分心配してたんですよ? 執事さんにこの拠点を毎日見に行かせたりとか」


「ちょっ、クララッ!」


おお……そうか。何かこう、率直ストレートなツンデレがいざこちらに向けられると、照れるものがある、な。


「うん、悪かったよ。もうちょっと連絡を入れるべきだったと思う。気をつける」


実際、アジトダンジョン経由で夜中には拠点に戻ってたし、週1ぐらいでは魔力草の回収も続けていたから、連絡を入れることぐらいはできたと思う。その考えが浮かばなかっただけで。


せめて、作業の目処とかを連絡しておけばよかったのは確かだ。


前の世界から長らく単独ソロ気質が染み付いてしまっていて、その辺りの気遣いまで気が回らなかったんだよな。


コンビニバイト時代も同僚は海外の人ばかりで、一昔前のラノベやノベルゲーみたいに高校生の女子が後輩で入ってきて知り合いになる、みたいな展開は皆無だった。


唯一、深夜に一緒になることが多かったFXで卒業していった先輩とかとは、割と話したぐらいで。いつもスロットだ競馬だってギャンブルの話ばっかりだったけど。


……まあ、一応はまだしばらくパーティを続けるわけだし、いわゆる報連相ってやつは大事にしなければ。


「それで、何してきたのよ? ……聞いていいのかは分からないけど」


うーん、あんまり言えないかなぁ……。


「んー、勇者様と正義の剣で悪を滅ぼしてきた……かな?」


「ヒャヒャヒャ、確かに間違っては無いなぁ」


スケさんはすぐ横で、いわゆるハニトーをモリモリ食っている。小さな食パンをくり抜いてアイスやホイップ、フルーツを山のようにトッピングしたやつだ。


……2人とも、物欲しそうに見てるけど、それは本気マジで肥えるぞ。カロリーの化け物、デザート界の二郎みたいな代物だからな。


リナの質問に答えるなら、とりあえず『俺の平穏を邪魔する奴らを片っ端から粛正してきた』わけで、それが無事終わったって感じなんだよな。


とはいえ、あんまり活躍みたいなものを喧伝したいものではない。


やってきたことは結局──テロ以外の何者でもないからね。


「…………ま、別にいいわ。とりあえずこっちは少しだけ変わったことがあった、ってところかしらね」


「へー、何かあった感じ?」


「お父様が勇者様の件もあって子爵に陞爵しょうしゃくされて、ヨンキーファを治めることになったのよ」


おお、男爵から領地持ちの子爵になったのか。確かに勇者博物館のご当地ともなれば、街をあげて色々やる権限もあった方が盛り上がりそうだもんな。


「もっとも、キファイブン子爵も今回のフィファウデが早期に収束した手腕が認められたとかで、同時に伯爵へと陞爵しょうしゃくされたようだけど。ヨンキーファを手放す代わりに、開拓権限を含む西側の領地を与えられたようだし」


うーん、貴族のあれこれはよく分からないながら、色々あったようだ。


でも、フィファウデの収束への手腕、ってのは若干よく分からないところではあるけど……まあ、オークたちを間引いていた件を別に主張する気は無いし、なんか上手いこといってるなら、それで良しってことにしておこう。


「……あんた顔に出過ぎよ。貴族や政治の話とか興味無いんでしょうけど」


「まぁ、うん」


「そんな状態だと、いざという時に大変なことになるわよ? つい最近だって、一歩間違えればルーデミリュとの戦争に巻き込まれかねなかったんだから」


……おっと? そんな話が伝わってるの? ちまたでは。


「それって何の話?」


「流石に興味出てきたみたいね。お父様やお兄様からの聞きかじりだけど……どうやらルーデミリュの政治体制がここ数年で侵略推進の派閥が台頭してきて、挙兵寸前だったらしいのよ」


あー、うん。確かに。エシエルデローチェ、っていうルーデミリュ側の軍事基地みたいな要塞都市と、フィファウデの中間ぐらいに兵が集められてたんだよな。


「フィファウデの暴走スタンピードが長引いてたら、深層に潜ってた冒険者たちも戻ってなくて強制依頼も出せなかったから、危なかったみたいね」


そう、ルーデミリュ側は冒険者ギルドもやりたい放題やってて、戦力確保のために冤罪えんざいで奴隷落ちさせられた中堅冒険者も結構含まれてて、全体的に『成長』してる割合も多かったから、地上に残っていた冒険者とキファイブン領兵だけだと厳しかったとは思う。


今回の侵攻危機もあって、フィファウデ近辺に集中できるように今回の陞爵しょうしゃくと領地分割があったのかもしれない、とはリナの感想だそうだけど。


「でも何にしても、そのタイミングで転覆クーデターが発生したのは、こちらの国としては幸運でしかなかったかもしれないわね。運良く暴走スタンピードは早期に収束できたから、上位冒険者たちも間に合っていたけど、それでも準備できてるとは言い難い状況だったもの」


転覆クーデター、ね。一応はそんな感じで伝わってるということか。


「向こうの王都は今大変みたいなのよね、王宮が一夜にして瓦礫の山となってしまって、晩餐会ばんさんかいを開いていた貴族たちが全員亡くなってしまったって。……一夜にしてとか、流石に多少の尾鰭おひれ背鰭せびれがついた話だと思うけど、多数の名を知られた貴族が亡くなったことは確かなようね」


うん、あの日は戦勝祈念と称して侵略派の貴族たちだけが王宮につどってたんで、そこを狙ったんだよね。


会場の床を8個の格納門で一気に抜いて1階まで落とし、吹き抜けになったところにダンジョンから切り出した最大級の???弾を最高速度で打ち出した。


発生した熱と押し出した質量によりガチで王宮敷地内がクレーターになってしまったので、ちょっとだけやりすぎたかなとは思っている。


???弾は即時に回収したので証拠は残ってないし、見た目が爆発魔法か何かのように見えるので、今のところは複数の魔導士を使った古代魔法による爆発とされているらしい。


……まあ、王宮は建物ごと敷地のギリギリまで失われてしまったけど、メイドや兵士などは侵略推進派の貴族を除いて可能な限り強制的に会場から格納門で退避させたから、勘弁してほしい。(割と時間がなくて大変だった)


「今はその転覆クーデターを主導したとされる反侵略の貴族が保守的な王族を立てて、こっちの国と国交を回復させたいと打診があったそうだから、王宮や貴族界隈は大騒ぎになってるみたいね」


ああ、クロエの親父さんがあの後に上手くやってくれたようだな。


暴走スタンピードから地上に戻ってきたクロエに、ルーデミリュのまともな貴族の情報が欲しいといて、親父さんを紹介してもらったんだよな。


そこから、クロエの実家に忍び込んで話を通して協力を仰ぎ、侵攻推進派が晩餐会を開くとか、中立や反侵攻の貴族たちとかの情報を貰って、あちこち文字通り飛び回った。


まあ、格納門とバニッシュマントで、秘密裏に一瞬で長距離を動くことについては、どんな忍者NINJAにも負けそうに無いからな。


そんなこんなで、晩餐会当日に王都から関係者ごと退避してもらったりしつつ、その『転覆クーデター』後の方針とかについてはお任せし、その共有とか説得の手紙を届けたりとかはお手伝いした、といった感じだ。


どうやら上手いこと軍部についても掌握しょうあくはできたようだから、無事進軍を阻止してくれたようだし、こちらとしては一安心てところかな。


その対価というわけではないけど、向こうの協力者たちの領地のお手伝い・・・・をすることになったおかげで、半月以上も戻るのが遅くなったわけだけど……それはまた別の話として。


……まあ、いずれにせよ『運び屋ロブ』には関係ないお隣の国のお話だし、そんなゴタゴタした筋書きシナリオは俺の話には不要だから、ね。

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