アイラを送り出す
昼に連絡を取り夜リディアの家へ。
彼女の顔からは少し、しかしはっきりと疲れが見えた。
フィオが居なくなって仕事が増えたのだろうな。
「バルカ様、お疲れの所申し訳ありません。アイラ様が二週間程ここを離れても大丈夫か教えて頂きたいのです」
「お気遣い感謝する。ダンが
「……すみません。下級官吏として出来る範囲しか私には難しく御座います」
「やれやれ、つれないお人だ。さて、アイラ殿でしたな。獣人が襲ってくる可能性を考えると少し難しい。もしもの時には彼女の責任を問われましょう」
「草原族は襲って来ないとお茶を売った際の縁を伝って聞いております。他の部族に関しては不透明ですが……如何でしょうか」
基本襲ってくるのは一番広くテリトリーに接してる草原族の皆さんだ。他のは来ても普通は少数。一軍を率いて対処するような事態にはならない……と思いたい。
「ほぉ。……獣人はどこも多数の氏族があり、動きを読み切るのは難儀のはずですが。その点は?」
「お茶を売っている氏族は、その利益で多方面に影響力を得たそうなので……その点もまず大丈夫と確認を取ってあります」
これから
日和見してる氏族もあるらしいが、そいつらも勝った方に即服従しようとクラウチングスタートで待機中だ。
という事実をズバリ言わず、私と草原族の繋がりは出来るだけ細く表現したいのだが……難しいな。
「それは良き話。ならばアイラ殿が居らずとも良いでしょう。所で、何故離れるのかは教えて頂けませぬのか?」
「休暇です。トーク閣下に呼ばれるかもしれないでしょう? その前にゆっくりして頂こうかと思いまして。では、明日から向かって頂いても宜しいでしょうか?」
「休暇と来ましたか。羨ましい話だ。明日からも承知しました……それで、まだお考えを話して頂けないのでしょうか」
「すみません。もう少しお待ちください。では私は失礼致します」
あのリディアが疲れてる様子を見せてるのなら、少しでも早く帰るべきだ。
眠い時の客をグーで殴りたくなるのは、世界が変わろうとも不変でしょ。
「もう、ですか? まだ茶もお出ししていませんぞ」
「どう見てもお茶より睡眠の方がバルカ様には必要でしょう。バルカ様、人間は連続して疲れ続けると下手をすれば死にます。よく寝てください」
「そのような死に方をした人間は寡聞にしてしりませぬが……分かりました。気を付けると致します」
「余計なお世話かもしれませんが……書き仕事をし続ける時には、定期的に立って肩を回したり、体を捻ったりすれば疲労が少しは軽減されるはずです。座りっぱなしはよくないと聞きました」
「ほお。それも存じ上げませなんだ。ご助言に感謝を」
「はい。是非お試しを。それでは失礼します」
本当に疲れてそうだったな。
この時代は過労死しても気づいて貰え無さそうだしね……。
寿命を削るとは思われているようだけど。
座りっぱなしによるエコノミー症候群には気を付けて頂きたいものだ。
さて、まだ家に帰れない。
草原族の居る宿へ行く。そして連絡要員の人に、
「明日の夜、アイラ様が出立できます。目立たぬようにアイラ様の家まで迎えに来て下さい」
「分かりました。他には何かありますか?」
「文にも書きましたが、アイラ様にあの道具を見せて欲しくありません。後、かなり食べるのがお好きなのでいっぱい食べさせてあげて欲しいです。ああ、これは文に書いておきます」
「はぁ……分かりました。食料を多めに持つとしましょう。それだけですか?」
「はい。では、明日の夜お待ちしております」
連絡も終わったので家に帰ると部屋の前にはアイラが。
「ダン、何時行くか決まった?」
「明日の夜迎えが来ます。無いとは思うのですが、後を付ける人間が居ないか気を付けて頂けませんか?」
「……? オウランの所まで平原だから、こっそり付いてくるのは無理だよ」
え……いや、遠くからとか色々……。
「野営の後を調べて付いていく、とかも出来ないと?」
「うん。分かるもん」
「あ、そう、です……か」
マジなん?
元からアイラに頼るしかないのだけど、分かるものなん?
この子がビッグマウスを叩くとは思えないから……こ、こえー。どんな察知能力だよ。
「それは、余計な心配をして申し訳ありません。私が言っても不快かもしれませんが、どうか体にお気をつけて」
「ううん。そう言ってくれるのは……嬉しい。行ってくる」
ここで嬉しいと言えるとは……良い人だ。
でも、もしもこれでこの人が手のひらを返して私の敵になったら……。
ショックのあまり吐血しかねん。
在り得なくは無い。私よりもカルマ達の方が大事だろうし。
何より上手く行けば私はカルマ達の大不評を買うだろう。
そして敵になられた場合は、口じゃ無くて首から血が噴出してそうだ。
理性的に考えたなら、私はカルマに必要な人間であると思えるはずだが……。
やはり危な過ぎる橋を渡っているのかもしれない。
だが真田が居る。
彼が何をするか確かめ続けるのは最早義務とさえ感じている。
加えて彼の行動に対応するにはどうしてもケイでの力が要る。何とか橋を渡り切りたい所だ。さもないと全ては人任せ運任せになる。
ケイの人と遊牧民の選択で未来が決定されるならまだしも、同郷に決定されるのはお断りだ。
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