十歳が試験官の面接試験
リディア・バルカと思わしき少女は眉一つ動かさずにこっちを見て、いや観察している。
情けないが、正直気圧されている。
だ、だって、普通十歳って、ジッとする事さえ少ないよね?
終始どっか動いてね?
なのに、この子顔が彫刻像みたいに整っているのだけど、表情まで彫像みたいなんですもの。
怖い。
心の中でも『ちゃん』付けで呼んでいい子じゃなかった。
「初めまして。季節が変わる理由を話してくれると聞いている。早速話して貰いたい。ああ、自己紹介は結構。先生と決まれば聞くので安心して欲しい」
「あ、はい。そ、そうです。えっと、他にも山の木が私達をどれだけ助けてくれているか、声などの音がどの程度の速さを持っているか、というお話も用意してありますが……」
いかん。
凄く動揺している。
これで本当に十歳か?
無表情、平坦で感情の読めない声音、大人と同じ話しかた。
話半分って、話の方が半分じゃねーか。
しかし、そっか。さっき門番の人に名前を聞かれなかったと思ったら、こういう方針だったのか。
売名行為はうんざりという訳ですかね……。
「ふむ……。とりあえずは季節を。それで判断させてもらう」
よ、よし。
話が脳内のフローチャートに入ったぞ。
動揺しても良いように考えておいたんだろ?
頑張れ俺。
「分かりました。ただ、その前にまずはリディア・バルカ様の考える理由をお話し頂けないでしょうか。ご存じでないと思われる範囲をお話ししたく思います」
「私に説明させて時間を取るようでは困ると言っておく。が、季節の変化に関して考えた事は無い。一年で一周する物だとしか。お前達もそうではないか?」
そう問われた護衛も、女性も頷いている。
殆どの人間が考えない内容だったか。
ならば、練習した通り行ける。
「少々お待ちください。図を描きますから。えーと……木の枝でいいか。この話、証拠は出せません。でも、私は納得出来ましたし、興味深かったのでお話してみようかと思いまして……」
……木の枝で円を描くのは結構大変だな。
太陽、夏の位置の地球、冬の位置の地球、公転軌道、自転の向き、地軸、23.4度に傾けて……。
と、とりあえず傾いてればいいか。
「お待たせしました。では説明させて頂きます。これが今空に見える太陽です。そして、こちらが私たちが立っている大地になります」
俺は一つ一つを棒で指しながら説明していく。
「その人が言うには、私たちが住んでいる大地も太陽も丸い球でして、大地はこの線を中心に回る事で太陽からの光を受けたり受けなかったりして昼と夜が来るのですが……」
「待って欲しい。確かに大地が丸いと書いてある書物は存在する。しかし、それなら下側の物は落ちてしまう。その書にも十分な説明は書いていなかったのだ。説明してもらいたい」
あ、やっぱりそう思う?
この世界、まだ世界一周なんて誰もしてないだろうしなぁ。
一応想定内の質問だが、さて……。
「この大地にあるものは、大地を含めてすべてが中心に向かって引き寄せられているのです。太陽や月も同じ理由で全体が中心に引き寄せられています。だから、大地も、太陽も、月も丸くなっているのです。
何故かは説明できません。この様に木の棒から手を離したら地面に落ちると決まってるように、世の中が中心に引き寄せられると決まっているとしか私には分からないので」
何故重力が発生するかは二十一世紀でも解明されてなかった筈だ。
解明されてても、難解だろうし俺に理解できるとは思えんが。
「ふむ……。つまり、貴方が話しているのは神や精霊の話では無く、学問なのだな? 戦に法があるように、この大地にも法があると?」
「え、あ、はい。そういう話です。道理を考えると、こうなるのではないか? という話です」
「ほぅ……。だが、丸い理由は少々分かり難い。他にもあるだろうか?」
「あ、丸い理由ですか? えーと……。太陽、月、星の形はどういう風に見えます?」
「丸く見える」
「この場所から見て丸くても、球形でなければ遠くの場所から見れば丸以外の形に見えるはずですよね? しかし、そのような話は何処に住んでる人間からだろうが聞け無いと思います」
俺は事前に木で用意しておいた球体などの道具を使って説明をした。
小学校でもこうやってた記憶があるんで、材木屋で木切れから作って貰ったのだ。
「いや、無い。機会があればマウ国の人間に聞いてみるとしよう」
「それは良いですね。さて、どこから見ても丸に見えるとすれば、それは球体です。では、太陽、星、月、空に見える全ての物が丸いのに、私たちの住むこの大地だけが特別だと何故考えておられるのですか?」
最後はジーザスな感じで締めた。
あー、出ちゃった。
教養出ちゃったー。
ジャパニーズなのにグローバルでヒストリカルなのが出ちゃった参るなー。
他人を説得する人として史上最強説のある人だ。
コピーしてもご利益があるはず。
あるはずなんだ。
……いかん、緊張でちょっとおかしくなってるかもしれない。
話自体はまず間違いないけど、こういった天文学とかを全く考えない人が納得できるかは自信が無い。
この娘っ子は、この話を聞いて感動した時の俺よりは確実に賢いが……。
「説明は……分かった。時間をかけて考えたいので、話の続きを」
「えっと、何処まで……あ、季節。そう、大地は太陽の周りを一年かけて回りますが、大地自身の回り方はこの線を中心としていて、太陽に対して傾いています。それで、太陽との位置関係次第では熱を多く受けたり、受けなかったりします。
燃える火に対して手でやってみると分かり易いかと。これで、大地の気温が上がったり下がったりして、季節の変化が起こっているのです」
これで、練習した説明は全部終わった。
リディアは……顎に手を当てて、図を見ながら考え込んでいる。
興味を引けた、と思うが、表情が全く変化してなくて分からない……。
護衛の人とかは全然興味無さそうだし。
ぬぐぅ……外したか?
商団の知り合いに聞いてみて、この世界の人間に受けそうな話を探そうとも思ったが、常識外の話を多くの人にしたくないので諦めてたりする。
つくづく残念であった。
「如何でしょうかリディア・バルカ様。お気に召さなければ、出来ましたら他の話をさせて頂け」「申し訳ないが黙って欲しい。今考えている所だ」
おうふ。
十歳に怒られた。
そして、ナチュラルにすみませんという気になっている。
俺は権威に弱かったのか。
それとも、この少女がかなり怖いからか。
……怖いからだな。
でも、何時まで待てば良いんだろう。
「先生、とりあえず今日は部屋を用意させて頂きます。リディア様はああなると動かれません。明日にはリディア様からのお言葉があるかと思いますので、今夜は泊まってお待ちください」
あ、そうなんですか。
お気遣いありがとうございます侍女らしき方。
所で、お宅のお嬢様さっきまでは顔面に欠片も変化が無かったのに、今だいぶマッドな笑みを浮かべておられますけど……。
美少女が壊れてますが、良いんですか?
楽しそうだから良いの、かな?
ともあれ、俺は第一関門を抜けたらしい。
こっちの世界に来てから見た事も無い程良い部屋に通され、美味しい食事を頂いた。
悪くない感触だったけど……どうだろう。
……やっぱり緊張するな。
まぁ、駄目で元々さ。と言い聞かせつつ、ストレスが増えた分何時もより丁寧に頭皮をケアして寝た。
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