面接結果

 お早うございます。

 地球じみた歴史を積み重ねてる。かもしれない星の、中国大陸としか思えない土地で生きてる日本人です。

 ええ、あやふやですよ。

 俺の状況で確信を持つには、神に教えて貰いでもしなければ無理だと思うんです。

 

 昨夜はベッドで寝れて大変嬉しゅうございました。

 ベッドと言っても、藁の上にシーツを被せた物でしたが。

 それでも今まで木の板の上に直接寝ていたのを思えば天国っす。

 しかも虫よけの天蓋と言うのでしょうか? それが付いてるので布で覆えるんです。


 バルカ家半端ないって。この家半端ないって。

 突然の身元不明人めっちゃ接待するもん。

 そんなんできひんやんふつう。

 あ、召使いの人だ。


「お早うございます先生。良く眠れましたか?」


「はい。ここまで立派な寝台で寝られたのは初めてです。リディア様に感謝していたとお伝えください」


「それは良かった。朝食をお運びします。食べ終えられましたら、リディア様よりお話がありますのでそのつもりで」


「分かりました」


 朝食も流石はお貴族様であった。

 種類が豊富な上に美味しゅうございました。

 ちなみに、こちらでの主食は米や麦、蕎麦の実をそのままご飯みたいに食べたり、白くないけどパンもある。

 旅の際に持って行くのは無酵母パンがメイン。

 無酵母パンって何か分かるかなー? 分かんねーだろうなー。

 小麦粉で作った何の味もしない硬いクッキーだね。

 あ、今Youが考えた三倍は味も素っ気も無いんで。

 でも人類史には重要な食い物なのよ? 聖書にも書いてあんねん。


 旅の間そんな食事ばっかり取っていた俺には大変な贅沢でした。

 それでつい、御代わりしても良いと言われたので、かなり多めに食べました。

 意地汚いけど、不採用となれば二度と食べられないかなーと思ってしまって……。

 リディア嬢を待たせていてはイカンので早食いせざるを得ず、もーちょっと味わって食べたかったのだけが不満です。


 流石に食べ過ぎたかなーと思っていると、軽い足音が聞こえ、お嬢さんが入り口に現れこちらに軽く頭を下げた。

 おお……。貴族が、庶人に……。


 これは、生涯最高の肩書を手に入れたかもしれん。

 貴族令嬢の家庭教師。

 良い響きだ……。

 庶民の生活を教えるだけで惚れて貰えそう。

 だが残念。

 こっちの世界ではお貴族様っぽい格好の人も結構街中歩いてました。

 多分、このお嬢様もこっち来て四か月の俺よりは世情を知ってるだろう。


 さて……。


「リディア・バルカ様、お待たせしたようで申し訳ありません」


 相手より深く頭を下げるように気を付けて礼をする。

 マジごちそうさまでした。


「いいえ。弟子として当然です。まずは謝罪を。昨日は先生に対して失礼な態度を取ってしまいました。バルカ家の人間として見知らぬ者へ弱みを見せる訳にはいかなかったのをご理解頂きたい。失礼を重ねるようですが、お名前をお伺いできますか」


 とのたまう十歳。

 立派過ぎて怖い……。

 

 しかし、名前か。

 俺としては今までの痕跡を消す為に名前を変えようと思っている。

 何故ならば商団に居る間、常識知らずで色々やらかしてそうだからだ。

 ライルという奇妙な人間と俺は別の人間。

 そういう事にしたい。


 新しい名前もよくある名前から適当に選んだ。

 その名もダン。

 剣を操る巨大ロボみたいな名前でカッコよかろ?

 ウェイクアップしちゃうぜ。

 尚誰かから何故変えたのかと聞かれれば、以前のはあだ名だったと言う予定である。

 そして今はこの少女の前で無様を晒さないように、かのダンと同じ強さが欲しいです。メンタルな意味で。


「い、いえ。私のような何処の馬の骨とも分からぬ者を誠実に試験して頂き恐縮しております。私はダンと申します。その……。昨日話した内容は如何だったでしょうか? ご納得いただけたでしょうか」


「はい。考えれば考える程道理に適っております。しかもこれは明らかに凡人の視点を超えた知識。今まで神から知識を授けられたという者を馬鹿にしておりましたが、貴方様がそう言えば信じざるを得ないほどに興奮いたしました」


 喜んでるんだよ……ね?

 口以外どこも動いて無いんですけど……。

 少し頬が赤いのが興奮してる印なのでしょうか。

 しかし、突然地動説を話されたのに自分で考えて納得出来ちゃうのか。

 この娘っ子凄い。


「リディア様の御歳でそう感じて頂けるとは感服したとしか言えません。面白い小話程度のつもりだったのですが……」


「歳……。そして小話ですか。……まぁよろしい。本題に入らせて頂きます。ダン先生、暫くの間私を教えて下さると考えて宜しいのでしょうか? 私としてはせめて昨日話しておられた残り二つはご教授頂きたいと思っております」


「実は、幾つかお願いとお話しする必要のある事があります。言っても宜しいでしょうか」


「何なりと。ああ、給金の話でしたらこの程度を。お話しいただけた内容によっては上げる事もあるでしょう」


 そして言われた額は、今までの生活から考えて超高かった。

 わーお……。

 ほ、ほんの少しだけハードル高いかなー?

 ボクが欲しかった金額は、衣食住を抜いたら月三万貯金出来るみたいな感じだったんですけども。


「た、高いですね……」


「そうですか? 今まで教えて下さった方にもこの程度は支払っておりますが」


 スンゲーな。

 流石お貴族様、桁が違うっす。

 ……ああ、そうか、何かを教えられる程勉強してる人って普通貴族だもんね。

 給与基準が庶民とは違うのは当然か。

 いやいや、その基準を当てはめてくれる時点で太っ腹だっちゃわいや。

 声震えそうだけど、感謝はせねば。


「で、ではお願いを言いますので、その額から不都合のあった分だけ削って頂ければと思います。まず、教える内容に関してですが、お恥ずかしながら貴族の皆様が勉強するような、軍の動かし方等の有益な話は全く知りません。昨日のように物珍しい聞いた事が無いというだけの話になってしまいますが宜しいでしょうか」


「ほほぅ。あのような話をご存じなのに、軍や政治については全くご存じでないと? 何かを学ぶ人間はまずソンの書をたしなむものですのに」


 ……う。

 へ、変だった?

 どうでも良い勉強ばっかりして、基礎らしきソンの書とやらを知らないなんて奴は居ないって話?

 ど、どう言い訳したものか。


「……えっと、すみません。自分が興味のある話しか勉強して来ませんでした」


「興味がある話。その気持ちは私にも覚えがありますが……。いや、失敬。好奇心が暴走したようで。お話が有益ではなくとも結構。物珍しい上に納得できる話は貴重」


 な、納得……出来る内容だと、良いなぁ。


「頑張ります。それと、私がする話はリディア様お一人の胸に止めて頂けないでしょうか」


 だって変な事を言う奴だって吊し上げられたく無いっす。

 万が一昨日話した地動説で吊し上げられたら「それでも地球は回っている」なんては言いません。

 サーセン間違ってました。って言います。

 まぁ、この言葉は捏造の可能性が高いらしいけど。


「ふむ。……元より誰かに話すつもりはありません。智は秘匿する物という常識程度弁えております」


 うん、そりゃ金払って得た知識を触れ回ったりはしないわな。


「有難うございます。所で住み込みは可能ですか?」


 図々しいと思わんでもない。

 しかしここは何と言ってもお貴族様のお屋敷。

 セキュリティは最高であろう。

 是非壁の中に入れて頂きたい。


「私としては好都合な申し出。折に触れて面白い話をして頂けると期待しております」


「……はい。頑張ります」


 なんか、段々ハードルを上げられてる気がする。

 大丈夫、大丈夫なはずだ。

 俺だって12年以上毎日真面目に勉強してたんだ。

 ある程度方針が経つ2,3年は持つ、そのはず。

 その後については……今から考えていくのだ。


「教えて頂く日ですが、三日に一回程度で。私にもしなければならぬ務めがあります。趣味にだけ時間を割く訳にはいかない」


 お、おお。

 素晴らしいぞ、時間が稼げる。


「分かりました。お言葉の通りに致します」


「うむ。先生、ご忠告しても宜しいでしょうか」


「あ、はい。お願いします」


「他の人に物を教えようと言う人間が、私のような己よりも若い者から教える内容を趣味と言われた場合、普通は不快に感じる物です。目立ちたくないとお考えならば、もう少し普通の反応を心掛けた方がよろしい」


 ……。


「あの、私、目立ちたくないと申し上げましたか?」


「態度と言い方で仰ってるも同然。差し出がましい事を申し上げましたかもしれません。その場合は謝罪致します」


「とんでも……御座いません。ご忠告有難うございます……」


「いえ」


 この十歳。

 凄く、怖いです。

 もしかして、趣味と言ったのも俺がどう反応するか見る為?

 今までの会話から俺の人格を読み取って、その上で確信を得る為に?

 うがち過ぎか? でもそうだとしても全く違和感がない所が又……怖い。


 などと震えはしたが、結果としては最高か。 

 俺は美少女貴族の家庭教師なんて字面だけで笑える職業についたわけだ。

 全ては義務教育のお陰である。

 日本に居た頃は大して役立つように思えなかったけど、今では深く感謝しているっす。

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