ダン、オウランに挨拶する

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 物見戸様より、今から暫く出番が多い遊牧民、獣人、草原族の長であるオウランのイメージイラストを頂戴しました。出来ましたら見てから後の話を読んで頂ければ。と思います。


https://www.pixiv.net/artworks/91562056


 今回の話はこの美少女がロングヘアーになった感じでしょうか。

 私の印象として、貴族と遊牧民は服に山ほど刺繍をすると思ってます。それで拙作でも貴族の服には刺繍とかの模様が入っていて、貧乏人でそーいうの全く気にしない主人公とかは無地。みたいに考えつつ書いております。

 実は昔、挿絵をお願いする時に刺繍をイラストレーターさんに頼むのは無理。みたいな話を聞きまして。理由は言うまでも無く作業時間が増えるから。

 世の中には只管刺繍を書き込むクレイジーな漫画家も居ますが、やはりクレイジーな訳ですな。

 そしてこのお美しき美少女から美女に変わりつつある族長となってしまったオウランですが、色々と服に模様と装飾を入れて頂き感謝に耐えません。大変面倒だったろうと推測します。

 有難うございます。物見戸様。


 皆様も良ければ他の今まで描いてくださったキャライメージ絵を確認しつつ、アカウントを持ってる方はイイネ!や感想をお願い致します。

 今度出てきたときに改めて張らせて頂きますが、最初の二話出てから陰しか出番の無い主人公のストーカー対象、真田総一郎も描いてくださってます。


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 真面目に労働し昼食が終わり仕事を再開。という時間に倉庫主任の所へ行き『獣人の使節が来てるとの連絡があったので、トーク交渉担当の一人として挨拶してきて良いでしょうか? 向こうの質問とかがあれば今日はもう帰ってこれないかもしれません』と、これを口実にサボりたいな気配を出しつつお願いする。

 ため息一つで許可を貰い、地味で清潔な服へ着替え静かに宿舎の通用口へ。


 む。使用人用門だと言うのに衛兵が居る。 チッ。トーク姉妹め用心深い。軽く呪ったろ。

 で、衛兵さん。取次を願いします。という事で中に入り背中を丸めて待つ事少し。

 おお。遠慮のない足音が聞こえてくる。……うむッ! やはり勢いのある若者ッ! てか少女! しかも容姿に自信ありと見た! よし。頭下げて媚びを出そう!


「おい、犬のようなお前がダンとかいう高耳か?」


 まー素晴らしい。おいら嬉しくなってきちゃったぞ。衛兵さーん。聞いて! 彼女のこちらを舐め切ってる声聞いて! 出来ればカルマに連絡もよろしく!


「はい。お言葉の通りで御座います」


「ほぉ。犬の唯一の長所、従順さはあるようだな。ついてこい」


 わふわふ。……くーん? 近くで見ると刺繍のびっちり入った良い服。はっ!? 背中の真ん中にあるこれは。近頃流行でお高いと聞いた金色の尻尾を持った狼の刺繍!? 黄色ではない。金色だ。スゲー。のだろう。丁寧で良い感じにも見える。

 良い所のお嬢さんか。オウランさんの組織状態を教えて頂けるかな?


「あの、貴方様は責任ある立場の方とお見受けしました。どのようなお役目かお聞きしても?」


「……何故そう思う?」


 ムムムッ。質問に質問を返された。……うむ。イラッともしなかった。流石にもうそんな平和ボケは無いね。


「立ち居振る舞いは当然として、服の刺繍が大変立派で私ではとても着られない逸品に感じたのです。特に金色の狼は服から出て走りだしそうなほど。刺繍をされた方は素晴らしい技術をお持ちのように感じます」


 入手困難な糸を使って下手くそにはやらせんでしょ。これで外したらジョルグさんに恨みの手紙送ろう


「ふ、ふーん。臆病者でも物の価値は分かるのだな。確かにこの身は若くして草原族の名のある氏族長の一人となられた、オウラン様直下の一隊を預かっている」


 え。ギリ十代が、隊長? アイラが十代で将軍になってたよりは良いが、あれは圧倒的筋肉故だし……。うーむ、やはり人材不足なのではあるまいか。

 しかし氏族長の一人。本心から自慢げにしておられるようにしか見えん。吉兆か。それとも私の受け取った情報が間違ってる?


「なんと。その若さで人を扱うお立場とは。目標とさせて頂きます」


 あら可愛い笑顔。


「うむ。努力すると良い。―――そうだ。お前が今気になるのは、オウラン様たちのご機嫌だろう。お前のような者は皆上位者の機嫌を異様に気にする。どうだ合っていようが?」


 自慢げね。でもそれ普通です。私上位者の機嫌を気にしない人は逸材君みたいになると思うの。


「見透かされてしまったようで、己の底の浅さを恥ずかしく思います。それでその、オウラン様のご機嫌をお教え願えないでしょうか。分を弁えるよう努力する以外無いのは分かっているのですが、気になって気になって……」


「素直な犬は好きだぞ。だから教えてやろう。ご機嫌自体は……良い。ように思える。しかし他の氏族長まで来ておられる所為と思うのだが、何か滅多に無い緊張というか、意気込みもお有りのような気配も。

 だから皆気が張っている。ご質問には丁寧に嘘偽りなく答える事だ。そして終わればさっさと帰った方が良いな。重要な方が多く来ている。皆ケイ人には建物の中に居て欲しくないはずだ」


 あらまー。本当に親切。見た目は生意気な不良なの、にっと! 角曲がって急に立ち止まったら危ないよお嬢さん。


「は? 何故あの方が?」


 おほん? あ、護衛の兄ちゃんだ。手を振れないので恭しく頭下げとこ。


「どうなされたのですか? この身は、こちらにあの犬を連れてくるようお嬢様に言われたのですが、貴方様が居るなら中には……」


「気にするな。中で皆ご歓談中なだけだ。ついでにその……ケイの奴に挨拶させて良いだろう。もしかしたらご質問のある方がいるかもしれぬ。終わったら帰って良いぞ。外に出すのは自分がする」


「は、はいっ。承知しました。おい。お前こい。違う頭を下げろ。氏族長と会おうというのに、最初から顔を見ようとする奴があるか。全く……ケイの奴はこの程度の常識も知らんのか」


 おう、おう。そんなグイグイ頭押されると、とても新鮮な気分になって嬉しくなっちゃうから止めてくんない? 既に表情ニヤけそうなのよ。


「はい。ご助言有難うございます。このような感じで良いでしょうか?」


「うむ。許可があり扉を開けたらそのまま中に入れよ。……失礼します! トークのダンという連絡係の者が挨拶に来ました。開けてもよいでしょうか」


「良い。入れ」


 地面を見て背中を丸め中へ。両膝をつき、身を投げ出す。土下座とちょっと違うのよね。可能なら横のお嬢さんに私がワンちゃんしてるか聞きたいなぁ。

 ……少し、胸が高鳴る。会うのは何年ぶりだろうか。


「この者です。……連れて来ても良かったのでしょうか」


「うむ。見ての通り軽く話していただけよ。もう良いぞ。下がれ」


 お、随分渋い男性のお声。……ふーむ。期待はあるがオウランさんとの関係確認してからだな。

 お嬢さんが退室し、背中から誰かが入って扉を閉める音。続いて四方でも。

 そしてあちこちから椅子を引いて……立ち上がっている?


「確認致しましたオウラン様」


「良し。―――と、言う事ですダンさん。此処に居るのは我らのみ。ジョルグから友と言われたという文を受け取っています。なら彼の長であるわたしも、友と思って良いのですよね? そうならば顔を上げ、最後に話した時のようにして欲しく思います」


 良い、声だ。別れた時より更に魅力ある声となったように感じる。有難く見せて頂こう。私にとって最も大事な人を。

 身長が、伸びたな。

 ―――立派になった。

 あ、待て。感情に流されてる。此処に居るのは彼女だけではない。立つ前に確かめるべき事が。


「お久しぶりですオウラン様。友、とは身に余る光栄としか言えません。ただ、此処に居られるのは私如きでは振る舞いに注意すべき方々と感じています。それに案内してくださった方の話からすると、中にはオウラン様の盟友と言うべき非礼のあってはならぬ氏族長様も居られるのでは? 

 私が親しくさせて頂いた時とはお立場も変わったと聞いております。貴方様に不都合の無い、相応しい振る舞いをお教え頂けますようお願い申し上げます」


 部屋に居るのはまず見知ってる護衛の兄ちゃんとその配下。

 知らないのは若い男女が五人に三十を少し超えた男と五十を越えてそうな男が一人ずつ。年長組は見えてる肌に幾つもの傷があり、歴戦を越えた人の上に立つ人物のように見える。

 そして全員が私を注意深く観察している。馴れなれしくしてオウランさんの顔に泥を塗ったら溜まらん。


「……ダンさんが、何故そう言うのかよく分からないのですけど、わたしがどれだけ多くの者を支配してるか隠すよう言ったのはダンさんじゃないですが。

 今ではわたしも良い手だと思ってるんですよ。それでかなり努力をしてまして……だから―――うん。お前たち。この方が話したわたしの恩人だ。膝をつき礼を言いなさい」


『はっ! 長の恩人殿に感謝と、精霊の助けがあるよう願いを捧げます』


 全員がすぐさま膝をつき、頭を垂れ。統率の取れたとさえ言える動き。従おうとする意志を感じる。……そっか。護衛の兄さんから聞いた支配状況は嘘じゃなかったのね。不良のお嬢さんの認識は、オウランさんがした情報統制努力の成果か。実に、良いね。


 なら立たせて頂きましょう。後は、

「皆様に膝までついて頂き、恐悦です。所でオウランさん。こちらに来てお耳を貸して頂けませんか?」


 あら、言われて躊躇なく来てくださる。おじさん信頼に胸が熱くなっちゃう。実際下心とかは無いけども。だって、

「こちらの皆さんが配下というのは分かったのですが、何を聞かせても良い方々なのでしょうか。例えば……私が、貴方にこの方々を排除すべきと吹き込むのを聞かせても?」


 コレ聞こえるようには尋ねられないもんな。それで驚いておられますがどうなのです? 無理なら後で二人っきりで話したい。

 む。一歩おさがりになって、

「お前たち。立ちなさい。……やはりダンさんがどうしてそんな事を言うのか、よく分かってないとは思います。しかしこの者達は。

 わたしの腹心。我が民を率いるのに最も重要な者と、何時かそうなって欲しい者たちです。ダンさんがこの者たちを不要だと言えば、皆不安を感じるでしょう。それを心配されてるのだと思いますが、だとしても尽くしてくれると信頼しています。

 ただ、そのような事を言ったら理由を話してくださいね。そうでないとこの者たちが誤解して、ダンさんへ危害を加えようとするのを止めるのが大変そうですもの」

 

 ふんむ。若者たちは少し怒ってたり、どうよ自分はオウラン様から信頼されてるんだぜと自慢げだったり……あらまぁしてて良く分からなかったり。

 期待の年長は、三十は警戒してるのかな? 五十は少し表情が厳しくなったか。

 総じて良いな。オウランさんは信頼され支持されてるようだ。


「分かりました。では皆様にも話を聞いて頂きましょう。まずは……うん。お元気そうで何よりです。でも、何処か体の中が少し痛いとか不安はありませんか。それに……髪を、伸ばされたんですね。何か心の変化や辛い事があったのなら。後で話して頂ければ。

 私がオウランさんの元まで噂話をばら撒くのは無理ですから、遠慮なく話せると思うのですが」


「はい。教えてもらった通り体を大事にして、寝ていますから。体に不安はありません。髪は……その、草原族全体の長ともなりましたし、少しでも威厳が出せたら。と思って。……似合いませんか?」


「うーん。実は私、オウランさんの動き易さ以外どーでも良い。という感じの髪が好きだったんですよねぇ。だから、色々と面倒そうな長い髪はあんまり。のはずなんです。

 しかしよくお似合いです。更に美しくなられたな。と感じました。美人はどうやっても基本美人ですから卑怯ですよねー」


 あ、男の子が二名とも飛び掛かるのを我慢してるってくらい怒ってる。

 もー若い男ってのはこれだから。本人の様子見てから怒れよなー。少し驚いたけど、にこやかじゃないですか。


「……本当に、お変わりない所がありますね。今の話し方、凄く懐かしい。にしても……更に口が上手くなりました? 何か、こう、美しいと言われてこんなに気恥ずかしく感じたのは、久しぶりです」


 照れておられるのかな。しかし、美しいと言われて気恥ずかしくも感じない毎日か。……苦労してるんだなやっぱり。


「オウランさんは見るだけで分かるほど立派になられましたが、私はまー、殆ど変わりませんよ。タラタラしてますから。さて、一番大事なオウランさんの心身の確認は終わりました。後は座って話しませんか。

 皆さんにはお茶を飲みつつ、話し合いについて意見を交換しながら聞いて頂きたく思います」


「はい。そうしましょう。お前たち聞いたな。こちらの邪魔はしないように」


『御意』

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