ダンとオウランの話し合い1
「まず確認を。オウランさんは草原族全ての長として安定した支持を得ているという事で良いのでしょうか。そうなら、提案した税を取る話はどうなってます?」
「今では更に雲の氏族も幾らか支配下となっています。井戸の調停などをしていて、勝てば自然支配下となるので多分、雲の部族自体も我が部族となるでしょう。
税は……苦労しましたけど、何とか。教えて頂いた親から財産を受け取れない若者を直下の兵として雇い、部族全体の為に使うというのは本当素晴らしい考えです。案内させた娘もその直下兵の一人で、見て頂こうと。どうでした? あの娘は」
「ああ、彼女が。大変良かったですね。やる気に満ちていましたし、オウランさんを一氏族長と見ていました。
税の取り決めは送った注意書きを読んで決めた方が良いと思います。特に集めすぎと、集まった以上の出費をしないようお気をつけて。後は……皆で使う道や橋の整備。戦いで働き手を無くした家族を纏めて面倒見る。それを支配下ならば分け隔てなく行い、誰にとっても公平に益があるようにするのが重要でしょう。
又、その仕事をあちこちから集めた直下の兵にやらせるのです。そうすれば、自分の所へどのように税が使われてるか伝えてくれると思います」
「そうか。だから出来る限り多種多様に遠方の氏族からも集めて軍を作るように。とあったんですね……」
「上から言われるだけよりも、身内から聞かせた方が色々と面倒を省けるかな。と。その分税の導入や軍の統率が大変になってるのでしょうが……良いようにご判断願います。では今回の援軍に対して何を要求するかはどう纏まりました?」
「とりあえずダンさんの提案通りにしてみます。読み書き算術が出来る者で働けそうな者を下級官吏に。同時にその者達の護衛と起こるであろう問題解決の為に、兵を提供。そして使われてない土地を我らが放牧地として使う。税をトークに収めるという話は……かなり難しいんです。ですから担当を出来るだけ有能な者にしました。この者です。挨拶なさい」
三十ちょい越えの兄ちゃんが立って……あらま。片膝をついて頭まで下げるとは。んー、でも目つきがすこーし不穏なような?
「名乗らない方が貴方のやり方に沿うと聞いたのでそうさせてもらう。幾つか聞きたい。良いだろうか」
「何でも、幾つでもどうぞ」
「先の案内。犬とまで言われ、褒めるだけで良いのか。あの者くらいなら貴方の奴隷にでもして良いが」
あ、オウランさんが『嘘でしょ』みたいな顔に。しかしこの兄さん、護衛の兄さんから聞いて無いの?
「私は皆さんから軽く扱われてると思われた方が、何をするにも都合が良いのです。
あのお嬢さんのお陰で上手くすればカルマの所まで伝わるかもしれません。感謝すべき。と思ってますよ。良いお嬢さんですし幸せになって欲しいですね。勿論、奴隷としてではなく。
そういった私のやり方もあちらの方から聞いてくださると嬉しいのですが」
「……聞いておく。次に貴方は我が民に税を払わせるのがどれだけ大変か分かっているのか? しかも『トークに払う』となれば民は土地をトークから借りているからだと。トークの支配を受けているつもりは無いと怒る者も出てくる。そしてトークを襲おうとなる。これを抑えるのがどれだけ大変か理解してるのか? この身もそう考えて当然に思えるのだぞ」
文化の違いかー。分からんでもない発想でもある。
「私は苦労を全く分かってないでしょうね。ですから得られそうな良い点をお伝えして、後はオウランさんの判断にお任せするしかありません。
まず皆さんにとって宝である手つかずの放牧地がかなり手に入ります。そして羊、毛皮。その他色々を売る相手はトークの民。民が平和に暮らせるよう軍と街を作り、争いから守っているのはトークであり、その力は税から来ています。
トークを使い利益を得るのに、トークへ何も払わないのでは筋が通らないでしょう? 加えて今回の戦いでトークはケイ最大の河にある港を手に入れました。カルマもどう使ったら良いか困惑してるようですが、今後は河を通じて今までの何倍もの相手に売れます。それこそ羊関連が足りてない相手も居るはず。
オウランさん、確か売る相手が減って困っていたのですよね?」
「え、ええ。ランドの状態が悪くなりすぎて。今まではケイ帝王に貢ぐという形のお陰で河を越えて運べていましたが、領地同士の関所が厳しくなって茶葉の買い手に困っていました。支配氏族が増えて売る物、欲しい物は増えたのですが……だから、あの河が安定して使えるというのなら最高だ。と、商売担当の者が」
「私も本当にどうかは分からないのですが『草原族の獣人』よりも『トークの民の一員』の方がケイでは売りやすいと思うんですよね。
後は道、橋、井戸、壁を作る労役を通してケイの技術ややり方を学んでほしい。そうすればそちらで何かを作る際に役立つ。かもしれません。
何より巨大な黄河と、其処に浮かぶ船を見て使って、河の恐ろしさと力を知って欲しいんです。
警護のお兄さん、此処にいる方は皆剣や弓での戦いに長けてるんですよね?」
「は。それは、勿論。差はありますが」
「少なくとも私では相手にならないでしょう。でも、河の大きな船に……朝から昼まで乗ったら、多分全員を私一人で殺せちゃうんです。大丈夫な人も居るんですが、船に長時間乗ってると立ってられないくらい気持ち悪くなりまして。
しかし訓練したら大丈夫ということで、ケイでは船同士で戦います。
こういう皆さんの知らない事をいっぱい知るにはトークを襲うよりも、トークの民という建前の方がケイについて吸収しやすいと思いました。税はその授業料という事で。如何でしょうか?」
トーク姉妹の税使用がどれだけ公平で理に適った物か熱弁したい。でも税という言葉も知らなかった相手に何を言ってもなぁ。
中抜きとかで大騒ぎになった事もあるが、可愛いもんだった。下請けがあっても精々三次。今は遠い故郷なら
「如何も何も……その我らのような馬鹿にも分かりそうな説得、今考えて話したのか?」
「はぁ。まぁ。ああ、税に関しては誰でも感じる話なので、今ではないかも。あと、皆さんが馬鹿という事は無くて、生活の仕方が」「いいや馬鹿だ。貴方と比べたらな。近頃我らが使い始めた駅の制度、これも貴方の発案だと聞いた。本当か?」
「はい。と言っても概略だけですが。オウランさんの支配範囲が広がったと聞いたので、使えるかな。と。色々面倒が必要だったでしょうけど上手く行ってます?」
わ。表情に攻撃的な感じが。質問もなんか矢継ぎ早だし、この兄ちゃん私嫌いなのかしら。仕事と好き嫌い分けてくれると良いのだけど。
「『使えるかな』と来たか。この身は駅の話を聞いた時オウラン様に精霊の祝福が本当にあるのでは。とさえ思ったのだぞ。駅を作れるほど草原族に大きな勢力が産まれたのは軽く見積もって百年ぶり。何もかも初めての状況で直ぐこのような我らを知り尽くした必要な案を、あのお若さで考え付くなど余りにおかしいからな。
それが……我らを何も知らぬはずのケイに住む若造から教えられた案だと? 今の今まで信じられなかった。しかし……。貴方は、何なのだ。余りに賢過ぎる。しかも我らの民を説得できそうな話が簡単に出てくる口の上手さ。
悪い精霊はどうしようもない程に上手い口で人を騙し、自分の良いように利用すると言うが、貴方がそうなのか。或いは何処かの豪族とケイ人との間に産まれた子か。我々を使って恨みを晴らそうとしてるのか? ならば早めに何処を滅ぼしたいか教えて欲しい」
わー。精霊王の次は悪い精霊にされてるー。さーてどう誤解を解いたもの「だ、誰に向かって言っている! この方は、我が、いや草原族全体の恩人であると言ったはず。今すぐひれ伏して許しをこえ。さもなければ……ッ!」
わ、わ。本当に怒れる狼みたいにならないで。此処にいるって事は相当使える方なんでしょ。処罰なんて勘弁してよ。
「待ってくださいオウランさん。彼の話は此処にいる誰もが大なり小なり感じてる事なのでは? それに私が此処に来たのは、少しでもこういう不安を減らして貴方の手助けをするためのつもりでして。だから……座ってお茶を飲んで頂けると」
「しかし……いえ、はい。……わたしが拙い長な為に面倒をかけてしまい申し訳ないです」
「面倒ではなく本望ですよ。で、お兄さん。騙すと言ってもどうやって私が害を与えるんですか。そりゃー……何時か皆さんに協力をお願いする事はあるだろうと思います。しかし私には強制する力が無い。悪い結果になりそうなら逃げちゃうでしょ?」
「貴方の賢さなら、何とでも出来そうだが……例えば、今度移住させた民を他所の領主に襲わせるのだ。出来るだけ無惨にな。そうすれば、無思慮な者が復讐しようとして我々と他所の領主で潰し合わせられるかもしれん」
「え。それ、今考えたんですか? ……オウランさん、もしかしてこの方、凄く頭良い人なんです?」
「こいつは賢く、何でもできる氏族長として有名です。だから難しそうなトークと我らの取り纏めを任そうと思ったのに。まさかダンさんにこんな失礼を働くなんて」
「めっちゃ大事なお人じゃないですか……。いや、お兄さんそんなイライラしないでください。ご心配は分かりました。なら一つ提案があります。今ケイが住みにくくなり過ぎた事で、オウランさん達の所にケイの人間が大分逃げ込んでませんか?」
「……ああ。年々増えている」
「その人たちの中には、争いに敗れた元貴族から商人農民と色んな人がいるはずです。で、家族の面倒を見る代わりにですね。商人を使って皆さんでは商売に行き難い黄河より南に売りに行かせてはどうでしょう。そのついでにケイ全土の情報を集めさせるんです。中には皆さんにとっても興味深い情報があるでしょうし、私やトークが何か企んでいても事前に逃げ易くなるでしょう」
「同じケイ人を人質にとって働かせろとは……良く言えるな」
「でもその方々、今下手したら奴隷にされてません? それよりは守ってやりつつ得意な仕事をさせ、自分と家族の分稼がせた方がお互いに得だと思いますよ。農民には土地を与え、貴族など読み書き出来る者も良いように使う。という感じで。
ただ集団で住まわせると壁を作って皆さんに反乱するでしょうから、盗賊対策以上の防備を作らせないようにした方が良いかな? ……あれ? 何の話……あ。兎に角、私が何を企もうと状況をきちんと掴めてれば、皆さんなら何とでも出来ますよ」
「言ってる事は、正しいと感じる。しかし……いや……分かった。精々気を付けさせてもらおう」
「そんなに心配すると体に悪いから止めて欲しいんですが……。まぁこれから同じ街で暮らすなら、私に皆さんへ危害を加える方法が無いと分かりますよ。
さてオウランさん。次の話なんですが。これから責任を任せる相手を、出来るだけ若い新人にした方が良いと私は思うんです」
「それは……重要な仕事も、ですか?」
「重要な仕事こそ、です。今はどうしても経験を積んだ人に任せてるのでしょうけど」「待て、聞き捨てならん。ダン……殿。儂のような老人は役に立たぬと言うか」
……このご老人せっかちさんなのね。少し残念。
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