ビビアナ追撃戦の軍議
本当に直ぐ連絡来たし。
軍議場へ到着するまでにレイブンと話して基本今まで通り不戦の範囲で相手の意向に沿うと確認。
何かまずければ後ろに立っているリーア+1が秘書よろしく適当に記録しながら立ってるので、背中を突っつく。
うんでは軍議の大天幕へ入らせて頂きま……、集まってる方々の様子は大よそ以前の通り。でも、一人だけ。
イルヘルミ。鎧を着こんで以前と比べ物にならない厳しい表情を。
後ろに居る女性らしき方は別人か。私より頭一つ高そうな身長に重厚な体格。臨戦態勢そのものといった気配。
リーアの言ってたイルヘルミ配下最強の武将クティアかも。
周りに見せてるのもあるだろうが大した殺る気。ま、目の前でマリオ閣下がシウンへ合図してるし、話を聞くとしましょう。
「皆さま、まずランドの状態をお伝えしますわ。つい先日ギョクインが、ビビアナの命を狙い兵を連れて王宮を襲いました。情報は混迷しておりますがギョクインは死亡、ビビアナは存命だと思われます。その後ビビアナ軍は不埒にもケント陛下をかどわかし領地へ向かって逃げておりますの。
さて、我等の今後ですけども民心を安定させる為にマリオ様はこのままランドに入られます。火事まで起こってるようなので既に先遣隊が入っているのはご承知を。一方でローエン閣下は追撃なさいます。ローエン閣下、後をどうぞ」
―――これか? リーアは煙を見てこの口実を確信したのかも。実際火事は非常に危険だから当然と言えば当然だけど。
そして帝王が連れて行かれたとの発言から列席者が考え込んでる。
強い感情を見せて戦う気がありそうなのは少数か。領地が増える戦いでも無いし戦えば資金が飛ぶだけってね。
問題は帝王の影響力がどの程度残ってるか。……不明過ぎて悩ましかろう。
未だにケイ帝国の臣下であるという建前を大事にしてる人も居る。人材が増え敵の懐柔が楽になりと良い事は必ずある。
しかし建前上だけでも自分より偉い者を内部に入れ、慕う人材まで来たら領主が二人状態に近い。色々とクソ面倒に決まってる。
対応に時間を取られ、そいつらの衣食住を用意する費用。更には自称忠臣から本物の脳足りんまで帝王の名前を使い利益を得ようと、保護し利用しているビビアナ相手に策謀、暗殺。と蠢くはず。
これらの損益が総合的にどっちへ傾くか余りに分かり難い。人材を増やす必要が少ないビビアナだと損の方が多そうかな? という気はする。けど別の奴に利用されて益を受けられるくらいなら自分で抱えておきたいかも。……他人事として考えるだけでうんざりするわ。
ただイルヘルミの表情の硬さ、全身から溢れ出ている殺る気はやはり帝王を連れ出されたからこそ……じゃないかな?
「皆、わたくしはケント帝王を取り返す為、メリオ・スキト殿と共にビビアナを追撃する。他にも希望者はおらぬか? 騎兵を貸してくれるだけでもよい」
予想通りのイルヘルミのお言葉。……聞きたくない声が上がるぞ絶対。ほらみー! 手を上げやがった! 帝王助けたいとかコイてたもんなこのクソ野郎!
「真田は軍師を一人と護衛以外の全騎兵と将で参加したい。と言っても五百人程度だけど。いいかなローエン閣下」
「勿論歓迎しよう。……他には? サポナ殿は如何」
そうサポナだ。誰もが直ぐに声を上げると思ってたろう。だが……苦々しい表情。元々の予定か、リーアの書簡が急所を突いてたか。
どちらでも恐ろしや我が上司。
「残念だけどアタイはもう領地に帰らないといけない。ビビアナより遠回りするんでね。本当に残念だよイルヘルミ。武運を祈る」
顔に書いてる分も含めれば三回残念と仰るか。……ざまぁ味噌です。真田に味方したの忘れんぞ。
「そうか……。レイブン殿、そなたは?」
ちょ、ちょっと? ピクリと震えないでくれよ不安になる。
無いからね? 絶対戦わないぞ?
「某は応戦以外で戦うなと厳命されております。馬だけお渡ししたい。およそ百頭」
「チッ。こんな騎兵が名を上げられる機会で奮わん男やったとか。せっかく騎兵戦の様子を見ちゃろうとまで思うとったのに。
帝王陛下を救うとがぞ。厳命も何も無かろうもん。うちならどんな命があろうと絶対止まらんちゃ」
うっひぃ。そんな思ったままを言って許されてるんですか貴方。
レイブーンそんな震えないで。こっちの都合で我慢させたの何時か謝るからさー。
「―――臆病と言われようと仕方なく存ずる。メリア殿に良き戦功を祈っている」
「ふん。犬で満足言うなら仕方なか。ビビアナの糞でも掃除しとき」
「そう言うなメリア殿。出来ぬことはある。レイブン殿、馬の提供感謝する。二時後には出発だ。それまでにカガエへ届けて欲しい」
「承知した」
イルヘルミは更に希望者を待ってるけど……居なさそう。と、軍議は終わりか。
ならさっさと戻って作業しよう。確実にご不快であったレイブン様を更に苛立たせるのは悪しゅうござる。ってな。
それにしても馬を百頭ポンとくれてやるなんてね。脳みそ筋肉かってくらい豪気。
中途半端にやっても貢献にならず損とは分かるんだけどさ。
馬をイルヘルミに渡し、超忙しそうな相手からおざなりに『みな良馬だな。感謝を伝えてくれ』と言われ、慌ただしく離れていく追撃軍の尻へ頭を下げ。
ではランドへ入りますかね。
んー……。マリオ閣下としては民に歓呼の声で迎えられたら嬉しかっただろうけど、無理だなこれ。
あちこちに小さな火事や誰かが暴れたような跡が。マリオ閣下の指示を受けて帝王の王宮まで歩く道々、こっちを見る人々の表情も大分疲れた感じ。
ビビアナが襲われた時の騒動の規模が目に見えて興味深……もしかして復興作業、私らがするんですかね。
待てよ。民の建物がこうだとビビアナが居ただろう王宮と貴族街は……。あ。
ぎょぇ……。これ相当焼けてね? 未だ鎮火しただけの焼け跡の残骸が何処までも。もしかしなくても復興作業、私らがするんですよね……。
あ~、今日はとりあえず街の外で野営。明日からは指示がマリオ閣下から来ると。友軍識別のため自軍の旗に加え閣下の旗を持って仕事へ従事するようにと。はいはい。あくまで盟主が復興させてるとの主張で御座いますね。ええ、ええ。その程度文句は言いませんとも。
でも近日中に街の中で宿所を用意してくれるって私信じてる。割り振り作業大変だろうがよろしくお願いします。
野営場所へ戻り、天幕を作ってくれていた待機組に感謝を告げ中へ入り足を洗う。
む、足音。上司様のご帰還だ。挨拶とついでに少し好奇心を……、あ。下僕お嬢さんが湯気の出てるタライをお持ち。これは恐らく、好機。
「リーア様の足を洗うのですか? もしお二人がよろしければ私に」
「楽しそうで御座いますね。でも下僕の仕事を同僚の貴方へして頂く訳には」
「良い。お前は食事の支度を。何時も通り二人分だ」
上の一声は強力ですね。タライを頂きます。して上司様のご機嫌は如何と入室、
ちょっ。何よその片目を薄くしたお顔。
嫌そうなのがはっきり分かるなんてオメガ珍しいんですけど。
何をお疑いでしょう。若い女性の足を触りたいなんて下心は無いのに……多分。
「言下に断らせて頂きたいところです。されど大変嬉し気に仰いましたな。……何故?」
「その、師や厚く恩を受けた相手の足を洗うという話が古文で結構あるじゃないですか? この戦いが始まって以来ずっと伺ってた機会が訪れたので、やった! という気分で。……本当にお嫌なら止めます」
「いえ。お好きなように。ただし一日歩いた後なのはご承知を」
臭いって事? 分かってます。
美形が入った後のトイレが臭くて幻滅した。なんて言うのは中学生までよ。
……中学生でもアホな奴と思ったかな。
「はいはい。では失礼します」
うん、お湯の温度も丁度いい。では洗い揉ませて頂きましょ。
行商団に入ってた時、散々やったのを思い出すね。
新入りの仕事だった。臭いオッサンの足を洗うのは流石に嫌だったがそうも言えず頑張ったな。
「追撃戦が始まりますね。どうなると思われます?」
「兵数に勝るビビアナの負けは考え難く。勿論イルヘルミも正面からぶつかりはしますまいが。もしかしたら幾らか当たった後、話し合いで事が決するやもしれません」
え、なんで?
「ランドの様子をご覧になられたでしょう。このような場に陛下を置いていきもしもの事があればビビアナにとって余りに不名誉。
陛下を利用された場合最初の被害者となるであろうイルヘルミは必死なれど、ビビアナと側近の目はその先を見ております。
陛下の利用を考えていても彼女が徹底出来るかどうか。長く傍に置けばそれだけ問題も蓄積します故、そのあたりの考え方によっては安全な撤退と引き換えに陛下をイルヘルミへ渡す手も御座いましょう」
「成程。陛下を手元に置くと面倒腐そうなのは私にさえ分かるほどですものね。
これから戦うイルヘルミとしては他所の軍と組んでる今の内に出来るだけ削りたいでしょうけど……当たってみた感触次第か。
私たちにとって不味い結果は、あると思います?」
「イルヘルミの大勝でビビアナが死ねば少々。そうなれば主亡きビビアナの領地は混沌となり、より多く手に入れる競争が始まりましょう。されどトークはチエンが邪魔にて。サポナとイルヘルミが大半を得てしまいかねませぬ」
「あまり心配してないように見えますが」
「ええ。追撃、スキト家の参加はホウデの計算内。そもビビアナ一人領地へ帰れば勝利と言っていいのです。数万の兵全てを犠牲にすれば容易です」
うんな薩摩みたいな……。
まぁスキト家が強い。と、言ったって数万の差を覆すのは無理だものね。
「なら気楽に結果を待ちましょう。出来る事もありませんよね?」
「はい。グレースの働きに期待するのみと考えます」
よし。おみ足を揉むのもこんなもんだね。食事の前に手を洗いますか。
「良く分かりました。では食事の前に片付けてきます」
「……足を洗って下さり感謝致します。お陰様を持ちまして心地よく寝れるかと」
「態々言われると……もしかして下手でした?」
「……まずは素直に受け取って頂けない我が身の不徳を謝罪致します。―――ああ、今男が触るのは問題だったかとお考えに?」
だからなんでわかるの。
「図星です。お嫌な事をするのは本当に不本意なので、正直に教えて頂けます?」
「ダイの屈託のなさと申しますか。幾らか理解に苦しんでたのみにて。よろしい時にはお願い致します」
そう仰って頂けるならそうするのみです。こういうのは疑っても仕方なかろ。
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