カルマの返信を受けて
カルマに鍵を送って四日後、返事が届いたとリディアがアイラ家へおいでになった。たぶんこれ以上無い速さである。
読みたくない。でも読まないといけない。
『レスターに帰る決意をした。既にランドを去る準備を進めており、終わり次第病気療養として帰るつもりである。グレースに考えられる限りの手を打たせているが、他にも献策があれば直ぐに送って来るように』
はい。……はい。突然過ぎて震える方針転換ですね。
うーん。やはりあのズバッと書いて幾つかズバッと当たって幾つかスカッと外れたら丁度いいかな的にノリノリで書いた予言書、超効いたんかな。
分かるー。書いた私も驚愕の的中だったしー。
なんと言うべきか世界の真理に触れてしまった的恐怖も感じた。耳尖がってて年齢がかなり若いという凄まじい差があっても似たような事が起こるなんて。……偶々なだけ。も多いと、思いたい。のだけど。
そして今後を考えるだけでちょっと震えが来る。誤魔化しきれるのかあのメイドインジャパニーズ墓穴。
いや待てよ。これから彼女たちは当然リディアも超忙しくなりそうだ。戦いさえあるかも。そーなれば時間が全てを忘れさせてなぁなぁな感じで風化して何が悪い。良いじゃん凄く。
ヨシ。希望は捨てないでおこう。墓穴の上にもやがて草が生えるでしょう。そんな感じで。
して、リディア先生の反応は……。
なんか眉を寄せておられる。珍しい雰囲気になってる……気がしないでもない?
「さもありなん。幾ら硬い意思を持っていようと、あの予想を事前に書かれては。我が君は誠に恐ろしいお方だ。しかし、ふぅむ」
ちょっとちょっと。私の独創みたいに言うのはやめてーな。
「お待ちくださいリディアさん。箱の布に書いた内容は九割貴方が教えて下さったんですよ。恐ろしいのは貴方です」
「
そらそーだし、私の予測が知識によって補強されてたからこそってのはあるさ。
しかし私だからこそみたいな結論は困ります。
「それは貴方が立場も名もある貴族だからそう感じ」「それよりも、で御座います」
こ、こやつ。主君の言葉を遮るとは何者のつもりか。この私の墓穴返書に何かあるというのか。だとしたら清聴しますので手加減してください。
「この文、
「は……え? 恐怖の色? えーと、何処がでしょう。単なる業務連絡では?」
やたら素直になったから効いたんだろうなって思うけど、恐怖なんて……どう見たら見えるの?
「いいえ。文章と何より文字に強い怯えが御座います」
文字に……怯え? 何かの冗談……は許さないという雰囲気ですねお嬢さん。
「当然
う、うひぃ……。ち、違うぞ。私の顔が引きつってるのは、文字に怯えなんて理解不能な読み取りをされてビビったからだぞ。墓穴なんて皆無なんだぞ。
「そんな事言われましても。何か月も前に書いた物ですから大体の内容しか覚えてませんし。単純にリディアさんの予想が当たり過ぎて怯えたんじゃないですか? あ、そうだ。
『私当たるか当たらないか分かりません』では不快なだけだろうと思って、何とかに『なります』と断定する形で書いたはずです。それですかね?」
ね、ね? それだけよ。気にしないで。忘れて。見つめないで肌と心が焼けちゃうから。
「……そうかも。しれませぬな。
さて、我が君。どのような理由があろうとも、かように狼狽えられるのは不本意で御座います。忠節であれど無能な臣下が、難題を一手で解決した英明な主君から学ぼうと必死になっているのではありませんか。未熟なれど愛い奴とお喜びになるが道理ですぞ」
近頃、顔の変な場所が痛い時がある。筋肉痛だと思う。理由もほぼ確信している。今も、痛くなるところが不随意運動でピクピクしてるもの。
自動的に筋トレして小顔になれそうだと喜ぶべきだ。胃にも筋肉的超回復があると嬉しいな。
どんな理由があっても狼狽えないのはチミくらいのもんです。
あ、今度は文を見て機嫌良さそうなアイラを見て眉がピクって。何。次は何なの。私、場から外れるために貴方へ別のお茶菓子もって来たいのですけど。
「アイラ殿。文を見てカルマ殿たちの帰還をお喜びなのは結構ですが、これで助かった等とお考えなら間違っております」
笑顔が凍った。ワカルー。
「ど、どうして……あ、うん。でも、帰って来るなら」「カルマ殿が我が君の決定に従う気が無いと見切れば、我々が去るのはどうかお忘れなく。臣下の意見に従うだけの領主も世には居りますが、カルマ殿は全てを姉妹で決定している。我が君を反逆者と感じるはずです。敗軍の将となった彼女に飲み込む冷静さがあるかどうか。他にも我が君に出来る事なら己にも出来ると考え策を聞いてから追放など、
繰り言となりますが、アイラ殿には必ずや我らを領外まで安全に護衛頂きたい。さすれば、
……待って。内容が多い。把握しきれない。
「え、え。あ、うん。ごめん。確かにカルマと、特にグレースが怒るに決まってるの忘れてた。えーと……ダンは、お茶菓子持ってこようとしてたの?」
え、それ貴方にはどうでもよくない? 私は驚いたけど。
「はい。……なんで分かりました?」
「
「そうなのダン? あ、当たってるんだ……。何か、凄いよねリディア殿。あの、さ。リディア殿は必要が無いと全然話さない人だって聞いてたんだけど、良くしゃべるよね。それにも、何か理由があるの?」
お美しく長い指を立て、額を押さえる姿勢が決まっておられます。日頃の行いなのか人の格なのか知りませんが、素晴らしい。役者がしても自意識過剰で気持ち悪いと蹴りたくなる恰好なのに。
「貴方も我が君のようにご自分で分かる事なら考える努力をして頂きたく思いますが……。本来言葉を口にするのは愚かな事。無用な敵を作り、敵に有利を与えてしまいますので。しかし
あ、頭痛ひ。
うわー。いっぱい喋ってくれて嬉しいなー。本心かどうか分からなくても、とりあえず言われた通りの意志と受け取っておけば誠意はご理解頂けるでしょう。有難うございますー。
と、ずっと思ってたのまるっとご存じだったのですね。もっとか。◎◎◎だ。競馬かよ。
「そんなの、考えても分からないと思うんだけど……」
「―――はぁ。馴れぬ馬を相手にどうするか。と、お考えになっては如何」
「分かるような、分からないような。あの、リディア殿にアイラ殿と言われると、凄く変な感じがするようになってきたから……アイラとだけ、呼んで欲しいな。あ、ダンもだよ。僕、臣下なんでしょ」
「ふむ……承知したアイラ。であれば、
あ、そうだね。サッとそれが浮かぶとは流石だ。じゃあ私は、
「私も出来るだけ親しくさせてもらうようにします。しかし、敬語を抜くのは難しいかなーと。えーと……アイラ『さん』と呼ばせて頂ければ光栄なのですが」
「あ。なんか分かった。馴れぬ馬ってこういう意味なのか。……リディアって頭良いな」
へー。分かったんだ。二人の育ちと日頃の行動の違いを加味すると、リディアさんってもしかして本来の意味での意思疎通能力までメチャ高いのでしょうか。
私なんて二十代前半くらいまで、コミュ力を良くしゃべれる人と勘違いしてた記憶なのに。……見習いたいなー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます