カルマのランド行きについて考察

 フィオと話した三日後早朝。カルマ達は兵5000を連れてランドへ出発した。

 残った著名人はフィオ、アイラ、リディア。

 リディアはかなりしつこく一緒に来て欲しいと言われたらしいが、行くくらいならお暇を頂くと言って拒否したんですと。

 私の耳にも王都にはザンザが褒賞その他で釣った群雄が大量で、イルヘルミも居ると入ってるのだから当然だね。


 その昼から定期的に来る行商人や遠方に知り合いを持っていそうな人に、他領地でのカルマの噂を聞いておいて貰えるよう出来るだけさり気なくお願いして回る。

 カルマの運命はリディアの予想、私の予想ともに他の領主の所で流れる評判が重要な指標となる。

 倉庫係の限界はあるが、今トップである『あの』フィオから降りて来る情報だけに頼るのは論外っしょ。


 更に二日後の夜、私はリディアから家に呼ばれた。

 今度は何だろうか。

 リディアの家に行くとすぐに主の部屋へ通され、更に人払いをしてから聞いてきた。


「ダン、お呼びした理由は分かりますか」


「いえ、皆目見当がつきません」


「おや。てっきりわたくしを釣るために遠方の噂話を集め出したと思っていましたが、違いましたか」


 そんな深謀遠慮あるわけねー……。

 ちゅーか、私の動きはそんなにバレバレだったんかい。


「まさか。バルカ様は真に私を過大評価しておいでです」


「そういった面もあるでしょう。しかし勘違いなら尚お呼びして良かった。ご忠告申し上げる。大きな店は地域で名のある人間と繋がりがあるもの。今回はわたくしと同じ要請を直ぐに貴方がしたので、怪しく思われてこちらに報告が来ました。今の所『貴族に近づくのを願う心利きたる者が何とか考え出した雑談』程度ですが、お好みでは無いでしょう」


 ―――なるほど。

 間抜けが見つかったんだね。

 元々はリディアが予想してくれたんだし、彼女も調べようとするに決まってます……。

 まずはアホにアホだと教えてくれたお礼だな。


「ご忠告心から感謝申し上げます。バルカ様の予測を思い出すとどうしても不安で、世情を調べたくなりまして……」


「うむ。上手なお言葉です。何でしたら今後何か掴めた時には連絡してもよろしい。そう申し上げても調べるでしょうが」


 あんれま。それは有り難い。

 とは言え仰る通りある程度は調べますよ。

 自分の耳で確認したいしね。でももう少し興味無さげに聞かないと駄目だな。世の中難しい。……所で上手なお言葉ってどんな意味含んでるんでしょうね。確かに適当になるよう考えましたけども。


「有難うございます。バルカ様に調べて頂けるのなら安心できます」


「ご信頼あれ。所でダンには何時頃カルマ殿の立場に変化があるか考えはおありか? 今の所ザンザが大分優勢との情報が入ってきています。事によるとカルマがランドに到着する前に大勢が決している可能性も、と。今頃カルマも出遅れ戦を懸念して焦っていましょうな」


 あー。徳川秀忠は……嫌よね。トラウマになって夢に見るよね。天下分け目って程の話じゃないけど想像するだけで屈辱だろう。


「さて……例え十官相手に功を上げられなくても、ザンザ閣下に側近が必要なのは変わらないでしょうし……見当がつきません」


「……少々怪しい」


「怪しいと言われましても……誰であろうが難しい予測だと思いますが」


「それは確かに。所でアイラ殿と……いや、詮索はしない約束だった。許して頂きたい。ほら、ご存じであろう? 若者がよく言う好きな相手の全てを知りたくなる。という現象を。そうお考えになれば悪い気もしないのではなかろうか」


 ……そういうセリフを言う場合は、せめてもーちょっと恥ずかしそうにですね?

 あ、いえ、やっぱりご遠慮申し上げます。彼女からそんな風にされたら凄く怖そう。


「冗談でもそのように言って頂けて恐悦しております」


「うむ。そういう事で頼みたい」


「……はい。では本日はこれで失礼致します」


 さて……先程は予測が付かないと言ったが……。


 嘘だっち。

 ランドに到着しようって時に、十官とザンザの争いから逃れて来た帝王候補の子供を保護するかもって予想はあります。

 中国史ではそうなったと覚えている。そしてこっちでもあり得なくはない。かな? と結論した。


 ザンザが地方から援軍を呼んだというのは十官も当然掴んでる。

 ならばその前に勝敗を決めないと不味いと考えるのは自然だ。

 兵数と戦いの場数でボロ負けな彼らがどうやって決める?

 頭の暗殺が最良と考えるだろう。

 成功したら纏める人間を欠いて意見が分裂した配下を適当に味方に付けたり、同士討ちさせたりとね。


 だが、此処で問題なのはザンザの配下達が群雄である事。

 こいつらはザンザの強力なリーダーシップだけで十官と戦ってる訳じゃない。

 今までに自身の恨みつらみによって嫌ってるからこそ戦ってるのだ。そもそも自分たちを押さえつけようとしてる官僚なんだから邪魔に決まってる。

 其処にもし自分たちの頭が暗殺されたなんて大義名分が放り込まれればどうするのか。

 相当のヘタレ集団じゃなければぶっ殺せってなるでしょ。喜びの涙を哀しんでと主張しつつ、口では『我らが英明なるご主君の仇!』なんて叫びながら。

 で、その時帝王に忠臣が居なくても、計算出来る奴が居れば利用価値の高い帝王候補と逃げようとする。

 そいつらの逃亡先が争いの起こってるランドの外なのも十分妥当な線だ。そして外から来るカルマが保護する可能性が在る! ような。無いような……。


 帝王を逃す奴は十官関係者の確率が高いように思えるので、ザンザの一味となってるカルマへ近づかないよな。

 そんな事を考えられないくらい焦ってたりで方角を考えないで逃げるとしても、カルマが凄く魅力的な見た目の疫病神と出会う確率は東西南北四分の一以下。うーん……。やはり全部は当たりそうも無い予想か。


 一方このザンザが殺された場合起こりそうなランドでの争いだが、戦場を渡り歩いてる貴族と官僚として王都に籠っていた奴等なんて戦いにもならん。鏖殺以外に結果は無い。

 その後どうなるか。

 今帝王の座を争わされてるのは、十代前半のケント王子とザンザと血の繋がりがあり、帝王の座に座らせられてしまった六歳程度のシテイ陛下だ。

 どっちが最終的に帝王として安定しようが、勝ち残った群雄の中で誰が帝王を操るのかで争いが発生。

 かくして今度は群雄同士の間で恨みと危機感が増えて、完全な戦国時代の開始。

 凄まじい高確率でこうなると思っている。

 皆人間だもの。


 唯一暫く戦乱が遠くなりそうなのはザンザがとんでもない傑物だった場合か。

 ありとあらゆる殺意を叩き潰してケイ帝国のトップとして安定。群雄の不満を消し去る為に十官とかを完全に排除した上で群雄達の争いを上手く仲裁。更に民の不満を少しずつでも減らしていけちゃうような。

 

 勿論私が即考え付く方策以外に幾らでも手はあるだろう。しかし根本的に元肉屋へ期待して良い能力の上に富士山乗っけた無理難題と思うのよね。

 一から作るのだって超大変なのに、もうボロッボロの大邸宅な感ある国を補修しなおすとか気が遠くなる。

 しかも直したと思っても外から見えないヒビだの経年劣化だのが入ってるのは確実。

 空想小説に出てくるハーレム作って手を出さない童貞根性こじらせた超絶有能主人公でも無理が出そうな話だ。

 出来るとしたら光武帝、カエサル・アウグストゥスくらいの実在さえ疑わしい有能野郎が更に涙目になってやっとではなかろうか。足利尊氏程度では論外。好きなんだけどね。あのメンヘラばか強お坊ちゃん。

 

 現状、基礎のIQ的な物で劣ってる私に分かるこの状態を、言葉のまま万人の上に立つスゲー人達が把握し切れず無茶な行動を取ってる訳だが仕方ないのだろうな。

 彼らは現地で剣と矢を避けながら守るべきものを山ほど背負って判断してるのに、私は外から見てる観客同然。

 鳥の視点で見てたらそりゃああしろこうしろって言える。

 その上、同じパターンで崩れた人類の歴史を幾つも知ってるし。

 イザとなれば外国であるオウランさんの所へ逃げ出せばいい。という精神安定剤まであるのだから。


 そんな視野狭窄になって当然の立場であるトーク姉妹のピンチに、ドテドテと駆けつけるロバに乗った倉庫係になるのが私の直近の目標となる。

 カルマが領主としてこれからの戦乱を生き続けられるように。

 そして真田の情報を私にもたらし、他にも異邦人が居ないか調べて貰うために。

 ついでに命の恩人なのだから完全に信頼出来る理論で、トーク姉妹だけの機密情報を聞かせて貰える的なちょっとした料金も頂戴出来れば最高だね。


 さて……カルマが王都に到着するのは急いでも一週間後、そこで何かが起こったとしても連絡が来る頃には二週間後か。

 オウランさんに準備を頼んでおくとしよう。

 ザンザの身に何も起こらなかろうが、トーク領の人間が殆ど離れた今は草原族への注意がかなり薄れている。

 動けるなら動いて貰った方が良い。

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