リディアがダンに話す配下になった理由2
「頼りにして下さるのは有り難く。しかし―――。我が君、何故ご叱責なさらないのですか?」
「何をでしょうか」
「今日、カルマが貴方様を捕らえようとした時、
くぅうううっ。
何故文句を言わないのかって?
つついちゃいけないヤブだと思ったからだよ。
下手な事を言えば、私がお前をどの程度信頼してるかはっきりしてしまう。
話が終わったと思って安心したのに。
何とか―――誤魔化すべきだ。
「そう、なのですか? ガーレとレイブンが恐ろしくて、他にはとても見る余裕が……」
「……お許しいただけうるなら、愚考をご存知頂きたい」
……絶対話を流さんと仰るか。
謙虚な、警戒心を呼び起こさない言葉は。
「もし教えて頂けるなら。私への不満が理由なら直していきたいと思いますし」
「お言葉に感謝を。貴方様は慎重に慎重を重ね危急の事態を起こさぬ賢さをお持ちです。それでも尚、刹那の強さを求められるのがこれからの世であると
神に誓って申し上げます。もしも捕らえられた場合は交渉し、必ずやお助けするつもりだったのです。しかし、あちらの動きは予想外に危険な物。どうか、お許しくださいませ」
……危険さは予想外だが、恩を売りたかったってか? それに神へ誓ったからって本当とは限らん。
と、考えるのもきっちり想定してあるのだろうね。
ただ動機は本音に聞こえる。それを正直に言うのは、信頼がある証拠とも言えるが……。
ぬぐあぁぁああ……。
なんで一般人の私が、歴史を作っていきそうな謀略家の卵と読みあいしなきゃなんねーんだよ。
……なんでかと言えば、私が身の程知らずな行動を取ってるからだな間違いなく。
えーと、大事なのは、大事な事は―――。
信頼なんて枝葉末節は、良いのだ。どうでも。だから試されるのは問題ない。いや、むしろ……、
「では、その私の危機の時のなさりはどうでした? 中々の恥を晒したように思いますが」
「恥とはまた。……一つ、お答えする前にどうしても気になる事が。貴方様は、殺意を持って真剣を向けられ、矢を射られた経験はお有りで?」
「……かなり前に、隊商と旅をしている時、盗賊から襲われた事は。私は後ろの方に居ましたので危険という程ではありませんでしたが」
「―――。実に、素晴らしく御座います。あの時、貴方様は誰もが諸手を挙げて歓迎すると仰った臣に何一つ期待せず。共に暮らし臣下となるのを承知させた護衛さえ敵であるとして考えておられた。
何より敵意に満ちた場所であろうとご意思は明瞭。余程に考え抜き、状況を想定なされていたのでしょう。心より敬服致しました」
くぅう……。なんつーお言葉。
褒められたのは、嬉しい。一応の匿名性でも無ければ喧嘩も出来なかった自分を鍛えられた素晴らしい証明だと思う。
しかし信頼してないと思われるのは……。何事にも理由がある。この理由について考えられると非常に、不安だ。
「考えられるだけ考えたお陰で、落ち着けたのはあったと思います。褒めてくださり将来の不安が減りました。でも何かあった時、頼れるのはリディアさんとアイラさんだけだと信頼していたのですが……」
「
!!!!! なんっ……!?
「今日、ダン様が用意くだされた酒はどれも中々に良い物。多額の金は使えずとも、時をかけ地道に味を調べ探されたのでしょう。……ただお一人で」
その通り。しかし突然、何を……
「信頼は酒と同じで後が悪い。故に
そして、貴方様は一滴もお飲みにならなかった」
ッッツァ!!!
「わ、私も、リディアさんと同じくらいには飲んで……」
「酒用の小樽から飲もうとも、
幹事として失態をしないように。との言い訳はなされないよう願います。余程の下戸でなければ、上席に座った
ふ―――普通それだけで、信頼が一滴も無いなんて、断定します?
私は……するけど。秘密を抱えていて人前で酒を飲む奴は非常に頭が悪いと思うから。
本当、よく見てるよこのお嬢さん。
「酒は……後が悪いと言われましたが、過ごした事なんてあるんですか?」
「バルカ家では成人した日、明日に残るよう飲むのが習わしで御座います。我が祖先は貴方様ほど考え深くは無かったでしょうが、己の失敗を子孫にさせないよう考える程度のモノはあったのです。貴族は、愚か者を何とかして
愚か者を貴方程度に出来るお家があれば世界の貴族が全部その家になるわい! 何か、何でもいいから、ありそうな……、
「貴族であるお二人が、私を守るため体を張るのを前提には考えられませんよ。今日の食事も、皆様との初めての会ですから、緊張してまして……」
「あり得ない事では無い。とは申し上げます。さて、今少し愉快にお教えを頂きたくもありますが。煩わしき者と思われたく御座いませんので必要なお話しを。
明日カルマが我が君の案を受け入れたとして、全体の指揮は誰が?」
あー、頭を、働かせ過ぎたようで痛い。
でも確かに必要な話だ。えーと、指揮は……。
「私としてはリディアさんに執って頂いて、経験を積んで頂ければと思っていました。難しいですか?」
「正直に申し上げて期待しておりました。しかし、彼女達の生死を分かつ一戦の指揮を経験の浅い小娘にとらせるのはかなり反発が予想されますぞ」
「経験が浅いと言ってもリディアさんですし。今から考えないといけないあちらより、遥かに案をお持ちでしょう。加えて貴方の慎重さならばグレースへ確認を求めるに決まってます。純粋な勝率的にも良いと思うんです」
「反発は……いえ。承知いたしました。ではそのように」
「ああ、これは私がグレースにお願いします。その程度しか出来ませんから」
「……通常主君は臣下に泥を被せ、自分は人に恩恵のみを与える。でなければ上手く運びませぬ。これはご存知でございましょう?」
「もっとも働く皆さんの関係は出来るだけ良くないと。私はどーせ殆ど会いませんしね」
「……御意のままに。感謝いたします。所で一言言上が」
言上……。
すー。はー。すぅぅううう。はぁああああ。
「はい。何でしょうか?」
「若輩者をほめ過ぎで御座います。
……。
「はぁ、えーと。……貴方は十歳の頃から誰もが褒めていたように記憶していますが、世の中を舐めた記憶があるのですか?」
「いいえ。世の中は実に難しゅう御座います」
じゃあなんでゆーたんねん。
「何もそのような顔をなさらずとも。我が君に構ってほしいという可愛い臣下の声ではありませんか」
「……それは失礼をしました」
「というのは冗談として、我が君は世にも珍しい程枯れたお方。経験の浅い
冗談。枯れた……はそりゃまぁ、歳ですから。しかし……止める……。
「はぁ、まぁ、気が付きましたら。私の方こそ、今日のように能力が足りてるか調べた方が良い事があれば積極的に……お手柔らかに確認して、教えて頂いた方が良いのは分かってますので。よろしくお願いします」
嫌だけど、頑張らないとな。自分に出来るか欠片も考えず文句だけ言うのが庶民。土壇場で頼りになるかは不安を感じて当然だ。
確認を遠慮して切り捨てられるよりはずっと良い。
「お言葉実に有難く。
あ、あちゃー。
「す、すみません。どうしても、作法の差は我慢し辛いかと思いまして」
「我が父の事もありますのでお気持ちは分かります。しかし貴方様が足りない所を埋めたいと仰ったように、
加えて言えばアイラは我が君に教えられた作法を守ろうと、努力していました。今日の席順の理由を知れば残念に思いますぞ」
「はい。そうですね。……どうも、無駄に考えてしまいまして。かえって不快にさせてしまいすみません」
「勝手に信頼するような主君よりは頼もしゅうございますので。ただ我が君が必要と感じる物は、
今後とも、このようにして一つ一つ積み上げてまいります。せめて
本日はこれにて。実に、楽しいご招待でした。御礼申し上げます」
……。
帰りの挨拶まで、背筋を寒くするお嬢さんだ事。
つまり『お前の不信は承知の上で、お互いに有益な人間になれる。まず今の環境にも満足している』という意味で良いの……だろうか?
しかし、信頼……は無理だが、今日カルマ達の前で何もしなかった以上リディアは頼れる。
今日よりも危ない橋を渡る予定は今の所無い。だから、リディア、ラスティルさん、アイラは頼れる人になったと考えて良かろう。……私が慎重であれば。
はー。さっさと寝よう。大丈夫とは思うが明日も大変。全ての成功はまず睡眠から始まるのだ。
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