カルマへ二領主への対処を語る1

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 物見戸様より本日出番の多い若人の絵を頂きました。出来ましたらご覧になってからお読みください。


https://www.pixiv.net/artworks/91059409


 ダンの前ではこの程度のツン顔が基本となったキャラです。この話では……はい。

 ピクシブアカウントをお持ちの方は、イイネ! や絵から感じた感想。等をよろしくお願いいたします。


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 昨日と同じ時刻、アイラの下僕感出しつつ議場へ。到着した議場には昨日と同じ面子に加えてラスティルさんも既にお待ちの状態。皆さん時間に正確で感心である。

 ふーむ。こちら側に寄ってくれたリディアとラスティルさんに緊張した様子は無いし、大丈夫とは思うのだが伏兵の確認を……いや、止めとこ。居たら言ってくれるだろ。それに、私が知ってもあまり意味無い。無駄に不信感を出して、まーたリディアから『一滴も信頼されてないのですね』と脅されるだけだ。

 と、黙ると直ぐに足音が。扉を開けた時、誰に見られるのか分からないので臣下の礼を取って待つ。

 足音が響き、分かりきった人物の座る音がして、

「楽になさい」


 まずは議場全体の確認。うむ。余計な人物は居ない。なら次はトークが私に期待してくれるか、だな。

 私が見ただけで起こったグレースの表情の歪み方からして、聞かないでもいいかな感あるが。


「ではトーク閣下。私どもの案を聞く気になったか。それとも追い出すと決めたのか。お教えください」


「聞こう。状況は昨日リディアに言われた通りと我らも認識している。三倍近い兵に攻められ、後背には獣人。兵の士気も下がりつつあるこの状況、対案があるか?」


 うーし。……いよおおおおおっし。

 良いよカルマ。どんな思惑でも結構よ。まずは頼って頂かないとね。

 はー。ほっとした。こう、全身の毛穴が緩んだ感あるわ。

 これで私の出番は終了です。先生、後はよろしくお願いします。


「では我が君に代わり案を申し上げる。の前に。グレース殿、カルマ殿は籠城としてフィオ・ウダイ殿。貴方にどのような案をお持ちか尋ね損ねておりました。どうぞ仰ってください」


 あ、こいつ舌打ちしようとして我慢しやがった。礼儀知らずだけどお上品です事。


「……小職の考えは我が君とやらの策が下策なら叩きだして、軍の団結を図る事っス。纏まっていないと勝てる物も勝てないっスから」


 おお。本人の前で言うとは若いね。

 おじさん好きになっちゃいそう。皮肉じゃ無くて本当に。


「では、それ以外は籠城という事で? 貴方がお嫌いな我が君の策に頼らざるを得ない程、追い詰められている。そう、受け取って宜しいかな? 勿論、トーク家に属する者全員が、です」


 え。……攻めますね君。何かお考えがあるのだとは思いますが。


「なんっ! ―――作法を承知した者と考えていたのは誤りだったっス。それとも追い詰められた我らには必要ないとでも言うっスか?」


わたくしは必要に応じる者であろうとしているのみにて。カルマ・トーク閣下。わたくしは貴方にその認識をお持ちか特にお尋ねしたい」


 せ、攻めますね君。グレースの口から「キシィッ」と異音が鳴ったの聞こえた? 待って。アイラをそっちに一歩……あ、寄ってくれてた。


「認識を、持っている。さもなければとうに放逐しておる。……案を、早く聞かせて欲しいのだがな。我らにとって時が血と同じ価値との認識は、持ってくれていよう?」


「はい。故に今頃はオレステの領都で『二領主のうちカルマの首を取るか、せめて先にレスターを包囲した者がビビアナとの交渉を有利に出来る』

 ウバルトの方では『大宰相として多忙になるビビアナは、何よりも着実にトークが滅ぶのを望んでいる。そしてその意志を汲む使える領主を』との噂が流れておりましょう。

 わたくしの見たところオレステは性急。ウバルトは慎重の気質。これで何とか両軍の連携と進軍速度に差が出てくれると良いのですが。他にも思いつき次第手を」「ま、待ちなさい! お前たちの案を受けるか決める前から、そんな動きを!? 特にオレステへそんな話を聞かせたら、可能な限り速く攻めてくるわ。あたし達には時が! 足らないのよ!」


「おや。時が足らぬ。とのお言葉なれど、何よりも両者の連携を崩す事が肝要。例え我らを追い出し皆様のみにて戦おうともです。そう、考えたのですが。細部の遺漏はあっても、大筋ではお褒めの言葉を期待しておりました。何か、ご異存が?」


 ん、んー。今のグレースの考え、私にも読める。『せめて殴りたい』そんな感じだ。もうちょっと上品だろうけども。


「―――ぅ。……く、無い……わ。しかし……よくもそんな危険な越権行為、密偵にさせられたわね。カルマ様とあたしの印を捏造でもしたの?」


 わ、わー。其処までの真似なの。……もしかして私の案に従う為? ちゃんと自分の安全確保してくれて……るんですよね? この人も二重三重に安全策を取る人だとは思うんだけども。


「はい。難しゅう御座いました。その為、お二方が帰還次第追認の命令書が届くと書いてしまっております。細部の変更も加えて後ほどお送り頂けますようお願い申し上げます。

 さて、既にご承知とは思いますが。わたくしの案は進軍速度の差を突いた野戦。勿論単純に当たっては勝てませぬので、問題の四氏族を草原族のオウランに止めさせ同時に援軍を出させます。ただ今後を考えればかの者達が不満を持たぬよう、血を流させぬべきなのは明白。故に援軍と言っても獣人の騎兵を使い二領主へ思いつく限りの妨害をさせるのみが良いでしょう。

 この時肝要なのは、何としてでも二領主の領地を奪う事と考えます。さもなくば結局は将来の展望が」「ま、待ちなさい! い、今オウランに四氏族を止めさせ、援軍。なんて言ったように……聞こえたのだけど?」


『待ちなさい』二度目。それに対して私の信頼厚きお方は。

 うーわ。……小首を傾げて不思議そうな表情までなさってる。貴方がそんな表情するの、本当珍しいですよね。ざ、ざーとらしぃやつー。


「申し上げましたが? さもなければ勝てますまい? 此処に居る四者は皆類まれな勇将とは言え、流石に二倍の敵を二回打ち破らせようとしては我ら策を考える者の首が」「そうじゃ! なくて! オウランにそんな力無いでしょうが! 大ぼらじゃなくて現実的な案が今必要なのよ!」


 これは私の番。先生、少しお待ちください。


「ああ、それはですね。少し前にオウラン様は草原族同士の結構大きな戦いに勝ったそうでして。今では結構勢力を増してる……みたいな話を聞いてます」


 出来れば戦い自体を。何より強くなったなんて事は秘めたかったが……アイラが喋る可能性は考えないと駄目だしなぁ。一応オウランさんには可能な限りアイラへどれだけ勢力を増したか把握し辛いようにしてくれと言ったが、一番上座に座ってるのは見られたと聞いたし。それでも極力どの程度の戦いか、とかアイラが参戦しました。とかは言わないけど。

 ぼくー、無能なんでー。必要と思わなくて―。言うの、忘れてましたー。ごめんなさーい。ってな。

 ……気苦労が絶えないね。


「だからって、今からオウランの所へ行って、交渉して四氏族を止めて援軍を用意なんて、間に合う訳がっ!」


「グレース殿、落ち着かれませ。四氏族は既に止まっておりましょう。あのビビアナよりの書状が我らの元にあるのですから。軍も既に集め終わっているとの事。そしてトーク閣下が受け入れれば、六日ほどで此処レスターに使者としてジョルグが来るでしょう。大体の話は伝わっているはずですが、草原族の軍が援軍となるか。纏まった敵軍となるかは閣下の交渉次第」


 あ、私が余裕を持って伝えた日数を更に余裕持たせて言ってるこの人。


「……話しが唐突過ぎて、大ぼらじゃないとしても……余りにはっきりと多くの問題があるわ。少し待ちなさい―――」


「グレース殿。わたくしも少しは彼らの事を存じておりますので、同じ不安を共有していると考えます。しかしその全ては向こうの意志と、指揮する者の腕。何よりこちらで向こうの進路から誘惑するような物をどかすといった対処次第では」


「それは……そうね。いや、やはり無理。奴らは自由に略奪出来る機会を我慢すると考えるはず。それを賄うだけの何かなんて無いわ。それは、向こうだって分かっている。……それとも、バルカ家のリディア様なら余人に不可能な交渉が可能だったとでも?」


 あらやだ。グレースさんたら粗雑な皮肉。庶民のようで「当然。失礼とさえ感じますな」して……よ。え?


「我がバルカ家は祖先からして生き残りの名手ゴウ・バルカで御座いますれば。

 重臣として仕えていた国が滅び、次に仕えた匹夫の死に巻き込まれる事無く逃げ、かの覇王リキの配下となりて高祖と戦い、更には高祖へ乗り換えリキと戦い滅びるもご覧の通りの子孫と中々の家名を遺しております。

 初めての滅亡の危機であろうトーク家とは、弱者として交渉する経験が。窮地を越えてきた数が違うのです」


 うおおおおぉお……。今此処に居る全員の考えが一つに。『マジかよこいつスゲーな』となってる間違いない。

 っべーっすわ。本当バルカ家半端ないって。

 成程なぁ。歴史ある貴族だと、文化が全然違う遊牧民相手でも交渉出来ちゃ……う。……あれ? おかしくない?


「そ、そう。失礼したわね御免なさい。確かに、我がトーク家ではこんな滅亡の危機は初めてなの。それで、その、オウランにどんな見返りを約束したのか、凄く気になるから……教えて欲しいの、だけど」


「おや、まだ思い出しておられない。グレース殿。そのオウランとの交渉担当に任命されていたのは何方ですかな。何故わたくしへお尋ねになる」


 ……。あ、うん。それよね。


「―――ダン、だけど。―――それ、なら。今の偉大なご先祖の話は……何だったの?」


「グレース殿が悪しゅう御座いましょう。思い起こされよ。わたくしが此処にきて一年経っておりません。その間わたくしは此処での流儀と仕事に慣れようと、上げた手を下ろす所さえ皆様へ尋ねる毎日。

 その上ケイの貴族と見れば敬意を払う時はあれども数倍の警戒をする草原の者たちを相手にどう交友を深め、辺境の領主として身を立ててきたトークの方が不可能と申される交渉をすればよいのです。

 このような無茶を言われた場合や、面倒になると我が君は酷く適当なお言葉をお返しになります。臣としてわたくしもならう必要が御座いました」


 なん!? 俺の所為なの!?


「ああ、ついでに存じて頂きたいのですが、バルカ家ではゴウ・バルカの評価は賛否両論で御座います。負けて負けて更に負けて最終的に勝った方へ付けたので何とかなっただけで結局敗死しておりますから。誰もが認めるのは生き汚い悪運のみかと。

 わたくしとしても先祖へ祈るのは、世情から鑑みて三回は負けられる悪運にあやかりたいからのみ。偉大と言って頂くほどでは。して我が君、どのような見返りをお約束に?」


 え。見返りって何の―――。あ、オウランさんの話か。


「えっと、待ってください。今、頭が」


 多分皆同じになってる。ふーーーーーー。はーーーーー。ヨシ? あれ? 確かこれリディアに話したのに。あ、見返りについては私が話した方が良いと言ったな確か。話が吹っ飛びすぎて脳追い付きません……。


「見返りは勿論貰えるだけ貰うという感じらしいのですが、何でもオウラン様はトークと長い関係をお望みだそうで。その為に協力もすると。ですから二領主の土地を奪うのに、必要な協力も……してくれるんじゃないかなと。後は誠意の問題で、本当出せるだけ出してると証明出来れば……みたいな感じでした。具体的な馬一万頭みたいな数字は聞いてません。

 あ、でも一つ。私にトーク家の決定権を渡せと言ったの。あれ、オウラン様の要望でもあるんですよね」


 キャピッ☆ とかすれば少しは状況が緩く……はならんな。多分剣を投げつけられる可能性が増えるだけだ。

 ほーれほれ。不思議そうな表情が、どんどんつり上がって、

「お、まええええええ! 主君の危機に! 外憂を招いてまで出世を望むか! 前から! オウランに様を付けたり媚びていると思ってはいたが、そういう腹の内だったのかぁ!!」


「グレース! 待て! 激昂するな昨日の話し合いを思い出せ!」


 い、良いですよカルマさん。そうそう。平和な話し合い大事。私の望む状況はグレースの想像より数段良いから。

 ……もっともオウランさんたちが本当に納得してくれてるかは神のみぞ知る。


「トーク閣下有難うございます。言わせて頂きますと、援軍してくれたら下級官吏が決定権を持ちますよー。が取引になると思います? 予想でしかありませんが、長い付き合いをするとなれば手のひらをひっくり返されないようにしたくて何かお考えになられた……のでは。

 そう要望するならついでにトーク閣下がより慎重に判断するよう意見出来て、私としても都合が良いかなーと思ったのはありますが、私の方から要望する余裕無いですよ」


 全部嘘だけどそーいう事になってはいるから視線を緩めてねカルマ。筋肉浮いてて怖いよガーレ。グレースと、あ、フィオにレイブンは……こっちまで聞こえてくる呼吸を静めてください。

 そしてすまんねオウランさん。話した通りではあるが、少々泥被ってくれ。やはりそっちの要望だとしなければ、私が留まり続けるの厳しかったよこれ。


「ふっ……ふ……ふぅぅぅぅぅううう。――――――そんな、具体的な数字も出さずに、将来的な付き合いの為と、あちらが『好む』下級官吏に決定権を与えれば、獣人の敵が、援軍に早変わりするとは、純粋に大した交渉術過ぎて信じられないわ。本当にジョルグが全てを整えて十日と経たずに来るのかしら?」

 

「はぁ。他にありそうな要素は私が地面に頭を擦った回数と、嫌がられつつあちらの足に接吻した回数。後は今まで細々と向こうがやり易いようにグレース様から受け取った指示を伝えてきた事くらいですが。

 やっぱり色々と良い風が吹いてたんじゃないですかね。私の知らない内に草原の方で。

 で、その、言うまでも無いと思いますが、ジョルグ様が来るとの絶対の保証は無いですよ。向こうの言葉と態度は今まで約束を守ってきてくれたのと同じように感じましたが、結局はこちらの担当の方からの了承を得ただけですから」


「申し上げる。割り切りられては如何か。すべからく我が君の交渉通りとなれば、わたくしは七割の勝利を見込めると考えております。

 遅くとも十日経てばジョルグが来るかどうか。何一つ上手く行かなかったかが判明するのです。来なければ皆様の選択肢は降伏、逃亡、自決のどれか。

 十日であれば、何か妙案が浮かんだにしても必要な準備だけで過ぎるのではありませぬか? 故に、今は来るとした場合の話のみにしなければ実は無いと考えます」


 グ、グレースさーん。自分の指を頭蓋骨にめり込ませるの、あまり良くないとおじさん思うな―。

 責任感あるのは結構だけど、無理なもんは無理だって。人間諦めが肝心よ?


「……援軍が―――来るとしても、獣人に領地を荒らさせないなんて無茶だから、少しでも動く距離を短くさせた方が良い。だから、籠城して、敵の後背を突かせた方が、安全に勝てるし……」


 声が、軋んでる。手が顔ごと口を塞いでるからだよね? あちこちの筋肉が浮かんでるの見えるけど、関係ないよね?


「……信頼出来ない軍と共に戦うと仰る? それに金銭は借金で済ませられても、血の借りの膨らみは予想し難い。せめて出来るだけ小さくなるよう配慮した。そう示した方がよろしいのでは。―――案は全て申し上げました。考えるのに必要とお感じなら我らはもう一日待ちましょう」

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