ダンとアイラの関係が変化
アイラが帰って来るまでは今まで通り倉庫で仕事。
と思ってたらリディアの御呼び出しが。
何かあったのだろうか? と何時ものようにコッソリとリディアの屋敷へ。
そしてリディアの表情から情報の良し悪しを推測しようとしてみたり。
……無駄でした。分かってました。すみません。
無茶な考えを捨てて、リディアの話を清聴しましょう。
「お呼びしたのはカルマ殿からの文が
「それは有難いのですが……もしかして我が君という呼び方、気に入りました?」
「はい。我が君の落ち着きが無くなるご様子でしたので。やがて慣れましょうぞ我が君。我が君、そのように表情を動かして如何なさいますか。我が君はトーク姉妹と渡り合わなければなりませぬ。我が君が内心を悟らせないのは我が君の策を成功させるためには重要でございます我が君」
こ、こやつめ、あばば。
いえ、こういう人だってのは分かってましたけどね。
他の人間なら煽られてるだけだと思って、お付き合いを断つだけなんですが……なんかこー、なんかこおおお、追い詰められてるような気しかしない。仰る通りだからか?
不快感は無く不安感だけが増える。一文字違いで大違いだ。
ただ気の所為かもしれませんが貴方様すっごく楽しんでませんか?
いえ、私の反応ごときでお楽しみ頂けるのはとても幸せな事だと思います。きっと。多分。めーびー。
……いや、細かい事で狼狽えるアホにウンザリしてるだけ? やっぱり分からない。
「呼び名程度で狼狽えないように精進します……。それで、カルマからの文はどんな内容だったのでしょうか?」
「おお。やっと胡散臭い閣下付けをお止めになりましたか。ご信頼を頂き嬉しくおもいます。さて文ですが現在の状態とその相談。加えてマリオ・ウェリアの領土から聞こえて来た自分への悪評への対処法を出すように、と」
胡散臭いとはあんまりなお言葉。ああ、違う。この程度はまくら言葉なんだ。本文が大事集中するんだガンバレ。
「えーと、思ったより遥かに早く気付きましたね……いや、思ったよりも噂の広まり方が早かったと言うべきか」
「マリオの領地はランドに近く御座いますので。しかしここまで噂の広まりが早いのならば急ぎ呼び戻すべきかもしれませぬ。アイラ殿を待っていてはどうしようも無くなりうる早さです」
「いいえ。アイラ様を待ちます。彼女が向こうに付いては暴力だけで何も抵抗出来なくなりますから」
「カルマが生き残っていくためには
確かにね。
だがラスティルさんは話し合いの場に居させる気は無い。護衛は無理だ。
彼女はまだ客将、何時出て行くか分からない。しかも下手したら真田の所に直行。
その時に持って行かれる私の情報を増やすのは不味い。
「仰る通り。しかし、駄目です。何時出て行くか分からないラスティルさんはせめてカルマが納得するまで場には置けません。アイラ様だけが護衛として頼りです。帰って来てからでも間に合う公算の方が高いでしょう? カルマたちがどうしようも無ければ、アイラ様を連れ出して損切りしますよ」
「ふむ……ラスティル殿を省くのは大事の前の小事に思えますし、どうにもアイラ殿個人を重要視しすぎかと。不可解で御座います」
そりゃそーだな。しかし重要だ。
彼女と数年一緒に暮らして分かった。彼女は五感の全てが動物並み。
護衛として最高だ。加えてオウランさんの配下になりうるのは彼女だけ。
何だったらカルマ達が皆殺しになって、アイラだけが私に付いて来てくれる結果になっても良い。
他の所で最高の護衛と一緒に暮らしつつ、今みたいにほそぼそとやっていこう。
ふ、夫婦みたいにな。
ゲヘヘヘヘヘヘヘ。
と言うのは勿論冗談である。
肘鉄を食らうとよく言いますが、彼女の肘鉄は多分私の心臓を爆発させる。
生き死にを掛けて女性を口説くような勇気はありません。
さて、彼女の重要性は私の目的に合ってるだけで、普通ならおかしいのは間違いない。
どう言い訳した物だろう。
……劉備でいいか。
「私は彼女と最初に約束しました。その義を果たしたいのです。例え人が私を裏切ろうとも私が人を裏切ることはありません」
うむ。正に君子。
私カッコイイ。
「……あまりに下手な言い訳で御座います。大体今貴方様がなさろうとしてることは多くの人が裏切りと言う真似。……どこでその嘘くさい言葉を聞きかじったので?
おっと、そうだったね。
鋭い突っ込みごもっともっす。
創作物で知った言葉を適当に使うと恥をかくという見本になってしまった。
「……とりあえず、そんな感じでお願いします」
「致し方ありませんな。考えを教えずとも良かろうとの、我が君の厚き信頼を感じ感無量でございます。或いは『やむなく対処に遅れ』カルマらがランドで皆殺しになっている間に、我らは『仕方なく』アイラ殿を筆頭の将軍として領地を手に入れる方が簡単かもしれませぬが……それをお考えか?」
え……あ、凄い。ワンチャンある。下手したらそっちの方が良いかも。こいつ、間違いなく天才だ。
しかも鬼の無慈悲。
「その手、考えてませんでした。良い手かもしれませんね。その場合はリディアさんが主君ですよ? 私は無名でよろしくお願いします」
「気が向きましたら」
あ、この反応は駄目かも……。
元からそんなつもり無かったからいいけどさ。
何にせよ全てはアイラが帰って来てからだ。
文の返信は方針を踏まえて適当に返すようにお願いして解散となった。
---
一つの机を囲んで帰って来て軽く一休みしただけのアイラ。そしてアイラ亭へ来てもらったリディアが居る。
アイラの表情を見れば噂がどうだったかは分かるが、さて。
「アイラ様、トーク閣下の評判を聞けましたか?」
「うん……。ビビアナの近くだと酷かった。カルマがどれだけ酷い事を民にしてるか、とか。どれだけ今の若い帝王を苦しめてるかとか……」
「もうこちらの領地まで届いてましたか。……私としては後はアイラ様次第。如何されますか」
「……どうしても、ダンの指示にカルマ達が従わないと助けてくれないの? ダンがここで高い地位に着きたいというだけなら、僕は喜んで助けるのに」
「ああ、誤解されています。私は地位や名誉に興味がありません。彼女達が私に従わないのなら協力しないと言うのは、そうした方が生き残れそうだからです。ですよね? リディアさん」
「はい。まず此処の皆様は諸侯の気質などについてあまりに無知。
鳥も巣を作る木は選ぶ。アイラ殿もご一考なされるがよろしい」
誰でも誇り、名誉、感情に行動は振り回される。乱世となれば普通の人では耐えられない理不尽だって幾らでも起るはず。
となれば有効な決断が出来るのはトーク姉妹よりリディアなのは明白だと思う。
何せ庶人である私の配下になるなんて言う人だ。
普通同じ立場の人間なら屈辱の余り自殺した方がマシと考える真似を、軽々である。トーク姉妹にもあの十分の一くらいは覚悟だか何だかを持って貰いたい。
と、言うのは良い良い訳だね。事実でもあるが、もっともらしく言うの上手過ぎて怖いわこのお嬢さん。
「分かった。僕は、ダンの配下になる」
え? 普通数日考えさせてって言う……よな。
「こんなに……早くお決めになるとは思いませんでした。あの、トーク閣下が私の提案を飲む確率は半分あるかだと思います。なので、とりあえずは全て私たちの予想通りとなった場合の護衛だけでも結構ですよ」
うわ、なんで私が言い訳がましくなってんだ。
しかしあまりにも返答が早くて……。
「? でも……僕が配下にならないとカルマ達は死ぬ。違う?」
「私とバルカ様の考えでは、です。絶対にそうなるとは言えません」
「うん、分かってる。実は帰ってくる間に決めてたんだ。ただ、カルマ達がダンと協力する様に、そして協力した場合には生き残れるように頑張ってくれないと……僕は悲しい」
カルマ達が本当に大事なんだな。そして世渡りが下手な子だ。
同情を感じる。……都合の許す範囲での誠意でしか動かないよう気を付けないと。
……私も中々に出来上がって来たね。
クソ以下の匂いが漂って来た。
「分かりましたアイラ様。今回トーク閣下に起こった問題を解決する為に全力を尽くすと誓います」
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