真田の情報入手2
食料を多く作り、生産効率まで上げて次は? 余った人手で山を切り開き土木工事かな。当然真田は大活躍だ。一輪車にリアカーでも作れば圧倒的効率差が産まれる。
全て想定内。真田の名を知った時からヤルと思ってはいた。国全体で殺しあいをする内戦の中で、何もかもを増やす方法を知っているのに我慢する訳が無い。『人助け』なんて考えている可能性さえある。しかし、それでも、本当にヤっていると分かると……!! 他人の行動でこんな体が震えそうな羞恥を感じるものか。何という考え無し。何という偽善。何というおぞましさ!
ああ、思い出した。かつてこいつを知った時、私はクソっ垂れが居たと考えた。なんて冴えた表現だ吐き気がする。こいつは、こいつこそ世界で唯一のクソっ垂れだ。生きている限り、こいつはこの世で最も臭いゴミをまき散らし、周辺を汚染していく。
私も同罪ではある。だが私が教えた相手は天地と共に生き、馬から決して離れなかった遊牧民。クソ真田は農耕民族! ああ、クソ。ケイの人間に技術を伝えるようなクソ野郎なら絶対にそれの何が違うと言うだろう。想像するだけで歯ぎしりしてしまいそう。
少なくとも私の知ってる歴史では大違いだ。今も目の前でクソ真田から影響を受けてるケイ人たちが居るっての……いや、歴史、歴史で考えれば。未だに理解出来てないけども此処の土地の人間の未来が、私の知ってる物と相似するなら……。救いは、ある。最低最悪ではない。私にとってはマシな方だと言える。かなり。……訳の分からない推論に頼った気休めでしかない。しかし最高の気休めだ。これからもケイの歴史と文化くらいは大切にしていい。そう、考えられる。
だが、兎に角。何を置いても。一瞬でも早く真田を殺さなければ! 今ならまだ簡単に殺せる。戦えるのなら、オウランさんに何としても十万の兵を出して貰い、トークの兵と合わせて抵抗さえさせず! だが時を置けば……或いは決して勝てないまでに……ッッ!!!
なのに、ビビアナ、ウェリァア! 貴様が邪魔だ! この世で最高の無能だ貴様は! お前のすぐ隣に最悪の敵が居るのだぞ。ラスティルさんは真田の妻がケイの家名に並々ならぬ誇りを持っていると言った。ケイの新しい長になりたいお前を認めるかよ。殺してくれれば私は決して恩を忘れないのに!! 男爵程度では無能の耳に入っているかさえ怪しいと分かっていも……化け物のガキを放置しやがってぇッ。
道連れに出来るなら命は惜しくない。それくらい真田には虫唾が走る。
しかし……無理だ。私個人では領主である奴を確実に殺す方法は無い。そして誰にも『真田個人を殺す』協力は頼めない。私が注目していると知ればトーク姉妹かリディアが奴を探る。そして価値の何割かに気づけば真田の味方になりかねん。更には注目した理由を辿って真田に私を知られる可能性まで出る。協力を頼むにはせめて奴を確殺出来る状況じゃなければ。
奴の本当の価値を決して知られてはならない。オウランさんでさえ危険だ。今、この地上に生きる全ての人間にとって、奴は何を捨てでも守る価値のある極宝に見えるだろう。
ビビアナ、イルヘルミ、リディア。何者であろうと奴の価値から見れば自分が塵同然。そう考える可能性がある。ケイの人間は全て奴の味方になると考えるべきだ。そして、真田があっという間にケイ全土の統治者に……ッ!
まだ、まだだ。焦るが焦る状況ではない。奴は子爵に指先を引っ掛けたくらいで無名。奴を分かっているのは私だけ。妻であるユリア・ケイでさえ凄い人としか思ってないだろう。時間はある。奴の知識がどんなに多くても、一朝一夕に結果は出せん。実際多くの失敗をしてると聞いたじゃないか。奴自身も派手には動かないはず。優れた物を産み出せば、力の強い領主から殺して奪われる可能性を考える頭はあるだろう。
落ち着き、静かに、隠れて、確実に、消し去るのだ。まず真田。そして真田から知識を濃く与えられてそうな配下全員を。
その為には……超無能のビビアナ・ウェリア。やはりこいつと連携を組むのが良い。昔真田が敵の可能性を考えて、リディアへビビアナと同盟したいと言ったのは賢かったな。ビビアナは領地が増え、私は安堵が増える素晴らしい話となる。
不味いのは……ビビアナが真田を臣下にしたい。なんて言い出した場合。―――ジンさん。参戦出来るなら彼と騎兵を数千。加えて選び抜かれた精鋭を十人ばかり同行願おう。戦場で死ねば良し。牢に入ったり連行されそうなら後先考えず殺す。臣下の優先順位は事務方から。私が姿を消せば特に問題にはなるまい。一応美形の男に自分の女を取られかねて嫉妬。とでも書いて残すべきか。
今は……この程度で満足しよう。忘れるな。真田を殺すのは『何時の間にか』となるよう最善を尽くすべき。有難い事に戦乱の世。死ぬ波は幾らでもある。時代の動き、世の流れ、諸侯の感情。何にでも乗り、埋め、奴が居た事自体を消し去って、
「皆様。誠に申し訳なく思いますが、
お―――。ふ、ふ、ふぅ。……私はダン。少し口の動く小賢しい下級官吏。真田は、新進気鋭で警戒すべき単なる男爵。……よし。
……いやぁ、相変わらず胡散臭い言い方も似合う人。皆警戒の表情じゃないですか。
「半年前、
何時も通り血色が良いのに何故か冷たい鉄に見える肌色ですね。しかしもう事態が動くのか。ビビアナが王都に入って一年未満とは早い「待って。十日前? そんな重要な話を十日も伝えないとは貴方たちどういうつも……あれ? もしかしてダンも知らない?」
「初耳です。お立場的にご不満も分かりますけど、知らない情報を与えてくれたのを喜んだ方が良いと思いますよ」
「配下が情報を伝えないのを許すのは論外と思うのだけど。少なくともあたしは大事な情報なら可能な限り早く伝えてくれるよう望むわ。リディアにどんな考えがあってもね」
確かに報連相大事。このご時世でも聞かなかったから責任は無いと言う自己保身の化身も居るが、勢力の長は無理だしね。ただ例外は何時でもあると思うの。
「非礼をお詫びいたします。雑多な噂のようにも感じたが故にて。以後は無きよう努力を。
ではご報告いたします。十日前。ビビアナが十官最後の生き残りアルタ・カッチーニに毒を盛られた報復として処刑致しました。尚、陛下に害は御座いません」
! ―――これは、衝撃的。
そうか、あのお茶を買ってくれたハシタナイ姉ちゃんが亡くなったか。……残念だが、仕方ないな。勝てない相手と戦ったのでは哀れとしか言えない。
「毒……本当かは不明でもビビアナの邪魔をしたのだろうな。アルタにはビビアナと協力するよう忠告したのだが。やはり無駄であったか。愚かな女だ……」
「どうやらビビアナが陛下に己の子を娶らせようとし、アルタは成人前を理由に反対を。マリオとの同盟はやはり成らなかったとの情報も入りましたので、余裕の無いビビアナの邪魔をすれば当然の結末と愚考致します。
さて問題となるのはこれからのマリオの動き。……如何でしょうかグレース殿。フィオ殿。先日と同じ条件で
「嫌っス」「嫌よ」
返答早いですね……。
「おお。賭けを有利に運ぼうとのお考えですな。ふぅむ……致し方無い。
……え? 何それ。本当に不利過ぎません?
「ムムム」
「それは……いや、駄目。フィオも駄目だから。リディア、良い情報に感謝する。そしてもう良いかしら? 議題は尽きたし解散してアルタの死についてゆっくりと考えたいの」
「何と。お二人ともトークに馴染むべく努力する小娘に今少し配慮くだされても宜しいでしょうに。
はぁ~。なれば、お考えの一助になるやもしれませぬので、今後の情勢について我が愚考をお聞きいただけませぬか?」
はぁ~って貴方。逆に皆さんが上役から顔を見て溜息されたような表情になってますが。
「拝聴、するわ。今後どうなると考えるの?」
黙って一礼するだけで胡散臭さが増す十代。からの歩いて近寄るだけで武闘派領主が緊張する十代。……気持ち良く分かる。そして知ってる。あの懐から取り出した布に書かれた内容は剣より強烈なんでしょどーせ。
「―――な、はっ? ビビアナは非道、ケイの逆臣であるッ!? 『この神をも恐れぬ所業を知った諸侯は世を平らかならしめんと当然の義挙を行う。そうマリオ・ウェリアは信ずる』
これ……は。諸侯に対するビビアナを倒す連合軍の要請、なのか。何処、何時!?」
はぁ!? え、それ、ケイ中で今起こっている全てが吹き飛ぶ話、のような。
「アルタが処刑された三日後、王都のそこかしこに置かれた立て札の内容で御座います。
よって皆様が考えるべきはやがて届くマリオ・ウェリアの檄文にどう反応すべきかである。と、僭越ながら愚考しております。僭越ついでに申し上げますと、今から事を確認なされてもマリオの檄文よりは先に判明するかと。
実はアルタの処刑でマリオが必ずや動くと考えたのです。何を考えるにしてもその後で無ければ無駄になる。ならばあえて忙しくなされてる皆様の思い煩いを増やさぬ方が良い、と。しかしかえって皆様には不快な思いをさせてしまったようで。お詫び申し上げます」
……非常に、重要な話だし、途轍もなく情報が早い、よなこれ。今此処まで知ってるのは当のウェリア家だけかってくらい。
凄い以外どう言えばいいのやら。それにこの事件は十数歳のリディアが予想した『王都では誰も成功出来ない』に即してる。……まだ少し残ってた苛立ちが静まる話ですこと。
あれ? となると懐にほぼ確定した情報があるのに、マリオがどう動くか賭けようなんて言った訳で―――き、汚ねぇ。そりゃ自分が当てられなければ負けとかコクわ!
あ、でも即態々教えるのだから、逆に聖人の行い……か?
ううむ。リディアをチラ見して山頂に割く高貴な花の如き神秘的美少女と表現し、私を腹筋断裂で殺しかけた若い衆たちが此処に居たらなんと言うのだろう。
「なん……と。だがマリオの領地と王都では使者の往復を三日は厳し……いや、違う。其処まで考え予想し準備させて……これみよがしな銀髪は中身も中々だったか。昔会った時、家柄を鼻にかける嫌な奴としか見られなかった己が恥ずかしい。
リディア殿、極めて重要な話をこのように素早く教えてくれて心より感謝する。我らの無礼を許して欲しい」
おお。グレースも溜息交じりに頭を下げ、姉妹揃っての敗北宣言には流石のリディアも自慢げな顔を、する訳ありませんでしたね。
「光栄の至り。ただこの情報は二重三重に確かめるべきものにて。よって今からでも賭けを承りますが」
わ、しつこい。わ、妹君、凄い嫌そう。身の程知らずの若造に肩を組まれた時みたい。
「……貴方とはもう、決して勝負しないから」
「お言葉に誤解を感じます。ふむ。
そもそも運任せを最小にするお人だと思うし、比較的苦手は間違いなかろう。サイコロが絡むなら確かに勝ち目も。だけど……お相手の顔に大筆で『嫌』と書かれてますね。
「致さないわ。例えそこのレイブンから臆病者と罵られても、絶対に」
「待てグレース。某も流石にもう剣での勝負さえ」
「黙って。あたし今考えが多くて頭痛いの。解散。解散だから! 皆お疲れ様。今の話は当然特に内密よ。十日以内に確かめて皆に教える。どう対応すべきか考えておいて!」
「吝嗇」
わ。ケチと言いおった。……可哀想に唇がひくついてる。実に生真面目な。ふんむ。
「……近づかないでダン。今、前みたいな真似したら殴るから。……その上げた手のひらも意味が分からないわ」
存じておりますとも。そんな危険な真似しません。近づいたのはただ単に、
「はぁ、今仰った通り殴る物が欲しいんじゃないかと思いまして」
お、良い踏み込み。そしてシパーン! とはいい音。思ったより痛いし。殴る練習してるのねこの人。
「―――ふん。少し爽快だったわ。感謝はしておく」
どういたしまして。さ、て。実に有意義な会議だっ「我が君。如何でしたか。グレースから好意を得られるよう、させて頂きました助力は」
ぬおっ!? 退室中の皆さんには、聞こえて無いか。なら良いや。けどもお言葉は、
「流石に、それは適当に言い過ぎ。ですよね?」
「はい。ですが我が君の心遣いには本心より感服しております。町で同じように殴り合う子を見た事はありますが、咄嗟に殴らせようとは中々。
ああ、先の書についてのお話しは明日、夕食後我が家にて如何?」
「へ、お、はい。そうさせて、えっと、頂きます。……余計でしたら申し訳ないのですが、グレースさんをからかって大丈夫なんですか?」
「ご安心を。日頃は良き先達として影も踏んでおりませぬ。グレース殿も良くしてくださいます。ただ主君が別人な時には少しばかり遊ばせて頂いても宜しいでしょう。
皆様何かで敵となる時は、このような些事に関係なくなられる方でもありますから。では失礼を我が君」
はい……失礼致します……。
本当、一々言葉に重みがあるお嬢さん。……グレースも今の私と似たような混乱を日々抱えてるのだろうな。
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