真田の情報入手1
半年以上ぶりの裏会議。本日は中央に卓とでかい箱? 何が入ってんだろ。で、皆様の様子は―――お元気そう。何よりだね。まずはグレースから諸侯の状況報告か。
まずスキト家。トークと距離的には隣同然だけど、河と山に阻まれ縁遠いお家か。
異民族との戦いに加え、領民が獣人交じりで遊牧生活の者まで居て統治するのに苦労中ね。
うん、ジンさん経由で聞いてた。国境線に居る辺境伯らしいお仕事お疲れ様です。
ビビアナはリディアが纏まった情報を手に入れ次第。
イルヘルミは着実に領地を増やし、マリオ・ウェリアも……兵の指揮者にテリカ・ニイテを使って周辺領地を併合とな? いや、グレースさん『流石ニイテ家ね』って。
彼女まだ二十弱の小娘ですよね? 親父以来の重臣がこぞって付いてきたとは私も噂で聞いてるが、なんかこの国余りに若く有能なの多くね? イルヘルミも確か三十。マリオとビビアナがやっと四十くらい。人生五十年世代とは言っても……。目の前に居る皆さんも二十後半程度から三十強だし。
……私と真田君の所為で、変な影響が出てたり―――いや、やめとこう。不毛で怖いだけの妄想だ。
「最後にラスティルが評価しているサナダ男爵について。たかが男爵と思っていたらこの男凄いわ。領地に入ってすぐリバーシという新しい遊戯を作って富を得、名を売っている。
次に近隣で民から嫌われていた男爵領を二つ攻め落としてるわね。庶人から男爵となって一年と少し。しかもあたしより若いのに。ラスティルが評価するだけはあるわ」
おお、真田君調べてくれたんだ。有難うグレース。拝聴させて頂く。
「であろう? 男爵領二つ程度は大した苦労しておらぬはずだぞ。彼の元にいるセキメイにフェニガは実に賢いし、ロクサーネ、アシュレイは拙者と互角の猛将。サナダ殿自体も官僚として中々。戦いでも指揮、個人共に我らと大差ない人物だ」
「密偵もそれに近い事を書いてる。子爵に足らない勢力でうちと変わらないくらい人材が揃うなんて一体どうなってるのかしら。
統治も善政。ユリア・ケイという妻が副領主で、二人とも見目が良く民からの評判は神の如し。だそうよ」
「神の……如し? 随分だな。サナダ自身がそう思わせようとしているのか? ……戦ってみれば分かるのだが」
「レイブン貴方ねぇ、なんで神の如しかが戦えばわかるのよ。別に戦士としてという意味じゃないから。相当らしいけど少なくともアイラには劣るとあるわ。
可笑しかった事が一つ。この男自分が違う世界。未来から来た。と言ってるのですって。それもあって民は神秘的存在に感じてるのじゃないかしら。
でも笑えない事もあるの。真田は天才。なんて言葉でさえ足りないくらいの速度で新しい物を作ってる。フィオ、手伝って。箱の中身を卓の上へ」
神の、如し。新しい、物。―――――――――。まだだ。決めつけるのは早い。
でも口は手で覆って。心を平たく表に何も出さないように。ふぅ……。良し。
む、でっかい布。これは……布団か。あぁ、良い口実だこれ。って、カルマ様が顔の前でビローンと広げておいでなのは。
「何なのだこの布。良く分からない形に縫っているが」
「あ、姉さんそれ女の密偵が絶賛してたわ。乳を覆う布よ。動いても痛くならず、大きい者ほど楽になるとか。今までみたいに布を巻くだけよりずっと良いみたい。上手な職人に作らせないと形が合わず煩わしいそうだけど」
「ほぉ。こうか? ……レイブン、ガーレ。服の上なのだから目を逸らさずとも良い。しかしこれもサナダ発案ならば、二十の男が女の乳を覆う布を考えるのは破天荒と思えるな。見目良いのなら余程遊んでいるのか?」
そうそれよ。真田君。いや、真田さん尊敬。スポブラな感じでもどんな顔して配下の女性陣に見せたの? 美形だからって心臓強すぎませんかね。
更には二十程度で戦いながら奥さん持ち。もしかしたら側室さえ。彼も私と同じ年齢詐欺だろうか。加えて名前の響きも私が勘違いしただけで、違う世界から来たとか。
私と同じなら何度考えても個人の殺しあいでラスティルさんと互角なんて信じられん。しかし、このブラジャーと布団。何より置いてある服の形式は、ボタンがあったりとあの頃の物に感じる。
「領民には手を出してないみたい。そちらの服も奇妙に感じはするけど何か上手だし、着る物関連の才能まであるようね。……ダン、それ寝てる時に被る布らしいのだけど、何か?」
おっと目ざとい。まぁ丁度良いや。
「これ何かの毛を布で包んだ袋を幾つも繋げて、それを大きな布で覆ってますね。
同じのをトークで作って売りませんか。オウラン様の所と連携を組んだ事で、ケイでも一二を争うくらい羊毛があります。
匂いとかが抜けるような加工と、外側の布もこちらで売れそうな作りで作成をお願いして。作れないならトークにある布で。貴族用には絹が良いかも。
作り方は直ぐ他所に盗まれるでしょうけど、羊毛を高く売る方法として非常に良いんじゃありません? 四氏族も皆喜びそうです」
作り方を盗んでも羊毛の安さで此処に勝る所はあるまい。オウランさんにはトーク以外へ売る場合は三倍の値段にするよう勧めておこう。でないと全体で見れば損をする。はず。
「え? す、少し待って。―――――――――。あ、え。嘘。凄く良い案。貴方、商売の才能があったのね……。これを見て直ぐそんな案を思いつくなんて。
でも、少し悪い気もするかしら。男爵が必至になって考えた物を真似て作るのは。―――もし、敵とならずに縁があれば金でも送りましょうか」
あら律儀。……悪く無いかな。そうやってグレースが対応してくれれば、同類が作ったんじゃないか? と真田君に疑われなくなるでしょ、うん? フィオが音が出るくらい強く頭を抱えて、どうしたの。
「く、屈辱っス。なんでこいつに思いつく程度の事を、小官は……」
態々口に出す失礼な奴、ではないな。誰もが顔に『突然冴えた事を言ったぞリディアからの入れ知恵か?』と書きおって。
でもその言い訳は駄目。リディアに効かないもの。
「いやぁ、前バルカ家に販売をお願いした茶を参考に考えただけです。お褒め頂けて嬉しく思いますグレースさん。ところで、持たれている布について何か話したかったのでは?」
「あ、そうなのよ。サナダなんだけど、奇妙な事をしてもいるの。街の綺麗さに凄まじく拘っていて街の道から牛馬の糞を一掃しようと、孤児に金を払って集めさせてるんですって。他にも色々。頑張り過ぎて変な失敗もね。糞尿を一か所に集めて埋めたら、土の掛け方が浅かったとかでハエが大量に湧いて大変だったり。
そして商売と同じくらい熱心なのが農業。特別な畑を作って一年で四つの作物を作ろうとして失敗している。でも失敗ばかりでは無いの。民から崇められるような成功もあって、特に評判を得たのがこの絵の道具」
「これは―――なんだ? 木で出来た大きな櫛が逆さに? 使い方がわからんぞ」
ああ、あぁ……。千歯扱。後家殺し。それに四つの作物と来てしまった。……決して、表情を変えるな。予想の一つじゃないか。
「脱穀に使う道具。とある。この隙間に通せばあっという間に穂が落ちるのだとか。兎に角作って試すつもり。他の街を綺麗にする取り決めとかも。何しろ密偵が凄い熱意で調べてくれてるの。せめて試すくらいはしないとやる気を失ってしまうわ。
さて、分かったかしら。サナダは新しい物を大量に作っている。才能、なんて言葉じゃ納得できないくらいよ。違う世界は笑い話でも異国の知恵ではあるのでしょう。本人は高耳だから、異国で生まれ育ったなら相当数奇な人生になってしまうけど」
「異国というとマウ国か? 非常に巨大で強い国と聞く。優れた物も数多くあろう。しかし大した人物だな。ラスティルと戦えるまでに強く、内政に明るく、有能な人材が集まる人望まであり、その上で優れた物を生み出せるとはこれ以上の完璧があるだろうか。同じ領主として嫉妬を感じるぞ」
「お言葉ごもっとも。なれど完璧な者でも全て上手くは行かぬようです。人の世はこれだから面白い」
「うぬ? リディア殿、よく分からぬ。俺には領地も富も増やしつつあり、民から支持されとこれ以上無いように思え……。あ。ビビアナの隣だからか?」
「それは確かにどうしようもない点で御座いますな。彼らは既にビビアナと争っているジョイ・サポナの支援で領地を得たとあります。共にビビアナから攻め滅ぼされるが常道でしょう。
しかし
「あ―――そうだ。ラスティルは、この男を捨ててダンを選んだのか。そ、某には理解出来ぬ。あ、いや! ダンが悪いという意味では無いぞリディア殿! 世の誰であろうと、サナダ程はまず、な? ラスティルであれば男爵家で不満があったという訳でもあるまいし」
む、呼ん……レイブンかよ。どうでもいい話で考えの邪魔しやがる。こいつも殺すか。
「それ、本当っスか? 変わった趣味の人とは思っていたっスけど、にしても。万人が理解出来ないと言うはずっス。……もしかして、病気の家族を人質に取られているとか?」
「はっはっは。皆の言もっともと拙者も思う。それがな、ご主君と昔の約束を守っていたら此処にいる事になったのだ。
実際今でもアレで、当時は完全な下級官吏であったご主君との義理を守ってしまう自分が憎くなる時がありはする。特に昔の男が如何に立派であったか教えられるとなぁ。今戻っても歓迎されるであろうし。なぁダン様。拙者は如何にすべきと思う?」
前言撤回。よく呼んでくれたレイブン。お陰で話を聞けていたし、笑顔を作れる。この恩、返せたら返す。
「それこそごもっともだとは思うのですけど、この真田という方は超の付く有望さで非常に良い男なのでしょう? 当然多くの女性に囲まれていますよ。
ラスティルさん程の方でしたら勿論大切にされるでしょう。でも大勢の一人になられては多くの意味で損失です。私、とは言えませんが、もう少し女性を求めている方と縁を持って頂ければ、国の半分の人が良い女性の浪費だと嘆かずに済む。この点を考えて頂きたいですね」
感心が目に見える。上手く言えたか。よし。半歩下がって皆の視界から遠ざかり、また手で表情を隠せ。今の感情を表に出してはならん。皆さんは楽しく真剣に会議をしていてくれ。私は人生で一番魂から考えさせられて忙しい。
「ううむ、サナダ殿に負けぬよう努力せよ。と、繋げるつもりが上手く返されてしまった。我がご主君は口の上手さはサナダ殿に勝るな。やはりリディア殿の影響かな?」
「さて。
「あ、貴方って、ほんっとぅに何でも言えるのね。……あたしも、もう少し貴方たちから見習うべきなのかしら」
「え、ええぇ。僕、カルマたちまでリディアみたいになったら気が休まらなさそうで嫌だよ。あ、ち、違う。リディアが嫌なんじゃないよ。でも一人で十分有難いっていうかさ、ね?」
「……昔はアイラが恐れる人物などこの世に居ないであろう。と俺は考えていたのだが。剣と関係の無い恐怖もこの世にはあるのだな。……お。……が、ガハハハハハ」
おかしいかガーレ。何が可笑しいか分からないが、世の中は実におかしなことになってるぞ。ハッハッハッハ……はぁ。
うん。うん。いやはや。真田君を妬んだり、敵かも。なんて考える自分を痛い奴と思っていたが、愚かだったな。農具改革、四回収穫は……ノーフォーク農法だっけ? 失敗したといってもその内出来るだろうさ。私も同じのを考え付いて調べたんだよな。必要である根粒菌らしき物はある。
やはり私と同等の科学成熟度で学んだ人物と考えるのが妥当かな。千歯扱は基本日本の道具だったはずだし、日本でノーフォークなんて行われたのは何時の頃やら。両方を実際にやってみよう。と考えるほど知識を持てるような時代、私の頃くらいしかあるまい。
記憶では後家殺し? 何それ。と言う人も珍しくなかったけど、真田君は義務教育をきちんと覚えてたか。立派な子だったのかな。お陰で二度と君付けでは呼べない。
殺す。何を、どうしても。目的を犠牲にしても真田総一郎は殺さずにおられない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます